宇宙は成長産業 - 「そこまでやる?」と言われるJAXAの宇宙ビジネス支援

宇宙は成長産業 - 「そこまでやる?」と言われるJAXAの宇宙ビジネス支援

  • マイナビニュース
  • 更新日:2022/11/25
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最近、宇宙のニュースを聞くことが日常になってきたと感じないだろうか。2021年は民間宇宙旅行者の職業宇宙飛行士の数を上回り、「民間宇宙旅行元年」とも言われた。遠く思われた宇宙は確実に身近になっている。

QPS研究所など、小型SAR衛星によるデータ提供サービスの共同実証を開始

宇宙産業は世界で約40兆円の市場があり、2040年には波及効果を含めると160兆円の市場になりうるという分析もある。そんな世界の潮流に日本も食いついて行こうとしている。

注目はJAXAによる民間企業の宇宙ビジネス参入支援。「そこまでやるの?」と言われるほど民間企業に伴走し、共に新しい宇宙ビジネスの創出に取り組む。なぜJAXAがそこまで? 宇宙ビジネスの展望は? JAXA新事業促進部事業開発グループ長 上村俊作さんに聞きました。
2018年から約300件以上の問い合わせ。約40件がプロジェクト化

「JAXA新事業促進部では2018年から新しい取り組みとしてJ-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)を始めています。宇宙ビジネスを始めようという民間事業者さんらに技術的なサポートや人的リソースや設備などの提供をさせていただく。これまで約300件以上の問い合わせがあり、約40件がプロジェクト化しています」とのこと。

J-SPARCは民間事業者とJAXA間でパートナーシップを結び、ともに新たな発想の宇宙事業の創出を目指す、新しい研究開発プログラムだ。具体的にどんなプロジェクトを行っているのか。

「新しいマーケットを作り出した例としては、衣食住分野で(宇宙と地上で使える)生活用品があります。2040年には宇宙旅行で月面に1000人が行くという構想も発表されていますが、1000人はマーケットとして大きくない。宇宙で使う生活用品の展開をしながら、地上でどうやって販売していくかが重要です。実は宇宙生活では水があまり使えないなど、地上の災害時の避難所生活と類似点がある。それら宇宙と地上に共通する課題を解決する生活用品を宇宙で実証する機会を作り公募を行ったところ、応募期間が短かったにも関わらず94件の応募があり、9件の生活用品が宇宙に届けられました。現在、ISS(国際宇宙ステーション)に滞在中の若田光一宇宙飛行士が実際に使う予定です」

現在の宇宙開発では、宇宙で使うことだけを目的とするのでなく、宇宙と地上両方の課題解決に繋がる「デュアルユーティライゼーション」が評価される傾向にある。上村さんによると地上で多くの人が使うことでより商品が改善され、宇宙での暮らしにフィードバックされるという好循環が期待できるという。

JAXAが技術的に関わることでビジネスの加速や後押しすることを目的とする例として、上村さんは10月12日にイプシロンロケット6号機で打ち上げられたQPS研究所の衛星「アマテルI、II」の軌道上画像化処理装置をあげた。

「QPS研究所は小型SAR衛星36機を運用し、10分ごとの地球の姿を準リアルタイムでとらえる計画を立てています。農業や都市開発、インフラのモニタリングなど様々な分野での活用が期待されています。災害時など画像をなるべく早くユーザに届けようとする場合、地上でデータを受信してから画像化するより、宇宙で画像化したほうがユーザへの提供時間を大幅に短縮できます。一方、JAXAでは元々、軌道上画像化装置の開発を行っていました。QPS研究所にとっても装置を1から開発するのは大変だし、JAXAの開発した装置が載ることで事業も加速する。対話の中でお互いにベクトルがあうことがわかり、実現したケースです」

これら40数件のプロジェクト中、事業化に成功したのは5件。例えば「宇宙飛行士の訓練方法を活用した次世代型教育事業」では協調性やコミュニケーション能力などテストで測れない生徒の能力をどう評価し育成していくかというツールをスペースBD、Z会グループ、JAXAが共同で開発。販売がスタートし、複数の学校にてすでに活用されている。またバスキュールとJAXAによる「KIBO宇宙放送局」はISS(国際宇宙ステーション)日本実験棟「きぼう」に世界唯一の番組スタジオを開設。世界初の宇宙と地上の双方向ライブ配信をテレビやネットで実現し、事業化している。

モノづくりにはどうしても時間がかかるため、これまで事業化に成功したのは教育やエンタメ、VRなどソフト分野が多かった。今後はJ-SPARCによるハード分野の成果が世に出てくるだろう。例えば現在進行形のプロジェクトでは、小型ロケットを開発し輸送サービスの事業化を目指すインターステラテクノロジズと進めるエンジン開発、ALEと進める宇宙ゴミの拡散防止装置事業などがある。宇宙ゴミの拡散防止装置事業では、超小型衛星を使って導電性テザー実験を実施予定だ。この実験は2017年1月、宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機でJAXAが実施したものの、テザーが伸展できなかった。その実験にALEが着目、事業化を目指す。

「JAXAがそこまでやるんですか」と言われるぐらいやる理由

JAXAは研究開発機関であり、J-SPARCの共創活動では技術的なサポートがメインになると思いきや、それに留まらないという。「技術だけあっても社会実装できない。人も、設備も、お金も、海外に売っていくときの販路も必要です。我々は日本のプレイヤーを世界にどう出すかのお手伝いもしているし、商談の場に同席したりもします。『JAXAがそこまでやるんですか』というところまで寄り添っています」(上村さん)

なぜそこまでやるのか。JAXAにとってのメリットは? 「2つの出口があって、1つはJAXAの将来ミッションに反映できること。もう1つは民間企業が事業化することで宇宙産業を活性化することです」

2つ目の理由の背景には宇宙ビジネスを巡る世界と日本の動きがある。「アメリカでは宇宙のプレイヤーを増やそうと1984年に商業宇宙打上げ法ができました。今、宇宙ビジネスで世界的に注目を集めるスペースXやブルーオリジンなどは2000年代初めに出てきています」(上村さん)。

一方、日本はアメリカの動きから20年以上遅れたものの2008年に宇宙基本法が、2016年に宇宙活動法、衛星リモートセンシング法ができて民間打ち上げ事業や商業衛星ビジネスが加速した。その後2017年には政府が宇宙産業ビジョンを発表。日本の宇宙産業の市場規模1.2兆円を2030年早期に2.4兆円に倍増しようという方針が示された。その翌年には安倍晋三元首相が5年間で1000億円を投資するという宇宙ベンチャー支援パッケージを発表した。国をあげて宇宙産業の拡大・活性化を目指している。JAXAはその実施機関として政府と連動し、これまで宇宙に関わりがなかった企業にも宇宙の敷居を下げ、対話を重ねている。

実は上村さんがJAXAで宇宙ビジネス支援の仕事に就くのは2度目。前回は2002年、JAXAの前身の旧NASDA(宇宙開発事業団)産業連携室だった。「当時と今とでは相当変わったのを実感します。国の宇宙ビジネスへの後押しがあり、技術も進化しました。その結果ロケットや衛星が小型化・低価格化し、衛星が大量に打ちあがり衛星データを使ったソリューションビジネスも進んでいます。プレイヤーが増えて今は国内に宇宙関連のスタートアップが約70社あります。また宇宙に全く関わっていなかった業種やトヨタさんやソニーさん、ホンダさんのような大企業も宇宙に取り組んでいます」。上村さんは約20年間の変化をそう語る。

宇宙は将来有望なビジネスフィールドになるという実感はあるのだろうか。

「まだ成熟産業ではないので、やれることはたくさんあります。19世紀、アメリカ西海岸で起こったゴールドラッシュでは金脈を当てた人が大金持ちになりましたが、副産物としてリーバイスのジーンズが売れましたよね。宇宙開発というとロケットや衛星というイメージが大きいですが、それだけでなく波及効果がある。つまりはアイデア勝負。どうやって多くの人を巻き込むか。宇宙という場を使いたい、技術を使いたい、衛星データを使いたいなど、様々な観点から『宇宙を使いたい』人を増やすのが重要だと思っています」

一方、宇宙産業が伸びていくための課題については「時間がかかること。そして時に失敗することもあること。長い目で見る必要があります。そして人が足りないこと」を挙げた。では、どういう人に宇宙業界に参入してほしいのか。どういう人材が不足しているのかを尋ねた。
宇宙業界が求める人材は?

「マーケットは国内だけではない。海外で営業できる人がほしいですね。それからデータアナリストやデータサイエンティストも不足しています。衛星が多数あってデータが大量に出てくる。よくそば粉とそばの関係に例えるのですが、そば粉(データ)はたくさんあってもそば(商品)にして食べられる形にできる、そばうち名人(データアナリスト)がいないよね、と。また技術者にしてもクオリティをひたすら追求するのではなく、使い手がどこにいて何を求めているか、ユーザファーストの視点をもって研究開発することが必要。宇宙だけでなく広い視点をもって活躍している人には多くの気づきがあると思います」。

JAXA新事業促進部には十数人のプロデューサーがいて、外部からの問い合わせを受け対話を重ね、プロジェクトや事業化に結び付ける。問い合わせを待つだけでなく、JAXA内の技術を事業化するためパートナーを探しに外にも出かける。プロデューサーには様々な専門分野を持ち(JAXAの)外で働いていた人、世界の情勢を知り日本の現状に危機感を持っている人が多いという。

宇宙に様々なビジネスを生み出そうとしている今、従来の技術系や科学系の人材だけでなく、法律や営業、経理など様々なジャンルの人材が求められているようだ。

最後に宇宙の仕事のやりがいを聞いた。「ワンチャンスがビッグチャンスになる可能性があるし、ゼロから1を生み出す世界を味わえます。宇宙は可能性を秘めています」。

自らの手で新しいものを生み出したい人は、ぜひ宇宙の扉を開いてみては。

林公代 はやし・きみよ 福井県生まれ。神戸大学文学部英米文学科卒業。 日本宇宙少年団・情報誌編集長を経てライターに。世界のロケット発射、すばる望遠鏡(ハワイ島)、アルマ望遠鏡(南米チリ)など宇宙・天文分野の取材・執筆歴20年以上。 最近は「るるぶ宇宙」の監修務めるなど、幅広い分野で活躍している。 この著者の記事一覧はこちら

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