本当は金木犀の匂いではなく、花の匂いに喜ぶ母の姿が好きだった

本当は金木犀の匂いではなく、花の匂いに喜ぶ母の姿が好きだった

  • かがみよかがみ
  • 更新日:2021/10/14
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玄関を開けてすぐ横にある木。

毎年この季節になるとオレンジ色の花を付ける。

甘酸っぱいこの匂い。

幸せな匂いがする。

昨日までは蕾だったのに。みんなで声を掛け合ったかのように一斉に小さな花が咲く。

「行ってきます」を言ったばっかりだが、すぐに扉を開けなおす。

「今年も咲いたよ」と母に伝えるために。

毎年、扉を開けた瞬間に広がるこの匂いが大好きだった。

落ちたばかりの花をいくつか集めて、手に持ちながら学校へ行った。

花が散り、地面がオレンジ色から茶色に変わる。

少し切なさを感じながら、来年のこの時期を待ち遠しく思った。

1年半ぶりの元彼は、5分もたたず「じゃあ、元気で」。家路を急ぐと

本当は花の匂いではなく、母の花の匂いに喜ぶ姿が好きだった

10年ほど経ち、我が家の扉の先にある木が、花を付けなくなった。

葉は付けるが、花が育たないのだ。

他所の家から漂うその匂いに、扉を開けたあの瞬間の心が弾むような気持ちを思い出す。

扉を開けてから母を呼ぶまでの一連の場面が頭をよぎった。

何かあったときに1番に伝えたくなる人、それが母だった。

私は花の匂いではなく、母の花の匂いに喜ぶ姿が好きだったのだ。

嬉しいことを教えたい。

喜んでいる顔を見たい。

小さい私は母を愛していたんだと気付く。

喧嘩もたくさんした。

妹や弟ではなく、私ばかりに怒る母。

心配されることが、うざったく感じた。

高校を卒業し、家を出た。

母の小言がなくなり、快適だった。

彼氏も出来て、毎日楽しかった。

たまに家に帰ると、次々と話が溢れてくる。

いろんな話を母に伝えたい自分に気が付く。母は嬉しそうに聞いてくれた。

地元を離れ、少しうざったく感じるが、母の心配を感謝できるように

就職して地元を離れた。

時々家に帰ると、私が好きなご飯を必ず作っていてくれる。

それに、何でも持って帰らせようとするのだ。

私の家の近くにもスーパーはあるのに。

少しうざったく感じるが、母の心配に感謝ができるようになった。

いつでも帰ってきていいからね、と言われた日。

帰りの電車内で、少し泣きそうになった。

私は家にいない方がいいのだと思っていた。

私のせいで、すぐ喧嘩になるからだ。

思えば、子供の頃から私がやりたいと言ったことは何でもやらせてくれた。

私が進学先を勝手に決めた時も、一度言ったら聞かないからね、と笑いながら承諾してくれた。

私がどんな仕事をしたいか分からない時は、あんたは企画職とかが合うと思うよ、とアドバイスをくれた。実際、今の私の仕事は企画関連である。

私の思い出たちが、母は私を愛してくれていたと証明してくれている

いつも私や妹、弟に新しい服を買い、自分は何年も同じ服を着る母。

私たちには新しい良い靴を買い、自分には安物の靴を買う母。

仕事でどんなに遅く帰ってきても、私たちのために家事をしてくれた母。

冷凍食品ばっかりのお弁当は嫌だと言うと、ごめんね、と申し訳なさそうに謝る母。

誕生日にプレゼントをすると、私にお金を使わなくて良いのにと怒りながら、嬉しそうにする母。

私の思い出たちが、母は私を愛してくれていたと証明してくれている。

仕事帰り、道を歩いているとほんのり、あの懐かしく、甘酸っぱい幸せな匂いが鼻先をくすぐる。

マスクの下で、少し微笑んだ。

そういえば、今年は久しぶりに玄関先の木に蕾が出来たと母が言っていた。

今週末は、母にケーキでも買って帰ろうかな、と思っている。

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