一風変わった飯テロドラマ 『失恋めし』は新たな明日に向かうための勇気をくれる

一風変わった飯テロドラマ 『失恋めし』は新たな明日に向かうための勇気をくれる

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  • 更新日:2022/01/15
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『失恋めし』(c)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

「失恋めし」という言葉から連想するものは何だろう。大好きな人との恋が実らなかった、別れを切り出された、裏切られた、辛い、許せない、もうヤケだ……。いろんな感情の入り混じった、しょっぱい涙の味だろうか。そうとは限らない。

参考:広瀬アリス、2022年は「自分の中でとても大事な1年」 主演ドラマ『失恋めし』を語る

1月14日からAmazonプライム・ビデオにて配信が開始された、広瀬アリス主演ドラマ『失恋めし』は、なんだか心が温かくなって、明日にでも恋がしたくなるドラマだ。そして、無性に何か食べたくなる。例えば、広瀬演じるヒロイン・キミマルミキら登場人物が食べている、大学いも、玉子サンドといった、何か黄色いものを。「失恋しても美味しいものを食べて元気になれば大丈夫」と彼女たちがそっと背中を押してくれる。このとんでもなくハッピーで、愛おしい、時にファンタジックな、恋とご飯と、素敵な街の物語を、彼女がよく行く縁結びの神社によくいる「クリーン星人」に成り代わって、全人類にお薦めしたい。

世に「飯テロドラマ」は数多くある。元祖と言われる『孤独のグルメ』(テレビ東京系)に始まり、現在1クールに必ず1作品以上は存在している。今期も『失恋めし』の他に、眞島秀和主演『#居酒屋新幹線』(MBS/TBS)が放送中だ。特に動画配信サービスが普及していくにつれて、視聴者が、新作旧作関係なく様々なラインナップの中から、好みの作品をそれぞれのシチュエーションに合わせて選ぶ環境が整ってきた。そんな中で、気軽にいつでもどこでも、何年経っても変わらず楽しめる、長く愛されるコンテンツとして、「飯テロドラマ」というジャンルの需要はますます高まっている。

そんな中、『失恋めし』は一風変わった飯テロドラマだ。木丸みさきのグルメコミック『失恋めし』(KADOKAWA)を原案に、大九明子監督が演出を担当している。舞台は、どこか懐かしい感じがする、架空の一区画「丸々区三角町」。そこには賑やかな商店街や神社、花屋、そしてヒロインが連載するエッセイ漫画「失恋めし」を掲載している街のフリーペーパーを発行する会社「STO企画」がある。STO企画には、社員全員が「佐藤さん」であるために、それぞれを1号2号3号と呼び合う、臼田あさ美演じる「2号さん」を中心とした個性的な面々が自由気ままに働いていて、弁当屋のハラハチ(若林拓也)が日々弁当を届けにやってくる。ミキが住む一人暮らしの部屋の中も、『勝手にふるえてろ』、『私をくいとめて』など、大九監督作品のヒロインたちの部屋の様子をつい思い出してしまうような、こぢんまりとした味のある構造になっていて、見ていて飽きない。そんな、心温まるユートピアのようで、誰にとっても近所のような雰囲気の、架空の街が舞台でありながら、登場する店と料理は実在する面白さ。浜松町の「洋食や シェ・ノブ」のカニクリームコロッケ、蔵前の「焼小籠包ドラゴン」の焼小籠包、北品川の「居残り連」の酒盗カルボナーラといった絶品料理の数々を、失恋した人と、失恋した人を慰める人と、漫画の題材となる失恋ネタ探し中のミキが、全てを忘れてカリッじゅわサクサクっと夢中で咀嚼するそのさまは「本物」なのである。

物語自体も、連載中のエッセイ漫画を描くために「失恋ネタ」を必死で探すミキが「街で見つけた失恋とその傷ついた心を癒す美味しいめしの物語」ではあるが、必ずしも実際に盗み聞いた会話をそのまま漫画にしているわけではない。彼らのその後のやり取りを想像したり、「こうだったらいいな」という願望で補完したり、彼らのやりとりの中の重要なフレーズはそのままに、漫画家・キミマルミキ独自の視点によって、時には彼女の日常が織り込まれ、ふんわりまぁるい円を描くように、柔らかい世界が構築されていく。オープニングが、現実世界と漫画の世界をぴょんと気軽に横断し、闊歩するミキの姿であるように、フィクションとノンフィクションの境目が曖昧で、核となる「美味しい」と「傷ついた心に寄り添ってくれる誰かの優しさ」は本物。全くもって、物語と現実の配分が絶妙だ。

ここには様々な「失恋」がある。サバを共にした恋、女子高生たちの恋と友情、推しへの恋、恋に恋する恋、路上シンガーの道行く人々への片想い。失恋だけじゃなくて、ちゃんと現在進行形の恋もある。特に、ミキと花屋の青年(井之脇海)の不器用すぎる恋の進展は、微笑ましすぎて、応援せずにはいられない。「恋は主張するから見つけやすい。失恋は慎み深くて見つけにくい」という台詞があるが、このドラマはそんな、「慎み深い密やかな恋」を探して、拾って、そっと寄り添う物語だ。縁結びの神社で「いい失恋に巡り合えますように」と願ったり、ちょうどいいタイミングで失恋していると思しき人を見つけたら内心大喜びしたりするヒロインはなんだか調子がよくて、それもちょっと笑ってしまうけれど。

「あの客は失恋の匂いがしないな。あいつは満たされてやがる」とミキが花屋の客を観察しながら1人呟く場面がある。満たされていない心を満たすのが「失恋めし」であるなら、私たちのちょっと擦り減った心を満たしてくれて、終わった恋に折り合いをつけ、いや、終わった恋を愛おしく胸に抱いたまま、新たな明日に向かうための勇気をくれるのが、ドラマ『失恋めし』なのである。(藤原奈緒)

藤原奈緒

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