ヤマト運輸「128億円赤字の正体」アマゾンのせいじゃなかった

ヤマト運輸「128億円赤字の正体」アマゾンのせいじゃなかった

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/02/07
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宅配業界では拡大する需要に人員が追いつかないという状況が続いている。宅配大手のヤマトと佐川は似たような状況にあると思われがちだが、実はそうではない。

人件費増加に苦しむヤマトに対して、佐川の業績は堅調そのものだ。この差は、会社の成り立ちと基本的な収益構造の違いに起因している。1月30日にヤマトホールディングスは第3四半期決算短信を発表したが、これを機に「似て非なる存在」であるヤマトと佐川を比較した。

ヤマトの赤字の要因はアマゾンではない

ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスの2017年4~9月期決算は128億円の赤字となった。通期では黒字を確保する見通しだが、10%の営業減益となる可能性が高い。

同社はアマゾンをはじめとするネット通販事業者からの委託を積極的に引き受けることで取扱数量を伸ばしてきたが、急激な荷物の増加に現場が対応できず、業務が回らなくなるという事態が発生した。このため同社は取引相手各社に値上げを通告するとともに、取扱数量の削減を試みたものの、目論見通りにはなっていない。

一方、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスの2017年4~9月期決算は、営業利益が前年同期比23.7%増の289億円と順調に業績を拡大しており、続く10~12月期決算も約2割の増益だった。同社は昨年12月、東証1部に上場を果たしたが、初値は1900円と公開価格を17%も上回っており、株価はその後も上昇を続けている。

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ヤマトが苦しい状況にあるのは、先ほど述べたように、通販向け業務の見込み違いが直接的な原因である。

同社は佐川がアマゾンの配送から撤退したことを最大のビジネス・チャンスと捉え、積極的にアマゾンの業務を取りに行った。本来であれば、取扱量の増加に合わせて人員を拡充すべきだったが、同社の対応は遅れ、現場では長時間残業が頻発した。

最終的には多額のコストをかけて人員を増加したり、外注を増やす必要に迫られ、今回の減益につながっている。

とりあえずヤマトは値上げを実施したので、これ以上の業績悪化は回避できるとみられるが、同社が抱える本質的な問題が解決されたとは言い難い。

ヤマトの経営陣もアマゾンからの取扱量増加によって現場が混乱することは十分に予測できていたはずである。それにもかかわらず、人員の拡大にすぐに踏み切れなかったのは、同社がもともと高コスト体質の企業だからである。

重くのしかかる「DM便」

ヤマトと佐川は似たような会社に見えるが、両社の収益構造はまるで異なる。2017年3月期におけるヤマトの売上高に対する営業利益率は2.4%、佐川の営業利益率は5.3%だった。佐川の方が利益体質だが、両社に根本的な違いあるようには見えない。

だが収益の中身をさらに詳しく分析すると、両社の違いが際立ってくる。上場しているのは持ち株会社なので、業績の数字には、本業以外の事業も含まれる。本業である運送事業で比較すると、ヤマトと佐川の収益力はまるで違ったものになる。

ヤマトのデリバリー事業における部門利益はわずか56億円しかなく、ほとんど利益が出ていない。業績が良好だった時代も、営業利益に占める本業の割合は半分程度であり、ヤマトは運送という本業ではあまり稼げていないことが分かる。

これに対して、佐川のデリバリー事業における利益率は全社の利益率とほぼ同じであり、儲けの大半を本業である運送業務で稼いでいる。

この違いはどこから来るのだろうか。

これは取り扱う荷物の種類と密接に関係している。両社の宅配便における荷物の単価は、ヤマトが592円、佐川が579円なので両社に大きな差はない。だがヤマトは、佐川と異なり単価の安いDM便を多数取り扱っている。DM便を含めるとヤマトの単価は338円と大幅に下落する。

佐川もメール便を取り扱っているが、単価が安い荷物は日本郵政に外注しているので、配送網への負担は少ない。ヤマトのDM便は、配送については主にクロネコメイトと呼ばれる個人事業主が行い、集荷については自社トラックで行うケースが多い。これが取り扱う荷物数や人件費の増加、業務の複雑化につながっている可能性が高い。

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会社の成り立ちがまったく違う

両社が保有する配送用トラック(最終配送用)の台数から1台あたりの荷物数を算定したところ、宅配だけならヤマトは139個、佐川は143個と大きな差はなかった。だが、ここにDM便の荷物を加えると、ヤマトの荷物数は255個と急増する。

ヤマトがDM便を積極的に取り扱っているのは、説明するまでもなく、創業家出身の故小倉昌男元会長が、信書の規制緩和をめぐり日本郵政と激しいバトルを繰り広げたことと深く関係している。

小倉氏には、ヤマトを日本郵政と並ぶ生活インフラ企業に育てたいとの意向があり、収益力が低いことを承知の上で、信書業務への進出を狙っていた。

競争原理を強く主張したヤマトの姿勢は評価すべきものだが、今となっては単価の安いDM便を多数取り扱っていることが、低収益の原因のひとつとなっている可能性が高い。

一方、佐川にはこうした姿勢はまったく見られない。その理由は、ヤマトと佐川の企業の成り立ちの違いにある。

ヤマトはもともと大口配送を行う一般的な運送会社だったが、小倉氏が業績悪化をきっかけに家庭用の小口配送業務に進出。宅配便のビジネスを日本で初めて確立することになった。つまり小倉氏がトップになって以後のヤマトは、基本的に宅配業務の企業ということになる。

これに対して佐川は、宅配ではなく企業向け小口配送を得意すると企業として成長してきた。

企業規模の拡大にともなって宅配業務にも進出し、ヤマトと似たような事業形態となったが、現在でも企業向け配送の会社という色彩は濃い。

同社にとって、トラックのドライバーは法人から注文を取ってくる中核営業マンという位置付けであり、かつてはドライバー出身でなければ幹部に昇進できないほど、彼らの立場は絶対的なものであった。

似たような業務を行っているように見えるが、企業の成り立ちや運送業務に対する基本的な考え方など、両社は何から何まで違っているのだ。

日本郵政との役割分担を

こうした企業カルチャーの違いは、拠点間配送の方法にも表れている。ヤマトは拠点間輸送にも多くの自社トラックを投入しており、全国に網をかぶせていくという考え方を持っている。

一方、佐川は、拠点間輸送については外部の運送業者に委託するケースが多く、自社の配送網は最終的なラストワンマイルに集中している。

佐川は2004年からJR貨物と共同で、東京-大阪間を6時間で結ぶ特急コンテナ電車「スーパーレールカーゴ」を運行している。スーパーレールカーゴ導入の直接的な理由は二酸化炭素(CO2)の削減など、いわゆるモーダルシフトの推進であった。

しかし、拠点間輸送を大胆に外注するという経営判断の背景には、佐川は日本郵政と対抗するようなビジネス・モデルではなく、あくまで企業向け小口配送を主力にした企業であるとの認識がある。

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規制緩和を求めた小倉氏の主張に対して、最終的に政治(つまり国民)が下した結論は、国営事業としての郵便存続であった。もしそうであるならば、ヤマトのDM便についてもそろそろ再考が必要な時期に来ているのかもしれない。

ちなみに米国では、規制緩和一辺倒というイメージとは裏腹に、今でも郵政公社が存続しており、安価な運送業務を一手に担っている。

米国の場合、同じ宅配便の中でも、日数が長くコストの安い配送は郵政公社が担い、そうではないサービスはFedExやUPSが担うという、ある種の役割分担が成立している。FedExやUPSは単価の高い業務に集中しているので両社の利益率は極めて高い。

日本では国策としての郵政事業を存続させたものの、民間会社として上場しており、その位置付けは中途半端である。

今後、ネット通販がさらに拡大するのは自明であり、運送事業者の役割はますます高まってくる。ネット通販の取扱量増加をただ問題視するのではなく、日本郵政のあり方も含め、運送事業者の役割分担についてもっと幅広い議論が必要だろう。

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