国民投票法の改正案は「よく知らないけど反対」という人も 7項目からわかる護憲派の主張の“無理”

国民投票法の改正案は「よく知らないけど反対」という人も 7項目からわかる護憲派の主張の“無理”

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  • 更新日:2021/06/10
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国会前で国民投票法改正案に抗議する人たち/21年5月6日 (c)朝日新聞社

憲法改正の手続きを定めた国民投票法の改正案の成立を前に、SNSで護憲派の反対ツイートが増えている。「国民投票法」は改憲とどう関係するのか、また反対派は何を理由に反対しているのか。AERA 2021年6月14日号で取り上げた。

【図】憲法改正の手続きはこちら

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さて、今回の国民投票法改正案と改憲がどう関わってくるのか。それにはまず、改憲手続きについておさらいしておく必要がある。以下に流れをまとめた。結論からいうと、どんなに多くの国会議員が改憲に賛成したとしても、「改憲案を発議する」ことしかできない。改憲の是非は、日本国民一人ひとりが国民投票で決める。

<憲法改正の手続き>(衆院が先に改正の手続きを開始した場合の流れ)

・衆院

政党主体で憲法改正原案をつくる→原案作成に関わった衆院議員が100人以上の賛同を得る→原案を提出→衆院議長 原案を送付、審査を指示→憲法審査会 原案を採決。可決したら送付→衆院本会議 総議員の3分の2以上の賛成で可決

・参院

衆院と同じ流れで審査や採決

憲法改正の国会発議

国民投票の実施

だから、国民投票という制度は極めて重要なのだ。当然ながら、その実施ルール(国民投票法)は、公平かつ合理的なものにしなければならない。

国民投票法は07年5月に成立し、10年5月に施行された。それでは今回の改正案はどういうものか。

主なものは7項目あり、以下の表に示した。

<国民投票法改正案の主な内容>

・「投票人名簿の閲覧制度の一本化」

・「出国時申請制度」の創設

・「共通投票所制度」の創設

・「期日前投票」の事由追加・弾力化

・「洋上投票」の対象拡大

・「繰延投票」の期日の告示期限見直し

・投票所への入場可能な子供の範囲拡大

子ども連れで投票に行く場合、投票所に入れるのは幼児までという現行の規定を18歳未満なら可能と改めるなど、どれをとっても、改憲派に有利な内容とは到底言えない。なのに、これが現行の国民投票法に盛り込まれれば「改憲に道を開くことになる」という護憲派の主張には無理がある。

にもかかわらず、「国民投票法の改正反対」というツイートが短期間に30万以上なされた。改正案の内容を全く知らない人もいたが、十分に理解した上で許せないという人もいるのだ。

■国民投票の反対は国民主権の否定になる

「(7項目について)よく知りませんが、とにかく憲法を変えることに反対なので、改憲のための国民投票にも反対しています」(主婦)

「改正内容がおかしなものじゃないということはわかっています。だけど、コロナ禍で大変な時に手掛けることじゃないでしょ」(介護職)

「7項目の改正に反対してるんじゃなくて、改正案の中身が不十分だということです。例えば、テレビCMをより厳しく規制することなどを改正案に盛り込むべきです」(大学講師)

こうした意見に賛同する人は少なくないが、納得し難いこともある。

「改憲に反対だから改憲の国会発議に反対」というのはわかるが、発議を受けて必ず実施される国民投票に反対するのはどうかと思う。改憲の是非を決める最終決定権は主権者である私たちが持っているのに、その権利を否定してはならない。

そして先の大学講師が言うように、CM規制の強化については、国民投票の公平性を担保するためのルール改善を行う必要がある。

公職選挙法は選挙運動について厳しい規制を設けているが、国民投票法は賛否を訴える運動を原則自由としている。戸別訪問もできるし、チラシの枚数に制限もない。ただ有料の広告放送には制限を設け、投票日の14日前から投票日までは賛否を訴えて投票を勧誘するCMは放送できない。このルールは、06~07年の憲法調査特別委員会で、日本民間放送連盟(民放連)の代表や「広告批評」主宰者の天野祐吉氏らを参考人に招き、突っ込んだ議論を重ねて定めたものだ。私も参考人として委員会に出席し、諸外国での国民投票取材での経験に基づいて、CM規制の必要性を説いた。その結果、法律制定時は野党側責任者の枝野議員を含め、委員の大半がこのルールに賛成した。

それがなぜ、いまになって蒸し返されているのか。

一つに民放連の姿勢がある。先の参考人招致の際は「明確なルールづくりは必要」と発言していたのに、今になって「国民の表現の自由に制約を課すことは、放送事業者の勝手な判断で行うべきではない」ので、量的規制はやらないと言い出した。

それについて、当時、委員会で野党側の責任者を務めていた枝野幸男氏は、現行の国民投票法は「民放連が量的自主規制をすることを前提に法がつくられたものだ」と主張し、「民放連がテレビ広告の量的な自主規制をするなら法律で規制しなくてもいいが、そうでなければ国民投票法自体が欠陥法だと言わざるをえない」と言い切った(19年5月9日の憲法審査会)。

■公正なルールのためにはCM規制の議論が不可欠

さらに懸念されるのは、「意見表明広告」の横行だ。

例えば、ビールのテレビCMに登場するタレントは、「これはうまい!」「すごくおいしい!」とは言うものの、「このビールを買って」と直接的には訴えない。それは国民投票の際のCMでも同じはずだ。「賛成に投票してください」といった単純なCMではなく、著名人やスポーツ選手を起用して「私は賛成。緊急事態条項は必要だよね」なんて言わせるのだろう。

そうした内容なら、「賛成に投票してください」といった運動広告とは異なる「意見表明広告」になり、投票日の14日前から放送できないというルールには抵触せず、投票日でも資金さえあれば大量に流せるという問題が生じる。だが、07年に現行法を制定した当時は、与野党ともこの意見表明広告をさほど重要視していなかった。

なおスイス、フランス、イギリスといった国々は、資金力の差などによる「不公平の除去」を理由に、運動期間中の有料CMを「14日前から」ではなく、発議と同時に法律で規制している。

今回の改正案には、CMに関して「3年をめどに法的措置を講じる」といった付則が盛り込まれた。与野党は党利党略の政局や「国対マター」の駆け引き材料にせず、真摯に議論を深めてほしい。

また、国民投票を改憲だけに結びつけるのも問題だ。日本では一度も行われていないから、なじみが薄いのも無理はないが、諸外国では憲法のみならず「禁酒」「原発」「人工妊娠中絶」など様々なテーマで、2600件ほどの国民投票が実施されている。近年注目された事例をみると、同性婚を認める憲法改正を問うたアイルランド、EU離脱か残留かを問うた英国が挙げられる。スイスでは来週、「コロナ禍対応として政府に国民生活を制限する権利を与えること」の是非を問う国民投票が行われる。

気になる動きもある。政府が新型コロナウイルスの感染防止対策にてこずったのは、憲法に「緊急事態条項がないから」という声が高まりつつあることだ。政府の拙策は、政治家や官僚の危機対応能力の欠如によるものだと私は考えるが、近い将来、国会の多数派が憲法に「緊急事態条項」を盛り込むことを国民に提案する可能性が高まったようにみえる。

そうした発議がなされてからでは、国民投票のルールをじっくりと議論することはできない。だからこそ、今、護憲・改憲の立場にとらわれることなく、ルールの改善を進めるべきだ。(ジャーナリスト・今井一)

※AERA 2021年6月14日号より抜粋

今井一

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