2020SUPER GT第7戦レビュー|不安に襲われ続けた40周......ARTA NSX-GT独走劇の裏にあった福住仁嶺の“孤独との戦い”

2020SUPER GT第7戦レビュー|不安に襲われ続けた40周......ARTA NSX-GT独走劇の裏にあった福住仁嶺の“孤独との戦い”

  • J SPORTS
  • 更新日:2020/11/20

2020年のSUPER GT第7戦ツインリンクもてぎ。GT500クラスはホンダNSX-GT勢の速さと強さが際立ったレースウィークとなり、開幕戦から常に速さを見せながらも、悔しいレースが続いていたNo.8 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)が待望の今季初勝利を飾った。

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2番グリッドからスタートし、前半スティントを担当した野尻が10周目にNo.64 Modulo NSX-GTをパス。そこから後続を一気に引き離す走りを披露した。途中に導入されたセーフティカーの影響もあり、早めにピットストップを済ませた8号車は、レース後半は3番手以下の車両に対して大量リードを築いた。最終的には同じ戦略で走っていた64号車も大きく引き離し、46秒ものギャップを築いての独走優勝を飾った。

パルクフェルメでマシンを止めた福住は、人目をはばからず大粒の涙を流していた。野尻からマシンを引き継ぎ、チェッカーを受けるまでの40周は、彼にとって“悪夢”との戦いだったのだ。

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「セーフティカーが解除されてから、後ろとはかなり離れていたんですが……逆に自分でも走っているうちに良くないシチュエーションだったりとかを考えてしまっていました。SCが入る前も野尻選手が10秒以上のギャップを築いてくれていたんですけど、今シーズンは後ろとのギャップが大きくあった時でも、なかなかうまくいかず、トップでピットアウトした時もトップで帰ってこられないというレースがけっこうありました」

そう。今シーズンの8号車はここまで速さを見せていながら、勝てそうで勝てないレースが続いていたのだ。

富士スピードウェイでの開幕戦では序盤から好位置をキープするも、福住が担当した後半スティントで順位を落とし8位フィニッシュ。同地で行なわれた第2戦では序盤からNo.17 KEIHIN NSX-GTとトップ争いを繰り広げるも、後半スティントを担当した野尻がピットアウト直後にスピンを喫し、入賞圏外へ脱落した。

第3戦鈴鹿でも表彰台争いをしている最中、福住が担当した後半スティントで他車に追突してしまいリタイア。第4戦もてぎでもクラッシュに巻き込まれてしまい戦列離脱を余儀なくされた。

第5戦富士と第6戦鈴鹿では、ともにポールポジションからスタートするも、後半にライバルの逆転を許し3位でフィニッシュ。普通ならば十分に好結果と言える成績ではあるのだが、表彰台に立つ野尻と福住に笑顔はなかった。

そして福住自身にとって、前方グリッドからスタートしながらも、レースで結果を残せないというレースは他のカテゴリーでも続いていた。彼が日本のトップカテゴリーに参戦し始めたのは2018年。FIA-F2と兼務でスーパーフォーミュラに4戦エントリーした。そのデビュー戦となった開幕戦鈴鹿では予選2番手を獲得し、決勝も前半から好ペースで周回を重ねていたが、途中マシントラブルによりリタイア。悔しさを露わにしていた。

2019年のスーパーフォーミュラ第6戦岡山では2番手を快走するも、こちらも途中にスピンを喫してしまいリタイア。

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常に速さをみせ上位争いに加わるも、なかなか結果が残らない……。

そういった数々の悔しい思い、苦い経験が悪夢となって、福住を襲っていたのだ。

「前からスタートしてトップで終われないというレースは、別のカテゴリーでもあったし、やっぱり上位からスタートして、そういう(不運で順位を下げる)展開が多かったので、本当に色々な思いが積み重なっていました。今回の後半は(外から見ると)楽なレース展開だったかもしれませんけど、その分やっぱり色々考えちゃうことがあって、特に最後の数周は本当に長く感じました」

彼も話す通り、セーフティカーが解除されて以降は接近戦のバトルになる場面もほとんどなく、ゴールに向かって周回を重ねていくだけの展開だった。一見すると楽なように感じがちだが、こういう独走状態の時の方が集中力が切れがちになる。SUPER GT以外のレースでもトップを独走していたのにミスなどでレースを棒に振ってしまうと言うケースは少なくない。しかも、今シーズンはこういった“レース前半で好調な走りをみせている時”に限って、後半に何かが起きていた。福住が担当した40周は、まさに“孤独との戦い”だった。

しかし、不安に押し潰されそうになりながらも、福住は目の前のコーナーひとつひとつを確実に攻略し、GT300との混走にも慎重に対応していくことを徹底。途切れそうになる集中力と保とうとコックピットの中でひとり格闘した。

「とにかく目の前のことに集中しました。例えばGT300の車両をしっかり、確実に、安全に抜くということ徹底しましたし、なるべく縁石に乗り過ぎないとか、無難にレースをすれば優勝できる状況だったので、ちゃんとそういうのも考えて走りました」

1周、また1周……。襲いくる不安と闘いながら周回を重ねていき、ついにトップチェッカーを受けた福住。それまで張り詰めていた緊張感から解放された瞬間、彼の目から大粒の涙がこぼれ始めた。

「チェッカーを受けた時は……とにかく“嬉しい”という気持ちと“安心した”という気持ちが重なりましたね」

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「今シーズンはタイミングの面も含めて色々と報われない部分があったんですけど、それがやっと全部うまくいって勝てたと思った時に、あんまりレースで滅多に泣いたことはないんですけど……。素直に嬉しかったですね」

「長いと言われると(周回数や時間でみれば)あまり長くないかもしれないですけど、1周1周の中で色々なことを考える時間が多くて、僕にとっては今までの中で一番長く感じたレースだったかもしれません」

普段、取材の時は丁寧に言葉を選んでコメントしてくれる福住だが、ここ最近は取材でのコメントを言い終わると「あぁ悔しいー!」と本音を吐露することも少なくなかった。それだけ、今シーズンは勝てない悔しさが大きく積み重なり、それがシーズン中盤以降はプレッシャーとなって彼の肩に伸し掛かっていたことは間違いないだろう。それでも福住は目の前のことから逃げることなく毎回果敢に挑み続け、ついにトップカテゴリー初優勝を手にした。口で言うのは簡単だが……まさに苦労が報われた瞬間だった。

今までのレースキャリアで滅多に涙を見せることがなかった福住だが、今回は珍しく涙が止まらないといった様子が何より印象的だった。おそらく、今まで彼が背負ってきたプレッシャーや、辛かった思い出を、洗い流してくれる涙だったのかもしれない。

今回も有観客での開催となり、スタート前には航空自衛隊のF-2戦闘機の歓迎フライトもあるなど、徐々にではあるが普段のSUPER GTの雰囲気を取り戻しつつあるレースウィークとなったのだが、レース後には福住の涙に、サーキット全体が大きな感動に包まれた。

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文:吉田 知弘

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