先端技術への投資に異を唱えていた日本学術会議/国防ジャーナリスト・小笠原理恵

先端技術への投資に異を唱えていた日本学術会議/国防ジャーナリスト・小笠原理恵

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2020/10/17

◆昭和の産物・日本学術会議と行政改革

日本共産党の機関紙『しんぶん赤旗』のスクープに端を発した日本学術会議の「任命拒否」問題を巡っては、今も『朝日新聞』や『毎日新聞』といったリベラル系メディアを中心に批判の声が渦巻いています。批判は、菅政権が日本学術会議の推薦した会員候補105人のうち6人を任命拒否した判断について、「学問の自由」を侵害する可能性があり説明責任を果たしていない、というものです。

No image

日本学術会議のホームページ

ただ、日本学術会議は内閣府の行政組織であり、職員は特別職の国家公務員となります。年間予算は10億円で会員210人、連携会員2000人おり、その任命権者は内閣総理大臣となっています。実は、2018年11月に内閣法制局が「日本学術会議推薦した候補者すべてを採用しなければならない義務はないこと」を了承しており、安倍政権下でも2016年には3人の欠員を補充しませんでした。つまり、「任命拒否」は今回が初めてというわけではありません。

この「任命拒否」問題をきっかけに日本学術会議がクローズアップされ、さまざまな問題が明らかになってきたのも事実です。たとえば、日本学術会議は法律で政府に勧告することができると規定されていますが、この政府への勧告も10年間にわたって途絶えていました。総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)など時代に即した科学技術を推進する会議が頻繁に開かれるなか、日本学術会議もまた内閣府の行政組織でありながら何をしていたのでしょう。

こういった事態を受けて、10月8日、河野太郎行革担当相は「予算や機構、定員について、聖域なく、例外なく見ることにした」とコメント。自民党の下村博文政調会長も、同会議の非政府組織化も視野に早期に党の提言をまとめると発言しています。

◆軍事的安全保障研究を拒絶する日本学術会議

日本学術会議はホームページによると、同団体は昭和24年に発足。科学の向上発達を図り、行政、 産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的に活動しているそうです。しかし、日本学術会議が設立された昭和と現在では大きく環境が変化しています。昭和の価値観を引きずる組織ではさまざまなズレが生じているようです。

No image

写真はイメージです(以下同)

例えば、日本学術会議は平成29年度に「軍事的安全保障研究に関する声明」を出しています(同様の趣旨の声明も入れると計3回も!)。

これは文字通り、「軍事目的のための科学研究を行わない」ということです。昭和の昔であれば軍事研究と民生分野の間には垣根があったのかもしれません。ですが現在、私たちの暮らしを豊かに彩ってくれているインターネットやGPS、小型ドローン技術などは軍事研究から生まれた賜物であり、AI技術、燃料開発、蓄電池、そして医療・ワクチン開発など、世界中の人々の生活に多大なる恩恵を与えてくれる最先端技術のほとんどが軍事技術に転用可能と言える。

たとえば、軍事用ドローンはテロとの戦いでテロリストの拠点を攻撃するためにも使われてきました。日本学術会議の基準では軍事転用可能な研究に当たると思います。しかし、米国では荷物を玄関前に置くことが許されていますから、ネット注文の配達に大活躍しています。日本でも人が簡単に近づくことのできないダムのメンテナンスや補修作業、山間部の広大な農地や森林の生育状況の調査や農薬の散布といった分野にドローン技術は使われています。軍事転用に可能だからと、こういった今後発展していく最先端の研究を一切「放棄」した学術会議に存在意義はあるのでしょうか?

◆「国際リニアコライダー計画」への反対

No image

東日本大震災復興の後、岩手・北上山地にヒッグス粒子や、宇宙を構成するダークマター(暗黒物質)などを解明しようという「国際リニアコライダー」をつくる計画があります。これが実現するとアジアで初の国際研究科学機構となり、世界の最先端をいく物理学者等が多数集まり、この地で長期間にわたって宇宙の解明をすることになるわけです。高度人材を誘致し、さまざまな投資が始まることが期待できます。日本に最先端科学の恩恵をもたらす国家プロジェクトと考えられていましたが、これに執拗に反対していたのが日本学術会議でした。

日本はこの素粒子物理学の分野で世界をリードしてきました。中間子理論を提唱した湯川秀樹博士から、近年のニュートリノ天文学の小柴昌俊氏、6つ以上のクォークの存在を予測した益川敏英氏など多くのノーベル物理学賞受賞も素粒子の研究です。AIやサイバー空間では劣勢な日本ですが、素粒子研究では世界の最先端をキープしたいところです。しかし、科学を推進するべき学術会議が予算問題で反対しています。

確かに、日本では研究開発予算を潤沢に使えず、ノーベル賞の山中伸弥教授が率いる iPS細胞研究所ですら寄付を集めながら研究を続けています。だからこそ、「国際リニアコライダー計画」のような世界から投資を呼び込めるチャンスへ果敢な挑戦をしてほしいものです。

◆ゲノム編集技術 CRISPR-Cas (クリスパー・キャス)

2020年にノーベル化学賞を受賞したゲノム編集技術 CRISPR-Cas (クリスパー・キャス)は、分子のハサミを使ってヒトの遺伝子を無機能化したり、変更したりすることができる画期的なものです。その原理は1987年に分子生物学者・石野良純氏(九州大学教授)らによって発見されたものでした。しかし、その後のゲノム編集技術に至る研究は米国に移りました。

クリスパー・キャスは、そもそもバクテリアがウイルスから身を守るためのシステムです。ウイルスからゲノムの断片を切断して蓄積する機能をクリスパー・キャスが持っていますから、これを使って、たとえば新型コロナウイルス感染症などの研究ができるのではと期待されています。

これは山中教授の iPS細胞研究とともに重要な医学研究となることは間違いないと思います。しかし、最初のきっかけをつくった日本人が研究を続けていく土壌が日本になかったことが寂しい限りです。発見段階では使える技術かどうかがわからないような基礎研究が世界を変える可能性があったという一例です。短絡的な判断しかできない国は得られたかもしれない多くの成果を失ってしまいます。

また、このクリスパー・キャス技術は研究段階で中国の研究者の協力を受けたため裁判となっています。先端医療技術研究の成果を争奪する戦いはここにもあります。日本もその技術保全と基礎研究の育成をバランスよく見定める政策が必要です。いつ足元をすくわれ重要な研究成果が持ち去られるかわからない危機感のない機関には到底できる仕事ではありません。

昭和の学術研究を推進してきた日本学術会議がこの国際競争に真摯に向き合い日本の国益のために活動する組織になるにはかなりの改革と改善が必要ではないかと思います。

世界でも特に権威のある総合学術雑誌のNatureが日本学術会議の人事問題を引用した記事中で、「政府からの資金は白紙手形ではない」と言っています。白紙手形ではないので10億の予算を受けた日本学術会議はその分の仕事をしていただきたいものです。

小笠原理恵 国防ジャーナリスト

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加