高校サッカー優勝の山梨学院、指揮官が練った2つの青森山田対策

高校サッカー優勝の山梨学院、指揮官が練った2つの青森山田対策

  • Sportiva
  • 更新日:2021/01/13

仲間を鼓舞する大声援もなければ、ブラスバンドの重厚なサウンドも存在しない。しかし、代わりに埼玉スタジアムに響き渡ったのは、ただ勝利だけを求めた高校生たちの熱い想いである。

激しく攻守が入れ替わり、絶対に譲らないという球際のバトルにも胸を熱くした。お互いにミスが少なく、技術の高さも十分に備わっていた。そして何より、誰もがチームのためにサボることなく走り続け、勝利のためにすべての力を注ぎこむ団結力があった。

【写真】高校サッカー応援マネージャー・本田望結【8枚】

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山梨学院と青森山田の決勝戦は心震わせる試合だった

コロナ禍の中で行なわれた全国高校サッカー選手権の決勝は、すべての高校生の想いを代弁するかのような、感動的な一戦だった。

ファイナルまでの戦いを振り返れば、青森山田(青森)が優位と見られていただろう。決勝までの4試合で15得点・2失点。準決勝では矢板中央を5−0で下しており、いい形でこの決勝を迎えていた。

対する山梨学院(山梨)は、5試合で6得点・3失点。うち3つが1−0で、2つがPK勝ち。まさに薄氷の勝ち上がりだった。

「我々のほうがスキルでは上回っていたかもしれない」

青森山田の黒田剛監督が振り返ったように、多くの時間帯でボールを支配したのは、青森山田のほうだった。24対7というシュート数も、指揮官の言葉を裏づける。

しかし、勝ったのは山梨学院だった。先制し、逆転を許しながらも、執念で追いつき、PK戦に持ち込んで、これをモノにした。

では、なぜ実力的に劣ると見られていた山梨学院が栄光を掴むことができたのか。そこには2つの秘策があった。

ひとつは青森山田のCB、藤原優大にマンマークをつけるというもの。浦和レッズ入りが内定している世代屈指のDFは、対人プレーの強さのみならず、正確なフィードで攻撃のスイッチを入れる。この起点を封じることが、山梨学院の最初の狙いだった。

「10回戦って、1回か2回勝てればいいという相手なので、その1回が今日来るようにどう戦っていくかを準備して臨みました」

山梨学院の長谷川大監督は、"藤原封じ"について、次のように説明した。

「青森山田の攻撃の出発点は藤原君だと思っていたので、彼にマンマークをつけることを考えました。(神奈川大の監督時代に)早稲田と戦った時にビルドアッパーがいたので、そこをどうやって抑えようかと考えた作戦で、これを今回出せるんじゃないかなと判断しました。CBにFWをマンマークでつけて、10対10の状態にしてしまおうと」

この発想で、相手のキーマンをゲームから外してしまう。その分、自らの手駒も失うことになるが、それ以上の効果が得られると判断したのだろう。まさかの対策に藤原自身も「CBの自分にマークがついてきて、どうすればいいのか頭が回らなかった」と振り返っている。

また山梨学院は、相手のストロングポイントを押さえるとともに、相手の弱点を突くことも同時に遂行した。それは、高い位置を取ってくる両SBの背後を突くことだ。

「青森山田さんの攻撃は、SBが高い位置を取ってくるのが相当な強みだと思っていました。配球するポイントを抑えても、上がってくるだろうと。両方のSBの背後、2CBの脇を攻略するのがうまくいった」

長谷川監督の狙いどおり、開始12分、右サイドの裏を突き、逆サイドから上がってきた広澤灯喜が鮮やか先制ゴールを叩き込んだのだ。

知将の策が見事ハマり、山梨学院は1点リードで試合を折り返した。だが、どんなに対策を施しても、その上を行くのが青森山田の強さである。

後半立ち上がりから圧力を強めてきた青森山田の猛攻をもろに受け、守勢の時間が続く。そして57分、今大会で猛威を振るうロングスローを起点に同点に追いつかれると、63分には左サイドを崩され、逆転ゴールを浴びてしまう。勢いを考えれば、そのまま山梨学院が崩れ落ちる可能性はあった。

ところが逆転直後、青森山田がひと息ついたように感じされた。もちろん、あの強度のプレーを続けることは不可能だが、準決勝の矢板中央戦では大量リード後も一気呵成の姿勢を崩さなかった。

しかし、この日は違った。タイトルのかかった一戦で、守りの意識が生まれたのかもしれない。山梨学院はその隙を見逃さなかった。

選手交代で攻撃姿勢を強めると、78分に途中出場の笹沼航紀のスルーパスから同点ゴールが生まれる。同点弾を決めたのは、10番を背負う野田武瑠だ。

「10番として、ここまで点が取れていなかったんですが、たくさんの人がメッセージをくれて励ましてくれた。支えてくれている人たちに恩返しできてよかったです」

最後の最後にエースが意地を見せるというシナリオに加え、山梨学院には運もあった。82分に浴びた藤原のヘディングシュートはポストに助けられ、誰もが入ったと思われた終了間際の青森山田のスーパー決定機は、枠を大きく外れた。

◆高校サッカー選手権のロングスロー、あれってファウルじゃない?>>

試合は2−2のまま延長戦にもつれ込んだが、ここでも決着はつかず、勝負はPK戦へと委ねられる。ここで青森山田の前に立ちはだかったのは、準決勝の帝京長岡(新潟)戦でも2本をストップしていた山梨学院の守護神、熊倉匠だ。

「PKは自信があった。PKだったら絶対に止めてやると思っていたので、今日は自分の日だなと感じていました。みんなにも楽しんで蹴って来いと。外してもいいからな、俺がいるからと声をかけられた」

その言葉どおり、熊倉は2人目の安斎颯馬のシュートを完璧にストップした。実は熊倉と安斎は中学時代、FC東京U−15深川でチームメイトだった間柄。

「あいつと決勝でできてうれしかったし、あいつだけには負けたくないという気持ちで臨みました」

そんなドラマも備わったPK戦は、その後、青森山田の4人目が外したのに対し、山梨学院は4人全員が成功。11年前の決勝と同様に青森山田を下し、山梨学院が2度目の全国制覇を成し遂げた。

多くの人たちは、青森山田が勝つと思っていただろう。筆者も、そのうちのひとりである。

しかし、まだ発展途上にある高校生の戦いは、予想もしないミスが生まれることもあれば、想像を超えるようなスーパープレーが見られることもある。ノーマークだったチームが大会中に劇的に力をつけ、強豪校相手に番狂わせを演じることもしばしばだ。

「筋書きのないドラマ」とは使い古された言葉であるが、そこにこそ高校サッカーの醍醐味がある。その背景には間違いなく、集大成の舞台にかける高校生たちの熱い想いがある。だからこそ、観る者は心を動かされるのだ。

両チームの選手たちに、心からの拍手を送りたい。

原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei

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