
この記事をまとめると
■アルファロメオ初の電動化モデルであるトナーレの日本仕様に試乗した
■トナーレにはアルファロメオの過去モデルをオマージュしたデザインが各部に採用されている
■ステルヴィオよりひとまわり小さなボディは日本ではかなり使いやすそう
世界中から注目されるアルファロメオ初の電動化モデル
ようやく日本上陸を果たしたアルファロメオ・トナーレだが、試乗をすませた同業諸氏の間でも、ディーラーで試乗を体験した人たちの間でも、おおむね好評であるようだ。昨年の4月末にイタリア本国でテストをする機会に恵まれて以来、さまざまなところでほとんど絶賛に近いコメントを並べてきた僕としては、「ね、いったとおりでしょ」と意味もなくホッとしたりしてる。
ほとんどの人が“アルファロメオらしい”と評してることに、ひとりのアルファロメオ・ファンとしてうれしさを感じたりもしている。なぜならば、それこそがトナーレの真の姿なのだから。

1910年から続くアルファの歴史に初めて登場した電動化モデルということで、トナーレはどうしてもその部分に注目が集まりがちだ。現段階では──と、あえてそう記しておくが、アルファロメオは2027年にバッテリーEV専門メーカーになるということをアナウンスしていて、その第一段階として送り出されたハイブリッドモデルなのだから、そこがクローズアップされても無理はない。
僕自身、初めて試乗するときにはその部分に強く関心が向いていた、ということを否定することはできない。時代が時代だ、ということもある。

けれど、皆さんもよくご存じのとおり、日本はハイブリッドカー大国だ。世界的に見ても抜群に出来のいいハイブリッドモデルをたくさん生み出している。そんな中で“ハイブリッドモデルである”という部分に意識をフォーカスさせてしまうと、トナーレの持つ魅力のもっとも大切なところを見失いかねない。
モーターを備えるというのは間違いなくトナーレを構成するひとつの要素ではあるのだが、ほかにもちゃんと注視すべきところがある。アルファロメオは単なる電動化モデルを作ったわけじゃなく、あくまでもアルファロメオを名乗るにふさわしい電動化モデルを作った、ということだ。
たとえばスタイリング。2019年に発表されたトナーレ・コンセプトの鮮やかな美しさは、こうしてプロダクションモデルになってもまったく失われていない。ひと目でアルファロメオとわかる存在感だ。そこには秘密──というより公然の秘密が隠されている。

アレッサンドロ・マッコリーニをはじめとするデザイナー陣は、電動化という新しい時代へと足を踏み入れる第1作目をデザインするにあたって、自分たちのブランドが持つ歴史の豊かさをクルマに盛り込もうと考えたようだ。アレーゼにあるムゼオ・ストリコ・アルファロメオに足しげく通い、宝石のような名車たちをじっくりと眺め、湧いてきたインスピレーションをスケッチすることに長い時間を費やしたという。
アルファロメオのヘリテイジ探しも楽しいトナーレ
彼らは過去にリスペクトを感じていることをまったく隠していない。たとえばサイドから見たときのなだらかなショルダーのラインは初代ジュリア・クーペにインスパイアされたもので、彼らはそれを“GTライン”と呼んでいる。三つ目のヘッドライトは、ES30のSZ/RZ、プロテオ・コンセプト、159やブレラ、2代目の939型スパイダーがヒントになっている。

サイドウインドウとリヤウインドウの開口部の処理は、8Cコンペティツィオーネだ。テレフォンダイヤル型のホイールは、ティーポ33ストラダーレやジュリアGTAなどにも見られる、1960年代から続いてきた伝統的な丸孔の意匠だ。そのあたりは、たしかトナーレがデビューしたときにマッコリーニ自身が触れていたような記憶がある。

だが、それだけじゃない。アルファロメオのアイコンともいえるフロントのスクデット──盾の部分──とその下の左右のインテークからなるトリロボ(三つ葉飾り)は初代ジュリエッタの頃にはすでに採用されていた伝統的な意匠だし、スクデットを強調するかのようなフロントフードの面構成/線構成は古くはスプリント・スペチアーレ、新しくは4Cなどにも共通している。

ノーズの先端からサイドを経由してリヤ後端といった具合に360°グルリとつながるラインは、ディスコヴォランテやスパイダー・デュエットあたりがヒントになったものだろう。
リヤウインドウ下側のVシェイプは、1930年代の8C 2900、あるいは2000年代のブレラなどにも見ることができる。テールランプ左右あたりが一文字を描くのは、164やプロテオ・コンセプト、916のGTVやスパイダーにも使われた手法。

インテリアも然りで、ステアリングの3つのスポーク部に黒の意匠が埋め込まれているのは、ジュリア・スプリントGTVあたりのアルミに黒のホーンボタンが埋め込まれたデザインから来てるようだ。2眼のメーターナセルは1750GTVとかのジュリア・クーペの時代、あるいは156、初代スパイダーのシリーズ2やシリーズ3、156や159、ブレラ/939型スパイダー、さらには現行ジュリアなどにも共通してる意匠。切り換え可能なメーター表示の中のクラシカルな文字盤は、それこそ1970年代のジュリアとかを彷彿とさせる。

それらがコピーではなくあらためて解釈しなおされて、まったく無理も矛盾もなく、1台の新しいアルファロメオに整然と同居して美しさを形づくっている。そんな印象なのだ。
アルファロメオをよく知ってる人であれば「ここはあのモデルかな?」といった具合にヘリテイジ探しを楽しむこともできるし、そうでない人はすんなりとカッコよさに惹きつけられる。それがこのクルマのデザインの凄いところだと思う。
そのスタイリングデザインをまとった車体のサイズは全長4530mm、全幅1835mm、全高1600mm。姉にあたるステルヴィオより160mm短く、70mm細身で、80mm低い計算だ。ものすごくざっくりいうなら、日本車では三菱エクリプスクロスあたり、輸入車ではボルボXC40あたりと同じようなサイズ感。日本ではかなり使いやすいサイズといえるだろう。

サイズがコンパクトである分、当然ながらステルヴィオより居住空間もラゲッジスペースも小さくなってるわけだが、もちろんSUVとして十分な広さは確保されている。見ているだけでも気分が浮きたつようなインプレッシヴなルックスをしているのに実用性を無視したりはしない。それも一部のスペチアーレを除くアルファロメオのプロダクションモデルの昔ながらの公式なのだ。

短くまとめるのが苦手と言うこともあるし、だいぶ気に入ったモデルだからということもあるのだろうけど、ちょっとばかり冗長になってしまったようだ。実際にあらためて走らせてみての印象は、後編へ続く、というカタチにさせていただくことにしよう。














嶋田智之