どうしてパラレルツインは復調したのか? ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.3

どうしてパラレルツインは復調したのか? ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.3

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  • 更新日:2021/10/14

Vツイン、パラレル、Vツイン、パラレル……

近年の2輪業界は、約半世紀ぶりのパラレルツイン(並列2気筒エンジン)ブームを迎えています。その理由を説明する前に、ツイン(2気筒)エンジンの歴史をざっくり説明しておくと、まず2輪の黎明期となる1900年代前半は、ツインの主役は並列ではなくV型でした。おそらく当時の技術者の多くは、大物部品を新規開発しなくてはならないパラレルツインよりも、既存の単気筒エンジンの設計・生産設備がある程度活かせるVツインのほうが、いろいろな意味でイージーと考えたのでしょう。

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トライアンフにとって第二世代のパラレルツインとして開発された「スピードツイン」(1939年)は、以後の2輪業界に多大な影響を及ぼしたモデル。なおスピードツイン用として開発されたパラレルツインは1980年代まで生産が続く長寿機種となった

【画像】パラレルツインとVツインの変遷を画像で見る(10枚)

そんな状況が一変するきっかけを作ったのは、トライアンフ(イギリス)が1939年に世に送り出した「スピードツイン」というバイクです。このモデルと派生機種となる「タイガー」や「トロフィー」、「サンダーバード」などの成功によって、以後の2輪業界にはパラレルツインブームが到来し、第2次大戦後に活動を開始した日本の4メーカーも、1950年代後半から1960年代後半はパラレルツインを主軸に設定しました。

とはいえ、1970年前後に登場した日本製並列4気筒車が世界中で爆発的な人気を獲得すると、パラレルツインは2輪用パワーユニットの主役の座から転落します。もっとも、それは4ストロークに限った話で、すべてのモデルがそうだったわけはないのですが、以後のパラレルツインはどちらかと言うと、コストダウンを重視したモデルに採用されることが多くなっていきます。

その一方で、1980年頃から高性能2気筒として脚光を浴びるようになったのがVツインです。ハーレー・ダビッドソン(アメリカ)やモトグッツィ(イタリア)、ドゥカティ(イタリア)などはそれ以前からVツインを主軸に据えていましたが、日本勢がこのエンジン形式に力を入れ始めたことで、事態は大きく変化しました。

なかでも、ヤマハ「RZ250」(2ストローク)キラーとしてホンダが開発した「VT250F」(4ストローク)が大ヒットモデルとなり、「RS750D」で1984年から1987年のAMAダートトラック選手権、「NXR750」で1986年から1989年のパリダカールラリーを制したホンダの活躍は、Vツインの魅力を多くのライダーに知らしめることとなりました。

意外だった、BMWとKTMのパラレルツイン

1980年代以降は、一部の例外を除くとコストダウンを重視したモデルの定番エンジンになったパラレルツインですが、2000年代に入ると状況はまたしても大きく変化します。

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昨今ではBMW Motorradの柱のひとつになった感があるが、2006年に「F800S」が登場したときは多くの人が“どうしてBMWがパラレルツイン?”と感じたものだった。当初のクランク位相角は360度だったが、現行モデルでは270度に

ここ20年を振り返って私(筆者:中村友彦)自身が印象に残っているパラレルツインは、2006年以降のBMW Motorrad(ドイツ)の「F800」シリーズと、2018年以降のKTM(オーストリア)「790」シリーズですが(いずれのメーカーも、20世紀にパラレルツインを販売した実績はありません)、2016年から発売が始まったホンダ「CRF1000Lアフリカツイン」が、Vツインではなく、パラレルツインを採用したことも、私にとっては驚きでした。

もちろん、近年のパラレルツインブームを語るうえでは、2001年以降のトライアンフ「ボンネビル」シリーズや、2012年以降のホンダ「NC」シリーズ、2018年に登場したロイヤルエンフィールド(インド)の650ccツイン、2021年から発売が始まったアプリリア(イタリア)「RS660」なども重要なモデルでしょう。

また、1990年代までは4ストローク並列4気筒や2ストロークVツインが主役だった日本製アンダー400ccクラスは、昨今ではパラレルツインが圧倒的な多数派になっています。

搭載位置の自由度とコスト

さて、ここまでの文章を読んでいただければ、V→パラレル→V→パラレルという順序で主役を交代して来たツインエンジンの歴史がご理解いただけと思いますが、ではどうして、近年のツインはパラレルが主役になったのでしょうか。その背景には、主にふたつの理由があります。

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左右幅は狭いものの、前後に長くなりがちなVツインは、エンジン搭載位置の自由度があまり高くない。ドゥカティ「1199パニガーレ」(2021年)の場合はラジエターやリアショックの配置に設計者の苦悩が伺える

まずひとつ目の理由は、エンジン搭載位置の自由度です。側面から見た際に、ふたつのシリンダーヘッドとシリンダーの配置を考えなくてはならないVツインに対して、パラレルツインは単気筒に近い感覚でレイアウトが出来ます。逆に言うなら、Vツインはエンジンが前後に長くなる傾向ですから、前方のシリンダー(気筒)はラジエターや前輪と干渉する可能性がありますし、後方気筒は排気系の取り回しが難しいのです。いや、この表現だとなんだかパラレルの設計が簡単みたいですが、問題は設計の難易度ではなく、重量物であるエンジンや操安性に多大な影響を及ぼすクランクセンターをどこに配置できるかで、現代の量産車の設計では、パラレルのほうが理想を追求しやすいようです。

ちなみにかつてのVツインには、不等間隔爆発ならではのわかりやすいトラクションというメリットが存在しました。とはいえ、昨今ではクランクの位相角次第で、パラレルツインでもVツインに通じる特性が得られることが周知の事実になっています。パラレルツインが復興した背景には、そういう事情もあったのでしょう。

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KTM初のパラレルツインとなった「790 DUKE(デューク)」は、既存の同社製75度Vツインに通じる特性を再現することを念頭に置き、75度位相クランク+435度不等間隔爆発という、独特のメカニズムを採用している

そしてエンジン搭載位置に加えてもうひとつ、パラレルがツインの主役に返り咲いた主な理由はコストです。前述したように、Vツインはシリンダーヘッドとシリンダーが2セット必要で、もちろんOHCやDOHCの場合はカムシャフトやカムチェーン+テンショナーも2セット必要になります。非常に夢のない話ですが、コストを一切気にしなくていいなら、現代のパラレルツインブームは無かったのかもしれません。

そのあたりを考えると、膨大なコストをかけられるモデルではないのにVツインを採用している、スズキ「SV650」「SV650X」やドゥカティ「スクランブラー」シリーズなどは、現代では非常に貴重な存在です。

なお、私自身はV型礼賛派でもパラレル否定派でもないのですが、この2機種やモトグッツィ「V7」系に遭遇すると、何となく応援したい気持ちになってしまいます。

中村友彦

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