橋下徹"藤原帰一氏の対北論は疑問だらけ"

橋下徹"藤原帰一氏の対北論は疑問だらけ"

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2017/12/12

すでに核兵器の保有を宣言している北朝鮮は、11月29日、米本土への攻撃も可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功したと発表した。国際社会による北朝鮮への働きかけは今のところ功を奏していない。この状況を「動かす」にはどうしたらいいか。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(12月5日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

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藤原帰一氏の「通常兵器による抑止力」は、ここがおかしい

こないだ東大で行われたシンポジウムに行ってきた。「核の脅威にどう対処すべきか」というテーマ。国際政治学者の三浦瑠麗さんの所属する東大政策ビジョン研究センター安全保障ユニットと長崎大学核兵器廃絶研究センターが合同で行ったもので、13時から16時30分までみっちり3時間半。もちろん僕は一般聴講者として参加したよ。

北朝鮮問題に関してメディアを賑わしている学者の意見を聞いても、ビビッと感じるものがない。現状を説明して、あとは北朝鮮問題は難しいですね、解決策は浮かばないですねという話ばかり。この方向に行けば解決の糸口が見えるかもしれないと感じるような意見は皆無なんだよね。

政治家は解決に向けて何らかの方策を採らなければならない。評論家のように意見を言うだけじゃダメだめなんだ。ゆえに少しでも事態を動かすきっかけ、糸口が欲しい。しかしこの北朝鮮問題に関しては、一度この方向に行ってみるか、と政治家に思わせるような提言が学者からなされることはほとんどない。ほとんどが現状の解説なんだよね。

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東大での藤原さん(藤原帰一・東京大学大学院教授)たちの議論も、北朝鮮は悪い、世界から核をなくしていくことが良いことだ、という大前提を基にしていた。そこへの疑いはなさそうだった。ただし、アメリカが正しいという前提はなさそうだった。この前提を基に、藤原さんには、さらに興味深い認識の前提があった。それは「通常兵器による抑止力は認めるが、核兵器による抑止力は認めない」というもの。

北朝鮮問題に対する国際社会の対応が手詰まりになっている現在においては、誰もが当然視している「核兵器NO」、「核による抑止力NO」、「北朝鮮NO」という大前提についてもう一度疑ってかかる必要がある。この大前提に狂いはないのかという視点で。

そうすると元政治家の僕としては、藤原さんが前提としていた「通常兵器による抑止力は認めるが、核兵器による抑止力は認めない」というころには強い違和感を覚えるんだよね。

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物理学の「力の均衡」とは違い通常兵器の力の均衡はほぼ不可能

抑止力とはそれを一方的に「保有すること」が目的ではない。抑止力によって「力の均衡を保つこと」が目的であり、抑止力そのものは手段である。

ここは皆さんがこれまで聞いていた話とは少し異なるところかもしれないので、よく考えて下さい。ここがまさに、これまで当然視されていた大前提への疑問・検証です。

抑止力とは「相手に負けない力」と解するのがこれまでの一般的な理屈。とにかく相手に負けないように自分の力を強くする。でも自分の力を強くするだけでは、力の強弱は永遠に解消されず、いつまでたっても不安定な状態が続く。つまり強い者から弱い者への攻撃の可能性が残り続ける。この不安定な状態が武力紛争を生む最大の要因だ。

だから武力紛争を生まないために重要なことは自分の力と相手の力を「均衡」させ、国どうしの力関係を安定させることだ。自分の力だけを強化すればいいというわけではない。相手の力に釣り合うものでなければならない。他方、自分の力だけで足りない場合には、仲間(同盟国)の力を借りて相手の力と均衡させる。すなわち、抑止力とは相手に対する一方的な力のことではない。相手との関係で「力の均衡」を保つための力こそが抑止力だ。抑止力=力の均衡だ。

では通常兵器によってどのように国どうしの力の均衡を保つのか。藤原さんのように頭の中では通常兵器による抑止力(=力の均衡)を考えることは可能であっても、現実の国際政治の世界で、通常兵器によってどのように国の力を均衡させるのかを論じることは不可能だろう。今回のシンポジウムでも藤原さんは、「通常兵器による抑止力」という言葉を発することはあっても、ではそれをどのように実現するかについては全く言及がなかった。

力の均衡という言葉を発するのは誰でもできるけど、実際に力を均衡させる行動をとるのは至難の業。例えば高層ビル間をロープで繋いだ綱渡りをやっている人を見て、「いやーバランスが取れている!」と他人事のように言葉を発するのは誰でもできる。でも、じゃあお前が綱渡りをやってみろ! と言われてもそんなことはできるはずがない。

藤原さんが通常兵器による力の均衡という言葉を発することは、まさに危険を冒して綱渡りをやっている人に対して、安全なところから「バランスが取れている!」と解説していることと同じ。しかし政治家はその綱渡りをする当事者なんだよね。

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そういや物理学で出てくる「力の均衡」は、結構簡単に実現できる。計測が可能で計算で求めることができるからね。だからお勉強をずっとやってきた人たちはこの物理学での知識が影響しているのか、軍事力を各国で均衡させることは簡単にできると考えがちのような気がする。

実際のケンカをやったことがある者は皆知っている。ケンカをやる前に、自分と相手との力が均衡しているかどうかを知ることは至難の業であるということを。だってケンカの際の力なんて単純な数字で測ることはできないからね。だから現実の国際政治のプレイヤー(指導者)が軍事力を均衡させるのはほぼ不可能に近い。

「核兵器は悪」という大前提に流されない議論を!

それでも、このように事前に知ることが困難な軍事力の均衡状態を唯一認識できるたった一つのポイント・状態というものは存在する。それは、自分が手出しをすれば自分も必ず死に至るほどの反撃力を相手が持っている状態。そこまでの圧倒的な力を自分も相手も双方が持っている場合には、力の均衡状態を明確に認識することができる。だって自分が手出しすれば自分も必ず死に至るんだったら普通は手出しをしないでしょ。そしてお互いにそういう状態に陥っているのなら、お互いに手出しはしないはず。つまりこのような場合に初めて双方お互いに手出しができないという意味で力の均衡状態が明確になるんだ。

これを国際政治学での安全保障論の世界では「相互確証破壊」という小難しい言葉で表現する。お互いに相手国の存在を確実に消してしまうほどの力を相互に持っていること。自国が相手国に手出しをすれば、自国も確実に完全に消滅させられる状態に相互が置かれている状況。国を人間に置き換えて言えば、お互いにピストルを至近距離で突き付け、そのピストルの引き金にお互いに指をかけている状態。つまりお互いに手出しが全くできない状況。

これは大変な恐怖に満ちた状態だけど、力の均衡は保たれている。これを国家間の関係に当てはめると、核兵器を相互に保有することになるんだ。

通常兵器では、相手国を完全に消滅させるというところまでは簡単には至らない。ゆえに必ず強者と弱者が生まれる。よって力の均衡状態には至らず、何かのきっかけで一方当事国が武力行使を始め得る。つまり相手国に手出しする場合が生じ得る。

ところが、核兵器の場合には相手国を確実に完全に消滅させる。そうするとお互いに核兵器を保有することで力の強弱はなくなる。自国が確実に消滅するリスクが目の前に現れることによって、初めて相手国に全く手出しができなくなる。まさに核兵器を相互に持つことによって、軍事力の均衡状態が生まれる。

以上をまとめると、通常兵器での抑止力=力の均衡を作り出すことは現実的には不可能。軍事力の均衡状態を作り出すには、核兵器による抑止力=力の均衡しかあり得えない。

藤原さんら学者の世界で通常兵器による抑止力=力の均衡が可能と言うのであれば、世界各国がどのような通常兵器をどのように配備・配置すれば均衡状態に達するのかしっかりと具体的に明示すべきだ。藤原さんの持論は、通常兵器による抑止力=力の均衡が可能だという大前提を基に、だからこそ核兵器による抑止力=力の均衡は不要だというロジックだ。もし通常兵器による抑止力=力の均衡が不可能なのであれば、核兵器による抑止力=力の均衡を不要だと安易に主張することは国際政治の専門家として無責任極まりない。国際社会、特にインテリの世界において「核兵器は悪だ」と当然視されている大前提に流されているに過ぎない。(ここまで約3300字、メルマガ本文は約1万5000字です)

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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.82(12月5日配信)を一部抜粋し簡略にまとめ直したものです。もっと読みたい方は、メールマガジンで! 今号は《【続く北朝鮮危機(1)】ついにICBM保有宣言! 僕なら動かない事態をこう動かす!》特集です!!

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