サラハンのリンゴ農園オーナーが語るインドの未来 北インド放浪3カ月 第7回

サラハンのリンゴ農園オーナーが語るインドの未来 北インド放浪3カ月 第7回

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  • 更新日:2017/09/17
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(2016.6.18.~9.14 89日間 総費用18万2000円〈航空券含む〉)

食堂の無邪気なボーイはネパールからの出稼労働者

7月3日。梅雨の合間のような空模様だ。朝飯に寺院の門前に何軒か並んでいる食堂兼チャイハネ(お茶屋)の一つに入りプーリー(小麦粉をふっくらと揚げたパン)、豆と芋の煮物、チャイ(香料の入ったミルクティー)という定番セットを注文。

ネパールからの出稼ぎ少年

この店は親爺の愛想が良いのと、中学生くらいの兄弟らしいボーイの応対がキビキビしているので毎朝通っていた。

朝9時過ぎなのですでに小中学生の登校時間を過ぎているが兄弟らしい二人はまったく学校に行く気配がなくジャガイモの皮を剥く作業をしている。

親爺に「あの二人のあんたの子供たちは学校に行かないのか?」と聞くと親爺は怪訝な顔をして答えた。「あの二人はネパール人で俺の家族じゃないよ。ネパールから出稼ぎに来ているんだよ。」インドも貧しいがネパールはもっと貧しいことが想像できた。

日本人の目から見ればネパールも北インド山間部もさして変わらないが、少しでも経済格差があれば僅かな現金収入を求めて故郷を離れて出稼ぎをするのが経済のグローバル化なのであろう。

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食堂で働くネパールからの年少の出稼ぎ少年と食堂オーナー

ブルーシートの粗末なテント

湿った空気の中、村の中心から坂道を上がってゆくと人里から離れた空き地に汚れたブルーシートのテントが折り重なるように立っていた。周囲に鍋釜が置いてあり簡単なかまどが設けられているので人が住んでいるようだ。近づいて中を覗くと小さな子供が数人遊んでいた。親たちは働きに出たのであろうかテントの周辺に大人の姿は見えなかった。少し離れたところにある山の斜面の湧き水で老婆が一人食器を洗っていた。

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ウッタル・プラデーシュ州からの出稼ぎ一族が暮らしているテント

さらに山道を上がってゆくとカマを持った農作業に出かける地元のオバサンたちに出会った。テントの住人について尋ねると「ウッタル・プラデーシュ州から来た人たちで道路工事や農作業の手伝いをしている」とのこと。

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サラハンのマハラジャの別荘

後で調べるとウッタル・プラデーシュはインド北東部に位置する約2億人というインド最大の人口を抱えておりビハール州と並んでインドの中でも最貧困州である。北インドの旅ではブルーシートなどを使った粗末なテント暮らしをする出稼ぎ集団を頻繁に見かけた。

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キナウル渓谷地方の民族帽子を被るオジサン

雨宿りにリンゴ園の休憩小屋へ

さらに峠を目指して山道を登ってゆくと雨が降り始めた。一人の青年が農園の小屋で雨宿りするから一緒に来ないかと誘ってくれた。彼はこの一帯の山のリンゴ農園の当主であるサンジーンであった。山道を外れてリンゴ園の急斜面を登ると高台の作業小屋が見えてきた。

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リンゴ農園主で篤志家の青年サンジーン氏

一階が土間の作業小屋で二階に縁側と板敷の居室がありテーブルと椅子が置いてある。サンジーンは大地主でリンゴ農園を経営する名門の出身であった。親族からは陸軍司令官や州知事も輩出している。

彼については本編第2回、第3回でも紹介している。なぜインド人がインド国軍を誇りに思っているのか、インド人は中国をどのように認識しているのかサンジーンの見解は興味深いものであった。

インドの近代化に必要なのは“シンカンセン”

サンジーンによると「英国によるインド支配は“分割して統治せよ”という植民地統治理論が貫徹していた。その結果としてインドは宗教・民族・言語などで地域ごとに分断されてしまった。鉄道が好例で国土を縦断・横断するシステムになっていない」

「日本のシンカンセンは素晴らしい技術だ。数分毎に時速250キロの列車が定時運行されているのは奇跡だ。インド政府が日本のシンカンセン導入を決定したのは当然だ。日本の技術協力でシンカンセンを導入して将来的にシンカンセン・ネットワークでインドの国土の統合を実現するべき」という見解である。

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中国国境の山岳道路で働くネパール人の出稼ぎ労働者

インドに必要なのは風力発電やソーラーパネルではなく原子力発電

サンジーンによるとインドでは未だに水力発電が50%を占めており石炭火力を中心に火力発電が48%という。原子力発電は現状わずか数パーセント。安定した電力供給体制を作るためにはフランス並みに原子力発電を拡大するべきという。ドイツのように再生エネルギー依存を増やすのはインド経済には負担が大きすぎると批判的だ。

彼の村でも政府から補助金をもらってソーラー発電を試行してみたが供給が不安定で実用化を断念した経緯があるという。

灌漑システムはイスラエルから導入

ヒマーチャル・プラデーシュ州はインド北部で西は中国と国境を接する山岳地帯だ。しかしサンジーンによると雨量も多いが急峻な地形のために水は流れ去ってしまい、農業に利用できる水が不足しているという。農業用水が確保できれば小麦や他の作物の栽培も可能となる。イスラエルのキブツ(共同農場)から灌漑システムを導入する計画を進めている。成功すれば地域経済が大きく変わるとサンジーンは力説した。

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マナリー渓谷の河原のネパール出稼ぎ労働者の掘立小屋

観光はスモールビジネス育成にはうってつけ

「地域の平均収入を底上げする手っ取り早い方法は観光関連のスモールビジネスだ。ゲストハウスや食堂などが成り立つようにインフラを整備することだ。北インドを訪れる避暑目的のインド人観光客は年々激増している。ほとんどのインド人は車やバイクで避暑にくる。現在村の山道の簡易舗装工事を進めているが観光客の利便をはかるのが目的だ。」とサンジーンは熱心に語る。

ネパール人労働者とバングラ人労働者

トラックに積み込まれて出荷されるリンゴ

村で働いている出稼ぎ労働者についてサンジーンは彼らの労働環境を保護する施策が必要と指摘。ネパールからインドへの出稼ぎ労働者は100万人以上いるがFree Boarder協定により合法的にインドが受け入れている労働力だ。他方でバングラデッシュからは100万人を大きく超える大量の不法入国の出稼ぎ労働者が来ている。

さらにインド国内の貧困州からも大量の出稼ぎ労働者がヒマーチャル・プラデーシュには暮らしている。ニーズがあるから労働者の移動が起こるのであって政府は実態を把握して労働環境を向上させるべきと力説。

りんご農園の経営

北インドではリンゴ栽培は主要産業である。りんご農園の経営ひとつとっても過去20年で大きく変貌したという。現在37歳の彼が高校生であった20年前は固定電話もなかったという。

当時は収穫期になると消費地であるデリー、チャンディガーの業者がトラックで買い付けに来て業者の言い値で出荷していた。生産者は市場情報へのアクセスがないため不利な取引でも収入を得るために業者の指値を受け容れた。当時の決済手段は収穫期の月末に業者が振り出す小切手だけであった。

その後冷蔵保存設備ができて需給調整ができるようになり市場情報も次第に入手できるようになった。そのため市況を見ながら出荷調整できるようになった。大学生の頃に携帯電話が使えるようになり更にはスマホが普及して市場情報に随時アクセスできるようになり取引条件が生産者に有利になってきた。

他方で収穫期には依然としてインド南部の貧困州やネパールからの多数の臨時労働者による肉体労働に頼ることは昔と変わっていないという。

原爆はインドにとり必要不可欠

サンジーンからは進歩的理想主義者という印象を受けた。しかし、いったんパキスタンに話題が移ると現実的保守派の論客となった。

「インドは世界最大の民主主義国家であるがパキスタンには民主主義は存在しない。歴代首相の末路は暗殺、クーデター、追放の連続。イスラム過激主義が貧困層に蔓延して大きな政治勢力となっているため政権は過激派に迎合せざるを得ない。非常に危険な国家である。カシミールはインド固有の領土であり1インチも妥協できない。パキスタンが存在する限り原爆は手放せない」と断言した。

⇒第8回に続く

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