世界的な株価下落局面で「米国株ひとり勝ち」が続く根本的理由

世界的な株価下落局面で「米国株ひとり勝ち」が続く根本的理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/10/11
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欧州株と新興国株が大幅下落

10月に入って世界の株式市場が変調をきたし始めている。9月までは好調に推移してきた「親米国」の株価指数も軒並み大幅な下落を強いられている。

8月23日付の当コラムで筆者は、当時、大幅な通貨・株価下落に見舞われたトルコの次に同様の危機を迎える可能性が高い国・地域として、①反米的な姿勢を続けるEU(もしくはユーロ圏)と②新興国、の二つを挙げた。そして、どちらに危機が訪れるかを考えるための「カギ」はインドの株価ではないかと指摘した。

そのインドの株価だが、10月に入って下落ペースが加速している。いまや、「反米」的なスタンスからずっとさえないパフォーマンスだった韓国に並びそうな勢いである(図表1)。

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このインド株の大幅下落については、インドの一部銀行の粉飾決算や不良債権の過少申告など、個別要因の存在も否定できない。だが、インドと並び、これまで株価のパフォーマンスが良好であったオーストラリア市場も下落局面に入るなど、「親米新興国」の株価も軒並み下げ始めている。

これらの新興国については通貨の下落も続いていることから、通貨危機型の新興国市場の株価下落が今後も継続する可能性も否定できない。

また、このような新興国の株式市場の下落と同時平行で欧州株の下落も加速している(図表2)。従って、前述の「トルコの次はどこか」のシナリオとしては、①と②が同時進行している可能性が高いと考える。

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この欧州株と新興国株の大幅下落は以下の2つの要因が同時進行することで実現していると考える。

すなわち、第一点が、トランプ政権の対中国強硬政策で、中国がますます苦境に陥り、トランプ政権が目指す「新たな世界秩序」の実現可能性が高まっているという「期待」の側面。第二点が、米国の金融政策の正常化による金利上昇とマネー(流動性)の収縮という「現実」の側面、である。

欧州、及び新興国の多くが経済・貿易面で中国との相互依存関係を強めてきただけに、トランプ政権の対中強硬政策で「踏み絵」を踏むことを催促されている状況だといえよう。

米国株式市場にポジティブ材料

これに対し、比較的堅調を維持しているのが米国株である。今回の世界的な株価下落は米国長期金利の上昇がきっかけに始まったという印象が強い。

思い起こせば、これまでは長期金利の上昇は米国株式市場に大きな調整をもたらしてきた(例えば、今年の1月終わりから2月初めにかけての大幅下落)。だが、今回はいまのところニューヨークダウやS&P500などの指数は比較的堅調に推移している。

そして、日本株も調整はしているものの、欧州や新興国と比較すれば、下げは限定的で「しっかり」しているという印象だ(図表3)。この状況をどう解釈すればよいのだろうか。

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筆者は米国株の投資家の間に「米国経済が長期停滞を脱し、リーマンショック前の成長トレンドに回帰していくのではないか」という期待が生まれつつあるのではないかと考える。

そこで、ふりかえってみると、第二次大戦後の米国経済の成長トレンド(実質)は、リーマンショックが起きる前はほぼ一貫して2.8%程度であった。これがリーマンショック後は2%程度に低下していた。この現象をハーバード大学教授であるローレンス・サマーズ氏らは「長期停滞」と名づけた。

だが、トランプ政権の発足以降、米国の成長率は徐々に高まっており、この「長期停滞」のトレンドから上振れてきている点に注意する必要がある。

具体的には、直近時点(2018年4-6月期)で米国の実質GDP成長率は、前年比で+2.8%、前期比年率換算で+4.1%まで加速している。アトランタ連銀が推計している7-9月期の「GDPNow(公表済みの月次経済指標等から予想される7-9月期の実質GDP成長率)」は、10月5日時点で前年比+3.2%、前期比年率+4.1%となっており、「脱長期停滞」の動きはなおも継続中であると推測される。

いうまでもないが、米国経済が長期停滞から脱するということは、米国株式市場にとってはポジティブ材料である。

マーケットの迷い

筆者は、これまで、マーケットでは、この「脱長期停滞」の動きがあまり想定されていなかったのではないかと考える。これは、米国の長期金利の動きをみればわかる。

従来、長期金利には名目GDP成長率と高い相関関係があるといわれてきた。わかりやすくいえば、名目成長率が上昇する局面では長期金利も上昇しやすい。当然といえば当然である。だが、両者の関係は、リーマンショックをきっかけに大きく変わった。

この両者の関係をプロットしたのが図表4である。図表4では、2003年以降について、2011年までの局面と、2012年以降の局面の2つに分類し、横軸に名目GDP成長率、縦軸に米国10年物国債利回りをとり、両者の関係をプロットしている。2本の傾向線があるが、上がリーマンショック前の、下がリーマンショック後(すなわち「長期停滞」の局面)の関係を示している。

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これをみると、米国経済が「長期停滞」局面下に位置しているか、それとも、「長期停滞」から脱したかで、長期金利(ここでは10年物国債利回り)の位置はかなり異なることがわかる。

例えば、7-9月期の名目GDP成長率が前年比で+6%であると仮定した場合の長期金利の水準の落ち着きどころは、「長期停滞」局面下に位置する場合には2.97%、「長期停滞」局面から脱したと考えれば4.22%となる。

これまで米国の長期金利は成長率が上昇しているにもかかわらず、3%の壁を破れずにいたが、図表4に基づいて解釈すると、これは投資家のほとんどが「米国経済は長期停滞から抜け出せない」と考えていたためだということになる。

このところ、長期金利が恒常的に3%を超えて推移するようになった(直近は3.2%を超えている)が、これは投資家の一部が「米国経済が長期停滞から抜け出すのではないか」と考え始めたためだと解釈される。

もし、7-9月期以降も米国の経済成長率が加速度的に上昇し続けるならば、長期金利の上昇を伴いながら株価が堅調に推移する局面が続くことが想定される(現在、米国株式市場が下落しないまでも方向感を失っているようにみえるのは、どちらになるか投資家が迷っているからであろう)。

インフレ率の動向がカギ

それでは、米国経済は本当に「長期停滞」から脱しつつあるのだろうか。これは現段階では何ともいえない。これを判断する鍵はインフレ率の動向であろう。

現在、インフレ率は緩やかに上昇し、現在2%まで上がってきている。だが、2%というインフレ率は米国経済にとっては「正常な経済での適正水準」なので、2%程度までのインフレ率上昇は両方のシナリオで実現しうる水準である。

そこで、もし、今後、インフレ率が加速度的に上昇していくとすれば、これは、米国の潜在成長率が低いままであるということになるので「長期停滞」から脱することはできなかったということになろう。

この場合、FRBはさらなる利上げによって景気過熱を沈静化させる必要が出てくるため、米国の政策金利であるFFレートは、来年の半ば以降、現在マーケットで想定されている3%の着地点を越えて上昇する可能性が高まる。そして、その結果、国債のイールドカーブは「逆イールド(短期金利の水準が長期金利の水準を上回る)」となる可能性が高まる。

逆に、インフレ率が現行の2%からなかなか上昇しない局面になれば、米国の潜在成長率が上方修正されている可能性が高まる。これは、「長期停滞」から脱することを意味するので、加速度的な利上げの可能性は低下するだろう。この場合、国債のイールドカーブの「逆イールド化」の可能性も同時に低下すると思われる。

米国のノーベル賞級の経済学者の多くが、米国経済が長期停滞から脱するのは難しく、トランプ政権下の減税はインフレ率を引き上げるだけで米国経済にとっては逆効果だと主張してきた。もし、米国経済が長期停滞から脱することができれば、それは画期的である。

ただ、これがある程度判明するまでにはまだ時間を要する(インフレ率の動向を見極めるための時間を要する)ため、経済指標の解釈を巡り、米国の株式市場、及び債券市場はかなり乱高下する可能性がある。

また、FRBがこの長期停滞をどのように解釈し、金融政策を調整していくかも重要な話となるため、FRBの金融政策スタンスにも注意が必要である。

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トランプは経済で“大化け”する可能性を秘めている。気鋭のエコノミストが、世界と日本の動向を鋭く予測する!

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