中国と台湾の深刻な大問題「少子化」は軍事衝突にブレーキをかけるか?

中国と台湾の深刻な大問題「少子化」は軍事衝突にブレーキをかけるか?

  • JBpress
  • 更新日:2023/03/19
No image

春節を前に中国・江蘇省南京市の鉄道駅で列車を待つ大勢の中国人旅行者たち(資料写真、2023年1月20日、写真:ZUMA Press/アフロ)

(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)

昨年(2022年)10月の中国共産党第20回全国代表大会、そして今年3月の第14期全国人民代表大会を経て、習近平は党と政府の要職を側近で固めることに成功した。もはや習近平の決定に異論を挟むことができる人物は見当たらない。

そんな習近平は台湾統一に固執しており、台湾侵攻は習近平の胸三寸といった状況になっている。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

出生率が低下する台湾、中国、日本

軍事侵攻されるかもしれない台湾では、少子化が進行している。図1に台湾、中国、日本におけるTFR(合計特殊出生率)の推移を示す。

No image

図1 台湾、中国、日本におけるTFR(合計特殊出生率)の推移(出典:国連人口局)

台湾のTFRは1985年には2を割り込み、その後1990年代後半までは1.7を維持していたが、2003年以降は日本を下回る水準にまで低下している。

中国のTFRも1991年に2を割り込んだが、21世紀に入ってからは一貫して台湾を上回っている。

図1は国連人口局が公表しているデータである。国連のデータは各国が報告してくるデータに基づいているために、実際に中国のTFRがこのように推移していたかどうかについては疑念が残る。特に2010年以降にTFRが上昇していることは不自然である。そんな信頼性に欠ける中国のTFRであるが、2016年以降になると中国の発表でも急速に低下しており、2021年の値は1.16と日本より低くなっている。

老人の割合が急速に増加していく台湾

TFRが2を割り込んでから人口が減少に転じるまでは時間を要する。日本でTFRが2を割り込んだのは1975年だが、人口が減少し始めたのは2008年である。

台湾では1985年にTFRが2を割り込んでいるが、国連の中位推計では人口減少が始まるのは2031年からとされる。

ただ若年人口は既に減り始めている。人口ピラミッドとは年齢別に人口を積み重ねたものである。年齢が上昇するに連れて同年齢の人口が減少するためにこのような名称があるが、台湾の人口ピラミッド(図2)は腹の膨れた中年のような形をしている。

No image

図2 台湾の人口ピラミッド(単位:1000人、出典:国連人口局)

若年層と老人が少なく、生産年齢の人口割合が高く、効率的に経済成長できる。近年、台湾が順調に発展した理由の一端がここにある。

しかし今後は老人の割合が急速に増加し、介護や医療費の増加が問題となる社会に移行する。現在の台湾の状況は平成になった頃の日本に似ている。図2から容易に想像できると思うが、台湾では老人の割合は過去の日本より急速に上昇する。

台湾の20代男性は既に減り始めている

台湾は少子高齢化に苦しみながら中国の軍事侵攻に備える必要がある。それゆえに若年人口の急激な減少は、日本などよりも深刻な問題である。近年は女性が兵士になることもあるが、いつの時代でも兵士の中核は20代(20歳から29歳)の男性である。

図3に台湾の20代男性人口の推移を示す。既に台湾の20代の男性人口は減り始めている。1990年の20代人口は211万人であったが、2021年は163万人、2030年には117万人になる。

No image

図3 台湾の20代男性人口の推移(単位:1000人、国連人口局データより筆者作成)

台湾の現在の兵力は約10万人であるから、2030年になっても現状の兵力を維持することは可能だろうが、若年人口の急速な減少は兵力の維持に暗い影を落とす。

同様のことは中国にも言える。中国でも20代男性の人口がピークを迎えたのは1990年であり、その人口は1億2000万人であった。それが2021年には9285万人と2711万人も減少した。

台湾、中国ともに少子化に伴い一人っ子が増えている。親は一人っ子が軍隊に取られることを嫌い、一人っ子が戦死することを極度に恐れている。だが少子化が進行している国でも戦争は起こる。そのことはロシアとウクライナの戦争が証明している。ただ、ロシアとウクライナの最近のTFRは共に1.5程度であり、少子化が進行しているといっても東アジアよりは高い。

もはや中国や台湾において、戦前の日本のように将来の兵士を増やすために国が出産を奨励しても、国民がそれに従うことはないだろう。スマートフォンが普及し情報過多となった現在、台湾でも中国でも若者の国家への忠誠心は薄れている。

若者の減少で戦意が低下?

台湾も中国も、このような状況がこれから20年以上続く可能性がある。それは習近平が今年の4月で70歳となり、90歳ぐらいまで生きる可能性があるからだ。

習近平は毛沢東時代への回帰を理想としているようだが、そんな息苦しい社会でTFRが上昇することはないだろう。一方、台湾の若者も、中国が攻めてくるかもしれないという状況で子供を作る気には、なかなかなれないはずである。

そのようなことがなくても東アジアのTFRは低下し続けている。現在、韓国のTFRが1を割り込んでいる。

国連人口局は、中国、台湾ともに今後TFRが0.8程度で推移するシナリオを低位推計として用意している。このシナリオにおいて2050年の中国の人口は12億2100万人であり、それほど減らないが、20代人口は4227万人にまで減少する。台湾の人口も2086万人までしか減少しないが、20代男性の人口は79万人になってしまう。これは1990年の38%に過ぎない。

台湾と中国では、時間とともに兵役に適した20代の人口が急減する。それを受けて、両国の世論は大きく変化する可能性がある。若者が減り、介護の問題や医療費の増大に苦しむ社会が、政治問題の解決のために戦争を選ぶとは考えにくい。

特に民主主義を採用している台湾では、世論が国の進路に大きな影響を与える。無駄に若者の命を失うくらいなら、多少妥協しても中国のメンツを立てて、対立を平和裡に納めたいと思う勢力が台頭する可能性がある。

ただしその一方で老人が増えることによって世論が硬化する可能性も考えておかなければならない。老人は一般に頑迷であり、かつ自身が戦争に行かなくてもよいので、無責任に強硬論を唱える可能性がある。人類は、老人が人口の過半を占める社会を経験していない。そのため、高齢化時代に世論がどう転ぶかを、過去の経験から予測することはできない。

いずれにしろ、東アジアにおける急速な少子高齢化の進行は、今後の政治情勢を大きく変えてしまう可能性があるだろう。

川島 博之

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加