「もっと早く言ってほしかった」。嘘を重ねた半年、私は彼の人生を奪った

「もっと早く言ってほしかった」。嘘を重ねた半年、私は彼の人生を奪った

  • かがみよかがみ
  • 更新日:2021/06/10
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私は今、夫と結婚して幸せに暮らしている。

ただ、私が人生で一番長く交際した相手は、夫ではない。夫と出会うずっと前、私には四年半交際していた人がいた。それは16歳から21歳まで、若かりし日の青春を捧げた、たった一人の相手。

別れた彼が、私と結婚したがっていたと聞いた。また裏切ってしまった

思春期から一緒にいた彼。次第に恋人ではなく、親友、相棒に

結婚をして、長らく彼の事も、彼と別れた夜のことも忘れていた。

先日、用事があり、久しぶりに電車に乗った。地下鉄に揺られながらぼうっとしていると、アナウンスでとても懐かしい駅名を聞いた。

それは彼と付き合っていた頃、彼が住んでいた町だった。今も、彼はここに住んでいるのかもしれない。気が付くと、私は電車から降りていた。

地下鉄から地上への道のりも、地上へ出た瞬間の景色も、あの頃見たものと全く同じに思えた。本当は店も、すぐそばの公園の遊具も、何もかも少しずつ変わったのだと思う。でも不思議と、あの頃にいるような気がした。

よく二人で座ったベンチに腰を掛け、よく買った自販機のコーヒーミルクを片手に、ぼんやりあの日のことを思い出した。

教室の中であまり話すことが得意ではなかった彼は、どこかクラスの中で浮いていた。

私は昔から、そんな男の子を放っておけない性分だったのだと思う。ぎこちなく、けれど少しずつ打ち解けていった私たちは、やがてささやかに付き合い始めた。

学校からの帰り道、改札前で暗くなるまで長話をした。休みの日には、よくこの公園に来てだらだらと人間観察をした。近くの美味しいカステラ屋さんに寄ったり、たまに私が頑張ってお弁当を作ったりして、彼がおいしそうに食べたりした。幸せだったと思う。

けれど、この町に新しいカフェがどんどん増えたように、私も少しずつ変化していった。

大学に入り、いろいろな世界を知り、刺激を受けた。新しい自分を模索していく日々の中で、私は次第に彼を恋人ではなく、親友、相棒のように感じるようになった。

彼は私と違って変化を求めず、変わらぬ日々を大事にする人だった。そして同じように、私たちの穏やかでささやかな交際が続いていくと信じていた。

最初はそれでよかったはずなのに、いつしか私は「この人とは成長できない」と決めつけ、彼との別れを密かに考えるようになった。

でも思春期から付き合い、一緒に大人になってきた相棒であり親友である彼を、私は簡単に手放すことができなかった。別れを考えてから切り出すまでに、結局半年もかかった。もう男性として好きではないことを知りながら、いつものような笑顔で何度もデートをした。

「好意がないのに付き合っている」というのは、相手への裏切り

別れを切り出した夜。とても寒かったその日、彼は私がプレゼントしたニット帽をかぶっていた。

大学の小さな教室に入り、向き合って座った。

「別れたい」。

そう切り出したら、彼はしばらく固まって、嫌だ、どうしてなの、納得できない、という話をした。

半年かけて別れることを決めていた私は、彼の気持ちも考えず、別れたい一心でひどい言葉をたくさんぶつけた。これまでの小さな不満を散々まき散らかした挙句、「あなたはそうやって変化せず、これからも大事な決断をできないのよ」と、呪いのような言葉をかけた。

私たちはそれまで、一度もそんな風にケンカしたことはなかった。

彼は一つも私への不満を言わず、「すごく好きだったから残念だけど、仕方ない。でも、そういう思いがあったのならもっと早く言ってほしかった」と言った。

「ずっと今日まで、両思いのままだと思ってた」と。

「さよなら」と最後の言葉を口にして彼が出ていった後、私はその日初めて泣いた。

愚かで幼い私は、その時になってようやく自分が何をしたかを思い知ったのだ。

私は彼に、不満も、悩みも、何も共有しなかった。たった一人で決めつけて決断した。彼からしたら、先週まで仲良くデートしていた彼女からの突然の別れだったと思う。

私はそんなことにも気付かず、自分の言い分ばかりをぶつけた。ただ楽しく付き合っているだけで、本音や彼に対する思いの変化を、そういう私たちにとって一番大切なものを、共有してこなかった。私たちのことなのに。別れを切り出せず勝手に悩んでいたあの半年間、私にとって時間の無駄だったかもしれないとさえ思っていた。

けれどその半年間は、同じように彼の人生にとっても大事な時間に違いなかった。

私はそれを奪った。恋人として一緒にはいられないと分かっていたら、彼は私と離れ、他の女性と出会っていたかもしれない。付き合うということは、お互いのかけがえのない人生の一部を消費しているということを、私は分かっていなかった。

「好意がないのに付き合っている」ということは、相手の貴重な時間を奪う行為にほかならない。あの半年間、私は彼を裏切り続けていたのだ。それを、21の私は痛いほど実感した。

嘘の半年間が、別れ自体よりもずっと彼を傷つけたに違いない。彼にぶつけた呪いの言葉が、そっくりそのまま返ってきた気がした。大事な決断をできずにいたのは、私の方ではないか。

「好意がないのに付き合っている」というのは、相手への裏切り

あの夜以来、彼には一度も会っていない。何度も、私のことを憎んでいてくれとも、忘れ去っていてくれとも思った。

しかし大学を卒業し、日々の仕事に追われる中で時は流れ、やがて別の人と交際し、別の人と結婚し、あの裏切りを思い出すことも減っていた。もし今日電車に乗らなかったら、きっと思い出すことはなかった。

コーヒーミルクを飲み終わった頃、私はまっすぐ駅へ歩き始めた。もう二度と会えないけれど、どうか……。幸せになってね、も、私を許して、も、どんな言葉も違う気がして、ただただ前を向いて地下鉄に歩いた。

公園を抜けて地下鉄の入り口に入る直前、視界の隅に、見覚えのある雰囲気がちらついた。男性何人かで草野球をしている集団の一人に、なんだか懐かしい雰囲気を感じた。

けれど、私は前を見て歩き続けた。振り向かなかった。

彼のことを思い出していたからそう見えたのかもしれないし、もしかしたら本当にまだここに彼が住んでいるということなのかもしれない。でも、もうそれを確かめる段階にないことも、その資格がないことも知っていた。

少し大人になった裏切り者の私は、まっすぐ静かに地下鉄に降りた。

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こめこ

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