消費税を隠して「見えない税」にするポピュリズム

消費税を隠して「見えない税」にするポピュリズム

  • JBpress
  • 更新日:2017/10/13
No image

衆議院選挙公示日に仙台駅で街頭演説を行った安倍晋三首相(2017年10月10日、写真:日刊現代/アフロ)

総選挙が始まった。解散の直後は「政権交代」や「大連立」の可能性も取り沙汰されたが、焦点となった希望の党が失速して、安倍政権は安泰の見通しだ。希望の党の小池百合子代表が選挙直前に言い出した「消費税の増税凍結」は、あまりにも見えすいたポピュリズムだった。

彼女の戦略は、それなりに一貫している。税といえば消費税しか知らない情報弱者は、消費増税をいやがる。この点では安倍政権も同じで、増税分の一部を「使途変更」した。与野党そろってこれほど消費税を忌避するのは奇妙だが、消費税を上げなかったら国民負担は増えないのだろうか?

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

最大の負担は社会保険料

消費税は自民党のタブーである。大平内閣は「一般消費税の導入」を閣議決定したが総選挙で大敗した。中曽根内閣は「売上税」法案を国会に提出したが、廃案になった。それを「消費税」と改称した竹下内閣は法案を実現したが総辞職し、それを5%に引き上げた橋本内閣も倒れた。

消費税率を引き上げて選挙に勝ったのは第2次安倍内閣だけだが、それでも安倍首相は10%に引き上げることには慎重で、使途変更で実質的に増税を2兆円減額した。それは政治的には賢いマーケティングだが、国民負担の中で消費税の占める比率はそれほど大きくない。

サラリーマンの所得税は「天引き」されるが、その源泉徴収票をよく見ると、所得税より大きな額が書かれているはずだ。所得税率は年収300万円だと10%だが、健康保険料は11.5%、厚生年金保険料は18.3%である。

これは税とは書かれておらず、労使で折半ということになっているので負担感がないが、事業者負担分は企業にとっては法人税と同じで、それだけ労働者の可処分所得は低くなる。したがって社会保険料は約30%の国民負担で、これは支出に8%かかる消費税の約3倍だ。

これをマクロ経済的にみると、下の図のようになる。社会保険料の負担は66.3兆円だが、これでは社会保障支出118.3兆円をまかなえないので、その赤字45.4兆円を税で埋める。その税源の一部が消費税である。マクロ経済的にみると、社会保険料は消費税17.2兆円(2016年度実績)の3.8倍以上だ。

No image

社会保障の負担と給付(2016年度予算ベース)、出所:内閣府

これは単純な算術だが、政治家は隠そうとする。社会保険料は税に見えないので取りやすいからだが、現役世代の社会保険料は大幅な超過負担になっているので、税と表示するのが正しい。アメリカでは、健康保険と失業保険は給与税(payroll tax)と呼ばれて所得税と一緒に徴収される。

「見える税」を「見えない税」に置き換えるトリック

消費税率は2012年の3党合意で10%まで引き上げることになったが、それをすべて社会保障の赤字の穴埋めに回しても21.5兆円。安倍首相はそのうち2兆円を「教育無償化」に回すことにしたので、財源は20兆円にもならない。

この穴は当面、国債で埋めることになる。これは誰も負担しないようにみえるが、最終的に償還するためには社会保険料を上げる必要がある。つまり増税するかしないかは争点ではなく、消費税という見える税を増税するか、社会保険料という見えない税を増税するかの違いしかない。

だが保険料の引き上げは、もう限界である。年金保険料は18.3%で頭打ちになるので、今後まだまだ増える支給の財源は消費税しか考えられないが、国債を際限なく発行すればごまかすことができる。

消費税のような見える税を先送りして国債を増発し、社会保険料などの見えない税を増やす安倍首相は、政治的には賢明である。小池氏の「凍結」はそれをもっと極端な形で表現したものだが、この増税分5兆円がなくなる財源を「内部留保課税」で埋めるという。

これも消費税の負担を大企業の負担という見えない税に変える発想は同じだが、以前このコラムで書いたように、内部留保という会計項目はないので、それに課税することはできない。

課税するとすれば企業の銀行預金に課税するしかないが、いずれにせよ現在の法人税の実効税率30%を大幅に引き上げることになる。「300兆円の内部留保に2%(6兆円)課税する」という小池氏の話を実行すると、11兆円の法人税が17兆円になり、実効税率は45%ぐらいに上がる。

「痛税感」のない社会保険料の増加を止めよ

今は世界的に法人税率の引き下げ競争が激化している。先進国で最高だったアメリカも、トランプ大統領が法人税率の20%への引き上げを打ち出したばかりだ。そこに日本が法人税率の実質増税を打ち出したら、北米法人をもつ大企業はアメリカに本社機能を移すだろう。

つまり見える消費税を5兆円減らして見えない「内部留保課税」を6兆円増やすというのは、財政的にはプラス1兆円のように見えるが、企業の海外流出を招いて成長率を下げる効果が大きく、税収も減るだろう。

見える税が見えない税に置き換わる現象は世界的に見られるが、日本は社会保障支出と税負担の差が極端に大きい。政治家が痛税感の大きい消費税の増税をきらうからだ。これは公明党の発明した言葉だが、彼らの集票基盤である情報弱者のバイアスをうまく表現している。

おかげで日本は所得税や法人税などの直接税の比率が67%と、EU(ヨーロッパ連合)の55%に比べて高い。特に法人税がシンガポールの17%や台湾の13%と比べると高く、「産業空洞化」の原因になっている。これを食い止めるには法人税を減税し、消費税を増税するしかない。

日本の消費税率は国際的に見ると低く、これをEU並みの20%に上げれば、財源は25兆円ぐらい出るので、法人税を廃止することも不可能ではない。これは企業の税負担のベースを所得から支出に変更するだけなので「大企業優遇」にはならない。

社会保険料も給与税と改称し、年金保険料も含めて「歳入庁」が徴収することが望ましい。これによって社会保険料という見えない税が消費税として可視化され「痛税感」が強まれば、納税者は政府の監視を強めるだろう。それが「情報公開」より効果的なガバナンスである。

つまり小池氏の話とは逆に、法人税を下げて消費税を上げ、社会保険料という見えない増税を止めることが合理的な税制改革である。希望の党は今回の総選挙で消えるだろうが、そういう問題提起を(倒錯した形で)した点では、歴史の脚注ぐらいには残るかも知れない。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

経済カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
埼玉5区、立民・枝野幸男氏が当選確実
【衆院選】元みんな代表の浅尾慶一郎氏、新人相手に落選確実 神奈川4区
無党派、立憲が取り込む=未成年は保守志向-出口調査【17衆院選】
1〜3四半期の中国のGDP成長率は6.9%、消費が最大の駆動力に
ボロ物件で家賃年収2000万へ! 現金200万円以下で買える物件で不動産投資に成功した男
  • このエントリーをはてなブックマークに追加