訪日外国人がレンタカーで事故りまくっているのは本当か

訪日外国人がレンタカーで事故りまくっているのは本当か

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2017/08/24
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日本で外国人旅行者が急激に増えたことで、いろいろな分野で対応に追われているという記事をよく見るようになった。

例えばざっと検索しただけでも、訪日外国人旅行者が旅行保険に加入していないために医療費が回収できないケースがあるといったものから、沖縄では外国人観光客と触れ合った体験談を募集したり、千葉では警察が外国人に「交番だより」を翻訳して提供しているという記事もある。岩手では国際対応にチカラを入れている温泉などがメディアで紹介されている。

ではどれほど外国人旅行者が増えているのか。日本政府観光局によれば、2016年の訪日外国人旅行者は2400万人ほどで、過去5年で4倍に増えている。2017年7月は、単月で過去最高となる旅行者数を記録。外国人旅行者が増えることは経済にとって喜ばしいことだが、その一方でマナーが悪いなどの苦情も聞かれる。

そんななか、外国人旅行者について驚くような記事が報じられている。沖縄の琉球新報は8月21日、「外国人観光客のレンタカー事故が急増 昨年度9648件 左側走行不慣れなどで」という記事を掲載した。記事を引用するとこうだ。

『沖縄を訪れる外国人観光客の増加に伴い、外国人が利用するレンタカーの事故が急増している。県レンタカー協会によると、2016年度の外国人レンタカー利用者による交通事故は15年度から倍増の9648件(速報値)で、1万件に迫る勢いだった。事故の増加率がレンタカー利用客の伸び率を上回る多さとなっている』

数字を見せられてもピンと来ないかもしれないが、実はこの数字はかなり多い。全国で最も交通事故件数が多いのは、愛知県で2016年は4万1551件、最も少ない鳥取県では987件だ。そんな中で沖縄では、外国人がレンタカーで9648件も事故を起こしているというのである。

これが事実だとすれば、沖縄県では大変な事態になっているのではないか。そう考えて、沖縄にいるレンタカー業界の関係者に話を聞いてみると、どうも実態は記事とは違うらしい。いったい何が起きているのか。

記事だけを見ると、読者は誤解する

まず訪日外国人旅行者が急増していることで、レンタカーを利用する外国人が日本中で激増していることは事実だ。全国で、2015年にレンタカーを利用した訪日外国人の数は70万人を超える。この数は2011年の18万人から4倍になっている。

琉球新報の記事によれば、もちろん沖縄でもレンタカー利用者は激増している。2014年に8万5323台だった外国人のレンタカー貸出件数は、2015年に14万3735台になり、2016年にはさらに1.4倍の20万6413件に上った。2014年から2.4倍に増えている。

それに伴って事故数が増えるのは当然だろう。すでに述べた通り、2016年の事故件数は9648件で、2014年の2901件から3倍以上になっている。

筆者の取材に対し、業界関係者は「沖縄でレンタカーを利用する外国人は、その9割が、韓国や台湾、香港からの旅行者で、特に韓国と台湾では国内で走行レーンが右側ということもあり、左側通行の日本で事故を起こす件数が多いのです」と話す。

琉球新報の記事について沖縄県レンタカー協会に問い合わせると、担当者は「死者が出るような重大な事故は1件もない。記事の数字は、ちょっとこすってしまったような、あくまで報告があった事故の件数であり、保険処理をするようなケースの件数はまだこれから出てくるので、実際は記事の数字よりも少なくなる」と答えた。

ただこの記事だけを見ると、読者は誤解してしまう。事実、筆者も最初に記事を読んだ際には、沖縄では訪日外国人旅行者が運転するレンタカーでとんでもない数の交通事故が起きていると驚いたし、今後さらに訪日外国人の運転が増えたら……と先行きが不安になった。しかも全国的にレンタカーの利用が増えていることから、決して対岸の火事ではないとも感じた。

だが実際には、琉球新報の記事にある9648件というのは、いわゆる「交通事故」だけでなく、駐車場から出るのに軽く壁にこすったといったケースも含まれている。記事はその点に言及していないため、ミスリードされた読者も少なくないだろう。

また記事では、「9648件」のすぐ後に(速報値)と書かれている。一般的に速報値というのを見て、この数字が確定したものではないことを理解できる人がどれほどいるのか分からないが、それについての説明がないのは読者に対して不親切だ。

もうひとつ気になることがある

もちろんバランスが求められる報道機関として、琉球新報に、訪日外国人旅行者が使うレンタカーによる事故を多く、または大げさに見せたいという意図はないはずだが、誤解されかねない記事ではある。

ただすでに述べた通り、訪日外国人がレンタカーをこれまで以上に使うようになっていることは事実であり、それにともなって右側通行で狭い道の多い日本で事故をしたり、こすったりしてしまう件数が増えているのは間違いないようだ。ただ必要以上に不安感をあおる必要はない。

インバウンドで外国人のレンタカー利用が増えると言われれば、もうひとつ気になることがある。他のどの国や地域よりも日本に最も多く来日している中国人旅行客について、だ。特に中国人旅行者のマナーが悪いことは日本のみならず世界中で報じられているし、中国人に対して悪意は持っていないが、中国からの旅行者がレンタカーを利用するとまたトラブルが起きるのではないかと想像してしまう。

実は、中国の免許では日本でクルマを運転することは認められていない。というのも、中国の免許(国際免許)は、ジュネーブ条約に基づいて発行される国際免許ではないためだ。つまり基本的には、中国の免許保持者が日本でクルマを運転することはない。

沖縄県レンタカー協会の担当者も、「中国はジュネーブ条約に加盟していないため、沖縄のレンタカー業者に中国の免許ではレンタカーを貸し出さないよう徹底している」と答えた。だが実態は、中国人もレンタカーを借りていることが沖縄県の調査で分かっており、2015年だけを見ても、中国人観光客の17.7%がレンタカーを使ったと答えている。

合法、非合法にレンタカーを借りている

いったいどういうことなのか。業界関係者が言うには「まず考えられるのは、ジュネーブ条約を満たす国で中国人が免許を得ている可能性です。つまり、近隣諸国や米国などに留学や観光で滞在して正当に免許を手に入れている場合があり、それを使っているケースです。それなら合法的に中国人でもレンタカーを借りられる」という。

また別も手段もある。この関係者は「別の中国人がレンタカーを借りて、他の中国人に又貸ししているケースもある。また偽造の国際免許はすぐに手に入れられるようですね」とも話す。実際、メディアでは、偽造のフィリピン発行の国際免許を使ったケースも報じられている。

今後、訪日外国人旅行客がハンドルを握って道路に出ることになる状況を踏まえ、国土交通省は、外国人のレンタカー事故対策に乗り出すと発表している。

訪日外国人観光客の増加は日本にとって素晴らしいことだが、半面、その急激な増加に日本人が振り回されているところもあるようだ。レンタカーでも事故件数云々よりも、直ちに事故を防ぐような対策に動いてほしいものだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。

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