ウッドショック禍でチャンスを掴めるか 国産材への非住宅分野での期待

ウッドショック禍でチャンスを掴めるか 国産材への非住宅分野での期待

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/06/11
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「日本の木は使われるのを待っている」そう話すのは乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト リーダーの加藤悟郎さん。いま、日本の木は切り時だという。

現在、人工林の齢級別面積では、切り時の目安とされる10齢級(約50年)以上の人工林が全体の51%を占める。国内の人工林の7割を占めるスギ・ヒノキの多くは伐採期を迎えた。その森林蓄積は、2017年の52億㎥と50年間で倍増。まさに、「木は使われるのを待っている」のだ。

乃村工藝社は、一般社団法人全国木材組合連合会と連携して、これまであまり使われてこなかった非住宅の内装などに木材利用を促すプロジェクトを実施している。上記の課題に取り組む具体的なプロジェクトが「もりまちドア」だ。「もり」側の林業従事者と「まち」側の空間クリエイター(デザイナー・プランナー・施主)をつなぐことで、木材利用の創出を促進する。その向かう先は、森の循環利用である。

同プロジェクトが力を入れるのが産地体験会。「まち」側の空間クリエイターが実際の産地に入って体験することで、木材の価値と使い道について考える。体験会は、三重県尾鷲・埼玉県飯能・東京都多摩地域で開催されてきた。ここでは、東京都多摩地域で開催された「東京都多摩産材産地体験会」を紹介する。

森の循環のいま

乃村工藝社は「森の循環」と「都市での循環」の2つの循環の確立を目指している。「森の循環」では、木を植え、育て、伐って、ならすサイクルを回すという産地側での循環。「都市での循環」は、木材の新たな活用方法や長期間維持する方法を見出すことで、利用側での循環を図るものだ。この2つは別個のものであってはならない。そこで、同社が推し進める「もりまちドア」が、2つの循環をつなぎ、歯車のように相互を作用させる。

木が再び木材として使われるには50年ほどはかかるといわれているが、鉄やアルミ、石油などの枯渇性資源とは異なり、使った分を植えて育てることで再生可能資源となる。さらに光合成によって取り込まれたCO2は一定期間木に固定される。生産と消費のサイクルの違いを前提に経済的にもバランスを取って森を育みながら使っていくことができれば、サーキュラーエコノミーを実現するうえでも鍵になる原材料の一つになる。

その木材、特に国産材の価値が見直されている。長年安価な輸入材が使われた結果、国産材自給率は下落してきたが、2002年の18.8%(1692万㎥)を底として2018年の36.6%まで回復。1970年代では、国産材は輸入材と比べて1.5倍から2倍程度の単価が高かったが、いまは概して国産材のほうが安くなっている。価格低下に加えて、使い心地や環境への効果などが見直され、需要も回復傾向にある。

それでも、冒頭の加藤さんの言葉にもあったように、人工林の半数以上を占める50年生を超える木が「伐り時」を迎え、使われる先を探しているという。

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林野庁 日本の森林 林業の今 より

加藤さんは、現在の日本の木をめぐる下記3つのポイントを示す。

1. 非住宅分野における国産木材利用への期待が高まってきている

2. 輸入木材は価格の高騰化や、違法伐採リスクがある

3. 新たな素材として期待感がある

企業による持続可能な調達に対する意識の高まりと基準の厳格化(上記2)に加え、森林を生かす環境は整いつつある。「利用の出口をつくる我々の出番です」と加藤さんは話す。上記3の「新しい素材としての期待感」にもあるように、利用側の期待にかかる。出口をつくるために、上記1の「利用への期待」を目に見える形にしていくことが肝要だという。

「もり」と「まち」が出合う場で 製材の現場を体験

今回レポートする産地体験会は、森の木が木材や木質空間へと姿を変えていく過程を辿る機会を提供する。多摩産材産地体験会では、「山林見学」「原木市場見学」「製材所見学」「多摩産材が使われているレストランでの意見交換」という供給網の上流から下流に向かう流れに沿って体験した。参加者は、工務店・デザイナー・プランナー・観光業など、いわゆる「まち」側から約30名。全体の案内役は、木材コーディネーターでもある髙濱謙一さんだ。

山林見学「ストーリーを生かす知恵がほしい」

髙濱さんのレクチャーによると、東京都の約4分の1が森に覆われているという。そのうちの約7割が多摩西部地域にある。東京都心部から2時間もかからない同じ東京都に豊かな森がある。遠くから木材を輸入しなくても、ここには森がある。大消費地東京に近い場所として、トレーサビリティが確保された木材を使うのは理にかなう。

「ここには木や森が育つストーリーがふんだんにあります。そのストーリーを付加価値として生かしていただくデザイナーの皆さんの知恵が必要なのです。例えば、この多摩産材の端材でできたコースター(下写真)。水分を発散させる効果もあるので、加工せずにそのまま使え、コースターとして適しています」と熱弁を振るう髙濱さんの言葉に、それぞれの参加者が木材の用途に思いを巡らせた。

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秋川木材協同組合事務局長の髙濱謙一さん 多摩産材を「まち」側に伝える伝道師でもある

レクチャー後は実際に、「遊学の森」という田中林業が保有する山林に入った。針葉樹から広葉樹へと急斜面を登り、日当たりや地面の違いを肌で感じた。木が育まれる現場で、林業の仕事を体感する貴重な経験だ。

髙濱さんは、ここでもデザインと付加価値について強調。「急斜面を登る過程でも感じていただいたように、木を伐ることにはかなりの労力を使います。ただ伐るだけではなく、ストーリーを考え、それに見合った付加価値を与えられるようなデザインを一緒に考えていただけると嬉しい限りです」

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「遊学の森」での体験。急斜面に参加者は息を切らす

原木市場「木の価値を見極める」

木が育つ様子を見た後に向かったのは、伐採された木が送られる東京都唯一の原木市場。多摩産材のすべては、月2回の競り市を経てここから出荷される。2019年は16200㎥の木材が取引された。曲がりのない原木など、製材所が判断するポイントを知ることで、どのような木に価値があるのかを理解した。

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トレーサビリティ確保のために伝票や番号で管理している

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多摩地域で生育し、適正に管理されたことを認証する「東京の木多摩産材認証制度」により、多摩産材の利用拡大を図る取り組みを行っている(多摩産材情報センターHPより)

製材所「木を知り、価値につなげる」

原木市場から調達された原木は、製材所で板材などに加工され、消費地に向けて出荷される。次に訪れた沖倉製材所では、木材の皮を剥ぐ工程から原木を板材に加工するなどの過程を見学した。製材過程だけではなく、保管方法(天然乾燥や中低温乾燥)の違いや重要性も学んだ。

多摩産材としてブランディングされる前から多摩の木の普及に力を入れてきた沖倉製材所。新たな利用用途の開発にも工務店などと取り組んでいる。「さらに木を知っていただくことで、新たな価値につながります」と沖倉製材所代表の沖倉喜彦さんは話す。

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沖倉製材所 代表 沖倉 喜彦さん

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沖倉製材所が工務店と取り組む「東京十二木の家」のサンプル木箱。全ての建材を東京の木でまかなう。そのストーリーと価値に共感する方が増えているという

体験会の最後は、多摩産材が活用されているレストラン「do-mo kitchen CANVAS」での意見交換会で締めくくられた。中嶋材木店代表の中嶋博幸さんと社団法人多摩産材活用あきがわ木工連の佐藤真さんによる多摩産材活用事例が紹介され、参加者による意見交換が行われた。「東京の森という利点は多いに活かせるのではないか」と話すのは中嶋さん。佐藤さんからは、保育園での木育が意図された活用事例の紹介とともに、ストーリーを生かしたデザインの重要性が指摘された。

多摩産材活用の最近の代表的事例は、2020年11月に改良工事が完了した小田急電鉄の小田急小田原線の参宮橋駅だ。「木と緑に溶け込む『杜』の玄関口」がコンセプトの同駅の多摩産材の一部には「東京の木 多摩産材」という表示もあり、その存在感をアピールしている。

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(写真:小田急電鉄)

今回の体験会後のアンケートでは、「体験会を通じて、国産木材利用の意義を感じた」と答えたのは、空間クリエイター90.7%・施主70.6%・製作・施工業者66.7%。「デザインの際に木材を使う『理由』を探す」という回答なども得られたようだ。使う側の木に対する意識は高まったのではないだろうか。

サーキュラーエコノミーの観点から

「もり」と「まち」をつなぐことについて、サーキュラーエコノミーの観点から、次の4つの点を考えていきたい。

CO2削減とカスケード利用

やはり木材利用が寄与するCO2削減は、サーキュラーエコノミーの観点からは外せない点である。木材利用には、木が生育する過程で吸収するCO2を固定する「炭素貯蔵」、酸素の放出、水源の涵養、製造時のエネルギー消費を抑えられること、また木材が寿命を迎えた際に燃料として使用すると化石燃料の代替エネルギーになる点が利点として挙げられる。

さらに木材は、再利用やカスケード利用が容易な材料としても認識される。住宅や家具で使われたのち、合板やパーティクルボードやチップにカスケード利用ができ、最終的にはバイオマス燃料としてエネルギーに変換ができるこのように、気候変動対策のためにも欠くことのできない多面的な機能で私たちの暮らしを支えている。

木は、生物由来の原材料である。そのため、木の価値を最大限に高めることが必要だが、一方で産地側の状態も考慮しなければならない。

加藤さんや高濱さんも話していたように、伐り時にある木の価値を最大化するように使わないと、次の世代の若い木を育てる原資ができない。「伐って、使って、植えて、育てる」というサイクルを確立させることが、循環利用には不可欠となるという。「使って」需要を高めるということである。そのためには、非住宅などこれまであまり使われてこなかった領域にも足を踏み入れることが重要だという。

加藤さんが紹介した「都市の循環」(利用側)だけではなく、「森の循環」(産地側)もシステムに組み込むことで、価値の最大化を図ることができる。

短いサプライチェーンにより、顔の見える関係へ

食の世界では、農家と話し、顔の見える関係のもとで厳選された食材を調達するというシェフは多い。作り手の顔が浮かぶからこそ、その食材を大切にし、料理に創意工夫を凝らす。

今回の体験会は、その木材バージョンではないだろうか。「もり」側を知ることで、その木が育まれる過程で得たストーリーに思いを巡らせ、使い方にイノベーションを起こしていく。そのことで、サプライチェーン内での対話と信頼が生まれ、業界としてサーキュラーエコノミーへの移行を進めやすくなる。実際、「まち」側の参加者からは、「金銭で測れない価値がある」「木の需要を掘り起こす事例をつくりたい」など、肌で感じたからこそ得られた収穫があったようだ。

大消費地である東京都心から2時間未満でこのような大産地がある。誰が育てたのかがわかるには、ちょうどよい距離ではないだろうか。「まち」側と「もり」側の出合いには、サプライチェーンを短くし、CO2削減や地域の生態系を生かすことにもつながる効果も期待される。

コンセプトを含めた設計

単に木を製品や建築に取り入れるだけではなく、その木のストーリーに思いを馳せて、製品コンセプト全体に浸透させる。例えば、あきかわ木工連は、「木育」を軸に多摩産材が導入されている教育施設と産地を結びつけている。沖倉製材所の「東京十二木の家」は「オールトーキョー」の木材でできた家という価値を付与する。

2つの事例からは、使う側が木のことを熟知したうえで、コンセプトも含めた設計に生かしていることがいえるだろう。産地体験会は、まさに「まち」側によるコンセプトやストーリー探しといってもよいのかもしれない。

バイオ化とストーリー

サーキュラーエコノミーにおいて鍵となる「バイオ化」。その手段の一つに位置付けられる木材利用だが、意外と身近にある産地を自分の目で確かめることで、言葉には変えられない実感を得る。その実感は、今回のキーワードとなった「ストーリー」として参加者それぞれに変換され、デザインに組み込まれるに違いない。

追記:産地体験会の後、2021年春頃に始まったウッドショックの影響を受け、木材をめぐる国内状況にも変化が出てきている。同プロジェクトは国産材利用を促進の一助となるか。今後の動向にも注目したい。

【参考】もりまちドア オフィシャルサイト

【参考資料】スギ・ヒノキ林に関するデータ(林野庁)

【参考資料】木材供給量及び木材自給率の推移(林野庁)

【参考資料】令和元年度 森林・林業白書 (林野庁)

【参考】日本の森林 林業の今(林野庁)

【参考】秋川木材協同組合

【参考】多摩産材情報センター オフィシャルサイト

【参考】沖倉製材所 オフィシャルサイト

【参考】沖倉製材所東京十二木の家

【参考】do-mo kitchen CANVAS オフィシャルサイト

【参考資料】木材の材料としての特徴

(この記事は、2021年5月にリリースされたCircular Economy Hubの記事から転載したものです)

連載:国内外のサーキュラーエコノミー最新動向

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