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GIST(ジスト)は、健診の内視鏡検査などでまれに見つかることがある、がんの一種。自覚症状はほとんどないが、悪性度が高く進行が速い場合もあるので、早期発見と発見後の早期治療・経過観察が重要である。
GISTは「消化管間質腫瘍」といわれるもので、がんの一種である。主として胃や小腸、大腸などの消化管に発生するが、日本人の場合、最も多いのは胃のGISTで全体の約7割を占め、次いで小腸と大腸が2割程度とされている。
多くのGISTでは自覚症状がなく、胃の場合は健診の内視鏡検査などで、また小腸の場合は他の病気で撮影したCT画像などで、粘膜の下にある腫瘍(粘膜下腫瘍)として偶然見つかることが多い。ただし10センチを超えるなど、大きくなっている場合には痛みや出血などの症状が出ることもある。
一般的にGISTの罹患者数は10万人に1~2人程度と言われている。60代以降が多いが、30~40代で発生する場合もある。また非常にまれではあるが、子どもに発生する小児GISTもある。JCHO大阪病院病院長の西田俊朗医師は次のように話す。
「胃の内視鏡検査で、5ミリ程度の小さい粘膜下腫瘍が見つかるケースは100人に1~2人程度の割合であり、それほど珍しいことではありません。すべてが悪性ではなく、またすべてがGISTでもありません。ただGISTの場合は、半年で数センチになるなど急に大きくなったり小さくても転移をする場合もあり、いったん転移をすると薬物治療を続けても完治は難しくなります。一般的ながんと同様、治療が遅れると命に関わるので、見つかった場合は治療と定期的な経過観察が不可欠です」
■筋肉などの細胞から遺伝子変異で発生
GISTの発生は、胃がんや大腸がんなど一般的ながんとは異なる。一般的ながんは胃や大腸の表面の粘膜組織から発生するが、GISTは粘膜の下にある筋肉層など間質と呼ばれる部分の細胞が、遺伝子変異を起こして発生する。
変異を起こすのは主にキット(c−kit)とPDGFRAという二つの遺伝子で、そのうちキット遺伝子が変異している患者が75%を占める。遺伝子変異が起きる原因や変異を防ぐ方法、また生活習慣との関わりなどは今のところわかっておらず、明確な予防方法もまだない。国立がん研究センター東病院総合内科長・腫瘍内科の内藤陽一医師は、次のように言う。
「一般のがんに比べれば確かに発生率は低いですが、悪性度が高いものは治りにくく非常に難しい病気です。粘膜下腫瘍が見つかったら、小さくても決して放っておかないことが何より重要です。大きくなればなるほど手術がしにくくなり、またもし破裂したりすると、がん細胞がおなかの中に散る播種を起こし、転移の原因にもなります」
健診などの通常の内視鏡検査で粘膜下腫瘍が発見された場合には、まず超音波(エコー)機能の付いた超音波内視鏡での検査をおこない、腫瘍の大きさや悪性の所見がないかなどの評価をおこなう。悪性を疑わせる所見があれば、組織を採取して顕微鏡による検査(生検)をし、遺伝子変異が確認されればGISTと確定診断される。
GISTでは、生検の方法にも注意を要する。一般的な生検では組織を採取する際、体の外側から針を刺す方法と内側から刺す方法の二つがあるが、GISTの場合は必ず内視鏡などによって、からだの内側から採取することが重要である。外から針を刺すと針を抜く際にGISTの細胞が周囲に散らばり、播種を起こすことがあるからだ。
「2022年に改訂されたGISTのガイドラインにはその旨の記述があるのですが、患者数の少なさもあってなかなか周知が徹底されていないのが実情です。超音波内視鏡をおこなっている病院や医師であれば知識があるはずなので、健診で粘膜下腫瘍が見つかった場合には、GISTの専門医または内視鏡の専門医を受診していただければと思います」(内藤医師)
GISTは患者数が少ないため、確定診断や治療の経験がほとんどない病院も多く、できれば粘膜下腫瘍として見つかった段階で、専門医のいる病院を受診することが望ましい。
一般的ながんではステージによって病期や予後のリスクを表すことが多いが、GISTでは三つの要素を元に再発のリスクがどれだけ高いかを判断するリスク分類をおこなう。
■大きさ、分裂能力、場所でリスクを判断
一つ目は、元々の腫瘍の大きさだ。2センチ以下、2~5センチ以下、5~10センチ以下、10センチ超という四つに分類され、大きいほどリスクが高い。二つ目は細胞の分裂能力で、能力が高い(よく分裂する)ほど再発のリスクが高いと判断される。三つ目はGISTができた場所で、胃か胃以外では胃以外のほうがリスクが高い。この三つを総合的に判断し、超低、低、中、高の4段階のリスクに分類される。
「日本人の場合、高リスクの人の再発率は平均で40%程度です。海外のデータより少し低いのですが、これは他の臓器よりリスクが低い胃のGISTが圧倒的に多いことや、胃の検診を受ける人が多いので早期に発見できることなどによると考えられています」(西田医師)
GISTの治療方法は、基本的には手術による切除となる。術後のリスク分類で再発のリスクが高いと判断された場合や完全に切除できなかった場合、また発見時にすでに転移や破裂があった場合などには、術前や術後に薬物治療をおこなう。
(文・梶 葉子)
※週刊朝日2023年6月2日号より
梶 葉子