「特別養子縁組」を通して“本当の親子”の意味を問う映画『朝が来る』

「特別養子縁組」を通して“本当の親子”の意味を問う映画『朝が来る』

  • CHANTO
  • 更新日:2020/10/17
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©2020「朝が来る」Film Partners

ドキュメンタリーとフィクションの枠を超え、一貫して「リアリティ」を追求した映画づくりにこだわり続けてきた河瀨直美監督。その待望の最新作では、直木賞作家・辻村深月さんのヒューマンミステリー小説『朝が来る』の映画化というミラクルが実現!

世界的に見れば、日本は後進国だといわれる「特別養子縁組」をテーマに、その「どこにでもある、ごく普通の家族」の物語にふれて、親になること、夫婦の絆とは何かを改めて考えさせられる作品です。

“実子ができなかった”夫婦と、“育てられなかった”少女との出会い

結婚して、望めば子どもができる。最初は誰でもそう信じているのではないでしょうか。

物語の主人公・栗原佐都子(永作博美)と清和(井浦新)もそんな微笑ましい夫婦でした。しかし、思いがけないことに清和が“無精子症”だと診断されます。以来、不妊治療を受け、顕微授精を行うも新たな命を授かることはなく…。そんななか、ドキュメンタリー番組で「特別養子縁組」の制度を知り、やがてふたりはNPO法人「ベビーバトン」を通じて養子を迎える決意をします。

「この子のお母さんに会ってみます?」ベビーバトンの代表・浅見静恵(浅田美代子)にそう言われて、ふたりが会った「お母さん」は、あどけなさが残る14歳の片倉ひかり(蒔田彩珠)でした。

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©2020「朝が来る」Film Partners

それから6年。息子の朝斗(佐藤令旺)を大切に慈しみ育ててきた佐都子と清和のもとに、片倉ひかりと名乗る女から「子どもを返してください。それがダメならお金をください」という不審な電話がかかってきます。

数日後、栗原家にやって来たのは、荒んだ表情の見知らぬ女でした。「あなたは誰ですか?」と驚くふたり。この女は何者なのか、そして本当の目的は…?

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原作の魅力を余すところなく再現した、河瀨直美監督の「リアリティ」へのこだわりが随所に

辻村深月さんの原作小説『朝が来る』は、2016年の本屋大賞にもノミネートされた社会派ミステリー。特別養子縁組を軸に人生が交わっていくふたりの女性と、ひとりの子どもの姿を丁寧かつ繊細にあぶりだしていきます。

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©2020「朝が来る」Film Partners

子どもを授かれない夫婦の葛藤と希望、そして迎えた子どもとのかけがえのない日々に痛いほど共感し、その一方で、幼いがゆえに愛しいわが子と引き離されなければならなかった実母の魂の叫びに胸が引き裂かれ…。どちらの女性にも「母」を感じ、激しく心が揺さぶられる物語です。

テーマとなる「特別養子縁組」制度についてのしっかりとした取材力にも脱帽せずにはいられません。養親と養子であっても法的に「実の親子」と同じ関係を結べる制度で、日本では1988年に施行されたものの、成立件数は欧米に比べて圧倒的に少ないのだそう。「育てられない命」を救える大きな選択肢のひとつなのに、日本ではまだまだこの制度が知られていないのです。

自身も一児の母であり、現代が抱える問題を作品で指し示してきた河瀨監督が、この小説に深いシンパシーを覚えて映画化を熱望したというエピソードにも大いにうなずけます。

監督は、映画のなかでその原作の魅力を余すところなく表現し、さらに河瀨監督ならではの方法で「リアリティ」を追求していきます。

それは、俳優さんたちに「演じる」のではなく、「その人そのものになってもらう」というもの。いわば「役作り」ではなく、登場人物が経験することを実際に体験してもらうことで、その人としての経験を積む——河瀨監督の言葉で表現するなら「役を積む」ことを大切にしているのだそう。

たとえば今作では、永作博美さんと井浦新さんは実際に不妊治療の問診を受け、特別養子縁組で養子を迎えた家族に会ってお話を聞き、付き合い始めた頃にデートを重ねたという設定の宇都宮の街をふたりで歩いたりもしたのだとか。

監督が一番大切にしたのは、子どもを迎えて家族3人になったときの「本物の空気感」。そのために、実際に撮影に使われるタワーマンションの部屋で3人はつねに一緒に過ごしながら、「役積み」を始めたそうです。

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©2020「朝が来る」Film Partners

「お母さん」「お父さん」「朝斗」と呼び合い、朝斗のために好きな料理を作り、一緒にお絵描きをしたり、3人でショッピングモールへ買い物に出かけたり。カメラがまわっていないところで「役を積む」ことで、3人はどんどん本当の家族になっていったといいます。

そのときの様子を、永作博美さんがこんなふうに話してくれました。

「撮影の空き時間も、どんだけ朝斗と遊んだかっていうぐらい遊んで。清和(井浦新)も死ぬほど飛行機を作らされていましたね(笑)。“もっと飛ぶヤツ作って”“これ飛ばないよね”って。普通の親子のように、子どもが親に無理難題を言って、調子に乗りすぎるとお父さんがたしなめる、みたいな場面もありました」

その言葉に応じるように、“お父さん”を演じた井浦さんも振り返ります。

「“人の子どもだからあまり怒っちゃいけない”とは考えずに、父親として遊ぶときは遊ぶし、いきすぎたら注意する。それはやっぱり3人で役を積まなければできないことでもあったし、やがて“朝斗のことを何が何でも守らなければ”という気持ちにもなっていきました」

一方、実母である片倉ひかり(蒔田彩珠)の家族も、実際に奈良で一軒家を借り、撮影までの期間を4人で共同生活していたそうです。

そのうえ、ひかりは実際に制服を着て地元の中学校に通わせてもらい、授業を受けたり卓球部の部活にも参加していたそうで、そこで関西弁のコミュニケーションにも自然と慣れていったとか。もはや「そこまでやるのか!」と唸ってしまうほどのこだわりようです。

河瀨監督の「リアリティ」の追及は、特別養子縁組の説明会のシーンで発揮されます。今作では、NPO法人ベビーバトンの説明会で、喜びや葛藤を涙ながらに語る養親さんや、実母がその心情を語る場面も、すべてが俳優ではない、「本物」の特別養子縁組を経験された方たちなのだそう。

その「本物の強さ」に揺さぶられたからこそ、佐都子と清和も特別養子縁組への決意を固めていく、まさに肝になる場面だったといえるでしょう。

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それぞれの思いを繊細に描く俳優陣の演技にも注目!

永作さんと井浦さんは、それぞれが実生活でも2児の親。河瀨監督がキャスティングするうえでも、そこにこだわりをもっていたそうです。

作品の中で、佐都子が愛おしそうに朝斗を見つめるまなざしも、寝かしつけながら優しくふれる手も、まさに母親ならではの自然な愛情がにじみ出ていました。永作さん自身も、こんなふうに語っています。

「子どもって意味もなく母親にさわりますよね。朝斗もそれに近い感覚で私にさわってくれるのがうれしくて、私も気持ちよく母親になっていましたね」

また、井浦さん演じる清和は実直で優しい夫であり、不妊の原因が自分にあることに思い悩むさまを繊細に演じています。本当にハマり役といえる素敵なダンナさん!

「役を積んでいく段階で、クランクイン前から無精子症のお父さんとお話をさせていただいたのがとても大きかったです。だから、もろちんショックではあるけど、自分たちだけではない、ほかにもこういう人たちがたくさんいるんだと、どこかで感じながら、それを大事にしていました」と、井浦さん。

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©2020「朝が来る」Film Partners

14歳で子どもを身ごもる、もうひとりのヒロイン・ひかりを演じた蒔田彩珠さんは、撮影当時16歳。幼くもはかない少女だった彼女が、やがておなかの子が大きくなり母となっていくなかで、覚悟や凄みを増していく姿に圧倒されます。そして、その後の彼女の人生から目が離せず、幸せになってほしいと願わずにはいられないのです。

特別養子縁組あっせんの民間団体・ベビーバトン代表の浅見を演じた浅田美代子さんは、河瀨監督の『あん』にも出演した唯一の“河瀨組”経験者。おおらかで強く温かい包容力で、ふたりのヒロインのみならず、観客をも包み込むような存在感で好演しています。

井浦さんが「劇中で清和がした決断は、すべて自分が選択したような不思議な感覚でした」と振り返るように、まさにそれぞれが「その人そのもの」であるとしか思えない、映画『朝が来る』の世界観。

よくある日常の風景が、自分のすぐ近くにある出来事のような真実味を持って心に迫ってきます。だからこそ問いかけずにはいられないのです。私ならどうするだろうか。本当の親子とは何だろうか、と。

[作品情報]

映画『朝が来る』

【公開日】10月23日(金)

【原作】辻村深月 『朝が来る』(文春文庫)

【監督・脚本・撮影】河瀨直美

【共同脚本】髙橋泉

【出演】永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子

佐藤令旺 田中偉登/中島ひろ子 平原テツ 駒井蓮

山下リオ 森田想/堀内正美 山本浩司 三浦誠己 池津祥子 若葉竜也 青木崇高/利重剛

【主題歌】C&K「アサトヒカリ」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)

【製作】キノフィルムズ・組画

【配給】キノフィルムズ/木下グループ

【公式サイト】asagakuru-movie.jp

©2020「朝が来る」Film Partners

取材・文/相川由美

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