「2時間5500円の焚火が大人気」都会暮らしの人たちが"火起こし"に集まるワケ

「2時間5500円の焚火が大人気」都会暮らしの人たちが"火起こし"に集まるワケ

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2021/07/21

アウトドア用品のスノーピークが、東京都昭島市の店舗に開いた「焚火ラウンジ」が人気を集めている。料金は2時間5500円で、週末の予約はお盆期間までほぼ埋まっている。なぜいま焚火なのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんが取材した――。

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写真提供=スノーピーク「スノーピーク-昭島アウトドアヴィレッジ」で行われた焚火の様子 - 写真提供=スノーピーク

焚火の奥深さにハマる人が続出

7月1日、東京都昭島市にある「スノーピーク 昭島アウトドアヴィレッジ」(直営店舗)の屋外スペースに、ひとつの施設がオープンした。

「スノーピーク焚火ラウンジ」(Snow Peak TAKIBI LOUNGE)は、2時間5500円(1組4人まで)で、気軽に焚火が楽しめるものだ。アウトドア総合メーカーの株式会社スノーピーク(本社・新潟県三条市)が運営する。

小学校や中学校の野外活動で「キャンプファイヤー」を経験した人は多いだろう。しかし、最近、アウトドア派の間で人気が高まっている「焚火」は、それとはちょっと違うようだ。

キャンプをしない人たちこそ体験してほしい

「もともと焚火は、スノーピークにとって大切な存在です。自社で開発した焚火台や耐熱性に優れたアパレルなどのアウトドア商品もご好評いただいており、全国各地で開催するキャンプイベントでは『焚火トーク』を必ず行います。先日も東北地方で実施しましたが、180組・300人の方にご参加いただきました」

スノーピークの永松悠佑氏(営業本部 新業態開発課 マネージャー)はこう説明する。2015年3月に開業した同店の初代店長も務めた永松氏は生まれも育ちも東京都下で、子どもの頃は学校の授業で田植えを行うような環境で育ったという。

なぜ今回、スノーピークは焚火ラウンジをつくったのか。

「アウトドアに興味がある人に、まずは体験してほしいと思ったのです。そこで都心から1時間で来られる直営店に併設しました。当社の事業活動とキャンプは切り離せないものですが、キャンプ人口は人口全体の約7%。それ以外の93%に訴求したいのです」

今回の「焚火ラウンジ」の場所は思ったよりも近い。JR新宿駅からJR昭島駅までは電車で約40~45分。昭島駅から昭島アウトドアヴィレッジは徒歩5分程度で行ける。クルマで移動する場合も混んでなければ早い。必要な用具はすべて揃っているので、手ぶらで来られるのも特徴の一つだ。オープンから人気を博し、現在週末の予約はお盆期間までほぼ埋まっている。

「暗闇で炎を眺めていると癒される」

永松氏は、さらにこう続ける。

「焚火を囲んで話すと心理的な距離も縮まります。当社が行うイベント参加者も、見知らぬ同士でもやがて親しくなり、SNSの連絡先を交換したりしています。『暗闇で燃える炎を眺めていると癒される』という声も聞き、燃える火には揺らぎ効果もあります」(同)

焚火ラウンジの横にある直営店には「薪(まき)」も積まれており、足りなくなれば追加の薪(1束880円)も購入できる。ひとくちに薪というが種類もさまざまだ。

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筆者撮影「スノーピーク 昭島アウトドアヴィレッジ」の店内の様子。焚火用の薪も置かれている - 筆者撮影

「薪となる木材には、大きく分けて針葉樹と広葉樹があり、着火性が良いのは針葉樹のスギやマツです。広葉樹は火が付きにくいものの、火持ちします。広葉樹の中では白樺は燃えやすく焚き付けの薪に向いています。火の勢いを調整する薪の組み方もさまざまです」(同)

熟練者は多彩なやり方を行う。あえて燃えにくい薪で苦労を楽しむ人もいれば、気温や天候で薪を細かく変える人もいる。芸能人や業界の有名人が「鍋奉行」ならぬ「薪奉行」として独自のやり方を動画で発信するケースも話題を呼び、夏でも焚火を楽しむ愛好家は増えてきた。逆に、寒い冬は暖を取るのに最適で、虫に悩まされないので人気だという。

「薪が燃え尽きてきました。この段階を『置火』といい、チカチカと光り幻想的です」

こうした話も焚火を囲みながら聞いた。パチパチと燃える炎を見ながらの会話は通常の取材よりも風情があり、置火は味わい深い。薪の燃えるニオイも久しぶりに嗅いだ。

「障壁」を取り除くための“手ぶら”プラン

今回、焚火ラウンジでは焚火以外も楽しめるプランを用意した。例えば「手ぶらBBQプラン」(価格1万1000円=1組4人まで。追加大人1人1650円、高校生以下同880円、小学生以下無料)は、焚火とバーベキューがセットになったプランで、食材を持ち込めば、さまざまな料理を楽しむことができる。軽食メニューやドリンク(別料金)は店頭で注文可能。参加人数で割れば、手頃な価格で楽しめそうだ。

マーケティングや商品開発の現場では、「消費者の障壁を取り除く」という共通認識がある。この場合の「障壁」は物理的や心理的な抵抗感をさす。

例えば最近よく聞くのが、ペットボトル飲料の空きボトルを捨てる際、「ラベルを剥がすのが意外にストレス」という声だ。

コロナ以前、通勤をしている時代は気にならなかったが、リモートワークが中心となりペットボトル飲料の自宅消費も増えた。容器によって剥がし方が違い、うまく剥がれない時もある。これに目をつけたメーカーはラベルレスの容器を発売して消費者に支持された。

今回の事例もそれに当たる。焚火に何となく興味がある人に、手ぶらで楽しんでもらうという訴求は珍しい。現代の消費者は総じて手間のかかる行為を好まない。何に凝って何に凝らないかは人によるが、多くの人にはなじみの薄い「焚火への障壁」を取り除いた。

便利な社会になぜあえて火を使うのか

スノーピークが創業したのは1958年。本社がある新潟県三条市で最初は金物問屋として産声を上げた。当地は江戸時代から続く鍛冶技術でも知られる土地柄で金属加工業が盛んだ。クライマーでもあった創業者は、登山用具の製造・販売を手がけ始め、金属加工技術を生かした商品が支持されて業容が拡大した。焚火台もその技術のひとつだ。

同社の従業員はアウトドア好きが多く、アウトドアパーソンやキャンパーとして「人間性の回復」も共有する。今回、こんな話も耳にした。

「キャンプ参加者にはファミリー層が多く、中には『自宅ではオール電化で生活しているので、子どもは火を使う生活をしていない。だからあえてキャンプに参加しました』と話す家族連れもおられます」(永松氏)

現代生活が便利になった半面、昔の人が持っていた「ヒトとしての本能」が失われたともいわれる。ナイフを使えない、マッチを擦れないといった話も耳にする。

また、SNSや動画の見過ぎで疲れてしまわないよう、休みの日はあえてスマートフォンを手放したり、電源を切ったりしてスマホを触らないという人もいる。アウトドア体験は、そうした「デジタルデトックス」を楽しむ機会にもなりそうだ。

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写真提供=スノーピーク焚火ラウンジでは、焚火以外も楽しめる「手ぶらBBQプラン」も用意している。食材は持ち込みだ(料理はイメージ) - 写真提供=スノーピーク

たった7%のユーザーを増やすには

スノーピークが「焚火ラウンジ」で目指す道を整理すると、次の3点だろう。

(1)まずは「体験」することで興味・関心を高めてほしい
(2)興味をもった人には、商品の購入やイベントの参加をしてほしい
(3)本人だけでなく、家族や友人・知人も取り込み愛好家を増やしたい

すでに紹介した事例もあるが、それぞれ簡単に説明しよう。

(1)は、まさに今回の「焚火」や「BBQ」がそれに当たる。前述の3種類のプランの中には「デイキャンププラン」(来店~19時まで)も用意されているが、多くの人には焚火やバーベキューのほうがとっつきやすいだろう。

(2)は、作物栽培をイメージするといいかもしれない。「焚火体験」は、小さなコンテナで作物を育てる体験に近い。そうした栽培に興味を持った人の中には、(A)自宅近くで区画農園を借りる→(B)県境を越えて広い農園を借りる→(C)定年後や人生のステージ変更で移住して本格的な農作物栽培――と進む人もいる。

もちろん(A)から(C)に進むほど従事人口は減っていくので、本格的なキャンパーが一気に増えるわけではない。

(3)は、影響力を持つ人に訴求する手もある。キャンプ好きの中には、子ども時代に親に連れられて各地のキャンプに行き、ハマった人もいる。キャンプ好きの友人・知人に誘われて興味が深まったという人もいる。いずれにせよ「楽しい体験」が前提だ。

根強い「抵抗感」をどう解消するか

矢野経済研究所によると、国内のアウトドア関連市場は約5000億円といわれる。コロナ禍の外出自粛で、近年の伸びは一段落したが、人気は底堅い。

キャンプに興味を持つライト層も増えてきたが、課題も残る。例えば「衛生的ではない」という声だ。以前多かった不満が「入浴できない」ことだが、シャワー設備や温浴施設があるキャンプ場も増えて改善されてきた。炊事場もかなり進化してきた。

夏は「虫対策」も欠かせない。晴れていても天気の急変に備えた雨具の準備や防寒具も必要だ。いずれも熟練者には当たり前だが、興味を持ったばかりの人には分からない。

どこに抵抗感をもつかは個人差があり、どの層にどう訴求するかはマーケティング次第だろう。

楽しい体験は思い出として残り、いつかどこかでやってみたくなる。便利すぎる日常生活を離れて「不便を楽しむ」人が増えれば、焚火愛好家も増えていくだろう。

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筆者撮影焚火のゆらぎ効果に「癒される」という声も聞かれた - 筆者撮影 -

「スノーピークのキャンプイベント終了後には、スタッフが会場を見回って清掃をしますが、ゴミもそれほど落ちていません。経験者ほど自分たちで出したゴミは持ち帰るのも徹底されていると感じます」(永松氏)

多くの場所では地面に直接火をつける直火は禁止だ。焚火台の使い方や利用ノウハウと一緒にマナーも学んでいきたい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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高井 尚之

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