一般流通された「コロナ飲み薬」に副作用はないのか 専門医に聞いた注意点と“飲まなくてもいい患者”

一般流通された「コロナ飲み薬」に副作用はないのか 専門医に聞いた注意点と“飲まなくてもいい患者”

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  • 更新日:2022/09/23
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16日から一般流通された新型コロナの飲み薬「ラゲブリオ」

米製薬大手メルク社が開発した新型コロナの飲み薬「ラゲブリオ」(一般名:モルヌピラビル)が16日から一般流通された。これまでは供給量に限りがあり、必要とする医療機関に国が無償配布していたが、メルクの日本法人MSDの発表によると、生産体制が整い、安定供給の見通しが立ったことから一般流通が始まった。これにより患者にも処方されやすくなるが、どんな症状の患者が処方の対象で、どんな副作用があるのかなどは気になるところだ。また、承認済みのもうひとつの飲み薬である米製薬大手ファイザー社製の「パキロビッド」(一般名:ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)とは何が違うのか。医師と患者が留意すべき点を、感染症専門医で埼玉医科大学総合医療センター・総合診療内科の岡秀昭医師に聞いた。

【表】承認済みの飲み薬「ラゲブリオ」と「パキロビッド」の違いはこちら*  *  *

――コロナの飲み薬は、どんな患者に処方されるのでしょうか。

現在、日本で承認されているコロナの飲み薬は「ラゲブリオ」と「パキロビッド」の2つです。しかし、感染したすべての患者に処方されるわけではありません。この2つの薬は、ワクチン未接種者を対象に治験が行われていましたが、今では多くの人がワクチンを接種しているため、ワクチン接種の有無にかかわらず、医師の判断によって、基礎疾患のある軽症・中等症の人を対象に処方されるかと思います。

――これらの薬の治験は「ワクチン未接種者」が対象だったということは、ワクチン接種をしていれば、飲まなくてもよいということでしょうか。

前提として、ワクチン接種を済ませ、基礎疾患のない、60歳未満の人は、ほぼ重症化することがないとわかっています。それらの健康な人はこの薬を飲まなくても自然に治る場合がほとんどのため、ワクチン接種の有無にかかわらず処方はされないと思います。飲み薬があるからといって、ワクチン接種をしなくてもよい、というわけではありません。飲み薬に期待するよりも、先にワクチン接種を済ませておくことが大切です。

――ワクチン接種を済ませた高齢者はどうでしょうか。

コロナは年齢の高さが最も重症化リスクを高めることから、高齢者は十分にワクチンを接種していたとしても、処方の対象になると思います。薬によって、より重症化リスクを下げることができるでしょう。

――現在、承認されている2つの飲み薬「ラゲブリオ」と「パキロビッド」を比較すると、どちらがより効果があるのでしょうか。

まだ2つの薬を直接比較した治験が十分ではないため、正確にはわかっていません。ただし、それぞれでプラセボ(偽薬)を使った治験では有効性が証明されています。医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に取り上げられた第3相試験(フェーズ3)の治験結果によると、「パキロビッド」は、プラセボと比べて、入院と死亡のリスクを約89%低減させる有効性が示されました。一方、「ラゲブリオ」は30%でした。こうした結果から、「パキロビッド」のほうが有効性は高いと推定されています。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)のガイドラインには、コロナ患者の治療として、まずは解熱剤を投与し、その次に考慮すべき治療として「パキロビッド」が推奨されています。経口薬が飲めない患者もいるので、それが使えない場合は点滴薬の「レムデシビル」になります。そして、これらすべての治療薬が使えない場合に「ラゲブリオ」を使うという順番があります。

しかしながら、日本では、「パキロビッド」よりも「ラゲブリオ」が多く処方されている実態があります。国は、「パキロビッド」を200万人分確保していますが、投与実績は約4万人しかありません。一方、「ラゲブリオ」は160万人分の確保量に対して、約56万人分を投与しています(2022年8月31日時点)。

――なぜ「ラゲブリオ」のほうが、日本では多く処方されているのでしょうか。

まず、「パキロビッド」には、飲み合わせに注意が必要な薬がたくさんあります。そのため、医師がリスクを避けるために「パキロビッド」の処方を控え、飲み合わせにそれほど気をつけなくてもよい「ラゲブリオ」を選ぶ傾向があります。しかし、アメリカのガイドラインには、本当に禁忌すべき薬は2つ(リバーロキサバンとサルメテロール)しかないと示されています。

もうひとつの理由が薬へのアクセスです。「パキロビッド」の申請には似たような書面を2枚書かなければならず、診察しながら作成するのが大変なのです。一方、「ラゲブリオ」は簡単なので、忙しい医療現場にとっては「ラゲブリオ」のほうが扱いやすいのです。しかも、「ラゲブリオ」を処方している実績のある薬局が、「パキロビッド」を取り扱う現状があります。つまり、「ラゲブリオ」を出している薬局の一部でしか「パキロビッド」を扱っていないので、処方されにくくなっています。

しかし、患者目線に立てば、医師だけでなく薬剤師が飲み合わせを確認して、処方可能な患者には、有効性の高い「パキロビッド」のほうを検討すべきだとは思います。学会や厚生労働省が、有効な薬を速やかに処方するための体制を整える必要があります。

――コロナの飲み薬には、どんな副作用が懸念されているのでしょうか。

「ラゲブリオ」と「パキロビッド」に共通して、消化器症状の副作用が確認されています。気持ちが悪くなったり、下痢をしたりなどです。ただ、それほど高頻度に副作用が出るわけではありません。

また「ラゲブリオ」については、胎児の骨格形成に異常をきたす「催奇形性(さいきけいせい)」の懸念があるため、妊婦への使用は禁止されています。今後、軽症の人に広く処方されるようになれば、妊娠可能年齢の人が服用する可能性も出てくるでしょう。アメリカでは、女性に限らず、男性も服用してからしばらくは避妊が推奨されています。

繰り返しになりますが、妊娠可能年齢の若い健康な人であれば、重症化リスクは低く、自然と治ることのほうが多いため、「ラゲブリオ」を処方するのは現実的ではありません。患者も医師に求めるべきではないでしょう。

「パキロビッド」には、服用後に症状が再発し、ウイルス検査で再度陽性になるリバウンドが極めてまれに報告されています。ただ、リバウンドで重症になることはほぼありません。

――国内メーカーでは塩野義製薬が、軽症・中等症患者向けの飲み薬「ゾコーバ」の緊急承認を厚労省に求めていましたが、見送られました。どういう理由で承認されなかったのでしょうか。

「ゾコーバ」は、まだ第3相試験の結果が出ていないため、人に対する有効性がわかっていません。ウイルス量が試験管の中では減るところまでは、試験結果が出ています。しかし、「アビガン」が当初、ウイルス量を減らすことで処方されましたが、結果的に人への効果が統計的に確認できませんでした。ウイルス量が減ることよりも重要なのは、患者の症状が改善することです。

すでに効果が9割近く認められている「パキロビッド」を200万人分も確保していながら、使われていない現状からして、今後は、これをいかに賢く使うかを検討すべきではないでしょうか。

(構成/AERA dot.編集部 岩下明日香)

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