山田高校はなぜ履正社を撃破できたのか?「公立の奇跡」の舞台裏

山田高校はなぜ履正社を撃破できたのか?「公立の奇跡」の舞台裏

  • Sportiva
  • 更新日:2020/10/16

大金星を挙げた山田高校の選手たちがバスで学校へ戻っている頃、ツイッターの世界では「山田高校」「大阪の公立」が続けてトレンド入り。コロナ禍により自粛続きだった高校野球界に今年一番とも思える大波乱のニュースが駆け巡った。

大阪府吹田市。岡本太郎氏の名作「太陽の塔」がそびえる万博記念公園からすぐの場所にあるごく普通の公立高校の野球部が、秋季大阪大会の3位決定戦で履正社に勝利。大阪の公立校としては1994年の市岡高校以来26年ぶりとなる近畿大会への出場を決めた。

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秋季大阪大会の3位決定戦で履正社を破った山田高校ナイン

1984年の野球部創設以来、これまでの最高成績は1993年の春季大会のベスト4。ここ10年では2011年春と2012年夏に4回戦に進出したが、夏に限れば10年間で初戦敗退が6回。大阪桐蔭、履正社が2強を形成し、私学優勢が顕著な大阪の高校野球界で山田が注目されることはなかった。

それが今回、昨年夏に全国制覇を達成し、ここ10年の公式戦で公立校に負けなしだった履正社を破ったのだ。

こうした大金星、大番狂わせを演じた陰には、たとえば前チームからの経験者が揃い戦力が充実していたとか、普段ならいるはずのないレベルのエースがいたとか、強豪校の調子が上げてくる前の大会序盤だったとか、なにかしらの理由があるものだ。しかし、今回の山田はどれも当てはまらない。

メンバーを見ると、今夏にレギュラークラスで出場していたのは、履正社戦で1失点完投の坂田凜太郎を含め3人だが、その坂田にしても夏の段階では「5回まで投げてくれたら......」というレベルの投手で、そもそも独自大会は初戦負けだった。

新チームのレギュラー陣も、例年どおり軟式出身者が大半で、1年生が半数を占める。当然ながら、中学球界のスターなどいない。

奇跡の勝利から3日後、ドラマの主役となった山田高校を訪ねた。

グラウンドに着くと、耳にしていたものと様子が違っていた。金子恭平監督が報道陣に語っていた話では、65メートル×95メートルの校庭には野球部を含め、サッカー部、陸上部など、7つの運動部がひしめき合い、満足に使える時間はごくわずかしかないと......。だが、この日は野球部がグラウンドを独占していた。女子マネージャーに尋ねると、その理由を教えてくれた。

「試験前なので、今日はほかのクラブがいないんです」

近畿大会の出場が決まり、野球部のみ練習となったのだろう。走者一、三塁からの挟殺プレーが繰り返され、やがて終了。この後、グラウンドいっぱいを使って打撃練習をするのか......と思っていたら、「ダウンやるぞ〜」という声が響いた。

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午後からの練習は早々に終了となり、選手たちは教室へ移動。近畿大会のメンバー発表と軽いミーティングを終えると、次々と学校を後にしていった。少し拍子抜けしていたところ、金子監督が"普通の公立校"の事情を教えてくれた。

「履正社との試合後、選手たちが当面のスケジュールと練習メニューをつくって持ってきたんです。試合翌日の月曜はオフにして、火曜からテーマを決めた全体練習を1時間、個人の課題練習を1時間、勉強したいものは全体練習後に帰ってもいいと。

(10月)8日から13日までがテストで。テストが終わってから数日後には近畿大会なのでこのメニューで大丈夫か......と思いましたが、これまでもアドバイスはしても基本は彼らが考えてやってきたので、今回もの変えずにいきます」

この日、練習時には金子は不在だったが、聞けば、準決勝と3位決定戦が行なわれた週もミーティング以外の練習は欠席。学年主任としての仕事が重なったためで、ここにも"普通の公立校"の一面が見える。

「選手は僕がいないことに慣れていますし、監督がいるからやる、いないからやらないというようなチームでは勝てません」

チームとしてのテーマは「自主自立」。トップダウンをやめて、選手からの意見を吸い上げるボトムアップ方式に取り組んだのは現チームから。まだ試行錯誤の段階ながら、その過程で先に大きな結果が出たことに、本人たちも戸惑っているのが実情のようだ。

「『浮かれたらあかんぞ!』とは言っていますけど、高校生ですから、そこは浮かれるところもあるでしょう。突然ネットで話題になり、テレビでも取り上げられて、スポーツ紙でもまさかの一面......。僕自身も怖いくらいの反響に頭がついていってないですから」

大金星の翌日のスポーツ紙には「公立の奇跡」の大見出しに、勝利直後にマウンド付近で抱き合う選手たちの写真が大きく使われていた。その紙面には、秋の戦いの軌跡も掲載されていた。今回の秋季大会は無観客で行なわれ、4回戦まではマスコミ取材もなし。そんな人知れず勝ち上がった戦いのなかに、いくつものドラマがあった。

なかでも「もしあの試合で......」と目が向くのが初戦(2回戦)の桃山学院戦だ。試合はフォアボールにミスも絡む「新チームによくある泥試合」(金子監督)となり、延長10回の末に山田が7対5で勝利を収めた。

この試合で山田の運命を左右するプレーが、5対5の同点の9回裏の守りであった。相手の先頭打者がレフトオーバーの打球を放ち、一気に三塁を狙った。中継のショートからサードへの送球がショートバウンドとなった。ベンチから見ていた金子には「ノーアウト三塁や」の思いが頭をよぎった。しかし、難しい送球を三塁手の富永大朗が落ち着いて捕球しタッチアウト。絶体絶命のピンチを未然に防ぐと、直後の10回表に2点を勝ち越し、初戦を突破したのだった。

「あれがなかったら、今はなかった」と振り返ったワンプレーには、「じつは......」と金子監督の言葉が続いた。

山田では普段、キャッチボールの最後にショートバウンドやハーフバウンドなど、相手の捕りにくい球を投げて捕球する通称"さばき"と呼ばれるメニューがある。金子監督が「この球を捕れるかどうかで試合の流れが変わるんやぞ!」と選手たちに口うるさく言いながら取り組んできた成果が出たビッグプレーだった。

3回戦(清教学園戦)は不戦勝。4回戦からは浪速、上宮、大産大付と甲子園経験のある私立校を立て続けに破った。とくに大産大付戦は雨、風も味方にし、相手のミスをことごとく得点にしての逆転勝利。

主将の尾崎紀昭は「大産大に勝ったところで、みんな近畿(大会)に行けるんじゃないか、行くぞと気持ちがひとつになった感じでした」と振り返った。

しかし、そう簡単にさせてくれないのが大阪。準決勝では東海大仰星に1対11と圧倒され、6回コールド負け。ただ、夏ならここで終わるが、秋は近畿大会出場の3枠目を争う3位決定戦があり、翌日にもう1試合戦うことができた。

とはいえ、3位決定戦の相手は準決勝で大阪桐蔭に敗れた履正社。東海大仰星戦の前、金子監督は選手たちに「見ている人たちは99%ウチが負けると思っている。これをひっくり返したらこんな面白いことはないぞ」と鼓舞したそうだが、その東海大仰星との戦いを見た報道関係者、大会関係者は100%履正社の勝利を信じたはずだ。しかし......。

「東海大仰星の時も履正社の時も、ウチが勝つなら最少失点で我慢して、ワンチャンスをものにする2対1しかないと思っていました」と金子監督は言ったが、まさにそのとおりの展開となった。

最速130キロ出るかどうかという坂田が6回にホームランによる1点のみでしのぐと、9回表に1年生の4番・横田那音(なおと)が一死二、三塁からレフトオーバーの一打を放ち逆転。しかし、まだ履正社の攻撃は残っており、安心できるはずもない金子監督の頭にはひとつの記憶が蘇っていた。

じつは2年前の秋、山田は履正社を相手に8回二死までリードという、大金星を手にしかかったことがあった。

「あの時は試合終盤にただならぬスタンドの空気を感じたんです。見ている人の『こんなわけのわからん高校に履正社が負けるんか』といった感じで......結局、最後はひっくり返されました(3対5)。その点、今回は無観客で、スタンドからのプレッシャーもなく、強豪校相手にもどこか練習試合のような雰囲気で戦えました。これはウチにとっては間違いなく大きかったと思います」

翌春開催されるセンバツ出場をたぐり寄せるには、近畿大会1勝、内定するには2勝が必要とされる。まだまだ険しい道が続くが、一部からは21世紀枠での出場を期待する声も聞こえてくる。しかし、選手たちにその思いはない。主将の尾崎が力を込める。

「『強豪を倒してセンバツに行こう』とみんなで言っています。ここまできたらセンバツを狙わないと......こんなチャンスはないので。自力でなんとか2勝、3勝して、自分たちの力でセンバツに行きたいです」

3つ勝てば決勝だが......と思いながらも、「そのくらいの気持ちがないと」と金子監督も続いた。

「どこも強い相手ばかりですけど、だからこそ『勝てたらいいなぁ』では勝てない。普段でも『盗塁できるかな』ではなく『できる!』と、それくらいの腹のくくり方をしないと成功しないと言っています。今回もどこまで腹をくくれるか。まずはそこだと思っています」

近畿大会初戦は10月17日、京都の1位校・龍谷大平安との対戦が決まった。山田高校にとって史上最大の挑戦がいよいよ始まる。

谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

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