上司からの性暴力... 後遺症に20年以上苦しみ続ける女性が性犯罪加害者たちに自分の経験を語り聞かせる理由

上司からの性暴力... 後遺症に20年以上苦しみ続ける女性が性犯罪加害者たちに自分の経験を語り聞かせる理由

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  • 更新日:2017/12/06
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斉藤章佳先生

世界から色が消えた――。写真家のにのみやさをりさんは、被害後をそうふり返る。信頼していた職場の上司から性暴力を受けた。一度ならず、何度も。それでも仕事はつづけていたが、ある日、気がついた。信号の色がわからない、すれ違う人々の顔がわからない。にのみやさんの目に映る世界は、モノクロームになった。いまから20年以上前のことになる。

にのみやさんは2017年、被害によって自身にもたらされたさまざまな症状、影響を語る試みをはじめた。聞くのは、性犯罪加害者たち。正確にいうと、性犯罪を二度とくり返さないため再犯防止プログラムに取り組む加害者たち、だ。

これまでに1200人以上の性犯罪加害者に同プログラムを実施してきた大森榎本クリニック(東京都大田区)での試みである。にのみやさんが同クリニックの精神保健福祉部長・斉藤章佳さん(社会福祉士、精神保健福祉士)に提案し、この国内初といえる試みがスタートした。斉藤さんは性犯罪加害者の治療における先駆者で、今年8月には『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)を著している。

性暴力、性犯罪の被害者にとって加害者とは、自分に加害した当人でなくとも、一切関わりたくない存在である。自身やほかの被害者の心身を傷つけ、尊厳を踏みにじり、その後の人生を大きく変えてしまった人物について、見聞きするだけでも恐怖に見舞われる。存在自体が許せない。第三者が被害者に対して、加害者への理解をうながすのも本来あってはならないことである。

けれど、にのみやさんは信念を持ってこの試みに参加している。

本記事では、にのみやさんと斉藤さんとの対談をとおして性暴力、性犯罪における被害と加害の実態、およびそれを取り巻く問題を明らかにしていく。

斉藤章佳さん(以下、斉藤)「性暴力、性犯罪は魂の殺人である、という言葉自体はだいぶ知られるようになってきました。一度そのような罪を犯した人が加害行為を二度とくり返さないためにはいろいろなことを学びなおす必要があり、『被害者にとって加害者はどんな人間なのか』を知ることもそこに含まれます。自身の加害行為が他者にどんな影響を与えたのか、つまり被害の実態を彼らはほとんど知らないのです」

被害経験を発信している人や被害者支援をする団体に、関係者間の対話によって相互理解を深める必要性について問い合わせたところ、「加害者について知ったところで許せるわけでもないし、なによりいまは自分の回復で精いっぱい」「加害者臨床に携わる専門家と被害者支援のスタッフに交流があると知ると、被害当事者は怖がって相談しにくくなる」と返ってきた。当然のことである。そんなか、意欲を見せてくれたのが、にのみやさんだった。

にのみやさをりさん(以下、にのみや)「私は自分自身の回復を考えるなかで、いずれは加害者たちと対話したいと考えていました。被害の実態を知り、性暴力をもう二度とくり返さないでほしい。被害に遭う人をこれ以上増やしたくないからです」

性暴力、性犯罪被害が苛酷な体験であることは、多くの人が知っている。しかし、それがどれほどのものか、またどのくらいの期間つづくのかということは周知されていないように見える。

にのみや「被害の状況も、症状や影響の出方も人それぞれで、ひとりとして同じではないので、これからお話しするのは私の個人的な体験です。私は信頼していた人からの被害だったこともあり、自己肯定感もそれまで築いてきた人間関係も、何もかもが完全に破壊されました。ゼロではなく、マイナスになったんです。すべて私が悪かったと自分を責めました。自分という存在そのものを消したかった。なのに生き残らされた……。リストカットもオーバードーズ(薬の過剰摂取)も何度もしました。死にたい、というのともちょっと違います。自分を丸ごと消去したくて消去したくて、たまらなかったのです」

にのみやさんは早くにPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。性暴力によるPTSD発症率は60%、戦争経験者のそれを上回るという調査結果がある。しかし、蝕まれたのは心だけではなかった。20年以上経ったいまになって、身体が悲鳴をあげていると気がついた。

にのみや「PTSDの影響で身体に痛みが出ることもあります。私の場合は長年、病院で心のケアをしても全身がこわばるような激痛は消えませんでした。心が回復すれば自然に治まると思っていましたが、最近になってやっと身体は身体でケアしなければならないのだと知りました。被害でダメージを受けた脳が誤作動を起こして、痛みにつながっているそうです」

被害による心身の痛みは、年月とともに薄れるとはかぎらない。それなのに、周囲からは何度も「もう忘れなさいよ」といわれたと、にのみやさんは話す。その人たちはよかれと思っていっているのかもしれないが……。

にのみや「トラウマ記憶というのは、時間軸を持っていないのだそうです。そんな記憶だからいつでも生のまま、突如“いま”を侵食してきます。結果、フラッシュバックやパニック発作が起こる。そのたびに思い出させられるんです。事件そのものというよりも、加害者の存在を。まったく関係のない男性の顔が加害者に見えることもあります」

対照的なのが、加害者だ。斉藤さんは12年間、再犯防止プログラムで加害者と向き合ってきた結果、加害者のなかに被害者は不在だ、と考えるに至ったという。

斉藤「彼らは、自分が加害した記憶を早々に放棄します。いじめられていた子が大人になってもそのことを忘れられないのに対し、いじめていた側は『そんなことあったっけ?』と忘れているのに似ています。再犯防止プログラムでは、みずからの加害行為に責任をとることを重視していますが、そもそも彼らが自分のしたことで迷惑をかけた、申し訳ないと思っているのは、第一が家族で、その次が仕事関係の人たち。被害者の存在はすっかり抜け落ちています」

にのみや「私もそうなのではないかと思いつつ、それでも淡い期待を捨てきれずにいました。加害者にずっと自分のことを考えていてほしいわけではないのですが、常に事件のことを後悔し、反省してほしい。謝罪してほしい。そしていつか心からの謝罪がほしい、とどこかで思っていました。でも、彼らは加害したこと自体を忘れてしまうんですね」

斉藤「期待は、私にもありましたね。でも加害者の実態を知れば知るほど認識が変わりました。『あなたたちは、こんなひどいことをしたんだ!』と責任を追及しても何も伝わらない。言葉やアプローチを工夫しないと、被害者に対する彼らの想像力はほぼ働かないんです」

それだけ聞くと、加害者とはなんと酷い人間だろうと思えてくる。しかし、それは加害者にかぎったことだろうか。社会もまた、被害者や被害の影響についての知識がなく、想像力も欠如しているのではないか。そうでなければ、「もう忘れなさいよ」とはいえない。にのみやさんは、なんとかして被害の実態をわかってもらいたいとあがき続けた。

にのみや「被害に遭ったのを境に、私の世界から色が消えました。医師によるとこうした症状が出る人は少なくないそうですが、当時の私はそれを知らないから、どうやったらわかってもらえるだろう、と混乱しました。ある日、ふと手にした写真集がモノクロの作品で構成されていて……いえ、本当は色があったのに私には見えなかっただけかもしれませんが、これだ! と思ったんです。これなら私が見ている風景をわかってもらえる、と。すぐに撮影や現像に必要なものを取りそろえ、モノクロ写真を撮りはじめました」

にのみやさんの作品群は、「被害の前と後とでは世界が一変する」ということを理屈ではなく教えてくれる。忘れたくても忘れられない、被害の記憶と痛み。性暴力、性犯罪はそれを抜きに考えることはできないということを、私たちは知らなければならない。(取材・文/ライター・三浦ゆえ)

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