福井県鯖江市が「人的資本」に注目する理由

福井県鯖江市が「人的資本」に注目する理由

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/05/26

市役所といえば「お役所的な仕事ぶり」の弊害。それを見事に表現した、黒澤明監督の『生きる』(1952年)という名画がある。

主人公は市役所で働く定年間近の「市民課長」。ことなかれ主義の中で毎日を過ごしている彼が、あることをきっかけに市民公園をつくる、というストーリーだ。

黒澤明監督作品を代表するすばらしい映画で、役人の習性やセクショナリズムが黒澤監督らしい絶妙な語り口で表現されている。筆者も元役人なので、苦笑いするシーンがいくつもあった。

この名画が、英国を舞台としリメイクされたことで話題になっている。2022年のイギリス映画『生きる LIVING』だ。監督をオリヴァー・ハーマナス、脚本をカズオ・イシグロが務めた。

この映画で描かれたような、時間と手数がかかり融通のきかない「お役所仕事」は、今や通用しない。すでに多くの自治体で改善が進んでいるが、中でも「人的資本」に注目し取り組みを行うのが福井県鯖江市だ。

今回は、筆者が実行委員長を務める「未来まちづくりフォーラム第5回」(2月)にも登壇いただいた、鯖江市長の佐々木勝久氏にインタビューを行った。

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未来まちづくりフォーラムで佐々木市長と筆者

だれ一人取り残さない

鯖江市といえば、メガネの生産量が全国一位のまち。佐々木市長は、笑顔があふれる「めがねのまちさばえ」を目指しているという。

「笑顔があふれるまちは、誰もが過ごしやすく働きやすい、活気があり夢も希望も持て、人々が集まってくる地域社会です。つまり“人が集い・輝き・挑戦するまち”をつくりたいと考えています」

「人が集い・輝き・挑戦するまち」とはなにか。同市のホームページの「市長の部屋」によると、次のような意味がある。

人 =一人一人に寄り添う、誰一人取り残さないこと
集う=交流人口や関係人口が増え、既存コミュニティが活性化すること
輝く=多種多様な人が、それぞれの個性を生かしながらいきいきと活躍できること
挑戦=市民・団体・企業が挑戦を楽しみ、挑戦した結果の成功体験が充実感と自信を生むこと

2019年に内閣府からSDGs未来都市に選ばれた鯖江市は、SDGsを市政に反映し、「だれ一人取り残さない」という包摂性を軸に、多様性、挑戦といったSDGsの理念を凝縮させたまちづくりをしているのだ。

市民を「主役」に

これらの佐々木市長の政策を支える基盤が、2010年に市で施行された「市民主役条例」だ。その狙いは、第1条「目的」を読むとよくわかる。

第1条 この条例は、市民が市政に主体的な参加を果たし、未来に夢と希望の持てる鯖江の実現に向け、市民と市が共に汗を流すという意志と、それを実現するために市の施策の基本となる事項を定めることにより、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進めることを目的とします。

つまり、市民を「主役」に据えてその“人的資本”を生かすという考えが、10年以上前から根付いているのだ。結果、女性活躍が進み、共働き率全国1位、女性就業率全国2位、三世代同居率全国2位といった成果も出ている。

まちづくりでは市民の力を結集することは重要だが、鯖江市は「人的資本」の考え方を応用しており先駆的な事例といえる。

その一例として、鯖江市には「鯖江市役所JK課」という、2014年度にスタートした市民主体のプロジェクトがある。同課は、「無関心層の掘り起こし」や「今までの価値観や常識を変える」ために、女子高生の力を借りたいという狙いで始まったものだ。

近年は交通安全教室用の信号機づくりや投票啓発動画の作成、海の環境を考える「海と日本プロジェクト」などを行っている。

経済・社会・環境の三位一体で推進

最後に、これらの取り組みが整理されているスライドを紹介しよう。佐々木市長が未来まちづくりフォーラムのシンポジウムで投影したものだ。

経済・社会・環境の三位一体を目指すSDGs未来都市として、モデル的な整理となっている。

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佐々木市長が説明したスライド

図の真ん中にある拠点整備、情報発信、意識啓発の3点を軸に、経済・社会・環境の3側面で政策を遂行している。3側面相互で好循環になるように推進するのがポイントだ。

この「プラットフォーム」をベースに、2020年に設立した「さばえSDGs推進センター」が産官学民の連携・協働でSDGsの推進に取り組む。そのためにはSDGsを活かして的確に発信し、「協創力」を発揮することが必要である。

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