「選手が認めやんだらばれへんわな」3億円超の利益を生んだ八百長“1号艇ブッ飛び作戦”とは

「選手が認めやんだらばれへんわな」3億円超の利益を生んだ八百長“1号艇ブッ飛び作戦”とは

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/11/22

ヤクザの息子として育てられた少年時代…一流の競艇選手だったオレが八百長に手を染めた理由から続く

自身が出走するレースでわざと着順を落とし、高額配当を演出。そのレースの舟券を親戚経由で購入するという八百長事件……公営競技において絶対にあってはならない事件が明るみに出てボートレース界には大きな衝撃が走った。

事件の中心人物は全盛期年間2500万円ほどの賞金を稼いでいた一流選手。お金に困ることなどないように思われるが、どうして八百長に手を染めることになったのか。元競艇選手西川昌希氏の手記『競艇と暴力団「八百長レーサー」の告白』より、そのきっかけを紹介する。

◇◇◇

「選手が認めやんだらばれへんわな」

それはジュンと再会した翌年、2016年2月のことだった。

休みの日、ジュンの家で雑談していたとき、ふとレースの話になった。ジュンはしばしば趣味で舟券を買っているようだったが、なかなか儲からない。

「競艇って当たらんな。なんでガチガチの1号艇が飛ぶんやろな。考えられんで」

ジュンがブツクサと文句を言っている。俺はそれを聞き流していた。オケラ街道でよく聞く、負けた競艇オヤジの戯言だ。

ジュンが言っているのは、大本命の選手が3着以内に入らず、高額配当になったレースのことだった。

6艇のボートが1周600メートルのプールを3周(1800メートル)して着順を争う競艇は、基本的に内枠が有利だ。

レースの予想においては、(1)選手の実力(2)進入コース(3)エンジン機力の3要素が重要だが、もっとも内側の1コースに実力の高い選手が入れば、8~9割くらいの確率で、その選手が勝つ。ただし、100%ではない。大本命が3着までに入らないと、1着から3着までを着順通りに当てる「3連単」の配当は、ときに1000倍以上に跳ね上がることもある。

「こんなん、飛ぶはずないのにな……」

ジュンはまだ嘆いていた。「飛ぶ」とは、大本命が4着以下に沈むということである。

俺は、何の気なしにこう言った。

「飛ぶのが分かってて張ったらおいしいわな」

すると、ジュンはその言葉に食いついてきた。

「それでも、ようけカネいるやろ。たとえば1を切ったらどうなる?」

「1つ切れば、3連単の買い目は60点になる」

買い目を一つ減らすだけで組み合わせは一気に減る

6艇が出走する競艇では、3連単の組み合わせは全部で120通り。ファンなら常識の数字だ。もし、1艇を完全に切って残り全部の組み合わせを買うとすれば、買い目の点数は半分の60通りになる。

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©iStock.com

俺が具体的な数字を出すと、ジュンは「なるほど」といった表情を見せ、なおも食いついてきた。

「儲かるんかな」

「さあ。でも俺の場合、イン(1コース)の勝率、9割あるで。飛んだらさすがに60倍はつくやろ」

要するに、本命となっているインコースの選手がらみの舟券を外し、その他の組み合わせをすべて買った場合、配当が60倍以上つくならば、どの組み合わせがきても儲かる。そういうことだ。

すると、ジュンはこう言った。

「そんなことをして、ばれんの?」

「そりゃ、選手が認めやんだらばれへんわな」

ジュンはもう俺が「飛ぶ」前提の話をし始めた。

「たとえば、全部1万円ずつ60万円賭けるとする。その場合、どうやったらいい?」

「ジュンちゃんの使ってるテレボートで大丈夫でしょ」

テレボートとは、ネットで舟券を購入するシステムのことだ。すると、その会話を後ろで聞いていたジュンの妻がこんなことを言った。

「テレボートで張って、国税にばれたらどうする? 大丈夫?」

同じ公営ギャンブルでは、競馬のネット投票で巨額の利益をあげていたファンが、国税に摘発され、裁判になったという事件が大きく報道されたことがあった。だが、1万円程度の舟券が当たったところで、額は知れている。

俺はこのとき、ジュンと不正をしてみることに同意した。

なぜ不正に手を染めたのか

この計画を最初に持ち掛けたのはどちらだったのか。ジュンは検察に対し「不正を西川昌希のほうから持ち掛けられた」と説明し、実際、そのように報道されている。

俺は、そのことについて争うつもりはない。俺が持ち掛けたのか、ジュンが持ち掛けたのかということではなく、お互いが不正実行に同意したことがすべてであって、いまさら罪をなすりつけあう意味がないからだ。

金が欲しいだけではなかった

ただ、事実を言わせてもらえば、俺からジュンに不正を持ちかけるわけがない。もし金が欲しくて、本格的に八百長計画を練り、それを実現しようとするなら、組むべき相手は自分の家族や、もっと信用できる人間がいくらでもいた。ジュンとは儲けを折半する約束をしたが、もっと近い家族と組めば、儲けは総取りなのだ。

たまたまその日、雑談のなかで「インで本命選手が飛ぶ」という話題になり、「儲かるのか?」と聞かれてから話がどんどん進んで、わずか1時間で「それではいっちょやってみるか」となったのである。

興味本位で始めた八百長

俺も確固たる覚悟で不正をしようと思ったわけではない。ただ「やってみたらどうなるのか」ということに多少の興味がわいただけだ。胸を張って主張できるような話ではないが、少なくとも俺が前々から八百長に興味を持ち、覚悟を決めてジュンに共犯を依頼したというのはどう考えても事実と違う。

ジュンがこう言った。

「儲かったら、取り分はどうする?」

「儲けが出たら半々でええよ」

「いいのか?」

「俺は見てのとおり、お金にだらしないところがあるで、カネを持ってても間違いなくギャンブルに消えてしまう。そのかわり、俺がカネに困ったときがあったら、ジュンちゃん、貸してくれ」

「分かった」

こうして、俺とジュンは、不正をスタートさせることになった。

どうして、このような大それた不正をしたのか――多くのファンや関係者は、そう思っていることだろう。

後に逮捕され、名古屋拘置所にいたとき、ある新聞記者が面会を求めてきた。そのときも、こう聞かれた。

「なぜ犯罪に手を染めたのですか。悪いことだとはわかっていたでしょう」

俺は、裁判が始まる前から、取材ではなく説教を垂れようとするこの記者に、うんざりした印象を持った。

「記者さん、それはひと言で説明しにくいですよ。殺人犯に“なぜ殺したのか”と聞いても、言葉では完全に説明しきれない部分があるのと同じです」

面会室で正義漢ぶるこの記者に、俺はあえて屁理屈をこねてみせた。

身内に暴力団関係者がいたことによる差別

動機はカネだったと言えば、それは間違いではない。ただ、それがすべてではない。不正は、少なくとも計画性があったものではなかったし、俺自身も、いまだにその動機が分からない部分があるのだ。

少なくとも2015年まで、俺は選手として順調に成績を伸ばしてきた。この年3月にSG初出場を決めたころには減量にも真剣に取り組み、仕事に対するモチベーションも高まっていたように思う。身内に暴力団関係者がいるという理由で差別を受けた俺は、SGに出場したとき、初めて周囲を見返すことができたような気がした。

短期間に犯した二度の「F」

だが2015年5月、俺は「節間F2」という、大きなミスを犯してしまう。同一シリーズにおいて、スタート事故であるフライングを2度も切ってしまったのである。

スタートは、早く行けば行くほど有利になるが、踏み込みすぎてフライングすると、その艇に関する舟券はすべて払い戻しとなる。特に大きいレースでフライングすると、施行者側に大きな打撃を与えることになるため、「Fを切るな」は、この業界でお経のように唱えられるフレーズだ。

ペナルティは、1本目のFで30日。2本目で60日。合わせて90日間の出場停止だ。ちなみに3本目になるとさらに90日の休みが追加される。3本フライングを切ったら半年休み。半年間の間にフライングが4本以上となったら、もはや引退勧告級だ。

フライングしてしまうのもひとえに自分の実力とはいえ、ここでの3ヵ月間休みはかなり痛かった。

当時の俺の心のどこかに「なかなかうまくはいかんな」という思いが残っていたのかもしれない。もちろん、それを不正に走った言い訳にするつもりはない。それは俺の「弱さ」そのものだった。

1号艇「ブッ飛び」作戦

ジュンとの「悪の密談」から数日が経過し、俺は岡山県の児島競艇場で2016年2月11日から開催される6日間シリーズの一般レースに参戦した。

競艇選手はレースの期間中、携帯電話を施行者に預け、外部との連絡は一切できないようになっている。過去、通信機能付きの端末を持ち込んだ選手が、1年間の出場停止処分を受けたこともある。もちろん、不正防止が目的だ。

俺とジュンは、手始めにもっともシンプルな八百長を試すことにした。それは、次のような計画だった。

高配当が期待できるレースで八百長を行う

競艇選手は、1日に1回、ないし2回の出走がある。6日間開催のシリーズだと、おおむね10走程度のレース出走が予想されるが、「2回目の1号艇」のとき、俺がわざと4着以下になり、ジュンが俺を外した3連単の舟券を買う。

名付けて「ブッ飛び」作戦だ。

なぜ、1号艇のときに不正をするかといえば、俺が1番人気になり、負けたときの配当が高くなることが確実に予想されるからだ。

出走表で「1号艇」になると、ほぼ確実に最内の1コース(イン)に入ることができる。

そうなれば、レベルの低い一般戦であれば、俺が本命になることは間違いなかった。

レースでは公平を期すため、予選段階では基本的に、全選手に1~6号艇がなるべく片寄らないように割り振られることになっている。10走以上となると、1号艇が2回は回ってくるため、そのときを狙っていこうという作戦である。

レース5日目、第7レースでついに2度目の1号艇が回ってきた。

作戦実行の瞬間

人生初の八百長……ここで俺が失敗すればおそらくジュンが張っている大金を溶かすことになる。

もっとも今回は「ブッ飛び」、つまりわざと負けるレースだ。勝つのは難しいが、負けるのは簡単だろうと誰しもが思うだろう。だが、コトはそう単純じゃない。

たとえば、有力な選手がスタートでインからドカ遅れして負ければ明らかに不自然で、それが2回、3回と続けば公正課に呼び出されて事情を聴取されたり、ファンにも疑念を持たれる。かといって、普通の感覚でレースに臨むと、1マークを回ったところで先行してしまう可能性がある。

競馬や競輪と違って、競艇ではいったん先行した艇を後続艇が追い抜くのは相当、実力差がある場合に限られる。動力はエンジンだから、馬や人間と違って「疲れて失速」ということがないためだ。もし道中でズルズルと追い抜かれたら、それこそおかしなレースと目をつけられてしまう。

有利なインコースから先にターンして、できるだけ自然かつ速やかに4着以下に落ち――その難しさは、競艇ファンには何となく理解してもらえるだろう。

(西川 昌希)

西川 昌希

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