「BEYOND 2020 NEXT FORUM −SDGsピースコミュニケーション−」
2020年以降の日本の活性化をテーマに世代や業界を越えて有識者らが集う「BEYOND 2020 NEXT FORUM」が「BEYOND 2020 NEXT FORUM −SDGsピースコミュニケーション−」を開催した。
「BEYOND 2020 NEXT FORUM」では、2020年以降の日本の活性化を目的に、ダイバーシティ、イノベーション、スタートアップ、エンターテインメントなどのテーマのもとで、各界、各世代で活躍中の有識者で構成されるメンバーが中心となって、2019年3月にスタート。その後、内閣府の「beyond2020プログラム」認証事業となり、2020年9月から外務省の後援、2022年8月より継続的な活動を目的に設立された一般財団法人ピースコミュニケーション財団と共催で、SDGsと次世代人材育成をテーマとする「SDGsピースコミュニケーション」を新たな主題として掲げ、さまざまなフォーラムを実施している。

今回は「SDGsとWell-being」「SDGs学習カリキュラム」「国連を支える世界こども未来会議」の3つのテーマでトークセッションを開催した。
「SDGsとWell-being」の回ではジャーナリストの堀潤氏がファシリテーターを務め、パネラーに藤井麻野氏(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員) 、高山智司氏(トランスコスモス株式会社上席常務執行役員・SDGs/Well-being 共創担当)、栗原恵氏( 元バレーボール女子日本代表)を迎えて行われた。
冒頭の自己紹介の際に栗原氏が「今回、このお話をいただくまで“Well-being”という言葉が身近ではなかった。改めて考えるようになったし、知らないところで携わることができていたというアスリートもたくさんいると思う」などと語るように「Well-beingとはどういった概念なのか」ということを説明することは難しい。
そこでまずは堀氏が辞書、WHOによる定義、世界経済フォーラムからの引用 といった形で紹介。心身の健康、幸福を生み出す環境、その環境もプライベートの領域にとどまらず社会、会社、コミュニティーというように多岐にわたることが説明された。
このWell-beingの定義と領域の広さについて藤井氏は「以前は健康や健康経営という言葉が広まっていた時代があった。そこから定義はより広くなり、社会的にもすべてが満たされた状態というところに広がったり、個人の幸福だけではなく、個人の幸福を追求するためには社会の仕組みや経済の在り方を変えていかなければいけない、というふうに変わってきている。それがWell-beingの最近の潮流であると思う」と解説。

「健康経営」「働き方改革」というようにWell-beingにまつわる用語もいろいろ増えている。
高山氏は「健康経営ということで、うちも“ホワイト500”を目指して、とかいろいろやっている。ただWell-beingの一番の特徴はSDGsとも関係するが、サステナブルということ。Well doingで1回だけいいことをやるのではなく、いい状態がずっと続いているのがとても大事。doingではなくbeingであるのが一番のポイントと思っている」と“継続”の大事さを説く。
堀氏の「腑に落ちるが、doingになりがちでは?」という問いかけに高山氏は「企業も目先の売り上げといった評価も大事だが、持続的にいいことをやって稼げるという評価を得ることも大事。SDGsで“貧困の人がいます”となるとつい助けたくなる。そこはdoingだが、それを継続しなければ意味がない。ということで最近出てきたのがWell-being。サステナビリティ―と非常に関係が深いと考えている」と答えた。
この「doingではなくbeing」という言葉を軸にトークが進む。
組織という中でWell-beingな状態であり続けるためにデロイトが取り組むことを説明する中で藤井氏は「傾聴」という言葉を使い、聴くことの大切さと、相手に話してもらうために「心理的安全性」を持ってもらうことの重要さを挙げる。
高山氏は「SDGsは共通の目標を出している。日本は“ジェンダーギャップが何位だからなにかやらないと”となる。経営者とか政治家はいいかもしれないが、一般の人は“やりたくないな”となってしまう。Well-beingの特徴は“今のままでいいんだよ”ということをまず認めてあげる。傾聴も心を開くというのもそうだと思うが、上から目標を掲げられて“頑張れ”ではなく、今の状態より悪くせずに徐々に上げていこうというアプローチの仕方が寄り添い型。そこが特徴だと思っている。“甘くしてどうする?”という昭和的な考え方も出てくるが、そのほうが効果が高い、結果が出てくるということがだんだん分かってきている。Well-beingを高めるほうが企業経営にも国にもいいという認識が共通認識になりつつある」とbeingであり続けるためのヒントを語る。
また高山氏は自らの仕事を説明する中でSDGsのおなじみの表を使い「相互依存関係を表す図を解説すると一番上はビジネス、ビジネスをちゃんとやるためには教育や契約といった社会基盤がちゃんとなければいけない、社会基盤がちゃんとするには地球環境がちゃんとしていなければできないという順番になっている。なので、17枚のカードの並べ方には意味がある。上段の1~6は国連や政府の役割、下段の13~17は気候変動・パリ条約の要素。今までは国とか政府だけでいろいろなことを決めてきたが、結局実現しないのは民間企業が協力してくれないから。ということで真ん中の7~12に民間企業活動(ESG)を並べた。なので一般企業の目標はだいたい真ん中になる」と解説。そして「この民間の活動を評価してあげようと、ESG投資ということで、こういう活動をしているところにはちゃんとお金が回る仕組みを同時に国連が作った」などと続けた。

堀氏の「ちゃんと取り組んでいる企業じゃないと投資家が投資しない時代になった」に高山氏は「健康診断みたいなもの。みんな共通なものを作らないといけない。それがESG。昭和の時代は企業経営と公共は別物だったが、平成になると企業の社会的責任というものが考えられるようになり“ちょっと一緒にやりましょう”となった。令和になると完全に一体化した。それで企業も社会も環境も持続可能性でやりましょうとなった。ESGは今まで政府とか国連とかで使われてきた基準も企業の経営の中に取り込んでこようという指標なんです」と補足。
藤井氏は「今までは経営とCSRや環境・サステナビリティが別に動いていた。そこから今は経営計画を作るにしても、最初の構想段階から経営とサステナビリティを統合して検討していかなければいけないといったことは提唱させていただいている」などとビジネスの現場を解説。
堀氏が「企業のCSR、CSV、SDGs担当は頑張っているが、それを社内に広げようとした時に苦労している印象」と言うと高山氏は「私はその担当。それをやるときに“社会で必要だからやって”とESG評価の話をすると“遠いな”となる。でも一番下の“個人のWell-beingをやりましょう、例えば従業員満足度とかを上げていきましょう。その結果、お客さま企業にいいサービスができるでしょう”というと売上などが絡んでくるんで、よりみんながやりやすくなる。結果、それがESGにつながるんだよということを会社に浸透させるのが大変」と苦労の一端を明かす。そして講演等で子供たちと接する機会が多い栗原にその“巻き込み方”を聞くと栗原は「上からの意見を押し付けるのではなく、今できている素晴らしいところを最初に伝えている。そして“さらにこうすればよくなる”という教え方をしてあげると否定されていないので、現時点からプラスアルファを見つけて行こうとすごく前向きに楽しんでくれる。自分が教えてもらったように厳しい時代もあったが、それを踏まえて、時代の流れとともに変化した指導法を心掛けている」と語った。

ではdoingではなくbeingであり続けるためにはどうしたらいいのか?
藤井氏は「課題はたくさんあると思う。その中のいくつかを話すと、一つは、個人が自分が幸せな状態って何だろう? 幸せであるためにどうすればいいのだろう?ということにちゃんと気づくということ、見つけることが一つの出発点だと思っており、パーパス・クエスト(探索)というキーワードで、各個人がキャリアを通じて成し遂げたいことを見つけていく取り組みも始めている。そのうえで、一人でやれることは限られているので、一緒にやれるコミュニティ、仲間をまず小さなところから作って、徐々に大きなうねりにすることができると、Well-beingな状態を自ら作り出し広げていける、そんな循環が回っていくと良いのでは」と語る。
栗原氏は「私も選手の時は足りないところに目が行く選手だった。あの選手はできるのに自分はできないというように。逆に相手の選手から自分も同じようにみられているという感覚を持てない選手だった。今は自分が接するほうになったので、子供たちには“今、ここがすごくいい”と伝えてあげると、そこで一度自己肯定感を認めることができるようになっていると思っている。そこで“さらにやってみて”と言うと、大げさなくらいやってくれたりする。“じゃあもうちょっと控えてみようか”と言うとちょうどいいあんばいになったりということを、子供たちが体現してくれるので、私自身も自分が選手の時に足りなかった部分を答え合わせさせてもらっているような感覚で、毎回感動をもらっている」などと子供たちと接する中での体験を交えて語った。
こういった話を受け高山氏は「企業は企業価値が上がるからESG投資というものをやっている。デジタル田園都市の地域幸福度(Well-being)指標というものを官邸が去年から国の指標の中にどんどん入れていこうということになった。例えばスポーツによってこういう満足度が高まったとか、地域の教育のレベルが上がってきたといったことで地域の満足度が高くなることで地域の指標も上がっていく。国も何も考えていないわけではなく、巻き込もうということで、今回は地方創生に地域幸福度というものを入れてきている。GDPというものがあるが、今度はGross Domestic Well-being(GDW)という指標を使おうという運動もあるので、ぜひピースコミュニケーションの後としてSDGsの後に“Well-beingで行こうじゃないか”という大きなムーブメントにしていかないといけないと思っている」などと語った。

最後に栗原氏は「スポーツ選手って特別なものと見られがちだが同じ“人”なんです。講演会などでも私は失敗談をあえて多く話すようにしているんです。失敗をどういうふうにとらえて変えていくかということをたくさん考えたということを伝えているんですが、それがみんなに悩みがあった時に少しでも思い出してもらえるヒントになってくれればいいなと思って取り組んでいます」、高山氏は「私は社会課題の解決というのがボランティアとかその時に1回だけやるんだけど続かないというのでは困るので、ビジネスとしてちゃんと儲かるということをSDGsでもWell-beingでも表していかないといけないと思っているので、なんとか稼げる体制を作りたいと思っていたが、今日は一番いいきっかけをもらいました」、藤井氏は「私自身、この時間がWell-beingを感じる時間だった。それは先ほど触れた「傾聴」ということをまさにこの場で皆さんがされていたからではないかと思う。皆さんがこの場でそれぞれお話を聞いて、もっと知りたいという空気感をすごく出して下さっていた。そういった場面や機会がもっとどんどん広まっていくと身近なところからの変化も起こるのではないかと思っています」などとそれぞれ語った。
そして堀氏が「聞くと学びがある。驚き、発見、共感、いろいろな気持ちが動きますよね。心が動かないとき、“心をなくす”と書いて“忙しい”ですけど、会社で働く、社会でなにか自分の生業を実行するという時に心をなくすようなあり方ではいけないなと思います。それをどういうようなアプローチで進めていくのか、ぜひこれからも皆さんと考えていきたい」と締めくくった。
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