―[絶対夢中★ゲーム&アプリ週報]―
◆「ポケモンの日」のサプライズ発表
「いい睡眠リズムを、つかまえよう!」をコンセプトにしたアプリ『ポケモンスリープ』(iOS/Android対応予定)が今夏、全世界でのリリースを予定していることが、公式番組「Pokemon Presents 2023.2.27」にて発表されました。「発表の大穴は『ポケモンスリープ』」との事前予想もちらほらとありましたが、実際にアナウンスされるや「ついに目覚めた」「何年もめっちゃ待ってた!」とSNSは歓迎の声で賑わいました。
もともとは、2019年5月にすでにタイトルや内容が公表されていたもの。約4年の沈黙を経てようやく配信が実現する運びとなりました。今回のコラムは、『ポケモンスリープ』とはどのようなゲームか、また“睡眠ゲーム”という新ジャンルについても考えていきたいと思います。
◆ポケモンの寝顔をゲットするゲーム

今夏配信予定の『ポケモンスリープ』公式サイト
『ポケモンスリープ』は、『生きろ!マンボウ!』『はねろ!コイキング』のSELECT BUTTONが開発するスマホゲームアプリ。スマホを枕の横に置いて寝ることで、自分の睡眠状態を計測・記録できます。ユーザーの睡眠は、「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」の3つの「睡眠タイプ」に分類され、同じような睡眠パターンを持つポケモンたちが集まってきます。その寝顔を集めるのがこのゲームの目的。つまりは睡眠をエンターテインメント化、ゲーム化しているわけです。
スマホ単体で遊ぶこともできますが、7月14日発売予定の新デバイス「Pokemon GO Plus+」を使えば、ワンボタンで簡単に睡眠データの計測が可能に。このデバイスは『ポケモンGO』とも連携しており、睡眠データを使った機能が『ポケモンGO』にも新たに実装予定だそうです。「Pokemon GO Plus+」は『ポケモンGO』ユーザーからも注目を集め、2月28日の予約開始時にはオンラインストアでの一時予約終了が相次いでいました。
◆睡眠のゲーミフィケーションとは?
こうした睡眠を題材にしたゲーム系アプリは、最近ポツポツと登場しています。たとえば2022年4月には集英社からアプリ『よひつじの森』(iOS)が配信スタート。こちらはスマホの加速度センサーによる睡眠データの収集はありませんが、睡眠時間を自分で記録することで朝起きるたびに羊が増え、物語が進んでいくという内容。

遊びながら睡眠が分析できる『夢冒険』
また、今年2月に配信開始された睡眠改善RPG『夢冒険』(atelierent.jp、iOS)は、スマホで睡眠状態、いびき音を計測して分析してくれます。睡眠の質で冒険のストーリーが変わっていくという仕掛けになっています。
『ポケモンスリープ』がリリースされ、話題を呼べば、ますます“睡眠ゲーム”は増えていき、ひとつのジャンルとして定着する可能性があるでしょう。
◆睡眠ゲームが注目される3つの理由
それでは、どうして“睡眠ゲーム”が今注目され始めているのか、その理由を3つ考えていきたいと思います。
◆1 睡眠の計測・データ化が一般的になった
現在、スマホやリストバンド型デバイスによる睡眠状態の計測が浸透しつつあります。加速度センサーと寝息の録音などによって、睡眠時間、レム睡眠とノンレム睡眠のリズムなどが計測でき、睡眠の質が測れるようになりました。ゲーム性がない実用的な睡眠アプリを試したことがあるという人も多いでしょう。
家電業界では、昨年パナソニックが寝室専用エアコン「エオリア スリープ」を発売。ベッドサイドのセンサーで入眠から起床までの温度をモニタリングし、スマホで寝返りを計測するなどアプリとの連携も併せて、理想的な睡眠環境を作ることをコンセプトにしています。
ほかにも、睡眠センサー付き電動スマートベッドや、睡眠リズムにもとづき入眠と起床を促す照明など、IoTブームと相まって睡眠家電市場は盛り上がりを見せています。
これまで“ぐっすり眠れた”という表現はありましたが、眠りの質は感覚的なものでした。それが数値化・データ化されるようになり、一般的な物事をゲーム化して習慣づける「ゲーミフィケーション」との相性も良くなりました。

睡眠の計測ができる『ポケモンスリープ』連携の新型デバイス「Pokemon GO Plus +」公式サイト
◆2 時間のパイの奪い合い
ゲームに限らず、Netflixなどの動画配信サービス、VTuberが活躍するライブ配信、マンガ配信サイトなど、さまざまな娯楽があり、時間のパイの争奪戦はますます激しくなってきています。
そうしたなかで、いわば睡眠時間帯はブルーオーシャン。寝ている間にプレイヤーが何かをするわけではないですが、毎日のライフスタイルに組み込まれることで他の娯楽コンテンツとの差別化が図れます。移動している時間もプレイ時間と呼べる『ポケモンGO』も同様の狙いを持っていると言えます。
◆3 スキルはゲームで学ぶ時代に

フィットネスを上手くゲームに落とし込み大ヒットした『リングフィット アドベンチャー』公式サイト
時間対効果を意味する「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する考え方が浸透し、人生の持ち時間およそ1/3を消費する睡眠もまた一種のスキルとして捉えられるようになってきました。かつては、夜眠れている人にとって睡眠は当たり前のことで、それほど重要視されていなかった側面があります。
しかし、最近はただ寝るだけではなく、どうやってその質を高めるか、いかに寝起きにスッキリした気分で覚醒するかなど、就眠・覚醒のスキルが求められ始めています。そうした睡眠スキルの習得・習慣化を手助けしてくれるのがゲームという存在。
古くは『脳を鍛える大人のDSトレーニング』で空前の“脳トレ”ブームが巻き起こりました。冒険しながら筋トレやダイエットができる『リングフィット アドベンチャー』のブームも記憶に新しいところ。ゲームを続けることで、寝ることが楽しくなり、自分に合った睡眠スキルを身につけられる時代が到来する予感がします。
◆“睡眠ゲーム”はどこまで進化する?
今夏配信の『ポケモンスリープ』が、どこまでブレイクするか、睡眠習慣にどのようなプラスをもたらすか、その結果によって、今後の“睡眠ゲーム”の方向性がある程度見えてくるのではないでしょうか。
将来的には、音楽や香り、ぬいぐるみ型デバイスを用いた温度や触感の変化などによって、ゲーム世界に入り込んだかのような夢が見られる……。そんなタイトルも登場してくるかもしれません。
<文/卯月 鮎>
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【卯月鮎】
ゲーム雑誌・アニメ雑誌の編集を経て独立。ゲーム紹介やコラム、書評を中心にフリーで活動している。雑誌連載をまとめた著作『はじめてのファミコン~なつかしゲーム子ども実験室~』(マイクロマガジン社)はゲーム実況の先駆けという声も