インドで学んだ“普通”の中国女子の考え方 北インド放浪3カ月 最終回

インドで学んだ“普通”の中国女子の考え方 北インド放浪3カ月 最終回

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  • 更新日:2018/01/14
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(2016.6.18.~9.14 89日間 総費用18万2000円〈航空券含む〉)

中国女子インドひとり旅

9月5日。夕刻ヴァシュシトのゲストハウスのテラスでウィスキーを飲んでいたら、中国人女性がチェックイン。マ・リーエンは広西省出身の漢民族で33歳。ちなみに中国では多数の少数民族がいるので、出身地や民族を初対面で確認することが多い。

中国国境パンゴンツァに向かう山岳道路は真夏でも雪が降る5200Mの峠を越える

リーエンは広西省の地元の高校を卒業後、長年雲南省昆明の食品会社で品質管理の仕事に従事。共産党員ではなく普通の庶民だ。リーエンは仕事を辞めて9カ月の長期旅行の途上。フィリピン、マレーシア、ベトナム、ラオス、ミャンマー、タイ、スリランカを経てインドに到達。

英語をある程度話せる中国人と会話する時に、筆談も交えると複雑な内容の会話が可能となる。リーエンはいわゆる知識人であり中国古典にも詳しい。そんな訳でインドでは希少な中国人旅行者と、2日間にわたり英会話・北京官話+筆談を駆使した超高密度親善交流をすることになった。

リーエンは先ず日本と中国は共通の文化的背景があることを例証。七夕は日本では7月7日であるが中国では7月15日の由。織女(織姫)と牛郎(牛飼い)と仙女が登場するのは共通のようだ。そして有名な竹取物語などの伝説(神話シェンホア)から中秋の名月(仲秋的賞月)を愛でる習慣など多岐にわたる共通点を論じる。

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レーの王宮の壁に描かれた曼陀羅

そしてオジサンに対して「貴男は品徳(ピンドゥ)君子(ジュンツ)である」などと持ち上げる。こうなってくると高校時代の漢文の教科書知識を総動員することになる。

オジサンが63歳であると言うと「六十耳順」(リユウシーアールシュン)と論語(ルンユィ)を引き合いに出す。仕方ないので「三十而立」「四十不惑」「五十知天命」等を唱和することに。

日中歴史知識対決

リーエンは孔子(コンツ)、老子(ラオツ)、孟子(モンツ)、孫氏(スンツ)など次から次へと繰り出してくる。「三十六計、走為上計」(三十六計、逃げるにしかず)であるが逃げ出すわけには行かず防戦一方となる。

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チベット仏教の仏像のお顔には凛とした清々しさを感じる

儒家の説く仁・義・礼・智・信は、現代中国でも人々の根本思想として生きているとリーエンは力説。共産中国ではとても儒家思想が生きているとは思えないが、リーエンの手数が多くて上手く反論できない。

唐代には中国は世界一の文明水準にあったが、その理由をリーエンは解説。世界四大文明のインダス文明、メソポタミア文明、エジプト文明はそれぞれ文字を持ち文明を継承することは可能であった。しかし文明を担っていた民族そのものが滅亡してしまったので文明は断絶。

対して中国文明は紀元前数千年から現在に至るまで共通の文字(漢字)と民族(漢族)により途切れることなく継承されてきた。リーエンは中国文明の特異性を強調。この中国文明から日本や韓国などアジア各国の文化は“派生的”に発達してきたと位置づける。

確かに日本は遣唐使を通じて仏教、律法、建築など文化の基礎を輸入したことを思うと“派生的”と分類されても文句は言えない。

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ラダック地方の寒村の路傍のお地蔵さん

共産党独裁は歴史の必然か

ではリーエンは現代中国をどのように捉えているのだろうか。リーエンによると漢民族は満州族清王朝の封建的支配の下で抑圧されていた。1911年の辛亥革命、さらには1949年の中華人民共和国成立により漢民族は復興した。リーエンは1911年以降のプロセスを“中華民族の覚醒”と定義。そして習近平の掲げる“2020年小康社会”到来は現実のものとなってきたという。

共産主義と資本主義を対立する概念として捉えるのは“冷戦時代の思考”であると批判。例えば中国でも情報開示を順次拡大しているが、混乱を回避するために慎重に進めているという。

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マナリー近郊の村の小学生

共産中国は一貫して平和国家?

南シナ海での中国当局の侵略姿勢に疑問を呈したところ、リーエンは断固反論。曰く「共産中国は平和国家であり他国を侵略したことはない。中国の主張する南シナ海における領海は歴史的に中国に帰属しており、第三国の介入は許されない。チベットは歴史上中国領土。台湾も中国固有の領土であり独立はあり得ない。ベトナムがラオスに侵攻したから対抗上中国はベトナムと戦ったのである」

中国外交部報道官顔負けの論法である。

天安門事件での共産党の対応は正しい

リーエンに共産中国の政治について意見を聞いたところ、「鄧小平の改革開放政策以降の経済成長により民衆の生活水準は飛躍的に向上。政治の安定と経済成長が民衆にとって最重要である。性急な民主化は中国の現状に適さない。天安門事件への共産党の政治的判断は正しかった。未熟な若者たちに政治を任せて経済を混乱させるのは愚かな選択」と政治的自由よりも経済優先の立場だ。

「中国にも表現の自由、言論の自由はある。外部からは分かり難いかもしれないが、ネットなどの政府批判に関して当局は注意深く対応している。ネット言論から民衆の意見を吸い上げて慎重に対策を検討している」という。

中国の人権は中国人が決める

人権問題についてのリーエンのスタンスも揺るぎない、曰く「中国の死刑制度を欧米諸国は批判しているが、中国で死刑を廃止すれば重大犯罪が激増することは自明。社会秩序維持のため死刑制度は必須」。他方で「米国は死刑反対を唱えるが、米国の白人警察官が無実の黒人を射殺していることを中国人も知っている」と手厳しい。

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デリーの八百屋。生姜、カリフラワー、青唐辛子、オクラ、ゴーヤ、紫玉葱、ミニキャベツ、ズッキーニなどが並ぶ

中国人は政治が大好き?

どうしてリーエンは政治問題について自分の意見を滔滔と展開できるのか不思議に思った。日本の同年代と話しても政治問題を理路整然と語れる人間は稀有であるからだ。

「中国では友人どうしでいつも政治問題を討論しています。だから自分の考え方を常に整理しています」とリーエンは説明した。

リーエンの考え方は“普通の中国人”の平均的な考え方であるという。但し“普通の中国人”というのは少々定義する必要がある。少なくとも新聞を読んだりTVのニュースを見るような人々という階層である。毎日の生活に追われて食うや食わずの人々は、どこの国でも同様であるが、客観的に物事を考える余裕がないからである。

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デリーのパン屋の親子

リーエンは“普通の中国人”を代表しているのか

中国の領土問題、政治的自由、人権問題、等々に関するリーエンのコメントは共産党指導部の公式見解とほぼ変わらないように思えた。政治的自由よりは経済的発展を優先するべきという意見は中国人旅行者から何度も聞いているので違和感はなかった。(『採るべきは自由か安定か 中国で“普通の学生”が考える民主主義』参照)

人権問題についても中国国営テレビのCCTVでは意図的に米国の人種差別問題を取り上げているので一般の中国人も理解しているのであろう。

領土問題については中国人が外国人と話すときには自発的な愛国心から政府公式見解に近い発言となると思われる。共産党による歴史教育が徹底しているので領土問題は幼いころから叩き込まれているからだ。

こうして考えてみるとリーエンの発言は総合的にかなり普通の中国人の平均値に近いように思われる。

尖閣問題は容易ではない

中国の普通の人々がリーエンのように共産党公式見解に近い認識を持っているならば尖閣問題は深刻である。共産党にとり大衆の広範な支持があれば強硬手段に訴えることは容易である。“領土を守る”という覚悟を日本人は問われている。

⇒終わり

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