NASA、新型ロケット「SLS」の初飛行を延期 - 開発に遅れ、2019年12月以降に

NASA、新型ロケット「SLS」の初飛行を延期 - 開発に遅れ、2019年12月以降に

  • マイナビニュース
  • 更新日:2017/11/14
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米国航空宇宙局(NASA)は2017年11月8日(現地時間)、開発中の超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)の、初飛行の時期について、2019年12月へ延期すると明らかにした。この初打ち上げは、無人の「オライオン」宇宙船を月まで飛ばす計画で、これまでは2018年11月の打ち上げを目指すとされていた。さらに、今後の開発状況によっては、2020年6月まで遅れる可能性もあるという。

○超大型ロケット「SLS」と新型宇宙船「オライオン」

NASAは現在、2020年代に月へ、そして30年代に火星への有人飛行を行うことを目指し、新型ロケットや宇宙船の開発を続けている。

この計画はもともと、2004年に当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が立ち上げ、オバマ政権時代にいくつかの変更はあったものの、月や火星を目指すという方針はおおむね維持され、そして現在のトランプ政権に受け継がれ、いまに至っている。

その計画のかなめとなるのが、人や大量の貨物を打ち上げられる超大型ロケット「SLS」(Space Launch System)と、新型の有人宇宙船「オライオン」(Orion)である。

SLSは新型ロケットではあるものの、ロケットエンジンやタンクなどは、スペース・シャトルの技術や部品を流用する。また、必要に応じて有人ロケット型や大質量の貨物運搬型などに機体の構成を変えることができ、さらにブースターや上段の換装などで段階的に能力を向上させる計画もある。開発はボーイングが担当しており、現在はSLSの初期型にあたる「ブロック1」の開発の真っ最中で、すでに機体や部品の製造も始まっている。

一方のオライオンは、アポロ宇宙船を一回りほど大きくしたような宇宙船で、最大6人の宇宙飛行士を乗せ、月や火星まで飛んで帰ってくることができる能力をもつ。開発はロッキード・マーティンが担当しており、2014年には無人試験機の打ち上げが行われ、月からの帰還を模した試験飛行に成功している。

現在は欧州宇宙機関(ESA)と協力しつつ、実際に月まで飛んで帰ってくることができる実機の開発が続いている。NASAが宇宙飛行士が乗る宇宙船のカプセル部分を、ESAが太陽電池やバッテリー、スラスターなどがある機械モジュール部分の開発、製造を担当している。

○延期を繰り返す「EM-1」の打ち上げ時期

NASAでは現在、SLSブロック1の初飛行、そしてオライオンの実機の初飛行となるミッションとして、「探査ミッション1」(Exploration Mission 1:EM-1)を計画している。

EM-1は、SLSに無人のオライオンを載せて打ち上げ、月を何周かしたあとに地球に帰還。一連の飛行を通して、SLSの打ち上げ能力やオライオンの性能などの検証、試験が行われる。また打ち上げ時には、日本を含む世界各国の大学や研究機関が開発した超小型衛星も相乗りし、月の軌道や月面に向けて放出されることになっている。

2014年にオライオンの初飛行が行われた際、EM-1の実施は2017年12月に予定されていた。しかし、SLSやオライオンの開発が遅れたことから、2018年11月以降へ延期。そして今回、さらに1年以上延期し、2019年12月以降になることが決まった。

NASAによると、延期の理由のひとつには、SLSやオライオンの開発や試験が行われているルイジアナ州ニュー・オーリンズのNASAミシュー組立施設(1)に、今年2月、竜巻により大きな被害が出たためとしている。

著者注:*1: Michoudについて、Google Mapsなどでは「ミックハウド」という読み方が一般的だが、実際には「ミシュー」という発音である

この当時から、2018年11月という予定から遅れる可能性は示唆されており、2019年の前半ごろという見通しが明らかになっていた。また今年6月には、NASAが米議会に対し、2019年10月ごろになると伝えており、さらに延期することもほぼ確実視されていた。

さらに竜巻の被害以外にも、欧州側が担当するオライオンの機械モジュールの開発が遅れていること、そしてSLSのタンクに製造上の問題が起きたことも延期の要因として挙げられている。

また、2019年12月というのも楽観的な見通しであり、今後の開発や試験の進み具合によっては、2020年6月まで延びる可能性もあるとしている。

NASAのロバート・ライトフット(Robert Lightfoot)長官代理は、「検討の結果、製造の遅れなどにより、2020年6月まで遅れる可能性もあります。ただ、現在のところNASAは、2019年12月という目標で進めています。以前、懸念されていた大きなリスクのうちいくつかが、実際には出現しなかったため、それらを考えずに計画を進められる戦略を立てることができるためです」と語った。

また、一度議会で認められた計画において、増加コストやスケジュールの遅延が一定のしきい値(15%か30%)を上回った場合、NASAは議会に「違反」を報告しなければならないという制度(ナン・マッカーディ制度)があるが、今回の延期によるコストの増加については、15%増の範囲内にほぼ留まるか、少し超える程度だとしている。

○初の有人飛行には影響はない見通し

NASAではEM-1のあと、2023年ごろに、宇宙飛行士が乗ったオライオンを打ち上げ、1~3週間ほどかけて地球と月を往復すると共に、計画中の月軌道ステーション「深宇宙ゲートウェイ」(Deep Space Gateway)の構成要素のひとつを打ち上げる、「探査ミッション2」(EM-2)を行うことを計画している。

今回の発表では、EM-1が1年以上延期となるにもかかわらず、EM-2の実施時期には影響はなく、2023年の予定のままであるとされた。

ただ、それを実現するために、オライオンの脱出システムの試験「上昇アボート2」(Ascent Abort-2)を前倒しし、2019年4月に行う予定だという。この試験は、退役した大陸間弾道ミサイル「ピースキーパー」の上に無人のオライオンを載せて打ち上げ、飛行中にオライオンの先端に取り付けられた脱出システムを起動させ、宇宙船が安全に脱出できるかを確かめることを目的としている。

この試験は当初、EM-1よりあとに実施される予定だったが、前倒しすることで、EM-2の打ち上げ時期に影響を与えずにすむという。

またEM-1とEM-2の間にあたる2022年ごろには、SLSを使って、木星の衛星エウロパに探査機「エウロパ・クリッパー」を打ち上げることも予定されているが、この打ち上げへの影響も出ない見通しだという。

なお、EM-2のあとには、さらにオライオンと深宇宙ゲートウェイの構成要素の打ち上げを続けることが計画されているが、まだ予算はついておらず、いまのところ構想段階にとどまっている。

○民間企業の超大型ロケットの活用は?

今回の延期は、開発の遅れや、今年2月の竜巻被害から考えると、十分に予想できたものではあるものの、民間企業が開発している超大型ロケットや宇宙船の活用を求める声が大きくなるきっかけになるかもしれない。

実業家のイーロン・マスク氏が率いる宇宙企業スペースXは現在、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」と、さらにそれを超える巨大ロケット「BFR」の開発を進めており、また同じく実業家のジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンも超大型ロケット「ニュー・グレン」の開発を進めている。どのロケットも月への有人飛行や大量の物資輸送が可能で、さらに両社は宇宙船の開発も手がけており、能力的にはSLSやオライオンの役割を肩代わりすることもできる。

すでにスペースXは2018年に有人月飛行を行うことを発表しており、2024年からは火星への有人飛行も行いたいとしている。ブルー・オリジンも2020年代に月探査や資源開発を行う構想を明らかにしている。彼らの目論見どおりに計画が進めば、NASAの現在の月・火星探査計画を周回遅れにし、SLSやオライオンに引導を渡すことになるかもしれない。

ただ、SLSやオライオンは依然として議会からの支持が厚く、いまのところ中止される可能性は低い。その背景には、ボーイングやロッキード・マーティンなどの大企業が開発にかかわっており、またそれらの企業がある地域から選出された議員がいることなどが大きい。

また、商業的に成立するかまだ不透明な有人月・火星飛行を民間企業が主導することは、事業から撤退する可能性があり、さらに失敗のリスクも大きいことから、確実な実現のためには、引き続きNASAが主導していく必要がある、という見方もある。

参考

・NASA Completes Review of SLS, Orion Deep Space Exploration Mission | NASA

・SLS managers rally the troops to avoid EM-1 slip into 2020 | NASASpaceFlight.com

・NASA sets December 2019 date for first SLS launch - SpaceNews.com

・First SLS/Orion Launch Slips to December 2019, At Best - SpacePolicyOnline.com

・Launch Abort System - NASA

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

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