完成度の高いM1を上回るM2搭載「MacBook Pro 13インチ」その性能と位置付け【本田雅一】

完成度の高いM1を上回るM2搭載「MacBook Pro 13インチ」その性能と位置付け【本田雅一】

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  • 更新日:2022/06/23
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6月24日に発売する「MacBook Pro 13インチ」モデルを先駆けて試用した

アップルは開発者向け会議のWWDC22で、第2世代となる自社開発のMac向けSoC「M2」を発表。M1ファミリーはオリジナルの発表後、M1 Pro/M1 Max/M1 Ultraと開発を進めていた。M2は線幅こそ同じ5nmだが消費電力の低減など生産プロセスがマイナーチェンジされたTSMCのN5Pプロセスに合わせて設計された新しい世代のSoCとなる。

最初に搭載される製品は、M1のときと同じくMacBook Proの2基のThunderboltポート、13インチディスプレイモデルとMacBook Airだ。MacBook Airはディスプレイや機構設計を含めハードウェア全体が一新されているが、MacBook Proの13インチモデルはM1搭載機と全く同じ機構設計と冷却システムを搭載する。

それだけにM1とM2の違いを観察するのに適していると言える。

機構設計をM1搭載モデルから引き継いだMacBook Pro 13インチ

MacBook Pro 13インチはMacBook Airがフルモデルチェンジとなったことで、Mac miniと並んで最も機構設計の刷新から長く経過した製品カテゴリとなった。インテル製プロセッサ搭載時代から基本構造を継承しており、途中、キーボード構造の変更はあったものの、そのフォルムは長年親しまれてきているものだ。

2ポートThunderboltモデルは底面に吸気口を持たず、ヒンジ部に隠れた部分からのエアフローで冷却をするため、上位モデルよりも熱処理の容量は低く、およそ16W程度のTDP(熱設計電力)を持つSoCまでにフィットすると考えられる。

とはいうものの、ファンレス設計のMacBook Airよりも安定した冷却ができるのは確かでM1搭載モデルでは長時間、持続的にパフォーマンスを必要とする用途でMacBook Airよりも安定した性能を発揮した。

短期間ながら試用した感覚でいえば、M1とM2はチップ面積が35%も増えているが、トータルの消費電力は増加しておらず、設計面ではそのまま従来のM1システムに搭載できると考えてよさそうだ。これは製造プロセスのアップデートに加え、回路設計の最適化で処理効率が高まったためだ。

詳細は後述するが、M2はM1の完成後にアップデートされたさまざまな開発成果が盛り込まれているため、同じ処理を行うためにより少ないSoCへの負荷(=消費電力)で同じ処理ができる。このためバッテリ持続時間を犠牲にせずにパフォーマンスを引き出せる。

言い換えれば、M2を搭載した以外にはほとんど何も変更はない。

M2搭載により映像処理や音声処理の回路や信号処理ファームウェアがアップデートされ、それぞれにレベルアップはしているが、MacBook Airのディスプレイ輝度が400nitsから500nitsへと向上したこともあり、MacBook Pro 13インチモデルを必要とするユーザーは次のようなユーザーがターゲットとなるだろう。

・動画書き出しや3Dレンダリング、長時間のGPU処理などコンスタントにパフォーマンスを発揮する必要があるアプリケーションを多用する ・Final Cut Pro、Logic Proなどに代表されるTouch Barでの操作が便利なアプリケーションの操作に慣れている(現在、唯一のTouch Bar搭載機) ・MacBook Pro 14インチモデルよりもコンパクトかつ軽量なシステムを求めている

といったところだろうか。MacBookのラインナップを俯瞰すると、多くのユーザーは新しいMacBook Air、あるいは予算面で大きな違いはあるものの用途次第では14インチモデルがフィットするだろうが、一方でコンスタントなパフォーマンスを発揮できるプロモデルとして費用対効果に優れる製品とも評価できる。

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M1を成熟、最適化したM2

半導体の回路設計は、その生産プロセスとの組み合わせで行われる。言い換えればこの時期に登場するということは、iPhone向けのA15 Bionic向けに開発された構成要素を活用するということだ。したがって、搭載されるCPUコアがM1のFirestorm/Icestorm(それぞれ高性能コアと高効率コア)から、A15 Bionicに搭載されるAvalanche/Blizzardへと更新されている。

これは他の処理回路も同じで、Neural Engine、ISPなどの設計もA15 Bionicと同じ世代になっている。当然ながら各回路とセットで開発されている信号処理ソフトウェアなども共通している。

アップルの場合、全て自社開発で賄われているため、どこかのレイヤで切り離して外販されるわけではないが、基礎となる半導体の設計が変われば、その半導体の性能や機能に合わせて最適化された信号処理技術が乗り、それが各ジャンルのOSから利用されている。

そうした意味では公式、非公式にアップデートされているiPhone 12からiPhone 13に向けての改善要素は、そのままM1搭載MacとM2搭載Macにもき期待できことになる。これはベンチマーク結果などの表面的な数字には現れないが、効果的にユーザー体験を改善する部分と言える。

このような順当な進化に加え、M2にはM1に続くファミリー展開で変更された要素も取り入れられている。ひとつはProResコーデックも含めた動画エンコード、デコードのアクセラレータ回路「Media Engine」の搭載だ。単に高精細の動画を楽に扱えるようになるだけではなく、動画処理が高効率になることでバッテリ駆動時の動画処理や発熱などにも良い影響が出る。

もうひとつはメモリ帯域の増加だ。M1で使われているDRAMはLPDDR4xだったが、M1 Pro以降はLPDDR5に更新された。これによりメモリ帯域は1.5倍となっている。同時に採用するメモリチップの密度が高まったことで最大メモリは16GBから24GBに増加した。

GPUに関してもコアそのものの性能が最新世代になったことに加え、コア数が8から10に増大している。ただコア数が増えただけでなく、処理性能に見合うシステム全体の見直しもかかっている。M1、M2はいずれも共有メモリアーキテクチャという構造を採用することで、余分なメモリ転送を避け、複数の異なる専用プロセッサによる効率的な処理ができる。M2でのメモリ帯域増加は、GPUコア数増加に代表される全体の処理能力増強に見合うものだ。

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M2搭載機

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M1搭載機

消費電力そのままにコア進化+クロック周波数向上

M1と全く同じシステムに換装できるよう設計されている。全く同じ本体を持つM1搭載のモデルと並列に並べてテストしたが、本体の温度上昇はほとんど変わらない。熱的な特性はM1とM2で揃えられているようだ。言い換えれば、M1搭載機とM2搭載機の(発熱に関しての)体験は全く同等と考えていい。

その上でクロック周波数の上限が高められ、GPUコア数の増加とコアの高性能化、Neural Engine強化、Media Engineの搭載などが実施されている。CPUの最大クロック周波数は3.5GHzと300MHz向上している。いずれもシングルコア処理での最大値だが、同時に多数のコアが動作する場合はM1が3GHz、M2が3.2GHz動作で200MHzの増分となる。

GPUなど他コンポーネントのクロック周波数は明らかではないが、同時にコアの設計も進歩しているため、ベンチマーク結果を複合的に読み取るのが良いだろう。

・Cinebench R23  Cinebench R23は主としてCPUの性能テストであるとともに、マルチコアでの高負荷をかけた際の発熱具合や持続的なパフォーマンスについて計測できるアプリケーションだ。処理は3DグラフィックスのレンダリングだがGPUは使われない一方、並列度が高く、全CPUコアにほぼ100%の負荷をかけることができる。それ故に冷却システムを含めたシステム全体の処理能力を知ることができる。

26度の室温で10分間の連続テストを実施したが、M1、M2いずれのシステムにおいても、最も高温となるヒンジ部中央、キーボードとの間の部分で36度台をキープしていた。

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M2搭載機

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M1搭載機

冷却ファンは動作するため、おそらくM2搭載MacBook Airでは長時間動かしていると性能が落ちてくるだろうが、本機ではMacBook系製品での温度上限(おそらくスロットリングが発生している温度)となる40度超(41〜42度程度)の領域まで余裕があるため、よほど暑い環境でなければ性能を維持できるだろう。すなわち「同等の発熱量(冷却能力のバジェット)」での性能差と言える。

さてスコア評価だが、マルチコアが13.2%、シングルコアが11.2%の向上となった。クロック周波数の増分はマルチコア時6.7%、シングルコア時10%であるためシングルコア(高性能コア)は、回路設計の刷新による影響はさほど大きくないと考えられる。

一方、マルチコア(4個の高性能コア+4個の高効率コア)のスコアはクロック周波数に比して速度ゲインが大きい。これは高性能コアに比べ、高効率コアの回路設計上の性能向上幅が大きいことを示唆している。

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・Geekbench 5  いくつかの典型的な関数を実行するベンチマークテストで、CPUとGPUの比較的単純な処理速度を計測できる。こちらも定番で異なるアーキテクチャのCPU、GPUでもそれぞれに最適化をしたり、GPU処理では利用するライブラリを切り替えられるなど多様な比較ができる。今回はMac上のパフォーマンスということで、GPU演算能力はMetalで計測した。

CPUのシングルコア性能で業界トップに返り咲き、マルチコアのスコアも大幅に伸ばした。マルチコアはCinebenchで考察した通り、高効率コアの性能向上が全体の伸びに寄与している。

もっとも、アーキテクチャの一新とコア数増加(8個から10個)の両方が効いているGPU演算能力はスコア値で30777と、M1の20500〜21000程度のスコアから1.5倍程度と大幅に伸びている。モバイル向けの外付けGPUで近いスコアはAMD Radeon 5500Mの29714あたりだろうか。内蔵GPUとしてはかなりの高性能と言えるだろう。

・3Dmark Wildlife Extreme Stress Test  iPad向けアプリの3Dmark Wildlifeを、Extreme Stress Testモードで動作させた。このテストは約1分の3Dシーンを20回繰り返しレンダリングさせるモードだ。フレームレートで45%前後の向上がみられ、Geekbench 5における50%アップという演算性能を裏付けるテスト結果となっているが、あえてストレステストで実行したのは熱の影響と消費電力の確認をするためだ。

M1搭載機では100%だったバッテリ残量が96%と、たった4%しかドロップしなかった。一方でM2搭載機はバッテリ残量が86%まで落ちており、GPUをフル稼働させた場合の消費電力が大きいことがわかる。

この結果は厳密にはGPUの消費電力だけを計測しているわけではないが、3Dmarkのように3Dグラフィクスを生成する処理においてピーク時に多くの電力を食うとも捉えられる。一方で限られたノートパソコンというフォームファクタ上でのことと考えるなら、短時間により多くの処理をこなせるという解釈もできる。

・Final Cut Pro  M2から内蔵されたMedia Engineの効能を探るため、Final Cut Proのパフォーマンスを観察した。「観察した」と表現したのは、このコンポーネントが活躍するシーンでは、他の処理能力も並行して試されることになるためだ。

なおテストではFinal Cut Proを用いたが、iMovie、DaVinci Resolve、Premere ProなどもMedia Engineを活用している。テストに使ったのは8K/30P/HLGのProRes422HQストリーム17本を用い、最終的に全ての映像を重ね合わせ、カラーグレーディングもしつつタイトルをオーバーレイする34秒ほどのビデオクリップだ。

特に中間ファイル(プロクシファイル、作業・表示用にProRes422で作られる)生成が高速になった。中間ファイルはバックグラウンドで、表の作業が中断しているときに生成されるため正確なベンチマークは計測できないが、おおむね2.5倍前後の速度で生成が進行、完了する。

これはMedia EngineのProResエンコーダ、デコーダが有効に動作しているからだろう。その裏付けとなるのがCPU負荷で、M1搭載機では中間ファイル生成期間中、最大では400%、おおむね100〜120%程度の負荷がかかっているのに対し、M1搭載機は30〜35%程度の負荷となる。またその際のGPU負荷もM1搭載機の方が低かった(40%未満、M2搭載機では60%を超える)。M2の方がGPU能力が高いことを考えれば 、実際のスループットは2倍以上あるかもしれない。

このプロジェクトからHEVCファイルを書き出す処理では、処理の75%に達するまでの速度がM2搭載機の方が3倍近く速い。その後はHEVCエンコードに入るため、M1とM2の差は縮まる(HEVCアクセラレータは両方に入っているためクロック周波数の違いのみになる)が、それでもM2搭載機の39分50秒に対してM1搭載機は48分20秒とかなりの差が出た。

しかも100%に充電してからバッテリ駆動で両処理をしたが、書き出し終了後の残量はM2搭載機が96%だったのに対し、M1搭載機は90%まで減っていた。つまり同じ処理を行うならば、M2の方が少ないエネルギーで済むことになる。

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MacBook ProのM2搭載機とM1搭載機でテストを実施した

機構設計の面で前モデルと全く同じであるため、注目は搭載プロセッサのみと言っても過言ではない。省電力化が進んだ製造プロセスとはいえ、線幅が同じであるため、あまり大幅な高性能化は望めないと思っていたが、実際には同じ熱設計電力の中で有意な高性能化が実行されている。

特にモバイル環境で動画メディアを扱う場合、Media Engineの搭載が大きく効いてくる。iMovieでも利用されているため、カジュアルに動画編集を楽しむ層にも有益な進化だ。少なくともCPU志向の強いアプリケーションでは発生する熱は増えておらず、高性能化した一方で快適性は失われていない。GPUをフルに回す場合の最大消費電力は増えているようだが、消費電力増分にも増してパフォーマンスが向上しており、決してマイナス要因ではない。

ただしファンレス設計のMacBook AirとのGPUパフォーマンス差は、M1のときよりも広がる可能性がある。M2搭載機のどちらを選ぶかは目的次第だが、SoCとしてのM2は完成度の高かったM1をさらに上回っているというのが率直な第一印象だ。

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筆者紹介――本田雅一  ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。

■関連サイト

Macbook Pro 13インチ

アップル

本田雅一 編集●飯島恵里子/ASCII

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