「ここだけの話ですが...」亡妻と浮気相手との出会いに衝撃

「ここだけの話ですが...」亡妻と浮気相手との出会いに衝撃

  • 幻冬舎ゴールドライフオンライン
  • 更新日:2021/10/14
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殺人現場

マンションの二軒隣のビルに喫茶店があった。ちょうど奥まった所に席が空いており、そこなら人に話が聞かれないで済みそうだったので、達郎たちはそこに着席した。ウエイトレスがオーダーをとった後、さっそく達郎が話を切り出した。

「この写真、どうしてあなたがお持ちなんですか」

「……」

ほんの少しの間、その女はためらった後、口を開いた。

「実は、私、化粧品会社で美容部員をしているんですけど、ちょうど去年の今頃、私がうちの社の接待要員に駆り出され、銀座の料亭に向かう途中、智子さんと偶然逢ったんです。

その時、うちの社員のうちの一人が美人の智子さんを気に入って、いっしょに接待に同席しないかと、私に誘えと言ったんです。私は、智子さんは絶対に他人の会社の接待になんか、付いてくるはずがないと思っていたんですが、誘ったら、来るって言ったんです……」

化粧品会社、接待、それらは、あの日井上が口にしていた単語だ。ということは、この女が、そうだ、田中、田中だ、さっきネームプレートを外していた。

「あ、あなたが化粧品会社の田中さん」

「そうですが、智子さんから私のことを聞いていらっしゃいましたか」

「え、いや、聞いてません」

そういえば、智子はその接待の場に、化粧品会社の田中という女性に連れてこられた、と井上が言っていた。いったい、この女と井上と智子がどのように絡むのか、瞬間的に推理を試みたが、頭が混乱して、うまく線で結びつかなかった。

「そ、それで……」

早く話の展開を知りたかった達郎だが、そこに、ウエイトレスがコーヒーを運んで来たので、テーブルの上に広がった写真を伏せながら、女の説明を待った。

「接待の相手は、松越百貨店の池袋店の店次長さんと、一階の売り場を統括していた部長さんで……」と言いながら、女が伏せられた写真を再び表にして、店次長と部長を交互に指差した。何と池袋の店次長というのが井上だった。

「こ、この男は……」

達郎が井上のことを尋ねると、

「この人は、もう池袋にはいないそうで、どこか地方の店に転勤になったそうです。名前は忘れましたけど」

この女はその後の智子と井上との関係を知らないのだろうか……いや、そんなはずはない、何かを隠している。

「この男と、うちの智子は、つまり、関係していたということですか」

達郎は、初耳のごとく装った。女はコーヒーを一口飲むと、小さく口を開いた。

「……え、まあ……はっきりとしたことはわかりませんが……」

その返答を聞きながら、達郎はしげしげと写真を眺めた。

「実は、私ども化粧品会社は、百貨店での売り場の位置を少しでも良い場所に、たとえば、入り口の近くやエスカレーターの近くなど、目立つ所で、人が沢山流れる所に設けるのがとても重要なんです。百貨店の場合、何といっても売り場の位置で売り上げが左右されてしまいますから。

そこで、少しでも良い場所を確保するために、百貨店のお偉い方を接待するのですが、そういう時に、私どもみたいなふだんは売り場で美容部員をしている者が駆り出されたりするのです……智子さんは、全くの偶然で、もし銀座の交差点で逢って、うちの課長がいっしょに誘えと言わなかったら、そんなことにはならなかったんですが……」

「それに、智子が……」

それを聞いて、智子と井上の二人の情景を想像しても、もう達郎は腹が立たなかった。二人は既に死をもって、その罪の償いを済ませているからだ。

「……ええ、もう私も引っ越してしまいますから、ここだけの話として、お聞きください」と言いながら、女はさらにコーヒーをすすった。

「その先がまだあるんです。その宴席で、もし、先方が気に入られた女の子は、一晩付き合ってしまうんです……」

「え、」

ということは、からだで接待するというのか。化粧品会社の接待というのは、そういう仕組みになっているのか。達郎は、耳を疑った。

「ええ、ご想像の通りです」

さすがに男馴れしているとみえて、女は勘が良く、達郎の気持ちを読んでいた。

「当日は、私ともう一人の美容部員の子がいたので、二人のうちのどちらかを選んでください、とうちの営業担当が言ったんですが、この池袋の人が、智子さんがいいと言い張ったんです」

な、なんということだ。達郎は、その話を聞いて唖然とした。

「そ、それで、智子はどうしたんですか」

「私も、智子さんは絶対に断わるだろうと思っていたんですが、その人に付いていってしまったんです」

「ほ、ほんとうに」

「ええ……言いにくいですけど、むしろ、智子さんの方から、積極的に受け入れていたように見えたくらいです……」

これで、この田中という美容部員の女と井上と智子との関係を、線で結ぶことができた。それにしても何ということだろう。化粧品会社は、良い売り場を確保するために、接待と称して、百貨店の連中に自社の美容部員を抱かせているなんて……金儲けのためには手段を選ばない、ビジネスマンらしいやり口だ。

八十島 コト

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