特別な色とリズムが生まれる場所 沖縄のクリエイターに会いたい。【植物採集家の七日間】

特別な色とリズムが生まれる場所 沖縄のクリエイターに会いたい。【植物採集家の七日間】

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  • 更新日:2021/02/22

ここではないどこかに行きたい。自分ではない誰かになりたい。

憧れや夢という非現実を見ることは、不思議と現実を強く生きる力を与えてくれるものです。

旅で出会った植物と人間の叡智をお届けします。

連載第3回は「特別な色とリズムが生まれる場所。沖縄のクリエイターに会いたい。」

どうして沖縄のクリエイターたちは圧倒的な世界観を表現できるのだろう。その魅力に迫ります。

https://www.youtube.com/watch?v=9zSWSfB7I_E

第3回

特別な色とリズムが生まれる場所 沖縄のクリエイターに会いたい。

- Expanded sensibilities –

■沖縄のクリエイターに会いたい。特別な時間が流れる場所へ

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訪問者は物語に変化を作る。私はいつでも訪問者だ。停滞した空気や凝り固まった状況をほぐして風を通し、土地を耕し、水をあげて庭を豊かにしていく。北海道から沖縄までプロジェクトを立ち上げてきた。「毎月、沖縄出張がある。」といえば、羨ましいという声が聞こえる。沖縄は誰にとっても憧れの場所なのだ。

私が沖縄で初めて手掛けたブランド、樂園百貨店。県内唯一のデパートであり、老舗であるリウボウらしさを体現する自社ブランド。誰にとっても「沖縄らしさ」が伝わるようにと、ストレートな表現で樂園百貨店と名付けた。商品企画や買付けのため沖縄在住の作家やショップオーナー達と出会い、海と空以外の魅力に夢中になっていった。

沖縄在住のクリエイターには沖縄出身だが、進学や就職で県外に住んだけれど故郷に戻るケースが多い。口を揃えて「沖縄以外でずっと生きていくイメージが湧かなかった」と言う。移住した人は「いつか沖縄で暮らす」と、長年の決意を形にした人達も少なくない。

今回訪問したのは3組のクリエイター。アパレルブランド作家 touch me not の中嶋さん、アクセサリー作家 churaumi -ukishima accessory lab.- の清水さんと空間デザイナーの小池さん。そしてギャラリー併設、陶器と洋服のお店 miyagiya-bluespot / miyagiya ON THE CORNERの宮城さんだ。やっていることやデザインジャンルなどは違うが、根底に近いものを感じた。

沖縄在住のクリエイターは自分らしい時間軸、特別なリズム、流行に左右されない色彩感覚を持っている。日々溢れる情報に触れていると、自分の軸を見失うことがある。私はそんな時、沖縄の人に会いたくなるのだ。

■ホウセンカの花と草木染め 生き方をデザインする人

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アパレルブランドの作家、中嶋さんには草木染めとホウセンカについてお聞かせいただいた。ブランド名であるtouch me notとはホウセンカの英語名称だ。沖縄ではてぃんさぐぬ花と呼ばれ、「てぃんさぐぬ花」という童歌があり、おまじないや言い伝えもある。ホウセンカの汁を爪に塗って染めると悪霊(マジムン)除けの効果があるとされ、沖縄の暮らしや思想において身近な植物の一つだ。

植物を軸に沖縄をのぞいてみると、生活の中に根差した植物療法や歴史があり、独特の文化を見ることができる。

取材に行きたいと伝えると快諾してくれただけでなく、アトリエに先日まで開催していた展示を再現してくれていた。その上、前日が月桃農園の取材だと知ると予定していた紅花での草木染めを変更し、自宅の月桃を採集して月桃染の準備をしてくれていたのだ。

アトリエに到着すると、黒の艶やかな毛と愛らしい瞳の元保護犬ルナちゃんが出迎えてくれた。touch me notの色とりどりの服が並び、月桃の葉が瑞々しく活けられていた。touch me notの服を紹介するときにいつも、商品と言っていいのか、作品と言っていいのか悩んでしまう。染色された服に同じ色のものは無い。中嶋さんは自分の手ではじめられることを…と考え、ミシン一台からスタートできるアパレルブランドをスタートさせた。服を作るには様々な工程があり、分業する人もいる。中嶋さんはデザイン、生地選び、染色にパターン起こし、縫製と全て自身で手掛けている。

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私は5年前に中嶋さんの服に出会ってから、東京でほとんど服を買わなくなった。touch me notからは「着て欲しい、そして幸せな気持ちになって」というメッセージが聞こえるが、量販店では「買って欲しい、これが流行だから」という声が強く聞こえる気がした。商売は好きだし、お金は大事だがそれが全面に出る時や、理念が全く感じられないと連れて帰る気持ちは一気に薄らぐ。中嶋さんによってひと針ごとに、愛情と美意識が詰められた服に袖を通す喜びは格別だ。

草木染めに関しては中嶋さんも挑戦しようか考えていたそうだ。しかし染色の工程について熟知されているので、思うところがあるようだった。天然染料を使う草木染めは環境に良いイメージが強く、柔らかな風合いも出るので近年人気が再燃している。一方で、百貨店などへ一般流通させるときは褪色や耐久性などの懸念事項が出てくる。化学を使う合成染料は、化学物質という名前が出ただけで印象が悪くなる。しかし、実際のところ化学染料が環境や人体にとって必ずしも悪、というわけではないようだ。

■グリーンウォッシュ、植物で誤魔化さないで

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アトリエに飾られた数十着のtouch me notの服。これらは中嶋さんが寸胴(大きな鍋のこと)で煮込みながら1着ごとに色を変化させ、100ℓ程度の水で染色している。水量は一般的なお風呂の約半分と少量だ。染料は徐々に服に吸収されていくため、最後に残った水は庭に撒いたとしても植物が枯れないくらい、環境負荷の低い状態だそう。もちろん、衣類に残った染料も人体への安全に配慮されている。

私は今、研究チームとプロジェクトの調査・開発を進めているが「エコアイテムの市場の怪しさ」に驚いている。グリーンウォッシュやSDGsウォッシュなど、世の中にいいことを謳っていても実態としては環境に悪影響を与えていることは多々ある。植物由来成分でも肌に刺激が強かったり、アレルギーの出やすい成分もあったり、大規模伐採により環境破壊に加担している可能性もある。本質的に何が人間と地球環境にとって良いかは熟考し、多角的、中長期的に考えなければ判断はできない。

中嶋さんは自分の目で確認し、考えて、人々に服を届けている。売上げの一部を保護動物の活動支援に寄付し、お迎えした元保護犬ルナちゃんと一緒に創作活動を行っている。服を作ることが軸となり、touch me notというブランドを育てていくこと自体が誰かのためになり、中嶋さんの人生観とリンクしている。自分のできる範囲で世界を変える、美しきアントレプレナーだ。彼女の服を着ると、私はいつも等身大の自分に戻れる気がする。

■自然との距離感 じっくりと待つ力が美しさを生む

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アクセサリー作家 churaumiの清水さんと空間デザイナーの小池さんご夫妻にお会いすると、自然との距離について考えさせられる。東京で活躍されていたお二人は、清水さんの堅い決意で沖縄に移住された。お店には国内外の観光客も多く訪れ、リピーターも多い。店内には品よく作品が置かれており、どこかに自然を感じさせる。珊瑚や真珠を使い、素材の形を生かした作風が影響しているのだろうか。

私はピアスの穴を開けていないので、いつもイヤリングを購入する。樂園百貨店の立ち上げで毎月通っていた頃には、「古長谷さんが気に入りそうだな」と清水さんが考えていたものを、案の定一目惚れして購入することも度々あった。

イヤリングは左右ペアで1つになる。淡水パールが好きなのだが、本来同じ形のものは出てこない。清水さんは根気強くパーツをストックし、ある日の仕入れでペアとなる子を出迎えた時に、ようやく作品として取り掛かることができる。

今の技術があれば似たようなパーツを人工的に作ることもできるかもしれない。それでも、じっくりと時間をかけ、その瞬間を待ったものにしか宿らない空気を感じる。待つことのできる空気、待つことを喜ぶことのできる時間軸、というのは沖縄の美点である。

■人との距離感 「ショッピングは旅先で」というライフスタイル

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物を買うということについて大きく考えが変わったのはmiyagiya の宮城さんに出会ってからだ。初めてお店を訪れたのは2017年頃。東京ではオリンピックに向けて商業施設が次々とオープンしていた。内覧会に呼ばれ、数えきれないお店や商品に出会い、SNSにも情報が溢れていた。この頃から私は大好きな買い物に疲れはじめ、旅先でしか買い物をしなくなっていった。世界のどこかにある、私だけの特別を見つけたかったのだ。

miyagiyaは国際通りを一本奥に入って、churaumiを通り抜けた先にある。その細道の浮島通りはまさに、美しいもの、心地よいものを探求する人の「けもの道」だった。おしゃれなお店だな、と思いガラス張りの店内に入った瞬間「miyagiyaの香り」が溢れた。宮城さんが集めたアロマキャンドルなどのアイテムが店内にセレクトされ、自然と調香された香りだ。ぼんやりと沖縄の伝統陶器やちむん、手触りの良い洋服、琉球ガラスのグラスを眺めていたら宮城さんが話しかけてくれた。気がつけば1時間も滞在し、毎月の出張で通うようになった。沖縄のこと、自分の軸について、アートについて、時には恋愛相談まで乗ってもらった。よく知っているようで、実際にお会いしている時間は長くはない。絶妙な距離感と対話、そして美意識が詰まった心地よい空間に、足を運ばずにはいられないのだろう。

「東京に住んでいる人で、金曜の夜羽田から那覇に来る。そうして日曜までの二泊三日リフレッシュして帰る人も結構いるよ。」「沖縄は冬こそ大人は楽しめるんじゃないかな、そんなに寒くないし、何よりゆったり過ごせるから。」そんな風に、旅慣れた人、センスの良い人の沖縄旅のコツを教えてくれた。miyagiyaには宮城さんの美的感覚から外れたものは一つも置いていない。棚や椅子、照明にハンガー、商品タグまで。これでいいやじゃなくて、これにしようと選んだ場所だから持つ心地よい空気がある。

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いつも仕事で悩むことの一つは、速さを取るか、細部・美意識のこだわりを優先するかだ。前者が重要だと理解しているし、どちらも大事といえばそれまでかもしれない。でも最近は、バランスすら取らなくてもいいのではと考えはじめた。

本当に心の底からいいと思ったものしか出さない。そう決めた頃から、私のブランドThe Apoke植物採集も動き出したのだ。中途半端でいいのであれば、自分がはじめる意味がない。軸が揺らぎそうな時、いつもmiyagiyaから連れて帰った陶器でお茶を飲むことにしている。これは、世界で一番美しい茶器。誰かにとっては世界一でなくても、自分にとっては世界一。たった一人でもそう思えるものを、これから作っていきたい。宮城さんのmiyagiyaが教えてくれた大切なことだ。

■本質ではないものは淘汰される。生き残るものはなんだろうか

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都会に暮らしていると五感を使用することは減り、特に嗅覚や触覚が鈍る。旅という非日常はあくまで脇役だ。私たちの主役は日常である。日常こそ人生なのだが、非日常が人生の根底を見直す時間をくれるのだ。

植物を人生の軸に置いてから、より一層本質とは何かを考えるようになった。ブランド立ち上げや商品開発などビジネスをすることは植物採集家の一部。資本主義の中で生きるにはお金が必要であり、多少のお金が無ければ自由に生きられない。けれども、パッケージだけを変えて暴利を貪り、観光客のトラベルハイ(旅行に行っている非日常で財布の紐が緩むこと)につけ込んで海外産の土産をごまかして売ることなどはしたくない。

誤魔化しが続けられるほど人々は無知では無くなってきただろう。世界を見渡しても、土産が山ほど店頭に並び、小分けの袋まで用意されているのは日本と、主要な観光客が日本人という場所くらいだ。

本当に必要なもの、美しいものが高価であっても手に取ってもらえるよう、どう伝えていくべきかを日々考えている。海と植物の距離が近い沖縄では感覚が研ぎ澄まされ美しいものが生み出されやすい。自然を満喫するだけではなく、自分の生き方を優しく問うてくれる場所だ。ガイドブックを置いて、けもの道を歩こう。本能を呼び起こそう。

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古長谷莉花  植物採集家

1986年静岡生まれ。幼少期よりガーデニング好きの母の影響で生け花・フラワーアレンジメントなどを通し、植物と触れ合って育つ。様々な視点で植物を捉え、企業やクリエイターと植物の可能性を広げる試みを行っています。

撮影協力
touch me not 中嶋亮子氏
churaumi -ukishima accessory lab.-  清水 一余氏 小池 達也氏
miyagiya-bluespot / miyagiya ON THE CORNER  宮城 博史氏

古長谷 莉花

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