アマゾンのアレクサが看護師に?米国「遠隔医療革命」の爆発力

アマゾンのアレクサが看護師に?米国「遠隔医療革命」の爆発力

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2021/11/25
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コロナ禍で保険金の支払いを拒否された老舗企業が倒産の憂き目に遭うなどアメリカの保険業界は揺れています。そんな旧態依然とした保険業界にアマゾンが参入したら、いったいどうなるでしょうか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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GDP20%の医療業界をアマゾンが狙うと

「次はうちの業界か?」と、怪物企業の進出はどの企業も不安になるのだが、特に新規参入が閉め出されたまま寡占状態が続いている業界の既存企業にとって、厄介なことになる。

具体的には、銀行、保険、輸送、ヘルスケア、教育といった分野である。こうした業界は昔から自己刷新に消極的なうえ、新型コロナウイルスで各業界の弱点が白日の下にさらされている。そんな弱みを抱える企業があれば、食物連鎖のトップにいる怪物企業が新鮮な獲物を狙うように近づいてきて、飛びかかるタイミングを見計らっていてもおかしくない【図】。

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【図】怪物企業とミニマーケット

■ヘルスケア

新型コロナウイルスの感染拡大で私たちの生活のさまざまな部分が大きく変わりつつあるが、多くの人々にとってデジタルヘルスケアも新たな現実となった。『ニューヨークタイムズ』紙記者のベンジャミン・ミュラーは次のように伝えている。

<ヨーロッパやアメリカで家庭医を担う1次診療のクリニックに、ものの数日で遠隔医療革命が到来してしまった。当初は感染に対する安全確保が目的だったバーチャル診療だが、今では日常的な病気はもちろん、早期治療を受けなければ命に関わるような隠れた病気の治療でも、家庭医の診察の大きな柱になっている。>

世界のヘルスケア市場の規模はおよそ10兆ドルで、ビジネスニュース配信大手のビジネスワイヤによれば、年平均成長率は約9%と見られている。『ブルームバーグ』によれば、アメリカだけで医療支出は4兆ドル近くに上り、GDPの20%弱を占める。この割合は世界最大だ。

食物連鎖の頂点で腹を空かせている怪物企業にとってはご馳走だ。むろん、どの怪物もすでに嗅ぎつけている。

2017年、アマゾンは「1492班」なる極秘チームを立ち上げ、多数のメンバーを集めるべく社内公募を実施した。医療記録からデータを抽出する技術開発に向けた調査活動に関わるチームだ。

さらに、アマゾンは、医療系スタートアップ企業グレイルに出資している。最も早期のステージで、治療可能ながんを血流から検出する技術を開発する会社だ。2017年上期に投資ラウンド「シリーズB」の段階で、アマゾンはグレイルに対して9億1400万ドルの出資を決めた。それに加え、競合するクラウドストレージ企業のボックスからヘルスケア・ライフサイエンス担当ディレクター、ミッシー・クラスナーを引き抜いている。

2019年12月、アマゾンは、医療従事者向けの音声文字変換(音声からの文字起こし)サービスを開始した。医師の口頭による説明や処方指示をカルテに直接記録するサービスだ。特に決定的と言える動きがあった。アマゾンは米投資・保険会社JPモルガンやバークシャー・ハサウェイと組んで、3社合わせて120万人の従業員を対象とした新たなヘルスケアプログラムを立ち上げたのだ。

このサービスを手がける合弁会社(後にヘイブンと命名)は、右肩上がりのコスト、面倒な事務手続き、病気治療より健康増進を優遇する不公平な扱いなど、アメリカの医療制度で長らく指摘されてきた欠陥の多くに切り込む方針だ(訳註:ただし、2021年1月に3社の方針の違いなどから同2月の事業終了が発表された)。

アマゾンのアレクサが服薬防止に一役?

ほかにも、アマゾンは、10億ドルを投じてオンライン薬局、ピルパックを買収している。これでアメリカ50州での調剤薬局ライセンスを手中に収めたことになる。アマゾンが食品分野で大規模投資を継続していることも保健・健康増進の分野と自然なかたちで結びつくし、将来的には食品スーパーのホールフーズのような実店舗が高所得者向けのクリニックを併設する場にもなる。

アマゾンは、AIアシスタントのアレクサに改良を加え、ヘルスケア企業間で、セキュリティ対策を講じた患者医療情報の送受信が可能になったと発表している。また、処方指示管理や服薬忘れ防止などにも、アレクサを活用する方針だ。

2020年7月14日、アマゾンは、さらに別の方向からもヘルスケア市場に食い込みはじめた。アメリカの医療サービスグループであるクロスオーバーヘルスと提携を発表したのだ。

アメリカでは従業員が雇用主の保険料負担で民間の保険に加入するのが一般的で、クロスオーバーヘルスでは、アマゾン従業員を対象に医療保険適用クリニックのネットワークを構築する。アマゾンによれば、「ネイバーフッドヘルスセンター」という従業員向けクリニックの第1号をテキサス州のダラス・フォートワース地域に開設し、同地域で働く従業員2万人以上に対応する。

アマゾンが何らかの市場に攻め込むときは、テクノロジーで武装することが多い。ヘルスケアも例外ではない。2020年8月、アマゾンは、「ヘイロー」というリストバンド型の活動量計(モニター画面のないFitbitのような製品)とデータ管理用のサブスクリプションサービスの組み合わせでヘルステック市場に参入すると発表した。

専用アプリは、競合アプリで一般的な各種フィットネス機能に加え、3Dボディスキャナーで体脂肪を可視化したり、声の調子から情緒安定度を判定してストレスレベルを測ったりすることも可能だ。

同じ月にアマゾンのインド法人が、ベンガルール(旧バンガロール)でオンライン薬局サービスの試験運用を開始すると発表した。インドのオンライン薬局市場は、2021年に4倍近くに拡大し、45億ドル規模に発展する見通しだ。

それだけではない。2020年11月には、アマゾンがオンライン薬局を設立し、プライム会員には割引や無料の翌々日配達も提供するとあって、アメリカの競合薬局チェーンであるCVSやウォルグリーン、ライトエイドの株価が急落した。わずか3年間に9つの“駒”を動かしてヘルスケア分野に攻め込んだアマゾンは、早くも業界の老舗企業を崖っぷちに追い詰めつつある。

米中による「遠隔医療革命」のゆくえは

アリババもヘルスケア市場に目をつけていた。傘下のアントグループを通じて医療保険の販売に乗り出したのだ。発売と同時に6500万の契約者を獲得した。最終的な目標契約数は、アメリカの総人口をわずかに下回る3億人。それも、たった1つの医療保険プランの契約数である。このままいけば、アントグループは世界最大の保険会社になる。

パンデミックでアリババのヘルスケア進出の追い風となる理想的な状況が生まれた。2020年8月、アリババは先の増資で獲得した13億ドルを投じ、オンライン薬局事業の拡充計画を明らかにした。コロナ禍を背景に、オンライン薬局の利用増の新たな波が押し寄せているからだ。投資の大部分は、医薬品の販売・宅配の機能拡充に使われる予定で、残る資金は同サービスに参加するヘルスケアパートナー各社向けのデジタルツールの開発に振り向けるという。

この動きに取り残されまいと、ウォルマートも獲物探しに抜かりはない。2020年6月、ウォルマートは、複数の薬剤を服用する患者の投薬管理支援に取り組むスタートアップ企業、ケアゾーンから特定の技術と知財を獲得すると発表した。同社は、薬局とクリニックの両方に関与する多角的な取り組みを進めており、モルガン・スタンレーは、ヘルスケア分野で「注視しておくべき眠れる巨人」と見ている。

そして、ここでも京東は動いている。同社がヘルスケアに関わるようになったのは、医薬品のオンライン販売を開始した2013年に遡る。2016年、同社はB2Cプラットフォームの京東健康を立ち上げ、効率の高い巨大物流網を活かして医薬品の販売・宅配に乗り出した。

わずか3年後、京東は市場シェア15%を獲得し、単一企業としては(オンライン、オフラインを問わず)中国最大の医薬品販売業者に成長した。同社では、中国の国民99%をカバーするという、他の追随を許さない物流網を活かし、ヘルスケアサービスのネットワークを拡大する計画だ。

ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント

ダグ・スティーブンス

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