報道テレビ局への免許不交付で際立つ、お花畑国家日本と台湾との違い

報道テレビ局への免許不交付で際立つ、お花畑国家日本と台湾との違い

  • アゴラ
  • 更新日:2020/11/20
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GoranQ/iStock

台湾の電信や放送事業を監督する国家通信伝播委員会(NCC)は18日、中天テレビの報道チャネルに放送免許の再交付をしない判断を下した。政府系紙の台北中央社が18日19時38分に報じた。NCCが報道チャネルの再免許を認めないのは初めてだが、報道チャネル以外では過去20年間に8件の放送許可が認められなかった事例がある。

時間まで記したのは33分後の20時11分に産経の矢板明夫台北支局長が、中央社記事にはない「独立機関が法律に基づき下した決定を尊重する」との総督府談話や、国民党の「行政がメディアに干渉する行為」であり「台湾の言論の自由の空間が制限され、メディアの自由は著しく後退した」との非難声明までを報じたからだ。

米大統領選報道に見るように報道の現地特派員が、現地報道機関の、経営者の意向丸出しの提灯記事を翻訳して、そこに耳学問の知識で味付けして報じるようでは、筆者の如き拙い書斎ブロガーと同工異曲で、特派員の名が泣く。その点、この矢板記者や在米の古森義久記者などの独自の人脈や情報源を駆使したディープな記事は読み応えがある。

中天テレビは、蔡衍明が所有する「旺旺中時グループ(旺中G)」の傘下にある。蔡氏は台湾や中国で良く知られる米菓子「旺旺(ワンワン)」の旺旺集団を、中国に100カ所以上のせんべい工場や台湾にメディアメディア集団まで所有する巨大集団に発展させた立志伝中の人物だ。

10代で継いだ家業のせんべい屋に新潟の製菓メーカーから技術導入することに成功した蔡氏は中国への輸出を思い立つ。首尾よくコンテナ3個分のせんべいを受注したが、中国で日常茶飯のドタキャンに遭う。400万袋の賞味期限が迫る中、彼は上海や南京などの大都市の学校に無料で配る挙に出た。

これが予想外の宣伝効果を生んだ。中国進出後も、卸や販売店に対して賞味期限切れ商品の返品を無条件で応じた辺りは、同様に在庫引上げで新鮮さを売り物にし、一躍トップに躍り出たアサヒスーパードライの成功譚を彷彿する。斯くて旺旺集団は、今や中国各地に百数十ヵ所の工場を持つに至り、売上の大半が中国という。

旺旺集団の存在を筆者が知ったのは、台湾在勤中の2012年にある騒動が起きたからだ。その年の7月末、旺中GがNCCに申請していた、ケーブルテレビ大手の中嘉ネットワークの買収が条件付きで認可されたのだが、これに反発する学者やNGOの抗議デモや別の学生グループのデモが行われた。

ところが旺中G傘下の報道各社は、デモの学生らが、旺中Gへの抗議活動を主導する某学者が動員したサクラである可能性が高いことを示唆する報道をした。そのうえ旺中Gは、某学者や、学生デモがむしろ旺中Gの自作自演であると告発した某大学院生に対する個人攻撃を繰り返し、若者のネットユーザーの反発を招いた。

9月1日の「記者デー」には、新聞記者協会などNGOを中心に組織したデモ行動に1万人近くが参加、新聞のプロフェッショナリズムの確立、メディア寡占化への反対、NCCによる監督強化などを訴えた。総統選に敗れて野に在った民進党の蔡英文も、デモ参加を呼びかける声明を出した。

NCCが旺中Gに付けた「条件」とは、「グループ傘下のニュース専門チャンネル中天新聞台を傘下から切り離」し、「傘下のニュース専門チャンネル中国電視新聞台を非ニュースチャンネルに転換する」などの3件で、これが満たされない場合には中嘉ネットワークの許可を取り消すというものだった。

旺中Gがすでに08年、「中国時報」や「工商時報」、衛星局の中天テレビ、地上波局の中国電視などを有する老舗の中華時報グループを買収していたこともあり、中国色の強い蔡氏による中嘉ネットワーク買収で、中国の影響の強まることや蔡氏による報道の寡占化や私物化を懸念したのだ。

さらに、蔡氏が12年初にワシントンポストのインタビューで、「両岸は遅かれ早かれ統一する」、「天安門事件での死者は、実はさほど多くない」、「中国は多くの面で民主的」などと発言したことで、「中国時報ボイコット運動」や同紙への著名学者らの寄稿拒否などが台湾で起きていた(*12年9月のJETRO海外研究員レポート)。

その年の9月下旬には、台湾の漁船団が大挙して尖閣列島海域に向かった事件があったが、旺旺集団がこれら漁船に多額の燃料費を寄付したことが報じられた。中国に事業基盤を置く蔡オーナーが尖閣問題で中国をアシストしたという訳だ。

さて、今回の米大統領選での米国メディアの余りに偏向した報道ぶりに唖然とさせられたのは、筆者に限るまい。その米国メディアは少数個人による寡占化が進行している。

大統領選に一時登場した候補の名を冠したブルームバーグを始め、英国紙タイムズや米紙ウォールストリートジャーナル、フォックスなどを所有するマードック氏、すでにワシントンポスト紙を所有するアマゾンCEOベゾス氏のCNN買収説などがあり、FacebookやTwitterの創業者も民主党支持を隠していない。

日本でもナベツネの読売私物化説やジャパンタイムズのオーナー交代に伴う論調の二転三転などがある。が、新聞とテレビの系列化やそれらの多くが一貫して反政府の姿勢での報道を繰り返すことはあっても、個人による寡占化はまだ米国ほどは顕著でない。

そこで台湾のNCCによる中天テレビへの放送免許の不交付は、海峡の対岸からいつ行使されるか知れない暴挙に対して、一瞬たりとも緊張を緩めることをできずにいる台湾固有の現状を、中国とWHOのいじめにも決して屈しないコロナ禍への見事な対応と同様、非常に良く表していると思う。

NCC委員7人は全会一致で不交付を決定したという。中天テレビがこの約6年間に「事実に基づかない偏向報道」などで25回も規定に違反し、中国寄りで知られる蔡氏の報道内容に対する不当な「口出し」も繰り返し確認されたことなどが理由とのこと。

08年の旺旺集団による中華時報グループの買収が、親中国の国民党馬英九が民進党から政権を奪回したその年だったこと、そして今般NCCの免許不交付を決めた目下の台湾の総統が、かつて旺中Gへの抗議活動を野から支持していた民進党の蔡英文であることは、中台関係を象徴して余りある。

産経以外の日本メディアがこの件をどう報じるかも注目だ。学術会議の「学問の自由が奪われる」と同様、「国家権力が報道の自由を奪う」などと書くのだろうか。だが、それも日本がお花畑国家だからこそのこと、その存立が常に現実の脅威に晒される台湾ではこれが当たり前と思われる。

高橋 克己

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