コロナで広がる「ズービキティ」 ペット由来のビッグデータでヒト医療が進歩する

コロナで広がる「ズービキティ」 ペット由来のビッグデータでヒト医療が進歩する

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/05/06
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新型コロナウイルス禍で、国内で犬猫のペットが急増している。2020年に新たに飼われた犬と猫はおよそ95万匹。前年比15%増と、その伸びは顕著だ(※全国犬猫飼育実態調査:ペットフード協会調べ)。

同調査によると、飼育しようと思った理由の一位は、犬猫ともに「生活に癒し・安らぎが欲しかったから」で、コロナ禍での巣ごもり生活でペットに癒しを求める人が多くなっていることがわかる。伴ってペット関連市場規模も拡大しており、2020年度は前年度比3.4%増の1兆6242億円となることが見込まれている。今後もペットフードをはじめ、グッズやサービスなど、市場規模は拡大していきそうだ。

一方、世界のペット市場に目を向けると、インドなどアジアを中心とした新興国を起点に、人口の多い国々において、今後ペットが増えることは確実視されており、世界での市場規模は、2018年のおよそ14兆円から2030年には2倍以上の30兆円になると予測されている。

「ペットテック」産業、6.8倍の急成長見込み?

活況を呈するペット産業において、注目されているのが「ペットテック」(pet+technology)だ。ペットテックとは、世界一のペット大国米国発祥の、デジタル技術を応用した飼い主を支援する商品やサービスの総称を指す。

現在、日本におけるペットテックのメイン商品は、飼い主の留守中にペットをモニタリングする、AIを搭載した見守りカメラだ。ペットの様子をスマートフォンに通知するものや、カメラの自動追尾機能でペットをいつでも見られるようにした商品などがある。

他には猫の尿の量や回数、体重などを測定し、猫の健康状態を管理する猫用のスマートトイレもある。さらにマイクロチップをペットに埋め込み、GPSやBluetoothの発信機の電波で居場所を突き止める迷子猫のペットロケーターなど、これまでペット関連の商品を扱っていなかった、大手家電メーカーやベンチャー企業の参入により、次々と新商品が登場。国内におけるペットテック市場は、2018年度の7.4億円から2023年度の50.3億円へ、およそ6.8倍の急成長を遂げると見込まれている。

カギは「ペット医療」

しかし、国内のペットテック産業には多くの課題があると投げかけるのは、動物病院の運営をはじめとした各種ペット事業を行う「Aalda Pte.Ltd(アルダ:本社シンガポール)」CEO奥田昌道氏だ。

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「Aalda Pte.Ltd(アルダ:本社シンガポール)」奥田昌道CEO

奥田氏は、インド・ニューデリー郊外のグルガオンに2021年2月23日、初の日系動物病院「DCC(Dog Cats Campanions)アニマルホスピタル」を開設。この病院では、最新テクノロジーを活用することで、ペット業界に顕在するさまざまな課題解決を目指しており、そのノウハウを活かし、日本での展開も視野に入れているという。

「日本は今、アメリカ、中国に次ぐ世界で3番目のペット市場です。ペットテックカンパニーも増えているとは思いますが、現況では日本市場だけを見据えて戦っている企業が多いんです。日本市場が大きい分、国内だけで良くも悪くも会社がある程度大きくなってしまいます。しかし、今後日本は人口が減っていく中で、犬や猫の頭数は必然的に減少していきます。ある種、市場が縮小していく中で、日本だけで戦うというのも厳しいんじゃないかと思っています」

アメリカをはじめ、日本や中国、タイではGDPの伸びに伴い、個人の所得が増加。それに伴い教育費の割合が高まり、子どもの数が減っているのが現状だ。子どもが減った分、ペットが増え、ペットにお金を使うようになるという現象が起きている。そこで大きな課題となるのが「ペット医療」だと奥田氏は語る。

「急増するペットに対して、獣医師が足りていません。日本では医師1人あたりの診療人数が約400人と言われるなか、獣医師では1人あたりの診療が約1100頭、インドにおいては一人あたり7000〜8000頭にも上り、日本でもインドでもまったく足りていない状況です。特にインドでは今後ペットが増えていくことを考えると、10年〜20年先には、獣医師ひとりあたり2、3万頭診なければならず、ほぼ不可能です。

ではどうすればよいのか。単純にペットの数を減らすか、獣医の数を増やすかですが、ペットは減らないし、大学で獣医学を学んだ上で国家資格取得が必要な獣医師を急に増やすことも難しい。となると、獣医師ひとりあたりの診察効率を上げるしかないんです。その手助けとなるのがテクノロジーです」

ペットテック商品、伸びるのは「必需品」

奥田氏はインドの動物病院で、まず自社で開発した電子カルテを導入した。そもそもインドではカルテを作っていない病院がほとんどで、情報の蓄積がされていない。獣医師が医療行為以外のことに40%ほどの時間を使っているというデータもあることから、奥田氏は、経営システム、カルテ、会計システムをはじめ、診察のウエブ予約、薬の在庫管理にもテクノロジーを導入するべき、という。さらには過去の経験から病気の原因を絞り込んでいる問診も、データに基づいたAI問診にすることで、獣医師は実際の処置の部分だけに集中してやることが可能になると考えている。

日本の動物病院の現状もインドと大差なく、いまだに紙のカルテが一般的だ。奥田氏は業務のデジタルトランスフォーメーションが必要だと考えており、2021年には東京にある自社の動物病院にも、インドで導入した電子カルテを日本向けに修正して導入。データの共有による迅速な処置を目指している。こうした医療分野とペットテック産業が連携できれば、業界は伸びると奥田氏は考える。

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「AI搭載のペットテック商品が、ペットが生きていくためになくてはならないものであれば、市場は伸びるでしょう。ですが、現状ではどちらかというと嗜好的なものになっているような気がしています。高価なペットテック製品を、一般の飼い主が購入する機会はそう多くはないはずで、それでは市場の拡大は厳しいと個人的には見ています。各メーカーは、『健康のため』と謳った商品を出しているものの、これが本当に医療分野に組み込まれ、健康のために役立っているかと問われると、そうだと答えられないものがほとんどではないでしょうか。

たとえばペット市場で大きな割合を占めているペットフードに関しては、犬種ごとに変えることはもちろん、過去の正確な病歴などのデータに基づいた、この飼い犬にはこれが最適!とカスタマイズされたペットフードであれば売れると思うんです。しかし現状は、自分のペットにはできるだけいいもの、人間に近いものをあげたいという、どちらかと言えば飼い主側の自己満足だけのような気がしてなりません。それでは伸びていきません」

ペット医療に使われる医療機器も薬も、実はヒトと同じもの

グローバル市場でペットテック産業が成功するためには、「医療」が軸になると奥田氏。

実は、ペット医療は人間の後を追いかけており、医療機器も薬も人間と同じものを使っている。人間の子ども向けのサービスを、ペットに転用しているものもある。今でこそ医師と獣医師は分かれているが、昔は同じ医師だった。

同じ哺乳類なので人間もペットも同じ臓器を持ち、人間では珍しい病気が、動物では一般的であるケースもいくつかある。

今後、ペットテック産業が医療と連携するために、肝となるのがデータの収集だ。人間のデータは個人情報の点から厳しくなる一方、ペットは、法律上はよくも悪くも「もの」であるため、個人情報に該当しない。いずれペット側のソリューションが、人間にも応用できるようになるのではと。

「『zoobiquity(zoo(動物の)+ubiquity (遍在))』という造語があります。ペットは人間と同じ哺乳類なので、共通している部分が多く、医学連携によりペット側のデータが人間にも応用できるという考え方です。さらにペットゆえにデータ収集が容易ということも大きなメリットのひとつです。自分の子どもの顔をオンライン上にアップすることは躊躇しても、ペットは気にせずアップしています。それだけプライバシーに対する意識が異なるということです。

国連の人口予測によると、今後人口が100億人になっても、子どもは15〜20億人で現状と変わらないと言われています。一方でペットの数は増えるはずですから、ペットから収集可能なデータは膨大になり、そこから人間に応用できるソリューションもあるはずです。現在のペットテック製品でもデータを取るための機能を備えていますが、目的が明確ではないものがほとんどです。たとえばアルダでは、この治療のためにこういうデータを取る、と目的を明確にした上で、ペットテック製品で収集したデータを活用し、いかに産業に結びつけるかを考えています。こういう取り組みによってもペットテック市場は確実に拡大するはず、と考えています。

ペットと一緒にいると、PTSDやうつになりにくいというデータがあります。今後ペットが増えると人とペットはさらに密接になっていくと思われます。ペットのことだけを見るのではなく、ペットと人間の社会的共存によりペットが人間の産業を変え、問題を解決してくれるという視点に立つこと。そのためのペットテック製品であれば、ペットテック産業の未来は明るいと考えています」

奥田昌道◎Aalda Pte Ltd. Founder/CEO。シンガポールを拠点にアジア地域でアニマルヘルスケア事業を展開中。インドでは外資系企業初となる動物病院「DCC(Dogs Cats Companions)アニマルホスピタル」を運営する。テクノロジーを活用してペット業界の課題解決に取り組む。

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