Beyoncéバンクーバー公演に向けて 全アルバムを復習しよう

Beyoncéバンクーバー公演に向けて 全アルバムを復習しよう

  • note
  • 更新日:2023/09/19

Beyoncé Renaissance World Tour バンクーバー公演は9月11日。一刻も早く予想セットリストの歌詞を覚えなきゃいけないが、その前にしっかり Beyoncé のディスコグラフィを今一度振り返ってみよう。レビューではない。ただの感想。

Dangerously In Love (2003)

https://songwhip.com/beyonce/dangerously-in-love

初めてこのアルバムを聴いたとき、私はこれが2000年代初頭のR&Bの最適解だと思っていた。今でもそう思う。しかし批評家筋の評価はリリース当時からそれほど良くはない。それは Bruno Mars『24K Magic』(2016)が受けた微妙な評価と同じ。過去のR&Bの再生産、パスティーシュでしかないからだ。オープナーの「Crazy In Love (feat. Jay-Z)」を聴いて、「もうこのアルバムはいいや」となるのは、同曲がパワフルすぎるからだけでなく、聴き進めれば聴き進めるほどアルバムとしての魅力がないことに気づいてしまうからかもしれない。Curtis Mayfield に始まり、Bootsy Collins、Luther Vandross、Missy Elliott、OutKast へのリスペクトはある。でも、Beyoncé のオリジナリティはない。それが批評家の見方なのだと思う。個人的にも、ただ長いだけのアルバムというのが今の率直な印象だ。

Best Tracks
M1. Crazy In Love (feat. Jay-Z)
M9. Speechless
M15. Work It Out

Related Album
Ashanti『Ashanti』(2002)
⇨ 2002, 03年のR&B Diva界の様子が窺える。

B'Day (2006)

https://songwhip.com/beyonce/bday2006

このアルバムが一般的に前作よりも評価が高いのはなかなか解せない。どっこいどっこいな気がする。ただ、「バウンスを取り入れた」という点はやはり重要だと思う。サウス出身のアイデンティティに向き合い始めたわけだ。恥を承知で告白すると、バウンスが何かよくわかっていない。聴いたらなるほどね、となるが、自分では説明できない。ですので良い参考記事をどうぞ。↓

https://note.com/cplyosuke/n/n827d0f6ef678

これ以降、Beyoncé はアイデンティティを模索しながら、それを作家性に盛り込んでいく。デビューアルバムでは、それを一切しなかった。そういった意味で、ソロアーティストとしての Beyoncé はこの2枚目が本当のスタートなのかもしれない。

Best Tracks
M1. Deja Vu (feat. Jay-Z)
M8. Green Light
M9. Irreplaceable

Related Albums
・Kelis『Kelis Was Here』(2006)
⇨ 多くのプロデューサーを共有していた、『B'Day』の対とも言えるアルバム。
・Justin Timberlake『FutureSex/LoveSounds』(2006)
⇨ 2006年当時、Justin Timberlake とガッチリ組んだ Timbaland に敵はいなかった。

I AM…SASHA FIERCE (2008)

https://songwhip.com/beyonce/i-amsasha-fierce2008

このアルバムについて書くと、8割は批判になってしまう。でも、Adele みたいにこのアルバムが一番好きな人もいるから、良いところも後で書きたい。
まず、2枚組アルバムで成功した試しはほとんどない。ガーディアン紙が成功例として挙げたのは Prince『Sign "O" the Times』(1987)と Outkast『Speakerboxxx/The Love Below』(2003)だけだ(『Sign "O" the Times』って2枚組だったんだ…)。
加えて、この頃の Beyoncé は Coldplay にハマっていたらしい。今アルバムの制作中であろう間にリリースされた Coldplay『X&Y』(2005)、収録曲の「Fix You」を10000年ぶりに聴いてみると、チャーチオルガンから始まるではないか!!Beyoncé が敬虔なクリスチャンとしてのアイデンティティを考えるキッカケになったのが Coldplay だとすれば、なんだか不思議な話だ。そういえば彼らのスーパーボウルに Beyoncé が呼ばれて登場したのも、こういった恩を実を感じていたからでは??
良い面に触れよう。「Single Ladies (Put Ring on It)」と「Diva」はポピュラー音楽史の中でも重要な曲だ。「Single Ladies (Put Ring on It)」ではアイコニックなコレオグラフィと共に(シングル)女性ファンダムとの強い絆を結び、「Diva」では自らディーヴァを定義し、その役割を引き受ける宣言をした。Rihanna とは全く反対のディーヴァ像だ。

Best Tracks
M1. I Were a Boy
M9. Single Ladies (Put a Ring on It)
M3. Diva

Related Album
・Rihanna『Good Girl Gone Bad』(2008)
⇨ 良き好敵手で良き友人のデビュー。Ne-Yo によるM14「Take A Bow」は『I AM…(略)』に収録されていても違和感ない。

4 (2011)

https://songwhip.com/beyonce/4

オープニング3曲のパワー。80s ダンスチューン、Outkast 的00s パーティチューン、そしてまた80s のファンクチューン。しかもM1とM3は The Dream 製作。前作の「Single Ladies (Put a Ring on It)」も手がけていたプロデューサーだが、ここでついに Beyoncé は相性のいい作曲パートナーを見つけた感じがする。
「Countdown」は Kanye West の潮流だと思ってたけど、どっちかというと Outkast か。散りばめられた無機質さにアフロ・フューチャリズムを感じるし、パーカッションがキモいし、まさにOutkast のフォロワーだ。Frank Ocean 作曲の「I Miss You」。翌年に『channel ORANGE』が出るように、歴史は生まれて繋がっていく。
アウトロまで贅沢なソウルナンバー「1+1」のボーカルパフォーマンスについて、ピッチフォークは「Beyoncé らしさを犠牲にすることなく、Sam Cooke と Prince を点と点で繋いでいる」「この曲に匹敵するほどのパワフルなポップソングは直近では「Someone Life You」(2011)くらいしかない」と評している。たしかにオーセンティックなソウルだけど、ギターのアレンジは『Purple Rain』期の Prince に通づるところがある。
「Best Thing I Never Had」は Babyface のプロデュース。相変わらず4コードのパラーバラードで、意外とスルメ曲。
「Rather Die Young」「Start Over」「I Was Here」の3曲はスキップソングだが、それ以外の曲はすべての聴きどころがある。
Spotifyでは聴けないので、デラックスバージョンでもどうなっているのかよくわからない「Lay Up Under Me」は、『Off the Wall』期の軽快でシンプルなディスコチューン。「Love On Top」ほどの破壊力はないけど、口当たりは良い。

Best Tracks
(Deluxe Version)
M1. Love On Top
M2. Party (feat. André 3000)
M3. Schoolin' Life
M11. Run the World (Girls)

Related Albums
・Prince『Parade』(1986)
⇨ 80s ファンクの正解は大抵 Prince が導き出したものだ。
・Outkast『Speakerboxxx/The Love Below』(2003)
⇨ Prince らが紡いだファンクの拡張。

BEYONCÉ (2013)

https://songwhip.com/beyonce/beyonce2013

このアルバムが一番わからない。サプライズリリースされたアルバムということもあって、当時の文脈が今の時代からは読み取りづらい。私は当時まだガキだった…。でも当時の時代性を考えれば、オルタナティブR&Bをやりたかったんだと思う。
Anthony Fantano が挙げていたコンテクストは、

Timbaland & Justin Timberlake 『The 20/20 Experience』(2013)

Miguel『Kaleidoscope Dream』(2012)

The-Dream『Love King』(2010)

N.E.R.D『In Search Of…』(2002)

Chairlift『Something』(2012)

Janelle Monáe『The ArchAndroid』(2010)

Janelle Monáe『The Electric Lady』(2013)

Frank Ocean『channel ORANGE』(2012)

The Weeknd『Trilogy』(2012)

Drake『Nothing Was The Same』(2013)

Miley Cyrus『Bangerz』(2013)

Rihanna「Pour It Up」(2013) などシングル群

すごい!この一覧を見るだけで一気に解像度が上がった!オルタナR&B、デジタルファンク(俺の造語)、女性の性表現の3本柱で聴くのがいいアルバムなんだ。解像度が上がっても、コンテクストアルバムの方が好きな作品たくさんある…。

Best Tracks
M3. Drunk in Love (feat. Jay-Z)
M4. Blow

Lemonade (2016)

https://songwhip.com/beyonce/lemonade2016

真骨頂。このアルバムを理解できるかどうかで、Beyoncé をほんとに理解できてるかわかる。
オープニングトラック「Pray You Catch Me」。祈りから始まり、今作でキーパーソンとなる James Blake によるアンビエントが活かされる。ラストの "What are you doing, my love?" で、夫の不貞に対する葛藤が示唆される。オープナーとしての役割は完璧。
そのままメッセージは「Hold Up」へとスムーズにトランジション。MVで語られる、聖書のページをタンポンにするアイデアがどれほどコントラヴァーシャルなのか私の知識では測り知れないが、とにかくキリストと夫への敬虔さは一貫している。というか、一貫させようとしている。キーワードは""Denial"。”They don't love you like I love you” の "They" は夫の不倫相手とアンチ(or 反キリスト信者)、"you" は夫とキリストのことを指している、はず。このレゲエチューンのプロデューサーが Diplo なのはちょっと意外。
Jack White を迎えた「Don't Hurt Yourself」。ロックの文脈からは何もわからないので勘弁。「アンタ誰と結婚したと思ってんの?!!!」ソング。
「Single Ladies (Put a Ring on It)」Ver. 2 の「Sorry」。散々夫のことを蹴散らしておきながら ”But I ain't fucking with nobody” のラインがあるのは、まさに Beyoncé の恋愛観というか、不貞に対する主義が垣間見える気がする。キーワードは "Apathy"。
「6 Inch (feat. The Weeknd)」のヒールは、Ariana Grande くらい。ストリッパーが履いている高さくらい。"She works for the money", "She worth every dollar" の "She" は Beyoncé 自身でもある。月曜から金曜まで、さらに金曜から日曜まで働くのはワーカホリックな Beyoncé くらいしかいない。ここで The Weeknd を呼んだ意味はなんだろうか。1つ目の説、The Weeknd はクラブにいる魅力的な女性にホイホイ惹かれて金を払う(ペルソナを演じることが多い)ので、そのキャラを同曲に持ってきている。2つ目の説、最後の "You always come back to me" の "Come back" だけ弱々しく連呼されるため、実は夫に戻ってきてほしいという Beyoncé の心の中に潜む共依存的な感情を引き出すには、ひたすらトキシックな共依存について歌っている The Weeknd がハマり役だった。
テキサスと父に捧げたカントリー・ブルース「Daddy Lessons」。これまたパワフルなナンバー。不貞経験アリという最悪な共通点をもってしまったBeyoncé の父と夫。女性ながらも受け継いでしまったマスキュリティ、テキサスでの進まない銃規制。そんな中でカントリー・ブルースを歌うこと自体が Beyoncé の皮肉と複雑な(テキサスと父への)愛なのだろう。A面の終わり。
Mike Dean プロデュースの「Love Drought」。B面開幕のインタールード感もある。キーワードは "Reformation"。
キャリア史上一番シリアスなピアノバラッド「Sandcastles」(キーワードは "Forgiveness")から James Blake による「Forward」へのトランジション。James Blake の声を聴いても全然前に進む気にならない。
Michael Jackson「They Don't Care About Us」並みにアグレッシブなポリティカルナンバー「Freedom」。ここでの Kendrick Lamar は正直もったいない気が昔からしている。彼にはもっと言えることがあるし、Beyoncé との共演のメリットは実はあまりない。最後に JAY-Z の祖母の言葉をサンプルし、タイトルの伏線を回収。義理の祖母の教訓を、不貞をはたらいた実の孫にぶつけることになるなんて、なんて皮肉なんだ。
「All Night」でもひたすら夫を責める。"True Love" に固執する。
Mike WiLL Made-It による「Formation」は2010年代で最も重要な曲のひとつだと思っている。今アルバムにおいても、これまでの11曲はこの曲のための伏線と言っても過言ではない。というか、Beyoncé のキャリアにおいても一番重要なのではないかと思う。
まずMVの冒頭、ハリケーン・カトリーナで大きな被害を受け水没したニューオリンズの街並み。北米南部を襲ったこのハリケーンは自然災害であるとともに制度的差別による政府の不十分な支援の結果であるとも言われている。"My daddy Alabama, momma Louisiana, you mix that negro with that Creole make a Texas bama" のラインは、今まで一番強烈な Beyoncé の自己紹介であり、南部のプライドとアイデンティティを全面に表明している。"Earned all this money but they never take the country out me" や
"I see it, I want it, … I dream it, I work hard, I grind 'til I own it" は、のちに Ariana Grande が「7 rings」で同じようなラインを歌うことになるように、資本主義社会における女性の欲望と金銭的独立の精神を反映している。"Okay ladies, now let's get in formation" は、これまでずっと「Single Ladies (Put a Ring on It)」や「Run the World (Girls)」などで女性の連帯、シスターフッドを表明してきた Beyoncé だからこそ説得力のあるメッセージになっている。女性3人組(4人組)としてデビューした彼女の、連帯への執着もあるのかもしれない。ちなみに同曲がリリースされて間もないころ、"get in formation" を "get information" と聞き間違えていたリスナーがいた。聞き間違えだとしても、見事なダブルミーニングだ。今後は水よりも食糧よりも情報が最も貴重な資源になると言われている中で、正しい情報にアクセスして、正しい方法でコミュニティは連帯していく必要がある。その成功例であり失敗例が2020年のBLMとパンデミックなのだから。"I might get your song played on the radio station" も重要なラインだ。2015年の Rihanna のシングル「B*tch Better Have My Money」と言っていることは同じだ。この Rihanna の曲が面白いのは、「B*tch Better Have ”Your” Money」ではないところだ。成功して大金を手に入れた女性が、その恩恵として金銭の分配を行うのがこの曲のコンセプトである。その点で考えば、「ラジオであなたの曲をかけてあげる」と宣言する Beyoncé も、一部の男性に集中しがちな富と権力を、女性が指揮を取る形で再分配しようと試みているのだ。そして "You (I) might just be a black Bill Gates in the making" へとつながり、ブラック女性が資本主義のトップに君臨する世界へと導こうとしている。成功、権力、名声はすべて金銭と結びついており、そこから焦点をずらすことはないのだ。最後のライン、つまりこのアルバムは、"Always stay gracious, best revenge is your paper" で終わる。"True love" がどうとか、赦しがどうとか散々言った挙句、「常に寛大でいなさい 一番の復讐は書類と金だから」という結論に辿り着く。この現実味のある結論に辿りつくために、Beyoncé は46分かけて傑作を作ったのである。あと、今初めて気づいたんだけど、"Cause I slay" に合わせて裏で "Beyoncé" で韻踏んでるね。

Best Tracks
M1. Pray You Catch Me
M8. Sandcastles
M12. Formation

Related Album
・Rihanna『ANTI』(2016)
⇨ これ一択でしょ。

RENAISSANCE (2022)

https://songwhip.com/beyonce/renaissance

恥ずかしながら、このアルバムはまだよく「わからない」。しかし、今まで目にした、耳にした中で腑に落ちた表現が2つある。ひとつは「現代の『Off the Wall』」、もうひとつは「クィアコミュニティ/アーティストへのクレジットの再分配」。この短い表現だけですべてが説明されている気がするので、これくらいにしておこう。
いや、さすがに短すぎるので付け加えておくと、私が最初このアルバムを通して聴いたときの率直な感想は「トラックと Beyoncé のボーカルが噛み合っていない」だった。ゴスペルまで歌える彼女の重みのあるボーカルが、ハウスをはじめとしたクラブミュージックと相性がいいと思えず、今ひとつ腰が動かなかった。今では何周も聴いたのでその感覚は無くなったが、リリース当時そう感じた人もいるはず。あと、すごい金のかかったアルバム。早く2作目と3作目出してくれ。「RENAISSANCE」ってタイトルの伏線を早く回収させてくれ。

Best Tracks
M1. I'M THAT GIRL
M6. BREAK MY SOUL
M7. CHURCH GIRL
M8. SUMMER RENAISSANCE

Related Album
・Dua Lipa『Future Nostalgia』(2020)
⇨ マジで申し訳ない程度の関連性だけど、2020年代頭のハウスブームをつくったのは確実に Dua Lipa。

このクリエイターの記事をもっと読む

Masaaki

Masaaki

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加