サステナブルなブランド「タンジェネット」が“日本のもの作り”を伝承するワケ

サステナブルなブランド「タンジェネット」が“日本のもの作り”を伝承するワケ

  • OCEANS
  • 更新日:2022/08/05
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デザイナーの吉屋充さんは江戸川区の出身。東京っ子らしい快活な話しぶりが印象的だ。

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「もの作りに従事するデザイナーでありながら、日本がもの作りの国だと知らなかったんです」。

かつて大手アパレル企業に在籍し、あるブランドのデザイナーを務めていた吉屋充さん。そのキャリアは実に19年に及ぶ。

それほどの人物がなぜ、多くのアパレル向け素材が日本で作られていると知らなかったのか。そしてなぜサステナブルなブランド「タンジェネット」の立ち上げに至ったのか。詳しく伺った。

海外の有名メゾンが注目してきた日本製素材のクオリティ

「アパレルの服作りというのは、ある意味とてもシステマチック。生地メーカーや繊維商社が素材から製品までパッケージで提案してくれます。

たとえ素材の素性を知らなくても、まとまったコレクションルックが作れてしまうんですよ」。

いわゆるOEM(他社製品製造)である。もちろんOEMは決して“悪者”ではない。クリエイティビティに応える多くの選択肢と熟練の技術が、確かにこのシステムのもとで培われてきた。アパレル産業の成長を支えてきた柱の一部であることは間違いない。

そんな環境のなか、ふとしたきっかけで「海外の多くのメゾンが優れた日本製素材を使っている」ことを知る。和歌山のジャージーや広島のデニム。当時20代の終わりに差しかかっていた吉屋さんはすぐに動いた。

「会社に“素材の産地を巡りたい”と申し出ました。きちんとしたもの作りをする工場に赴くことは、(当時携わっていた)ブランドにとって、そして自分にとって必ずプラスになると思ったんです」。

20代後半から30代の終わりまで十数年。会社に所属するデザイナーとして文字どおり日本全国の工場を訪れ、職人に出会い、現場で熟練の技術を目の当たりにした。

そうして自分の目で見ることで、海外メゾンが日本の素材を使いたがる理由がわかったという。それは圧倒的な品質の高さ。と同時に、「これほど優秀なもの作りの技術が、なぜ日本国内であまり注目されないのか」と不思議でならなかったそうだ。

「40代を迎え、よりパーソナルな部分を反映した服を作りたいと考えるようになりました。そしてその服を通じて、日本の技術を発信したいと」。

そうしてコロナ禍の2020年を準備期間とし、’21年秋冬シーズンのコレクションにて、タンジェネットはスタートを切ったのである。

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和牛のレザーを使う理由は?

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ブランド設立の準備期間をかけて開発した「ハイ・デンシティ・ジャージー」を使用。コットンと伸縮性に優れたポリエステルを交編し、ハイゲージで編み立てる。その生地を、経年黄変せず汚れが落ちやすいような加工で仕上げた。白はずっと白く、黒はずっと黒く。その色みが持続可能なTシャツなのである。各1万1000円/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com

タンジェネットを代表するアイテムは3つ。「ハイ・デンシティ・ジャージー」と呼ばれる素材を使った白と黒のTシャツ(写真上)と、テンセル素材の白のシャツ(写真下)である。

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コットンライクな質感とテンセルならではのドレープを兼備するシャツ。このシャツも東海染工にて、美しい白が続く仕上げ加工を施している。2万2000円/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com

「僕自身の、いちばん廃棄サイクルの短い服が白Tと白シャツだったんです。着用と洗濯を繰り返すうちに黄ばみ、襟裏や袖裏は黒ずんでいく。また黒Tはいつの間にか色褪せる。

そうなると、いい大人が着るのはみっともないから捨ててしまいますよね。だから、この3つのアイテムを少しでも長く着られるようにしたいと思ったんです」。

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タンジェネットの定番シャツ素材の原料となるのが、ユーカリの木。殺虫剤や化学肥料を使わず育てることができる、環境負荷の少ない植物だ。

どんどん難解に、複雑になっていくように感じる昨今のサステナブル事情。リサイクル素材・新素材の開発、環境団体へのドネーション、自治体と連携して取り組むアップサイクルといった話題は巷間常に飛び交っている。

そんな状況で吉屋さんのシンプルな考えを聞くと、やっぱりそうだよな、根本はそこだよな、と素直に思う。こちらの考え方もシンプルになるのだ。

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[左]「ハイ・デンシティ・ジャージー」の編み機。創業90年という福井県の老舗テキスタイルメーカー、広撚(ひろねん)が手掛けている。 [右]「ハイ・デンシティ・ジャージー」の仕上げ加工をはじめ、タンジェネットの多くの素材を手掛けている愛知県名古屋市の東海染工。1982年よりバイオマスボイラーを導入し、業界内でもいち早くCO₂削減に取り組んできた染色加工会社である。

「コロナ禍を経てSDGs(持続可能な開発目標)や地球環境に対する意識が高まったのは間違いありません。実際、生地メーカーの合同展ではさまざまな新素材が出展されています。もちろんそれはとても意義のあること。

ただ僕はもう少し違うアプローチで、生活者の実体験に近いところにあるサステナブルに挑戦したかったんです」。

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和牛の革を使用したライダーズジャケット。重厚だが最初から身体に馴染むしなやかさを備える。16万5000円/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com

今季のタンジェネットで注目したいアイテムがある。それが和牛(※1)のレザーを使ったライダーズジャケットだ。

「仕留めた獲物の肉を食べ、残った皮は服や道具を作るのに利用する。人類はそんなことをかれこれ200万年も続けてきたわけです。

そう考えると、今自分たちが美味しく食べている和牛の、その皮を使ってライダーズを作るというのは、とても自然なことではないでしょうか」。

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和牛の原皮。この皮を熟練の技術でレザージャケットの素材に仕上げたのは、兵庫県たつの市に拠を構えるごとう製革所。プロユースの野球グローブ用皮革を生産する、高い技術を持つレザーファクトリーだ。

ただし、和牛の皮がアパレル製品に使われることはまずない。なぜなら硬く、比較的傷が多いといわれているから。その高い耐久性から主に野球のグローブなどに利用される。

でも吉屋さんは少々の傷は気にしないという。「牛だって生き物なのだから、僕らと同じように擦り傷くらいあるでしょう」。

その和牛の皮にオイルを染み込ませ、徹底的にほぐし、アパレルの素材として使用可能な柔らかさに仕上げる。そんなことを考えるのはおそらく吉屋さんだけであろうし、それに応えることができるレザーファクトリーの技術こそ、我々が知り、誇るべき日本のもの作りなのだと思う。

先のTシャツやシャツの生地も、そのほかの服に使用されている素材も然りである。

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和服を着たときに感じる日本人ならではのマインドがヒントに

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経糸にコットン、緯糸にウールを使用した上品なテイストのデニムは2022年秋冬の新作。深い藍色が長く続く染色加工が施されている。2万9700円/タンジェネット mitsuruyoshiya@gmail.com

「祖父から譲り受けた羽織袴があるんです。お祝いごとのときなどに着ると背すじがすっと伸びて、凛とした気持ちになる。

この“和服を着たときに感じる日本人のマインド”を、洋服で感じられたらいいなと思ったんですよ。普段の生活のなかで、和服を着る機会はまずないですから」。

洋服と和服の融合。これがタンジェネットのデザインのエッセンスである。具体的には「洋服を平面的に作っていく」のだとか。

一般的に洋服は曲線的、立体的に、身体に沿うパターンで作られる。だがタンジェネットの服はあえて直線的なパターンを用いて、平面的に仕立てているのだ。

「広げて置いてみるとわかりますが、TシャツはまさにTの字の形。シャツやジャケット、パンツにも直線的なパターンを取り入れています。

実際に着るとボックスシルエットといった感じ。この服が日本人のDNAを刺激できたら面白いなと」。

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今季の新作のひとつであるデニムは、愛知県一宮市の一陽染工で染色。埼玉県羽生市で江戸時代から続く、天然藍染めの色を再現したという。

ちなみにパタンナーを務める笹沼裕文さんも、吉屋さんと同じアパレル企業に在籍していた人物。偶然だが住んでいる場所も同じで、神奈川県の葉山町である。「こうした人のつながりがあるから、デザイナーとして服を作っていくことができる」と吉屋さんは言う。

デビューコレクションから1年余りが経過したこの6月には、パリファッションウィークに展示会形式で参加。海外への発信もスタートした。

「海外のメゾンから日本製素材の優秀さを教わり、十数年かけて日本中のテキスタイルメーカーや加工会社との関係を築いてきました。これからは国内はもちろん世界に向けて、“日本のもの作りの遺伝子”を届けていきたいですね。

微力だけど無力ではない。そんなふうに自分を鼓舞しながら、服作りを続けていこうと思っています」。

「タンジェネット」
創業年:2020年11月
本社所在地:神奈川県葉山町
デザイナー:吉屋 充
店舗:オンラインストアおよび国内取り扱い9店舗

Sustainable Keywords
・「黄ばまない白」「褪せない黒」の長く着られる服
・日本のもの作りの伝承と発信
・和服のパターンを洋服に転用

(※1)和牛:黒毛和種を主とした食肉用の牛のこと。但馬牛、近江牛など日本各地でさまざまな銘柄のブランド牛が飼育されている。

OCEANS編集部

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