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「睡眠薬が入っていく瞬間が楽しみ」 直木賞作家が語る人間ドック

「睡眠薬が入っていく瞬間が楽しみ」 直木賞作家が語る人間ドック

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  • 更新日:2021/07/22
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黒川博行・作家 (c)朝日新聞社

ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、血圧について。

*  *  *

去年の秋ごろから血圧が上昇した。それまでは降圧剤を服用して、上が130、下が80くらいだったのが140・80ほどになり、十一月ごろには170・90にも上昇した。もちろん、かかりつけの医師にも相談したが、原因は分からない。そもそも本態性高血圧はなにに起因するのか分からないから“本態性”といい、それまで服(の)んでいた薬が突然効かなくなることもあるという。

降圧剤二種──カルシウム拮抗薬とARBのうち、ARBを増量したが、効果はなく、年明けにも上が170、下が90になった。

これはさすがに放置はできず、カルシウム拮抗薬を変えたが、やはり血圧はさがらない。朝方に測ると上が180を超えることもある。

これではいけないと、総合病院へ行き、循環器の専門医に診てもらってカルシウム拮抗薬を増量し、朝と夕方に服むようにした。この半月、上が150台に降下してきたから、とりあえずはホッとしている。

──ちなみに、よめはんは料理に砂糖と食塩を使わない。塩味は醤油と味噌だけで摂っているから、外食をすると、どの店の料理も味付けが濃く、わたしにもよめはんにも塩辛く感じる。朝はふたりとも大皿いっぱいのサラダを食い、糖質はできるだけ控えて肥らないようにしている──。

そんな状況下でよめはんとふたり、前述の総合病院へ行き、毎年恒例の人間ドックをした。まず身長、体重、腹囲を測り、血圧を測る。上が154で下が91だった。看護師が「高いですね」というから「これでも低いんです」といったら笑われた。所詮は他人事なのだ。

採血、採尿、肺活量、聴力、視力、眼底検査、胸部レントゲン撮影、腹部エコーと進み、いよいよハイライトの胃内視鏡検査に向かう。よめはんとふたりだと、なぜかしらん心強い。

検査室のベッドに横になり、血圧測定のベルトを巻かれた。モニターを見ると、上が90、下が47だった。「これ、なにかのまちがいやないんですか」訊くと、「横になっているからでしょう」と看護師がいう。

ひとは寝ただけで血圧が60もさがるのか。不思議だが、ほんとうだった。

口にシュノーケルのような管をくわえさせられ、検査の準備が整った。看護師が腕に注射針を刺して「眠くなる薬を入れますからね」という。

わたしは毎年の人間ドックで、この睡眠薬が体内に入っていく瞬間が楽しみでしかたない。十秒ほどでふっと意識がなくなり、目覚めたときは検査が終わっている。よめはんと休憩室のベッドで二十分ほどお昼寝をし、きのうの晩からなにも食っていないので病院からすぐ家には帰らず、歩いて近くのうどん屋に行った。きつねうどんの美味かったこと。よめはんもてんぷらふたつとぶっかけを完食した。

翌朝。友だちがふたり来た。毎月恒例の麻雀の日だ。四人でサラダやサンドイッチを食い、コーヒーを飲んで十時からゲームスタート。よめはんがいきなり荘家(オヤ)の四暗刻(スーアンコー)をツモって、わたしが飛んだ。いつもそうだが、よめはんはヒキが強い。

麻雀は翌日の午前四時に終了した。わたしは負けて降圧剤を服み、へろへろになって寝た。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

※週刊朝日  2021年7月30日号

黒川博行

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