米中覇権抗争はいかにして「先端技術」へ矛先を向けるに至ったのか

米中覇権抗争はいかにして「先端技術」へ矛先を向けるに至ったのか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2022/01/15
No image

読売新聞トップ記事への疑問

「先端技術の輸出迅速規制―日米検討、対中念頭 新枠組み―半導体製造・AIなど対象か」――。読売新聞(1月10日付朝刊)」1面トップ記事の大見出しである。

同記事のリードは次のように書いている。《日米両政府が、先端技術の輸出を規制する新たな枠組み作りを検討していることが明らかになった。価値観を共有する欧州の有志国と連携することを視野に入れている。民間の先端技術を活用して軍事力を高める「軍民融合」戦略を進める中国への輸出を食い止めることが念頭にある》。

リードを読む限り、言わんとすることは概ね理解できる。しかし、関連記事の2面も含め本記を縦・横・上・下・斜めどこから読んでも、どうも記事の全体像がよく掴めない。

「中国が他国から輸入した製品などを自国の技術開発に生かし、経済力や軍事力を強化することを警戒している」日米両国が、既存の多国間の輸出規制の国際的枠組み「ワッセナー・アレンジメント」(WA)以外に、少数の有志国と新しい枠組みを構築するべく検討しているということのようだ。

ただ、記事中に「ワッセナー・アレンジメント/1996年発足/日米、ロシアなど40カ国超/通常兵器や関連用品・技術」「人権侵害防止に関する枠組み/協議中/米国が提唱。豪、ノルウェー、デンマークが参加。日本は慎重/監視カメラ、スパイウェアなどを指定」「先端技術に関する枠組み/水面下で検討/日米+有志国/半導体製造装置などを想定」と記述された表が掲載されている。

だが、四半世紀前に発足した「WA」はその後どのような経緯を経て「先端技術に関する枠組み」に至ったのかについての言及が全くなかった。

米・経済安全保障政策の「起点」

そもそもトランプ前政権下の米国は2018年8月、国防総省(ペンタゴン)に対し予算権限を与える2019年度国防授権法に広範な機微技術管理強化策を盛り込み、成立させた。そこに最先端技術(AI、量子技術、超音速、宇宙、サイバー)のR&Dを推進する国防予算、対米投資管理強化のためのFIRRMA法設置、輸出管理強化のためのエマージング・基盤技術の管理強化策などが含まれていたのである。

米国の経済安全保障政策はこの国防授権法成立を起点にスタートしたといっても過言ではない。以下、経済産業省の非公開資料「経済安全保障を巡る最新動向」を参考に書く――。(1)輸出管理・投資・政府調達規制強化、(2)エマージング技術と基盤技術管理への対応、(3)機微技術開発支援――であり、具体策として輸出規制強化(ECRA)、投資規制(FIRRMA等)、政府調達からの排除、エマージング技術14分野の機微技術管理、経済スパイ対策の強化、半導体産業支援策、機微・新興技術戦略に基づく技術優位性の確保である。

2019年には国際輸出管理レジームWAでの審議を経て核燃料再処理に使われる核物質の溶解・分離装置を規制対象とする、半導体製造に使用される高品質シリコンウエハの製造技術の規制追加などで合意。

さらに米中技術覇権抗争が本格化したのは20年。米国は法整備を含めて対中攻勢に打って出たのである。WA合意後の同年1月に地理空間画像分析の自動化ソフトウェア(AI関連)に関する独自規制を導入し、続く10月には基盤技術に関するレーザー、センサーなど4技術、ハイブリッド製造装置、通信データ監視分析ソフトなど5新興技術を管理対象に追加したのだ。

こうして見てみると分かるように、「先端技術」(ハイテク)という言葉がいかに多いかに改めて気付くはずだ。要するに、米中対立の肝はハイテク覇権の争いである。
敢えて言えば、筆者が「読売報道」に望むのは、このような米中覇権抗争の視点から、現在、日米両政府が水面下で準備しているとされる対中輸出管理強化の新枠組み構想を報道して欲しかったのだ。それこそが、まさにスクープと言えるのではないか。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加