「これでゆっくりできるだろ?」家事育児を一切しない夫からの計らいは、より妻を苦しめるものだった

「これでゆっくりできるだろ?」家事育児を一切しない夫からの計らいは、より妻を苦しめるものだった

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  • 更新日:2021/10/20

夫は、こんな人だった―?

周りに相談しても、誰も信じてくれない。子どもと一緒に夫の機嫌を伺う日々…。

最近、こんなモラハラ夫に悩む妻が増えている。

有能で高収入な男性ほど、他人を支配しようとする傾向が強い。

優衣(32)も、経営者の夫が突然マンションを買った日から、徐々に自由を失っていく。

広告代理店ウーマンから、高級マンションという“籠”で飼い殺される専業主婦へ。

彼女が夫から逃げ出せる日はくるのだろうか―?

◆これまでのあらすじ

優衣が専業主婦になった途端、家事育児の一切をしなくなった雄二。夫の助けがないため、優衣は慣れない専業主婦の生活に疲弊していた。そんななか、夫が買ってきた熱帯魚を巡り、トラブルが起こるが…。

▶前回:「さっさとやれよ!!」5年で会社を急成長させた若手社長の、妻に対するあまりに横暴な要求

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12月。

クリスマスの装飾に彩られた街中を横目に、優衣は自転車を漕いで家路についていた。

後ろには雄斗を乗せ、前カゴには千駄ヶ谷のスーパーで買い出した山のような食材。

多少遠くても、表参道の紀ノ国屋やナチュラルハウスなどのスーパーに行くより、安価な品物が豊富にそろうのだ。

それに、優衣の住む原宿から千駄ヶ谷までは平坦な道が続いていて、自転車でも行きやすいことから、週に何度か買い出しをするのが最近の習慣だ。

専業主婦になり約2ヶ月経つが、優衣はやっと今の生活に慣れてきたところだった。

― あー、疲れた…。

交差点で信号待ちをしていると、最近、恵を経由して知り合ったママ友にばったり出くわし、話しかけられた。

「雄くんママじゃない?ちょうど連絡しようと思ってたの!来週うちでクリスマス会するから、雄くんと一緒に来ない?」

こういった誘いが、最近の優衣の楽しみでもある。

「えー、いいの?行く行く!」

優衣は二つ返事で答えた。

「その日、日曜日なんだけどうちのダンナ仕事でいないから、ケータリングとるね」

ママ友のその言葉を聞き、優衣は楽しみな反面、家計が心配になる。

夫からもらっている生活費で、彼女たちと付き合っていくのはなかなか大変だ。ホームパーティーがあれば、いいワインやデザートを持参し、何かを頂いたらお返しをし、何かと出費はかさむものだ。

しかし、そんな日常や付き合いが、この街のママ友の中では普通。優衣は、ママ友に金銭の不安を悟られまいと、明るく振る舞った。

「嬉しい。楽しみすぎるー!」

信号が切り替わり、優衣は「また連絡するね」と挨拶をして、ペダルに足をかける。

この地に引っ越してきた当初、専業主婦の暮らしに息がつまりそうだった。夫の雄二は家事育児に非協力的だから、自分でなんとかする以外にはない。

認可保育園に空きがないなら、認可外でもいいから息子を預け、仕事を探そうとも考えた。

だが、毎日3食、しかも凝った料理を家で食べることに慣れてしまった夫に、今さら働きたいと言えばどうなるか、優衣は想像がつく。

引っ越してから雄二の人が変わったような場面に出くわし、優衣はどこか夫に対し萎縮していた。

ここのところ優衣は、自分が悪くないような場面でも、何となく自分が悪いように感じ、謝ってしまうのだ。

結局、雄斗が小学校に上がるまでの3年間は働くことを諦め、先月には、家から歩いていける私立幼稚園の入園申し込みをした。

幸い、優衣には代理店時代に貯めた1,000万ちょっとの貯金がある。

― また数年後に働き始めれば、専業主婦の間に使った分は穴埋めできるし…。

優衣は、そう自分に言い聞かせた。

「悪いけど、その日は家にいて」夫から告げられた、ホムパに行けない理由

夜。雄二が仕事から帰ってきた。

着替えをしないまま、窓際の水槽に直行し、水面のゴミを網ですくっている。網が差し込まれるたびに、ディスカスは鮮やかな体をひらひらと翻し、水槽の隅に群がった。

雄二の背中に向かって、優衣はホームパーティーに誘われたことを報告した。

「へぇ、そうなんだ。楽しそうだね。近所に友達できるの早いなぁ」

「日曜日なのに、1日家を空けちゃうけどごめんね」

優衣は、申し訳なさそうに詫びる。

だが、雄二は背中を向けたまま彼女に言い放った。

「でもさ、悪いんだけどその日は出かけないで欲しいんだよね」

夫の思わぬ言葉に、優衣は聞き返す。

「え?なんで?何か用事でもあるの?」

驚いた優衣に、雄二はさも当たり前かのような口調で話す。

「うん、うちのお袋が来たいんだって。孫の顔見に来るんだから、孫がいなきゃ意味ないでしょ」

義母がやってくるのは当然、とでも言うような口ぶりだ。

決して不仲なわけではないが、これまで優衣は、義母との価値観の違いを感じることがしょっちゅうあった。

雄二に聞こえないように、ため息をつく優衣。

すると、雄二は水槽を掃除していた網を置くと、優衣の方に向き直った。

「ねえ、ねえ、あれは?」

この話は終わった、とでも言うように夫によって突然話の矛先は変えられてしまう。

「あれ」という言葉に、義母が来るという憂鬱さ以上のものが、優衣にのしかかった。

「あれ」とはディスカスの餌のことだ。小松菜、ニンニク、牛ハツ、ビタミン剤や消化酵素をミキサーにかけ、餌用の赤虫と混ぜ合わせて作る。

マニアにはよく知られた「ディスカスハンバーグ」と呼ばれる手作りの餌で、配合によって体の色や体調を管理するらしい。

虫が苦手な優衣は、この餌を作る作業が苦痛に感じて仕方がないのだった。

「もうないなら自分で作って。そう約束したじゃない」

優衣はぶっきらぼうにあしらう。

世話は俺がする、と雄二が言うからディスカスを飼い始めたものの、実際は水面のゴミをすくい、餌を落とす程度のことしかやらない。

だが、死ねば先日のような事態になりかねないのだ。だから、優衣は飼育本を手に仕方なく世話を続けていた。

「俺、料理は苦手だし。ごめん、本当にこのとおり!クリスマスは、何か欲しいものプレゼントするからさ」

こんなときだけ下手に出る雄二に、優衣は渋々うなずくしかない。

「料理って…。私だって、虫とか触りたくないんだからね」

― 私が我慢すれば、雄二は怒らないし。このくらいやらないと…。

優衣は、そう自分に言い聞かせた。

翌週の金曜日。

千葉の房総から電車を乗り継ぎ、義母はやって来た。

「まあ、雄くん、しばらく見ない間に可愛くなって。雄くんの小さい時にそっくり」

義母にとっては雄二も雄斗も可愛い「雄くん」で、はたから聞いている優衣には実に紛らわしい。

夫、雄二は1人っ子で、義母の愛情を一身に受け育ってきた。義父は無口かつ昭和かたぎの仕事人間で、孫の成長には大して興味を抱いてないようだ。

だが、義母は可愛い息子の2世、雄斗が可愛くて仕方がないのだろう。

初孫である雄斗が生まれたときも、義母の喜びようは凄まじかった。

性別が分かるとすぐにファミリアのベビー服を大量に購入し、出産直後もおむつ替えや抱っこなどの世話を買って出たのだ。

優衣からすれば、義理の両親なのでやりづらいところはあったが、積極的に面倒を見てくれる義母の存在はありがたくもあった。

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しかし、雄斗を出産してすぐ、優衣が義母を避けるきっかけとなる事件が起こる。

実は、最初夫婦2人で決めた息子の名前は、「雄斗」ではなく「結斗」だった。

産後すぐ、スヤスヤと眠る我が子を見ながら雄二が言った。

「雄二、優衣、結斗と3つの「ゆう」で、漢字はそれぞれ違うけどイニシャルは同じってすごくいいと思わない?」

雄二の提案に、優衣も賛成した。

「それ、すごくいいね!結斗で決定だね」

そのとき、まだ優衣は入院中だったため、雄二が区役所に届けを出しに行ってくれることになった。

しかし退院後、夫からある事実を告げられたのだ。

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「うちの親父の名前が博雄、俺が雄二、だったら孫は結斗じゃなくて雄斗のほうがいいんじゃないかってお袋に言われてさ。雄斗で届けちゃった」

それを聞いた時、ショックで優衣は思わず泣いてしまった。

― 私たちの子どもなのに、勝手に名前を変えられちゃうなんて。しかも、雄二も言い返してくれないなんてひどい…。

涙する優衣を見て、夫は冷めた口調でこう言い放った。

「そんな大したことじゃないよ。読み方は変わんないし、変わったのは漢字だけだからもういいだろ?」

反論しても、届けを提出してしまったので後の祭りだ。そう思った優衣は、言い返すのをやめてしまった。

以来、優衣は意識的に雄二の実家とは距離を置くようにしている。実家に遊びに行く時も「家で片付けたい仕事があるから」と、雄二と息子の2人で出かけてもらうようにしていたのだ。

そんなことをぼんやり思い出していると、急に義母に声をかけられ、優衣は我に返った。

「優衣さん、今日のお夕飯だけど」

「はい、何か食べたいものあります?」

優衣は笑顔を作り、向き直る。

「今夜から雄二もいないし、デパートでお刺身でも買ってくればそれとご飯でいいわよ」

思わぬ言葉に、せっかく整えた笑顔が瞬時に消え去る。

「え?今、なんておっしゃいました?」

「あら、この辺デパートなかったかしら?スーパー?あ、紀ノ国屋があるわね」

呑気に答える義母。

だが、優衣は気が気ではない。義母のいるリビングを離れ、寝室に向かう。

義母の希望通りの食事を出していては、とてもじゃないが毎月10万円の生活費は足りなくなってしまう。

食事代をどうしたものかと、離れた寝室で雄二に電話をかけることにしたのだ。

「もしもし、今、お義母さんがいらしてるんだけど」

優衣の気持ちとは裏腹に、電話の向こうの雄二の声は、心なしか楽しそうだった。

「あ、お袋来た?よかった。優衣はいつもワンオペで申し訳ないからさ、お袋にはしばらくいてもらうことにしたから。優衣はゆっくりしてよ。これで1人の時間も作れるだろ?」

夫の言葉に、優衣は凍りついた。義母に何日もいられては、ゆっくりするどころではない。

「え?ちなみに、しばらくって一体いつくらいまで?」

食事代のことなど忘れ、すぐにでも帰って欲しい優衣は本心を悟られないように聞き返す。

「俺、今から出張だから。俺が戻ってくるまでだけど?」

雄二は当然のような口ぶりで、優衣の想像をはるかに超えることをさらりと言った。

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「出張って…。私聞いてないけど!」

思わぬ言葉に、優衣は無愛想に言う。

すると、雄二はまくし立てるように言い返してきた。

「ぜっっったいに、言いました!この間、ホームパーティーに行く話をされたとき」

強い口調に、優衣が思わずたじろいでいると、今度はなだめるように夫が話し続ける。

「そんな大事な話を忘れちゃうくらい、優衣は疲れてんだな。俺のせいだな。本当に何もしてやれなくてごめんな。お袋にはちゃんとお願いしとくから留守、よろしく!」

夫は一方的に話すと、優衣が返事をする間もなく、電話は切れた。

その後、雄二からLINEが届く。

「出張は愛知と三重のほうに、花の農家の視察と、土の作り方教わりにいくだけだから!母さんに家事は任せて、優衣はゆっくり休みなよ」

その一文が目に入るや、優衣は大きなため息を吐いた。

― お義母さんが来てる間は出かけられないし、気が休まるわけないじゃない…。

落胆しながらリビングに戻ると、義母は雄斗を大事そうに膝の上に乗せ、絵本を読み聞かせていた。そして、優衣の姿が目に入ると楽しそうに言う。

「優衣さん、私、もう1人孫が欲しいわー。あなたも専業主婦になったんだし、あと1人よろしくね!」

― あなたの息子が何もしないせいで、子ども1人だけでも大変なのに、もう1人子育てするなんてこりごりよ。

優衣は心の中で悪態をつきながら、義母の無邪気な言葉に、空笑いを返すしかなかった。

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