年末年始の風物詩「マグロ特番」が視聴者を引き付ける「理由」と「工夫」

年末年始の風物詩「マグロ特番」が視聴者を引き付ける「理由」と「工夫」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/13
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漁師たちに密着を続けて

「マグロ特番を見ないと年末年始という気がしない」。そんな思いを抱いている人もいるのではないか。

漁師たちに密着するマグロ特番。今年もテレビ東京が1月10日に『洋上の激闘!巨大マグロ戦争2021』を放送した。昨年12月31日にはテレビ朝日も『ザワつく!大晦日』内で「マグロに賭けた男たち」を流している。

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マグロに賭けた男たち 大晦日 “俺は負けない”(テレビ朝日)

『巨大マグロ戦争』では青森・大間の最年少マグロ漁師・菊池和喜さん(25)が、不漁が続いた後に242キロ(落札価格100万円弱)の超大物を釣り上げ、愛妻・千佳さん(24)を破顔一笑させた。それを目の当たりにした和喜さんも満足げな表情を浮かべた。

一方、漁師のキャリア72年で、番組のファンなら誰もが知る小浜文雄さん(90)は引退を決意。気力は残っているが、肉体の衰えには勝てなかった。支えてくれていた妻・かつさん(82)も体調を崩し、施設に入ってしまった。今回も漁師たちは悲喜こもごもだった。

テレ東とテレ朝にとってマグロ特番はお家芸。テレ東は2004年、テレ朝は2003年にそれぞれシリーズをスタートさせた。どうして同時期のスタートになったかというと、2000年代前半にマグロの値段が高騰したからだろう。それにより、マグロ漁にも視聴者の関心が集まった。

2001年1月5日、東京・築地市場での初競りで、202キロのマグロが2020万円で競り落とされた。今でこそ平凡な金額だが、当時の史上最高額であり、世間は驚いた。産地は一番うまいマグロが獲れると評判の大間。以降、大間を主な舞台としたマグロ特番が作られるようになった。

当初、テレ東とテレ朝はこんなに長いシリーズになるとは思ってもなかったのではないか。だが、高視聴率を得て評価も高かったため、第2弾以降が次々と作られた。

2003年放送のテレ朝版第1弾の視聴率は12.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)と上々。2005年の第3弾は16.8%と大幅アップした上、伝統あるATP賞のドキュメンタリー部門優秀賞受賞を授賞した。以降も安定した数字をキープ。テレ東版も好調を維持している。

漁師と家族の人間ドラマに魅力がある

なぜ、マグロ特番は視聴者を引き付けるのか? また、どうして飽きられないのだろう。その理由はマグロそのものや漁の様子を見せることがメーンではなく、漁師と家族の人間ドラマを視聴者に届けているからに違いない。

マグロ特番を見るうち、自然と漁に詳しくなる。「エサはサンマかイカ、トビウオ、ブリの幼魚」「釣り方は一本釣り、はえ縄、引きずり、ダンブ、ぶっつけ」。だが、それは副産物。漁の技術論を延々と放送していたら、見る側はとっくに飽きていた。釣りマニア向けの番組ではないのだから。

『巨大マグロ戦争』にはこんな一幕もあった。青森・龍飛の小嶋光弘さん(74)は1カ月もマグロが釣れない。これでは無収入どころか、燃料代で赤字になる。妻の夏子さん(71)はいつも笑顔だが、内心は穏やかではなかっただろう。

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photo by iStock

やっと28.5キロの獲物が釣れたものの、光弘さんはサイズが不満なのかやや硬い表情。自宅に戻り、夏子さんが「おめでとうございます」と喜色満面で祝福すると、やっと会心の笑みを浮かべた。夫婦愛が浮き彫りになった場面で、見る側の心を温めた。

実は、日本テレビとTBSも2000年代にマグロ番組を制作した。だが、長期シリーズ化したのはテレ東とテレ朝だけ。この事実は示唆に富んでいる。

現在の日テレは13歳から49歳の若い視聴者をコアターゲットとして重視。そもそも日テレは1997年に機械式の個人視聴率調査が始まったころから、若い視聴者を意識してきた。13歳から59歳をファミリーコアと呼ぶTBSもほぼ一緒だ。

だが、マグロ特番の味わいを好む視聴者の大半は人生の辛酸を舐めた中高年層以上だろう。船を買うために出来た太い借金を早く返そうと厳寒の海に出る男、元気に帰って来ることを祈る妻、父の豊漁を我がことのように喜ぶ幼い子・・・。

そういったエピソードで胸を熱くする若者はそう多くないはず。マグロ特番は演歌の世界なのである。

テレ東とテレ朝が番組内でBGMとして使うのも演歌。御大・北島三郎(84)の『北の漁場』などがよく流れる。海が舞台のドキュメンタリーであるものの、サザン作品や加山雄三(83)作品は間違っても使われない。

視聴者の目線の高さに合わせて

若者をメーンターゲットとする日テレとTBSが長期シリーズ化しなかったのは当然の成り行きだろう。一方、中高年層以上の視聴者も大切にするテレ東とテレ朝が放送を続けているのはうなずける。

テレ東とテレ朝が中高年層以上も大切にしているのは『家ついて行ってイイですか』(テレ東)と『ポツンと一軒家』(テレ朝)があることを見ても分かる。どちらにも若い視聴者はいるが、基本的には中高年層以上の視聴者に目の高さを合わせた人間ドラマだ。その点、実は両番組は、マグロ特番と近い。

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洋上の激闘!巨大マグロ戦争2021(テレビ東京)

テレ東版のマグロ特番を現場で制作しているのは共テレこと共同テレビで、テレ朝版は大河プロダクションだ。これも納得である。

共テレは今でこそフジ・メディア・ホールディングスに属し、ドラマとバラエティーの制作で名高いが、1958年の設立時は共同通信系の映像会社だった。ニュース映像を加盟各社に流していた。

その後、共同通信との関係は解消されたが、「共同」の名前を残したまま、フジの報道番組やドキュメンタリーの制作に参加。ドキュメンタリー制作の名門なのだ。

片やテレ朝版の大河プロダクションは『警察24時』を1978年から作り続けている。今や全民放キー局が模倣番組を放送しているが、テレ朝と大河プロがパイオニアである。

大河ブロなら、マグロ特番はお手の物だろう。『警察24時』と共通点がある。マグロ特番は釣れるまで船上で待たなくてはならないが、『警察24時』も事件発生までパトカーの周囲や警察署内で待機しなくてはならない。また、どちらもカメラを延々とまわす。

不漁が続く大間だが

ではテレ東版とテレ朝版の違いは何かというと、細かいところではテロップとSE(効果音)はテレ東版のほうが派手。「大間一本釣り最年少漁師が挑む格闘!240kgおばけマグロ」といった長いテロップが画面全体に入り、「マグロ!」というSEも使われる。

ただし、テレ朝版のほうが地味というわけではない。俳優・渡辺篤史(74)のナレーションが映像を彩る。名バイプレーヤーとして知られる一方、『渡辺篤史の建もの探訪』(テレ朝)のナビゲーターを務めている人だ。

美声の渡辺が読むナレーション原稿が独特なのだ。例えば、2019年3月のテレ朝版第16弾で、ある漁師が父の形見のヤッケを着て海に出たところ、渡辺は「天国のおやじ、力を貸してくれ!」と思いっきり叫んだ。いやー、本人はそこまで言っていないかと・・・。ドラマチックなナレーションが多いのだ。

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大間は2019年のシーズンからマグロの不漁が続いている。値段も下がってしまった。1年前の半値以下。新型コロナ禍で外食産業が窮地に立たされ、さらにマグロ好きな外国人観光客らも激減したためだ。

1月5日の初競りも最高値は208.4キロで2084万円。昨年の276キロ1億9320万円には遠くおよばない。

次の年末年始のマグロ特番では、大爆釣で値も上がり、すっかり明るさを取り戻した大間を見たい。

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