日本人が「絶滅」する前に...政治家もマスコミも誤解している、人口減少「本当の対策」

日本人が「絶滅」する前に...政治家もマスコミも誤解している、人口減少「本当の対策」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/03/19
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「出生数80万人割れ」という衝撃的なニュースの余韻が残る中、3月14日に超党派の「人口減少時代を乗り切る戦略を考える議員連盟」が設立された。

この議連は何を目指すのか。人口減少問題にはどのような対策が求められるのか。ベストセラー『未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること』著者で議連の特別顧問に就任した河合雅司氏が明かす。

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人口減少問題という「超長期国難」

自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党など超党派の国会議員による「人口減少時代を乗り切る戦略を考える議員連盟」(人口減少戦略議連)が発足した。

会長に就任した野田聖子前こども政策担当相は設立総会で「(当面の)人口減少に備えて今から何をしていくのかしっかり考えたい」と述べるとともに「具体的な答えを出していきたい」とあいさつした。

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人口減少戦略議連の会長に就任した野田聖子衆議院議員

この議連は、拙著『未来の年表』で提唱した「人口減少対策会議」構想に賛同する一部の国会議員有志が各党に呼び掛けて誕生した。筆者は同議連の要請を受けて特別顧問に就任した。

「人口減少対策会議」構想とは、人口減少によって起きるさまざまな社会課題対応すべく、全行政分野の課題を洗い出し、具体的な政策を練り上げる議論の場を設けようというものだ。最終的には、衆議院議員と参議院議員が一堂に会して議論できるよう国家基本政策委員会(党首討論を行う委員会)における専門委員会をイメージしている。

こうしたアイデアが現実のものとなるかどうかは、この議連の今後の議論にゆだねられるが、党派の立場を超え、国家を挙げて人口減少に伴う課題を解決しようという機運が盛り上がってきたことは大きな前進である。

議連の当面最大の目的は、国民的な「議論の場」をつくることにある。人口減少問題というのは超長期に及ぶ「国難」であり、世代がリレーしながら検討を進めていく必要もある。このため、参加メンバーは国会議員らに限らない。3月14日の設立総会には地方議会議員や各省庁の若手官僚、さらには多くの大学生、高校生も参加した。

「人口減少対策=少子化対策」という誤解

日本が本格的な人口減少社会に突入したのは2011年だが、対策の議論はなかなか進まない。その最大の理由は、ファクトに基づいた正しい認識ができていないからである。

典型的なのが、国会やメディアでよくみられる「人口減少対策=少子化対策」といった誤認だ。今国会でも、相変わらず与野党ともに子育て支援策の拡充策を競い合っている。

なぜ「人口減少対策=少子化対策」が誤認かと言えば、どんなに懸命に出生数増加策を講じたとしても出生数を増やすことは極めて困難だからである。日本は人口の激減が避けられない。

少子化の要因については多くの専門家がさまざまな分析を加えているが、真因は出産期(25~39歳)の女性の減少なのである。これまでの出生数減によって起きている構造的問題であり、政策では如何ともしがたい。ここを理解している人が少ないため、往々にして議論でボタンの掛け違いが起きる。

出産期の女性の減少は「合計特殊出生率が上昇しても出生数は減る」という状況を生み出すが、これが一番分かりやすいので具体的に説明しよう。

女性激減という「決定済みの未来」

過去最低の合計特殊出生率は2005年に記録した1.26だ。その後は上昇し2015年は1.45にまで回復した。ところが、両年の出生数を比較すると106万2530人から100万5721人へと5万6809人も減っている。

一方、総務省の人口推計(各年10月1日現在)で両年の25~39歳の日本人女性数を確認すると1295万1000人から1066万2000人へ17.7%も少なくなっている。

この先も、25~39歳の日本人女性数は凄まじい勢いで減っていく。2021年10月1日現在は943万6000人だが、25年後にこの年齢となる0~14歳は710万5000人でしかない。24.7%も減ってしまうことは「決定済みの未来」なのである。

短期間にここまで減ったのでは、いくら岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を展開しようとも焼け石に水だ。岸田首相は「流れを変える」と語るが、それは意気込みに過ぎない。

もちろん、少子化対策が無駄だと言うつもりはない。出生数の減少に歯止めをかけられないとはいえ、減るスピードを遅くする効果は見込めるからだ。現在の日本においては遅くするだけでも大きな意味がある。

コロナ禍前から出生数減のペースは速まってきており、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の低位推計(最も厳しい将来見通し)に近づきつつあるためだ。社人研の「出生低位・死亡中位」推計を確認すると、2065年の日本人の出生数は40万1000人、2115年には18万4000人である。これを許せば、日本には打つ手がなくなる。

だからといって、少子化対策だけを行って人口減少対策をしたつもりになっていたのでは不十分だ。人口が減ることによる諸課題はすでに広がり始めており、その対策は待ったなしである。

真の人口減少対策とは

人口減少対策とは、「人口減少に伴って起きる課題への対策」と「出生数の減少を緩和させる政策」と2つの政策に分けて考えなければならず、しかも双方を同時に進めることが求められているということだ。

ところが、政府や国会はこれまで子育て支援策の拡充ばかりに懸命になってきた。前者についてはほとんど手つかずといった状態で、どの分野の政策にも人口減少を十分に織り込んでいないものが目立つ。これではうまく行くはずがない。

人口減少問題の本質を正しく捉えるには、人口減少によって今後何が起きるのか正しく認識することが不可欠となる。超党派議連では正しい理解も広める。

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議連の設立総会であいさつをする筆者

2つの政策は並行して展開しなければならないが、その対象は多岐にわたる。では何から取り組めばいいかと言えば、喫緊の課題はほぼ手つかずだった「人口減少に伴って起きる課題への対策」である。すなわち「人口減少に耐えうる社会の創設」だ。

人口減少に耐えうる社会の創設に向けた検討課題に優先順位をつけるとすれば、まずすべきは2つだ。

1つは勤労世代が減っても社会が機能不全に陥らないようにすることだ。もう1つは国内マーケットが縮小しても日本経済が成長を続けられるようにすることである。

これらの課題への打開策としては外国人の大規模な受け入れを唱える声もあるが、実際のハードルは高い。

コンピューターが普及した結果、これまで労働者を送り出してきた国々に最先端工場が建ち並ぶようになり、経済も発展して雇用が創出されるようになったためだ。経済低迷が続いてきた日本は、こうした国の人々にとって魅力がなくなってきている。

それ以前の問題として、日本の勤労世代(20~64歳)は単純計算するとすでに毎年70万人ペースで減りつつある。これほどの規模を穴埋めする労働者数を送り出し続けられる国が見当たらない。現状より外国人が増える可能性はあるが、人口減少対策としては限定的であろう。

もはや日本は、人口が減っても豊かさを維持するという極めて難しい道を進むことを迫られているのである。しかも自分たちでそれを考え出さねばならない。

それには既存の価値観や仕組みを一度打ち壊すことが求められる。捨てるものを捨て、残すものに磨きをかけていくことだ。超党派議連にはタブーを恐れず、大胆な発想による新たな国の在り方を模索することが期待される。

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