今注目のフライパン...簡単でおいしい料理が作れると話題の町工場発「鋳物」フライパンの魅力

今注目のフライパン...簡単でおいしい料理が作れると話題の町工場発「鋳物」フライパンの魅力

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/03/19
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朝ドラに登場したフライパン製造

現在放送中の朝の連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK)は、東大阪のネジ工場が舞台。パイロットになるはずだった主人公・岩倉舞(福原遥)は、工場経営者だった父の浩太(高橋克典)が亡くなり、社長となった母のめぐみ(永作博美)の元で働き始める。親子と東大阪の同業者たちの奮闘ぶりから、不況時代の町工場の苦闘と技術力が見える。

昭和の時代、日本の家電や自動車が世界に誇る商品に成長することを支えたのは、部品を下請けしたこれら町工場だった。しかし、バブルの崩壊や大企業の工場の海外移転、さらにリーマンショック、と受注減や価格の切り下げが求められることが多く、下請け工場はくり返し苦境に立たされてきた。

このドラマでも、リーマンショックで仕事を切られそうになった父が奮起して技術力を高め、反転して会社を大きくする場面があった。

最近の展開では、舞は町工場の技術力を生かした最終製品のコーディネートをする会社を立ち上げている。現実世界でも、苦境を脱するため「下請けのままではダメだ!」、と最終商品の製作に乗り出す町工場が、次々と出てきた。その一つのジャンルが、鋳物工場によるフライパン製造である。

フライパン一つで作れるレシピが人気

フライパンは、今改めて注目されている調理器具。

コンロ1口しかない部屋で暮らす1人暮らしの人でも、フライパン一つでできる料理なら、自炊生活がしやすくなる。時短が必要な人にとっても、フライパン一つで作れるレシピは心強い助っ人である。

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Photo by iStock

そのためか、最近フライパン一つのレシピ本が続々と刊行されている。例えば、人気料理家の上田淳子さんの『ニューワンパンレシピ 今あるフライパンで最高の味』(主婦の友社)では、パスタも煮込みも炊飯も、フライパン一つでできるレシピが紹介されている。同書によれば、フライパンは炒める、焼く、蒸す、炊く、揚げる、煮込むと、およそ火を通す料理が何でもできてしまう。

フライパンの仲間で厚みがある鋳鉄製のスキレットも、料理好きの間で流行している。スキレットは持ち手も鋳鉄製なので、例えば肉を表面だけ焼き、鍋ごとオーブンに入れてじっくり火を通し、鍋のまま食卓に並べることが可能だ。熱々で食べられるうえ、作業も洗い物も少なく調理がラクになる。

鉄製のフライパンも最近、魅力が見直されている。スキレットのレシピ本で強調されるのだが、鉄や鋳物の鍋は、あらかじめ高温に加熱してから調理すれば、食材が鍋にくっつきにくい。怖がって火を弱くし鍋を十分に加熱できないと、食材がくっついて後の手入れが大変になる。くっつくのがイヤで、フッ素加工のフライパンを選ぶ人は多い。しかし、フッ素加工のフライパンは次第に塗装がはがれ、数年でダメになってしまうことが多く、くり返し買い替える必要がある。コンスタントにゴミを出すことは、エコでもない。

一方、鉄や鋳物製で高温調理した料理は、うまみが食材に閉じ込められておいしくなる。卵焼きやステーキにおいしさを求めるなら、鉄や鋳物のフライパン・スキレットがおすすめだ。しかも、ちゃんと手入れすれば一生モノにできる。

フッ素加工のフライパンが主流だからこそ、改めて鉄や鋳物のフライパンが注目されていると言える。というわけで本題に戻ると、最近人気が高いのは町工場が開発したフライパンなのだ。

鋳物製品でよりおいしい料理が作れる

一時期、テレビ番組でひんぱんに紹介された町工場が、名古屋市の愛知ドビーである。最初に開発したのは鋳物ホーロー鍋のバーミキュラ。

大ヒットの背景に、2000年代半ば、創刊間もなかった生活情報誌『Mart』(光文社)が推しまくって流行した、フランス製の鋳物ホーロー鍋のル・クルーゼがある。その後、やはりフランス製のストウブも人気になるなど、煮込み向きとして鋳物ホーロー鍋が注目を浴びているところに登場したのが、2010年に愛知ドビーが開発したバーミキュラだった。

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*この画像の鍋はバーミキュラではありません(Photo by iStock)

1936年に創業した鋳物工場の後を継いだ70年代生まれの兄弟の苦闘ぶりも、注目された。その会社が2020年から、フライパンも製造販売し始めている。

2019年12月17日放送の『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)は、愛知ドビーの新たな挑戦を取材。バーミキュラの大ヒットにより、同社は下請け工場から調理器具メーカーに転換していた。鋳物鍋の弱点は重いことだが、同社の鋳物フライパンは一般的な大きさの直径26センチのタイプでも、鉄製よりやや重い程度の約1・1キロだ。「目指したのは、世界一、素材本来の旨みを凝縮するフライパン」という触れ込みが、同社ウェブサイトに掲載されている。

鋳物鍋には、熱伝導率がよいだけでなく蓄熱性も高いため、素材の旨みを閉じ込める力が強い。味を追求したい人には、フッ素加工のモノより鉄製、鉄製より鋳物製なのである。

鋳鉄メーカーの軽さへの挑戦

三重県の錦見鋳造は、2001年に「魔法のフライパン」を開発していた。鋳物製にもかかわらず、980グラムと鉄製並み。売り上げが3倍以上になり、どん底から脱出するきっかけになった。1960年に創業した同社も、下請け企業だった。その苦闘ぶりを、2013年11月5日放送の『ガイアの夜明け』、2019年2月6日放送の『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)などが取り上げている。

『カンブリア宮殿』によれば、同社はバブル崩壊で仕事が激減した。廃業の危機に瀕し、注目したのが最終製品である鋳物フライパン製造の可能性だった。鋳物製フライパンを軽くするには薄くするしかないが、その限界は1990年代当時、5ミリと言われていた。それを1・5ミリにまでする。試行錯誤の開発中、うっかり2回も材料の炭素を加えてしまったら、穴も欠けもないフライパンが初めてできた。完成まで9年がかりだった。

2020年4月23日配信の『東洋経済オンライン』(東洋経済新報社)記事が取り上げたのは、愛知県碧南市の石川鋳造が売り出す「おもいのフライパン」。同社は1938年創業の自動車部品メーカーだった。同商品は柄まで鋳鉄製のスキレットであり、口コミで人気になり、一時は3年待ちになるほど注文が殺到した。熱伝導率を高くしようと3・5~4ミリ厚さにしているため、26センチのタイプが2キロと軽くはないが、重さを感じにくいデザインにしているという。

ル・クルーゼやストウブの鍋を使っている人にはおそらく、その重さに悩まされている女性がたくさんいる。フッ素加工のフライパンが主流なのも、くっつきにくさ以外に、鉄製や鋳物製に比べてかなり軽いことも要因の一つだ。何しろ500グラム程度のものもあるなど、軽めだ。

その軽さに挑戦すべく、鋳鉄メーカーは厳しい大企業の要求に応えてきた探求心と技術力で、薄さの開発に挑み、それぞれより扱いやすく高性能なフライパンを開発したのである。

町工場発のフライパンがヒットしたのは、SNSの普及で口コミの拡散力が高まっていたこと、鋳物鍋の流行で素材の旨みを凝縮できる調理道具の魅力を知る人が増えていたこと、下請けからの逆転劇が心に響くため、報道されやすいことが要因と考えられる。

お手軽・美味しい料理の流行

料理に時短簡単が求められがちな時代ではあるが、その陰に隠れがちなおいしさを追求する流行が興味深い。台所の担い手には、できるだけ簡単な料理をしたい気持ちと、よりおいしいものを作りたい気持ちが同居している場合が少なくない。

何しろ、グルメブームと言われた1980年代以降、外食・中食のレベルはかなり底上げされ舌が肥えている人が増えた。自分の料理より外食・中食のほうがおいしい、と料理をあまりしない人もいる。

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Photo by iStock

一方で、手軽においしい料理が作れる道具を求めている人も、たくさんいる。だから、「ふだんの料理が、道具を変えたらおいしくなった」という口コミが、説得力を持つのだ。鉄製や鋳鉄製のフライパンは、最初にしっかり加熱することを恐れずできれば、おそらくフッ素加工のフライパンを使い慣れた人が驚くおいしさを引き出せる。

だからこそ、その驚いた人たちがSNSに投稿し、さらにファンを増やすという好循環が働いているのだろう。町工場を応援したい人たちも、たくさんいる。そのうえ、道具を長く使い続ける文化も復活していくとしたら、それはよい傾向だと言えないだろうか。

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