スマホの通信費が下がってもユーザーは損する!?菅官房長官「携帯電話料金4割値下げ」発言の不都合な真実

スマホの通信費が下がってもユーザーは損する!?菅官房長官「携帯電話料金4割値下げ」発言の不都合な真実

  • @DIME
  • 更新日:2018/11/18
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スマートフォン業界の最前線を取材するジャーナリストによる@DIMEの人気連載「スマホ会議」。今回は特別編として菅内閣官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる」発言の何が問題だったのか、本当に4割下げることはユーザーのためになるのかを解説します。

「4割」の根拠に納得できない

編集部:菅義偉官房長官が「携帯電話料金はまだ4割下げることができる」と発言し、物議を醸していますが、どう思われますか?

石川:携帯電話料金値下げの話は、政治の道具にされている感が強い。自民党総裁選挙がある年にぶち上げるというのが納得いかない。総裁選と来年の参議院議員選挙、消費税値上げのセットで、安倍政権に任せとけばいいか、という感じに見せるのが狙いという感じが透けて見えるのが残念ですね。

石野:官邸が主導権を握る形で何かをしたいんだな、通信を変えたいんだなという思惑が見えてくる。でも、キャリアは民間企業。国から電波を割り当てられているとはいえ、料金をこうしなさいという指示に従わなければならない決まりはない。4割下げられると政治家が発言して、それを忖度して民間企業が動くというのは民主主義国家、自由主義経済国家として、気持ち悪い。

法林:気持ち悪いというか、通信業界の歴史を考えるとやってはいけないこと。もともと携帯電話は、事業者が料金プランを申告して、許認可を得て使えていたのが、後に届出制になり、完全に自由制になった。つまり、規制緩和で自由に料金プランを設計できるようになった経緯がある。それを今になって「4割下げることができる」なんてことを政治家が言うこと自体、明らかなルール違反。通信行政をわかっている人の言葉とは到底思えない。菅さんは2007年に「モバイルビジネス研究会」をやった時の総務大臣だからか、通信行政に口を出したがる。

石川:通信のことをわかっていると思ってやっているんでしょうけど。今回の4割というのは、どうやら去年、総務省が出した、内外通信業界の価格差のデータから出ているらしいんです。その中では2GB、5GB、20GBのプランで比較している。2GB、5GBの料金って世界で比べると日本は真ん中くらいなんです。資料にもちゃんとそう書かれている。唯一、20GBプランだけ、ドイツ・デュッセルドルフの次に高かった。というわけで、そこだけ引っ張り出してきて日本は高いと言っている。イギリスはデュッセルドルフの半額以下、だから4割下げられるっていう根拠でしかないんですよ。根拠が浅いというか、海外と比べて高いというのも、ごく限られたプランで比較しただけの話。それってちょっとおかしくないかという気がする。現状は大手キャリアとMVNOで料金差があるんだし、本当に安く使いたい人はMVNOに移行すればいいだけの話。

法林:これ以上下げたら、MVNOは潰れちゃうと思うんだけど、本当にそれでいいのかと。

石川:結局、大手3社しか残らず、じゃあ値上げしようか、みたいになる。昔から独占・寡占は良くないって教科書にも書いてある。

法林:でも、今回の場合「総務省自身が独占・寡占を作っているんだろう」みたいな話になってくる。

石川:日本の通信料金が海外に比べて高いという、変な刷り込みがされているのが理解できない。みんな、そんなに海外の携帯電話料金プランを知らないでしょ?

石野:日本人のいう海外って大抵、アメリカを指すのに、こと通信料金だけはヨーロッパと比較している。

法林:しかも比較対象にプリペイドの料金を出してきたりする。プリペイドのプランは、データ容量を使い切らず、余った分が結果的に収益になる部分があるので、料金を下げられるから安い。じゃあ日本でプリペイドをやれるかといったら、本人確認の問題でほとんどできないのが現状。

値下げの根拠となった総務省の通信費調査

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各国都市の大手キャリア(MNO)上位3社の月々の支払額を、データ容量2GB、5GB、20GBで比較したもの。東京の通信料金は2GB、5GBでは中レベルと決して高くない。20GBでは高いが、デュッセルドルフが東京を上回っている。7月に公表された総務省の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」より。

実は恵まれている日本の通信事情

石川:この手の話が出ると毎回、僕らが言っている話だけど、例えばドイツ版新幹線に乗ると、都市と都市の間は2Gなわけですよ。日本は東京から博多まで一応、トンネルを除けばほぼすべて4G。安くする努力は必要だけど、同列では語れない。

石野:そんなに言うんだったら、まずはイギリスに行ってSIMカードを買って試してほしいですね。イギリスも地下に入った瞬間に圏外になる、2Gでつながればまだいいほう。そんなところと一緒にされちゃ困りますよ。ヨーロッパはドイツですら微妙。

法林:ドイツもベルリンやフランクフルト、ミュンヘンなど、大都市は充実してるけど。場所によっては結構厳しい。やっぱり都市部中心ですね。

石野:ちょっと前にTwitterで話題になったけど、フランス人は電車の中でケータイを使わない、さすが洗練されているって称賛したら、フランス人が、いや、電波が入らないから使えないと言ったという小話があるくらいですから(笑)。日本の国土って、実際は広いんですよ。地図で見ると小さく感じますけど、ちゃんと面積で比較するとドイツと同じくらい。ドイツみたいに大陸にある国であれば、ネーションワイドでカバーしやすいですし、香港みたいな都市国家だったらエリアの整備がしやすくて、比較的低コストでできます。一方で、日本は、山が多くて起伏にも富んでいる。条件が全く違う国でコストを比較しても何の意味もない気がします。

比較表をよく見ると、日本はアメリカと大差ない。そんなに高いかと言われたらそうじゃない。アジアと比べれば確かに高いけど、そもそも物価の水準が違う。

石川:アジア諸国と比べるのは物価の条件が違うと思うし、海外と比較すること自体間違っている。ネットワーク品質の違いもあるし、ちゃんと日本の事情を考慮して適正なのかを判断しなくてはいけないと思う。4割安くなる分、4割つながらないケータイでいいのであれば、それでいいと思いますけど。

4割安くなる分、4割のエリアでつながらないケータイでいいのか?(石川)

石川 温氏

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日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内、海外のモバイル業界を精力的に取材。メルマガ『スマホ業界新聞』(月額540円)を配信中。

キャッシュバックがなくなって何が起きたか

法林:良くないことはほかにもある。携帯電話の事業は電波を出す免許をもらっている関係上、この手の話題が出るとキャリアの人って絶対何も言わないんですよ。心の中では疑問を感じているだろうけれど、表では絶対言わない。「安くなるようにこれからも努力します」と必ず言うんだけど、そう答えるとわかっていて政治家はああいう発言をするわけ。それはさすがに卑怯なんじゃないか。モバイルビジネス研究会以降、毎回、総務省があれこれやって、料金プランをいじって、安くなったかといったら、多少は下がったかもしれないけど、でも手続きが面倒くさくなったよね、という感じ。

石川:ちゃんと過去の反省を踏まえたうえで議論しないと、結果、同じことの繰り返し。2007年のモバイルビジネス研究会でやったことが、本当にこの業界にとって良かったのか。2017年から始まった携帯電話の公正競争促進に関する議論は、実際にどうだったのか。キャッシュバックがなくなったことによって何が起きたかといったら、ドコモは端末販売が黒字になって儲かっているわけ。それはおかしくないのかと。ユーザーに還元していたから赤字だったわけで、それが黒字になったということはキャリアが儲かっているだけということ。今まで総務省のやってきたことが、ユーザーのメリットになっているかどうかを、もう一度振り返って、もし失敗であればキャッシュバックを復活したっていいと思います。振り返りをもっとやらなきゃいけない。

法林:手を入れるべきことはたくさんあると思う。第三者が評価する仕組みを作らないと、やりたい放題やっているだけになる。

条件がまったく違う海外と比べても意味はない(石野)

石野純也氏

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宝島社にて数多くの携帯電話雑誌を企画し、独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。鋭い端末レビューに定評がある。著書も多数。

キャリア側の説明努力も必要

法林:総務省がダメだという話だけでは良くないので一応言っておくと、キャッシュバックをやめてキャリアは黒字になったので、これからユーザーに還元しましょうという話になるんだけど、還元することを株主総会も含めてちゃんと言っているところがあるのか。ドコモは以前からお客様還元という言葉を使っているけど、ほか2社はほとんど言わない。最近、やっとauが言い始めたけど、ソフトバンクに至っては、二言目には10兆円ファンドのことばかり。「いや、そうじゃなくて、俺のケータイ料金を下げてよ」って話なんだけど、ズレてるんだよ。

あともうひとつ、ユーザーがちゃんと理解できるように、お店で説明するだけじゃなく、普段から周知する努力をしないとダメ。料金プランにしても、HPの説明も含めて非常に出来が悪い。なぜ今キャリアが責められているのかというと、自分たちのやっていることを説明する努力が足りないというところが一番大きいと思う。

石川:請求書をウェブにしたのは良くない。ユーザー接点として紙の請求書を復活させてもいいのかなって気もします。あとキャリアは無駄な出資をしすぎていないかと。ベンチャー企業への投資に回すお金を、ユーザー還元に回してもいいんじゃないかな。

法林:株式会社である以上、利潤を追求しなくてはいけないけれど、インフラである以上は、何かしらお客さんに還元していかないといけない。ここに別なルール作りをしないと、という話が有識者会議で出てこないことが問題。

石川:ただ、ユーザー還元を盛り上げていくと、ユーザーはキャリアに張り付くので、結果、移動が起きない。そこが難しい。

石野:まぁ、4割下げたいんだったら、国営に戻すことですよね。

石川:ドコモを国営化して、4割下げれば、ソフトバンクもKDDIも対抗せざるを得ない。そこが一番の落とし所だと思いますよ。

石野:海外では物理的な基地局とかは国が作って、全キャリアがMVNOになってもいいんじゃないか、という議論は5Gである。

石川:NTTの鵜浦前社長も、5GではNTT東西が基地局設備を建設して、複数のキャリアが共用するという仕組みを提案していた。そうすると各社、差がなくなってしまうので、それは競争じゃないよねっていう見方もできる。

石野:さすがに共用はちょっと。

法林:一応、自由主義経済なので、会社が争わないとダメですよ。基地局やネットワークをみんなで共有しますなんていった日には、何も競争軸がなくなっちゃう。

石野:中国共産党でも言わないですよ、あんな4割下げろって。

石川:真面目な話、端末と料金の分離がここから一気に進むと思います。「docomo with」によって加速されるし、auの「ピタットプラン」もそうなるだろうし、ソフトバンクも「ウルトラギガモンスター+」と「ミニモンスター」で分離プランをやる。そうすることで、表向き通信料金が下がったように見せることができるので、そこが落とし所になるんじゃないでしょうか。でも、端末の割引はいずれなくなる。だから、安い端末を買えばいいって話になるし、高い端末が欲しければ、4年払いでみたいな感じになっていくと思います。

キャリアは自分たちのやっていることを説明する努力が必要(法林)

法林岳之氏

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スマートフォンやパソコンなどデジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。『できるシリーズ』(インプレス)など著書多数。

各社の対応は?

【ソフトバンク】新たに分離プランをメインに

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月割がない「ウルトラギガモンスター+」と「ミニモンスター」が登場し、旧プランは廃止に。分離プランをメインに展開していく。端末の支払いは48回割賦の「半額サポート」を推す。

【au】「ピタット/フラット」で分離

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auは2017年から段階制の「ピタットプラン」と定額制の「フラットプラン」で分離プランを提供。毎月割がない代わりに端末代は48回の割賦で月々の負担を軽減する。

【ドコモ】永年毎月1500円引きになる「docomo with」

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端末購入補助「月々サポート」が付くプランがメインだが、対象端末を購入すると契約できる分離プラン「docomo with」も提供。『iPhone 6s』が対象端末になって話題に。

取材・文/房野麻子

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