スパコン「京」と重力波が明らかにする原子核の世界

スパコン「京」と重力波が明らかにする原子核の世界

  • JBpress
  • 更新日:2018/06/14
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私たちの宇宙も、突き詰めれば粒子からできている。 Image byNASA.

こんにちは、小谷太郎です。今回は「スパコンと原子核と重力波」の話です。一見、無関係なこの三つのテーマは、研究の先端でどのように融合するのでしょうか。

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ダイオメガの大予言

2018年5月24日、「HAL QCDコラボレーション」という研究グループが記者発表を行ない、新粒子「ダイオメガ(ΩΩ)」の存在を予言しました。

【参考】http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180524_1/

HAL QCDコラボレーションは、理化学研究所、京都大学基礎物理学研究所、大阪大学核物理研究センターなどの研究者からなるグループで、「HAL QCD」は「Hadrons to Atomic nuclei from Lattice QCD」の略です。(うっすらと駄洒落の香りがただよう略称です。)

このダイオメガとはどんな粒子でしょうか。どこに存在するというのでしょうか。

「ストレンジクォーク」という素粒子が3個合体すると「オメガ(Ω)粒子」というものになります。オメガ粒子は1964年に発見済みです。どこに発見されたかというと、アメリカはブルックヘブン国立研究所の粒子加速器の中です。粒子の衝突によってオメガ粒子が生成し、100億分の1秒ほどこの世に存在した後、消滅してまた他の粒子に変わりました。

今回の発表によると、このオメガ粒子を(粒子加速器を用いて)2個合体させると、ダイオメガという粒子になるだろうというのです。

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存在が予言されたダイオメガ粒子。ストレンジクォークが3個合体したものがオメガ粒子。さらに2個のオメガ粒子が合体したのがダイオメガ粒子。

バリオン合体で新元素やら新粒子やら

この成果はどれほど重要なのでしょうか。粒子が合体するかどうか、予言できたら、それがどれほど役立つのでしょうか。

素粒子「クォーク」3個からなる、オメガ粒子のような粒子を「核子」とか「バリオン」といいます。バリオン同士をやみくもにぶつけても、うまく合体するとは限りません。例えば、「陽子」というバリオンは、2個ぶつけてもうまく合体せず、ダイ陽子はできません。また、別のバリオン「中性子」同士もうまく合体しません。

けれども陽子と中性子をぶつけてやると、合体して「重水素」というものになり、これは安定です。(正確には、これにさらに電子が加わったものが重水素原子で、陽子と中性子だけでは「重水素の原子核」に過ぎないのですが、原子核や素粒子分野の人はこれを単に「重水素」と呼びます。原子核や素粒子の人にとって、原子核は電子の1800倍くらい重要で、電子が付属しているかどうかはどうでもいいようです。)

もしも陽子をいくつかと中性子をいくつか合体させて、これまでにない新粒子を作ったならば、特にそこに含まれる陽子の数が新記録を出したならば、その新粒子は「新元素(の原子核)」ということになります。周期表のマスが1個増え、新しい元素名がつけられ、お祭り騒ぎになります。

つまり、先日話題になったニホニウムのような新元素の合成も、バリオン合体の一種といえます。もしも数百個のバリオンが合体するかどうか、理論的に予想できるなら、新元素の合成の見通しが立つことになります。

陽子や中性子のようなありふれたバリオンでなく、ストレンジクォークやその他の重いクォークの含まれるエキゾチックなバリオンだと、合体させて新粒子を合成しても新元素発見とはいわないのですが、その代わり「ハイパー核」とか「スーパー核」などと呼ばれます。新粒子ができればやはりお祭り騒ぎです。

どのバリオンの組合わせだとうまく合体して、どの組合わせだとうまくいかないのかは、大変重要な研究テーマです。これがもし予測できれば、それにしたがって粒子加速器をぶん回して粒子をぶっつけて、すると新粒子がチンジャラ転がり出て確変に入ってノーベル賞が連チャンです*。

* パチンコを知らない筆者によるイメージです。実際と異なる場合があります。

スパコンで探る原子核

バリオンが合体するかどうか、ダイオメガ粒子や新元素ができるかどうかを予測するには、バリオンを構成するクォークやクォーク同士を結びつける「グルーオン」の振る舞いを知る必要があります。

ダイオメガ粒子の計算と元素合成の計算は、かなりアプローチが違うのですが、ここは「格子ゲージ理論」とか「Lattice QCD」と呼ばれる手法について説明します。天気予報に似た(ところもちょっとある)計算手法です。

コンピューターを用いて天気予報を行なうためには、対象となる地域を無数の格子に分割し、各格子の温度や気圧などの物理量の時間変化を、流体力学の方程式を用いて計算します。そうすると、原理的には今日の状態から明日の天気を予測できます。

格子ゲージでは、対象となる空間(原子核内部のような狭い領域)を無数の格子に分割し、各点での、クォークやグルーオンの状態を表わす量の時間変化を、「量子色力学」を用いて計算します。天気予報とは比べ物にならない複雑な計算です。

今回の研究では、一辺8.1fm(フェムトメートル)の立方体空間を、96×96×96×96=8493万4656個の格子に分割しました。時間方向も分割するので、格子の数は96の4乗になります。1fmは1000兆分の1mで、一辺8.1fmの立方体というと、原子核よりも大きい広大な領域です。

この広大な時空を埋める約8500万個の格子の状態を、理研のスーパーコンピューター「京」の腕力でばりばりと計算したのですが、それでも3年かかったということです。

バリオンやクォークのために考え出された量子色力学は、計算機による格子計算と本質的に相性がよく、コンピューター技術と量子色力学は、歩調をそろえて仲良く進展してきたのです。

半世紀ほど進展しつづけた結果、現在では、スパコンを3年使えばバリオン2個が計算できるようになりました。これから先が期待されます。

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スーパーコンピューター「京」。 Photo byToshihiro Matsui, under CC BY 2.0.

原子核理論と中性子星の関係

原子核やバリオンの振る舞いを計算する格子ゲージ理論の手法は、何光年も離れた全然別の研究対象にも使えます。「中性子星」の構造です。

中性子星とは、私たちの太陽程度の質量を持ちながら、半径が約10kmしかない、超高密度の異常な天体です。中性子星から1mm^3の砂粒ほどのかけらを取り出すと、質量は40万t~100万tという訳の分からない数字になります。こんなとんでもない超高密度は地球上には存在しない、と言いそうになりますが、実はそこら中にあります。原子核です。

中性子星内部は、原子核と似た密度を持ち、バリオンやクォークやグルーオンがひしめきあい、ぶつかり合ったり合体したりしていると考えられています。ストレンジクォークなど、太陽系に存在しない素粒子も、中には混じっているかもしれません。実験室では10億分の1秒で消滅するオメガ粒子などの奇妙なバリオンも、中性子星内部では安定かもしれません。

中性子星を巨大な原子核だと見なし、原子核の理論を当てはめることによって、中性子星物質の圧力と密度の関係を求めることが(ある程度)できます。この関係は「状態方程式」と呼ばれ、中性子星の半径や質量に影響を及ぼします。

言い換えると、原子核理論に基づいて中性子星物質が硬いか軟らかいか計算し、そこから中性子星の質量と半径の関係式を決めることができるのです。

(ただし現状では、格子ゲージ理論の計算を実行して、正攻法で中性子星物質の状態方程式を計算すると、現実の中性子星の観測値から掛け離れた値がでてきます。もうちょっとの進展が必要なようです。)

そして重力波で探る原子核

さて、重力波検出器LIGOによる重力波検出と、宇宙物理学の書き換えについては、何度か紹介してきました。重力波イベントGW170817の検出は、2個の中性子星の衝突・合体をとらえた画期的な成果でした。

【参考】http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52283

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2個の中性子星の衝突・合体のイメージ。 Image byUniversity of Warwick/Mark Garlick, under CC BY 4.0.

2018年5月30日には、LIGOチームから続報がありました。GW170817のデータを解析することによって、中性子星の半径を11.9±1.4kmと精密に測定することに成功した、というものです。

【参考】https://arxiv.org/abs/1805.11581

この測定結果は衝撃的です。こうして実際の中性子星の半径と質量が精密に測定されれば、中性子星内部について情報が得られ、どの理論計算が正しいのか見当がつきます。どうも観測に合うのは、かなり軟らかい状態方程式のようです。これで、いくつもの中性子星内部の理論が不合格になりました。

観測に合わない理論は、観測に合うように修正しなければなりません。重力波観測に刺激され、原子核理論に新しい展開が期待されます。天文学分野と原子核分野が相互に進展するところが見られそうです。

(今のところ、量子色力学や格子ゲージ理論は、重力波観測によって検証されるほど精密な予言をしていないのですが、この分野も将来は重力波天文学と手を携えて進展すると期待したいです。)

それにしても、2015年の重力波の初検出からほんの2~3年で、重力波は宇宙論から原子核内部の物理まで、至るところで研究分野を革新している印象があります。世界を覗くとんでもない性能の望遠鏡を、どうも人類は手にしたようです。

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