トランプ大統領を手玉にとった中国の心理戦術 中国で「君子豹変」した理由

トランプ大統領を手玉にとった中国の心理戦術 中国で「君子豹変」した理由

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  • 更新日:2017/11/13
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今回のテーマは「トランプ訪中の成果」です。アジア歴訪の最大のヤマ場であった米中首脳会談が終了しました。中国側は、とりわけ通商問題に関して、ドナルト・トランプ米大統領と衝突を回避するために、周到な準備を行っていました。本稿では、習近平国家主席からの28兆円の手土産、トランプ大統領の豹変及び中国の同大統領の孫娘アラべラちゃん投入について分析します。

晩餐会で流されたアラベラちゃんがチャイナドレスを着て歌う様子(REUTERS/AFLO)

28兆円の落とし穴

トランプ大統領は、今回のアジア歴訪において北朝鮮問題では大きな進展を図ることはできないと読み、貿易で確実に成果を上げることに力点を置いたフシがあります。日本・韓国訪問でもそうでしたが、特に中国訪問で本音が見えました。

トランプ大統領と習主席は、航空機、半導体、農業(大豆・食肉)及び液化天然ガスなどの分野において総額2500億ドル(約28兆円)の商談が成立したと発表しました。習主席は、トランプ大統領の面子を高めるために、28兆円の手土産を持たせたのです。

米国の2016年の対中貿易赤字は3470億ドル(約39兆円)で、貿易赤字全体の47.3%を占めています。続いて日本の9.4%、ドイツの8.8%、メキシコの8.6%の順になります。貿易赤字の約半分が中国であるわけですから、トランプ大統領が中国に貿易不均衡の是正を求めるのは当然です。

余談ですが、2016年米大統領選挙でトランプ大統領は、貿易不均衡是正を争点化して、中国、日本及びメキシコの3カ国を標的にしました。ところが、3位のドイツは上の3カ国と比較するとほとんど攻撃対象になりませんでした。その主たる理由は、同大統領のルーツがドイツにあり、しかも白人文化であるからではないか、という見方があります。

一方、中国に関しては、選挙期間中、トランプ候補(当時)は支持者を集めた集会で対中貿易赤字の問題を取り上げ、「中国は米国を強姦している」と激しく非難しました。さらに、習主席が訪米したら「ハンバーガーを出せば十分だ」と見下した発言もしました。

トランプ大統領にとって、ハンバーガーは決してお客様に敬意を示す時に用いるものではないのです。率直に言いますと、トランプ訪日の際、日本政府が同大統領にハンバーガーを出して「おもてなし」をした事実を知らされて愕然としました。

本論に戻りましょう。トランプ大統領は、間違いなく28兆円の商談の成果を白人労働者、退役軍人及び軍需産業を含めた支持基盤に訴えるでしょう。というのは、就任から9カ月が経過しましたが、同大統領の成果に対して、米国民の厳しい目が向けられているからです。米ワシントン・ポスト紙とABCニュースが行った共同世論調査(2017年10月29-11月1日実施)によりますと、65%がこの9カ月間に「成果を上げていない」と回答しています。同大統領は、今回のアジア歴訪において注目を浴びる、しかも目に見える成果を強く望んでいたわけです。

ただ、今回の商談は「覚書」を交わしたのであって、法的拘束力を持つ契約というよりも、「約束」と言えます。従って、実際のところ、どれだけ貿易赤字の幅を削減し、雇用を創出できるのかは全く不透明なわけです。

トランプ・習の「互恵的関係」

前で述べましたが、2016年米大統領選挙期間中、トランプ候補(当時)は中国、メキシコ及び日本をやり玉に挙げて、貿易赤字是正を強く訴えました。ところが、北京で開催された経済界との会議で、米中の企業経営者を前に、対中貿易赤字に関して驚きの発言をしたのです。

「私は中国を責めない」

トランプ大統領にこう言わしめたことは、習主席にとって大きな収穫であったことは確かです。同大統領は、声のスピードを落とし、間をあけて効果的に沈黙を使うと、首を左に振って習主席と視線を一致させたのです。「今度は、私があなたの面子を立てましたよ」と言わんばかりの表情でした。両首脳は、取引をして互いに面子を立てるという「互恵的関係」を結んだように見えました。

続けてトランプ大統領は、対中貿易赤字の責任について次のように言及したのです。

「自国民の利益のために、他国を利用していることを責めはしない」

これまでとは打って変わって、中国擁護の姿勢に回ったのです。そのうえで、対中貿易不均衡の原因を、問題解決してこなかった過去の米政権に求めたのです。自身のツイッターでも、トランプ大統領は中国ではなく、これまでの米政権の「無能さ」に原因があると断定しました。結局、同大統領を封じ込めた習主席は、内心笑いが止まらなかったでしょう。

中国で「君子豹変」のトランプ

対中貿易赤字に加えて、人権問題においてもトランプ大統領の態度は変化しました。最初の訪問国日本では、拉致被害者の家族と面会し、彼らの話を傾聴して、感情移入を行い、人間性を全面に出しました。

2番目の訪問国韓国では、国会演説の中で、北朝鮮の強制労働者に対する拷問、栄養失調の子供たち及び宗教弾圧といった人権侵害について語ったうえで、同国を「地獄」とレッテル貼りをしたのです。日本と韓国では、通商問題と雇用のみならず、北朝鮮と絡めて人権の重要性を強調したわけです。

ところが、トランプ大統領は3番目の訪問国中国では、人権活動家を弾圧する政府に対して、人権問題を取りあげませんでした。自由、平等及び人権を主張する米国大統領の使命や役割を捨てて、対中貿易赤字解消と国内の雇用創出で成果を出すことに力を注いだのです。

訪中して考えや態度をあっさり変えるトランプ大統領には、驚くばかりです。同大統領は徳の高い立派な人物なのか、多いに疑問がありますが、国賓以上の異例の厚遇を受けて、まるで君子が豹変したかのようでした。

アラべラちゃんでトランプを落とした中国

9日夜の晩さん会で、大型スクリーンに伝統的なチャイナドレスを着て、中国語で歌を歌うトランプ大統領の孫娘アラべラちゃんが登場しました。トランプ大統領が、彼女の歌に聞入る様子がネットで確認できます。軍隊歌手であった習主席の彭麗媛夫人が、笑顔で隣席しているアラべラちゃんの父親ジャレット・クシュナー大統領上級顧問に語りかけている様子も、カメラが捉えていました。

アラべラちゃんの歌が終わると、トランプ大統領は満面の笑みを浮かべて拍手をしている姿がはっきりと映っています。一方、微笑んでいるメラニア夫人も観察できます。中国はアラべラちゃんを「米中の友好の獅子」「米中関係のメッセンジャー」と呼んで、トランプ大統領を中国に引きつけることに成功しました。

孫娘まで投入して、トランプ大統領の心理を突いた中国の「戦略的おもてなし」は、間違いなく高得点を上げました。同大統領の孫娘を政治的に利用したと批判することもできますが、中国の狙いは的中しました。

中国の思うツボ

かつて筆者は、都内の米国企業でリスク・マネジメントのアナリストとして活躍している中国人女性を対象に、中国式の衝突と対処法に関してインタビューを行ったことがあります。このアナリストは、次のように語っていました。

「相手に自分が妥協したという意識を持たせずに、棒で糊を混ぜるように上手に相手を変えていくのです。相手を快適にさせ、意思を弱め、強く主張できなくなるようにさせるのです。そのようにして、相手から少しずつ無意識の譲歩を引き出し、最終的には相手を自分の立場に近づけるのです」

トランプ訪中で中国側がみせたトランプ対処法は、正にこのやり方でした。音楽隊による盛大な歓迎式典、京劇観賞、29兆円の商談からアラべラちゃん投入まで、あの手この手を使って中国側はトランプ大統領を快適にさせて、懸念の対中貿易赤字の問題で強く主張できなくすることに成功を収めたのです。

その結果、トランプ大統領との衝突を上手にかわすことができました。今回の訪中は、中国の狙い通りだったと言えるでしょう。

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