『ユーリ!!! on ICE』を観れば五輪フィギュアは百倍面白くなる

『ユーリ!!! on ICE』を観れば五輪フィギュアは百倍面白くなる

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/02/16
No image

平昌五輪が熱く続いている。注目が集まるフィギュアスケートは16日17日が男子シングルのSPとFP。アイスダンスに続き、20日21日には女子シングルSPとFPが行われる。9日に宇野昌磨が団体戦で見せた見事な演技や、練習再開した羽生結弦の4回転ジャンプを見ると、日本勢の活躍を期待せざるを得ない。このワクワクドキドキ、始まるまで待ちきれない! そこで『羽生結弦は助走をしない』という著書にてマニアックかつ分かりやすく熱いフィギュア解説を披露している高山真さんが、「これを見るとフィギュアが100倍楽しくなる」人気のフィギュアアニメ『ユーリ!!! on ICE』について語ってくれた。

No image

2月9日、宇野昌磨の団体戦の演技の「修正能力」に高山さんは大絶賛 Photo by Getty Images

技術の視点、LGBTの視点

1月に『羽生結弦は助走をしない』という本を出版した、高山真と申します。本を発売してからメールや読者ハガキなどでご意見・ご感想をいただくようになりましたが、その中の数通に、とても意外で、かつ印象的なご感想がありました。

その方たちの共通点は、「アニメ『ユーリ!!! on ICE』の大ファンで、それをきっかけに実際のフィギュアスケートにもハマるようになった」という点です。

そういった方々が、

「ユーリがオンエアされていた時期にリアルタイムで読めていたら、と思ってしまうほど面白かった。私の副読本にしたい」

「まだまだ知らないことだらけですが、何かものすごく大切なことが書いてあるような気がします」

「同じくYOI(これは『ユーリ!!! on ICE』の頭文字ですよね?/カッコ内 筆者注釈)が大好きな友人にもすすめます」

といったご感想をお寄せくださったのです。

中には、

「こういう層からの意見はご迷惑かもしれませんが」

という一言を書き添えてくださった方も……。

そんな! 迷惑どころか、どのご感想も本当に嬉しくありがたいものでした。だって、私も『ユーリ!!! on ICE』を見ていましたし、本当に素晴らしい作品だと思っていたのですから。

先に申しておきますと、フィギュアスケートは1980年からディープにハマっておりますが、「本格的なレッスンを受けたことがなく、遊ぶ程度のことしかできない」人間です(まあまあ真剣にやっていたスポーツはテニス)。つまり「とにかく見ることが大好き。見たものを自分なりに味わい、とことん愛でて、分析するのが大好き」というタイプのスケートファンです。

漫画やアニメファンの中に、「いろんな作品にはディープにハマってきたけど、実際に漫画作品を描いていたり、アニメの仕事をしているわけではない」という方たちがいらっしゃるとしたら、そういう方たちと同じ層といえると思います。

No image

アニメ人気ゆえ、アニメ版の『ユーリ!!! on ICE』設定資料集』も発売されている

©

今回出した本は、そんな立場の人間の「私のツボ」を、自分なりに可能な限り詳細に書いたもの。そんな本が、アニメファンのみなさんにも評価していただけるなんて! しかも自分がとても楽しみに見ていたアニメのファンの方々に! 本当に小躍りするくらい嬉しい経験だったのです。

もうひとつ、自分のことを申しますと、私はスケートファンであり、LGBTのG、ゲイです。『ユーリ!!! on ICE』は、スケートファンの私、そしてゲイの私、どちらの立場で見ても、本当に素敵な作品でした。その両方の立場からの「私のツボ」を、今回書かせていただこうと思います。私にあてて「つながる気持ち」を先にくださった「YOIファン」のみなさんに、何か少しでもいいから「つながる気持ち」をお返しできますように。

スケートシーンのリアリティ

『ユーリ!!! on ICE』というアニメが始まるというニュースに最初にふれたとき、「スケートファンの立場として、これは見ないと!」と思ったいちばんの「ツボ」は、「スケートのシーンの振り付け監修は宮本賢二氏がおこなう」という点でした。

宮本賢二氏は、スケートファンなら知らない人はいない、日本を代表するフィギュアスケートの振付師。その宮本氏が監修をするなら、実際のフィギュアスケートのシーンも素敵なものになるはず、と予想したのです。

そして第1話のオンエア日、まず驚いたのはオープニングでした。ジャンプをしているのは1回だけ。あとはアニメのキャラクターが、ずっと美しいステップを踏み続けているのです。

「この作品は、『スケートとは、滑りそのものの難しさや美しさを見せる競技』だと心から理解している人たちが作っている!」

と、狂喜乱舞したものです。加えて言うなら、そのステップは、「現実にはありえない体や足の動きではなく、ものすごくリアルな動き」になっていました。ものすごくきれいな滑りをするスケーターを動画撮影し、その動きに忠実にアニメーションを作っていく……、そんな非常に手が込んだことをしていることが見て取れたのです。スケートファンとして、こんなに嬉しいことはありません。

足元をアップにしてもお見事

そして、驚きは本編の中にもありました。ヴィクトル・ニキフォロフの演技の1本目のジャンプである4回転ルッツが、変な言い方ですが「きちんと4回転ルッツ」だったのです。

ルッツジャンプは、「回転方向が時計回りと反対」の人の場合は、踏み切るときの左足のスケート靴のエッジが、「後ろ向き(バック)で、体の外側に倒れている(アウトサイド)状態」のとき(この2つの状態を兼ねているので「バックアウトサイドエッジ」と呼ぶ)に、右足のトウピックをついて踏み切ります。で、左足のエッジがちゃんとバックアウトエッジになっていたのです。

それも、「さあ見てください!」と言わんばかりに、足元がアップになっていた。

特に、フリップとルッツの作画! フリップは、踏み切るとき、スケート靴のエッジが「後ろ向きで、体の内側に倒れている(インサイド)状態」のとき(バックインサイドエッジと呼ぶ)に、右足のトウピックをついて踏み切ります。ルッツとの違いは、バックの「アウトサイドか/インサイドか」。これが明確に描き分けられていました!

そして「スケーターが『滑る』のを見るのが大好き」な私にとって、ヴィクトル(そして、離れた距離からヴィクトルに寄り添うように同じプログラムを滑る勇利)の演技のほとんどが、「滑るシーン」で構成されていたことの喜びたるや。

スケート靴のエッジが、左右それぞれの足で、「フォア(前向き)/バック(後ろ向き)」、「インサイド/アウトサイド」に踏み替えられ、それと呼応するように上半身と腕が美しく動いていく……。

演技が終わったとき、私はスケートファンとして拍手しながら、作画を担当したスタッフの方々の労力を思ってクラクラしてしまったほどです。

そうした「作画スタッフの労力」は、最終回までジンジンと感じられました。ジャンプの踏み切り時の「描き分け」は最後まで健在でしたし、滑るシーンのナチュラルさは最後までリアリティを失っていなかったように感じます。テレビのアニメは時間的にも予算的にもさまざまな制約があると聞いたことがありますが、そんな中で「よくぞここまで」と思う作品だったのです。スケートファンとして感激しました。

「ゲイの私」が感激した理由

次は「ゲイの私」が感激した部分を……。

『ユーリ!!! on ICE』がBL的な人気を博していること(ここは「博していた」と過去形にしなくてもいいでしょう)は、BLのことをまったくと言っていいほど知らない私の耳にも入ってきていましたし、いまでも時々入ってきます。

BLという分野に、当事者であるゲイがどのような感情をもっているか、は、ひとりひとりのゲイによっても違いますし、ひとつひとつのBL作品の内容によっても変わってくるでしょう。私は基本的に「男とは〇〇」とか「女とは〇〇」とか「ゲイとは〇〇」みたいに、主語を大きくするのは嫌いなタイプ。

「そんな雑なくくりで語れることなどひとつもない」と思っている人間です。そして同時に私は、「BLとは〇〇」みたいなことを語るには、BL作品を知らなすぎる。ですので、「私という人間が、ゲイとしての部分で、『ユーリ!!! on ICE』の何に感激したか」を述べたいと思います。

第10話、勇利がヴィクトルとおそろいの指輪を買い、教会でお互いの指にはめたシーンの後です。ライバルのスケーターがいるレストランに合流したところで、その指輪を発見されたシーン。

「結婚おめでとう!」と拍手され、「みんなー! 僕の親友が結婚しましたー!」と店中に大声で告知され、店中の拍手の中で、スケーター仲間もそれぞれ「らしい」リアクションをとります。そのスケーターたちの中に「ゲッ。男同士で結婚!?」という表情がひとつもなかったことに、私は何よりも感激したのです。

ことあるごとに勇利にキツくあたるユリオことユーリ・プリセツキーの「お口あんぐり・ボーゼン」の表情は、「男同士が結婚する」ことへのショックではなく、

「勇利のコーチを務めているヴィクトルに、どうしても自分のフィールドに来てほしい。その思いからいろいろ動いているのに、今後どうやって動いていっていいのかわからない」
という意味のショックであることが見て取れました。

スケーターたちの顔が険しくなったのは、ヴィクトルの「これはエンゲージリング。(勇利が)金メダルで結婚だよ」という説明の、「結婚」ではなく「勇利が金メダルを獲る」ことへの反応だったのです。あとから乱入したスケーターも、「その結婚が祝福できない」のは「金メダルを獲るのは自分だから」という理由からでした。

このアニメが放映される前から、私の周りの、特に年若いゲイの友人知人がよく言っていた言葉があります。

「男女の恋人同士でも、同性の恋人同士でも、何も変わりゃしないのに。フツーに祝福されたいよね。いや、祝福なんて別になくてもいい。『ふーん、そうなんだ』程度で充分。『ゲッ。気持ち悪い』はもちろん傷つくけど、『偏見に負けず堂々としてて偉い!』っていうのも、なんか余計な荷物を背負わされてそうでちょっとキツい。結婚する男女のカップルで、そういうこと言われる人っていないでしょ」

『ユーリ!!! on ICE』のこのシーンを見ながら、私が思い出していたのは、そんな言葉でした。

深キョンドラマに共通するフラット感

現在、フジテレビで毎週木曜日に放送されているドラマ『隣の家族は青く見える』は、4組の家族がそれぞれに抱える問題を丁寧に描いている作品で、私が今季もっとも好きなドラマです。その4組の中に、男性のゲイカップルが1組います。そのゲイカップルの描かれ方が、ほかの3組の描かれ方と比べても非常にフラット。ヘンにお笑い担当にさせられていたり、ヘンにどぎつい担当にさせられたりすることもなく、「それぞれの家庭が、それぞれに抱える何か」を描いています。

『ユーリ!!! on ICE』は、もしかしたら、「どんな『愛』であろうと、そこに上下をつけることなく、フラットに描く」という点で、このドラマに先んじていたのかもしれません。
胸が温かくなるような作品にも、さまざまな種類があります。私が好きなのは、「その作品自体がほんわかと温かい。それだけでなく、現実までほんわかと温かくしようとしている。そんな意図が見える」作品です。

No image

モード誌の表紙を飾るほどの人気だ

「もしかしたら、近い将来、そういう時代がくるかもしれない……」

そんな希望を持たせる作品が、私は本当に大好きなのです。私にとって、『ユーリ!!! on ICE』は、そういう作品でした。その作品を愛してやまない方々が、私の元に「つながる気持ち」を寄せてくださった。それが幸せでなくてなんなのでしょう。

『ユーリ!!! on ICE』は、現在、劇場版を製作している真っ最中だそうです。病気の治療中の私は、
「まだまだ世の中には見たいもの、味わいたいもの、知りたいものがたくさんある」
という思いを治療の原動力にしています。「フィギュアスケート観戦」は、その原動力のトップ項目ひとつなのですが、現在は「YOI劇場版を映画館で見ること」もトップグループに位置しています。

世の中には、まだまだ素敵なものがある。世の中は、まだまだ素敵に変わっていく。そんな希望だけは、お互い放棄したくないものですね。

高山真(たかやま・まこと)

No image

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。集英社新書の『羽生結弦は助走をしない』がベストセラーになり、現在「『羽生結弦は助走をしない』特設サイト」にて平昌五輪までエッセイ連載中。本書の中で肝臓がんの治療中であることも明らかにしている。特設サイトはこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/special/hanyuyuzuru/

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

芸能カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
竹内涼真、福士蒼汰、菅田将暉......本名よりもカッコいい!? 実は“芸名”だった若手俳優たち
矢口真里が“初めての女”断る「私じゃダメだ」
泰葉が自己破産、実家からは門前払い
「震災義援金4億円」サンドウィッチマン・伊達の“心配な言動”とは?
クロちゃんのアイドルライブでの行動に「怖い」とドン引きの声
  • このエントリーをはてなブックマークに追加