購入費用は相場の3倍...なぜJALは152億円もの大金を支払い“二階後援会幹部の所有する土地”を購入したのか

購入費用は相場の3倍...なぜJALは152億円もの大金を支払い“二階後援会幹部の所有する土地”を購入したのか

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/05/05

一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。

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彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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二階の地元で計画された「日航タウン」

大阪湾の泉州沖に浮かぶ巨大な関空には、多くの運輸・建設族議員が関与してきた。なかでも二階俊博は、和歌山県議時代から県議会関西国際空港特別委員長を務めてきた関空のスペシャリストだ。自民党交通部会長や運輸大臣を歴任し、「与党関西国際空港推進議員連盟」の顧問でもあった。先に取り上げた、マリコンの営業担当者によるミナミのクラブ通いは、政界の実力者に対する気づかいにほかならない。埋め立て工事の主力であるマリコンのみならずゼネコン業界はとりたてて騒ぐような話ではない、と吐き捨てる。それより業界内で評判になったのは、西松建設の関空工事受注だ、とマリコン業者の幹部が話す。

「マリコンでもなければ、スーパーでもない。その西松が、いともたやすく関空の埋め立て工事をとっている。この時期の西松の受注工事のなかでも、関空がひときわ目立っていた。だから何かあるな、と評判が立ったものです」

準大手の西松建設は、関西国際空港二期工事で1999年以降7件の工事を共同企業体(JV)で受注している。受注総額は580億円にのぼる。うち埋め立ては123億9000万円の「埋立部地盤改良工事」と246億7500万円の「空港島埋立工事」などの工事だ。

西松建設は09年6月、日本国内で98番目にオープンした富士山静岡空港の主要工事も受注している。日本にそこまで空港が必要だったのか、と計画の評判は決して芳しくないが、それはともかく、空港工事受注合戦において、西松建設はかなりの強みを発揮してきた。その後ろ盾が二階ではないか。少なくとも業界では、そう見てきた。

空港建設をはじめ運輸行政における二階の影響力は、はかり知れない。近い例でいえば、何度も経営難に襲われ2010年1月に倒産した日本航空(JAL)があそこまで延命できたのも、二階の神通力のおかげだとされる。というより相身互い、二階本人もJALを利用し、いろんな点で恩恵に与ってきたといえる。

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©iStock.com

二階俊博の地元和歌山県には、JALと二階の濃密なかかわりを如実に物語る建物がある。94年の関空オープンに合わせ、空港に勤務する社員のために建設されたJALのマンモス社宅だ。バブル期、山林を切りひらき、5棟の14階建高層住宅を建築しようと計画された。そこは「日航タウン」と呼ばれたが、バブル経済の崩壊とともに計画はしぼんだ。5棟のうち2棟だけが建設され、ビルの高さも10階になる。あぶく景気の残滓だった。

JAL社員寮の地主は後援会会長

関空勤務のための社員寮といいながら、空港からはかなり遠い。会社側はわざわざ通勤のためにバスを仕立てたが、それでも一時間は優にかかる。「まるで集団疎開みたい」と社員からの評判は最悪だった。なぜ、こんな辺鄙な場所に巨大な社員寮を建設したのか。日航タウン計画を立てた理由は、容易に察しがつく。

もともと建設用地の地主だったのが、二階俊博後援会「俊友会」の会長である。そこには当然のごとく二階本人の影がちらついた。県議時代から二階の支援者である俊友会会長は、設計業者でもあった。そして二階が運輸政務次官のころ、社員寮の建設計画が決まった。

くだんの社員寮の敷地が売買されたのは1991年2月のことだ。JALと後援会長との土地の売買交渉はわずか1年足らず。あっさりと決まった。そんなに短時間の割に、JAL側の購入価格がバカに高い。敷地は11万平米で、相場は50億円程度だ。JALはそれを152億円で購入した。実に相場の3倍である。JALの経営破綻後、むろんこれが問題になる。

2010年8月、JALの倒産要因を調査したコンプライアンス調査委員会の委員長で、元最高裁判事の才口千晴がこう報告書に書いた。

〈価格の適正を含めて不自然な点があるといわざるを得ない〉

2010年8月、JALの倒産要因を調査したコンプライアンス調査委員会の委員長で、元最高裁判事の才口千晴がそう報告書に書いている。

箸袋に走り書きされた「50億円」

そして、くだんの土地の売買交渉で、二階自身や系列の和歌山県議が仲介の労をとったことまで明らかになる。二階の関係者らは、和歌山市内の料亭でJAL側と密会を重ねた。はじめのころの会合で、JAL経営陣が50億円という買い取り希望価格を箸袋に走り書きし、二階系の県議に提示したという。すると、県議は思わず怒鳴り、席を立った。

「この無礼者が」

二階の関係者たちは、200億円という法外な買い取り価格を要求した。しかし、さすがにそれでは折り合いがつかない。交渉の落としどころが、152億円だったのである。

この一件は2010年10月28日の朝日新聞も、〈日航、元県議側に4.5億円 関係者証言 和歌山寮用地の仲介手数料〉と題して次のように報じている。

〈日本航空が寮・社宅用地として、自民党の二階俊博・元運輸相の後援会幹部(当時)から和歌山市の山林を高値で購入する際、大手ゼネコンを経由して「仲介手数料」として約4億5千万円を支出していたことがわかった。ゼネコン関係者は、手数料を、二階氏と親しい元和歌山県議の関係先に入金したと証言している〉

「県庁を通して話があったから」

ゼネコンはあくまで、県議側へ渡った仲介手数料を誤魔化すためのトンネル役だ。文字どおりのダミー機能を果たしている。続いて朝日新聞は以下のように記す。

〈当時の契約資料や関係者の証言によると、日航と後援会幹部は1991年に行われた土地売買に際し、互いに「仲介者」を立てた。契約上の仲介者は、日航は社宅・寮を建設することになっていたゼネコン、後援会幹部は自身が経営する不動産会社だった。日航は、宅地建物取引業法に基づく告示が定める上限にあたる売買金額(約152億円)の3%の約4億5千万円をゼネコンに、後援会幹部は1%の約1億5千万円を不動産会社に支払った。

しかし、日航が支払った仲介手数料について、ゼネコンの関係者は「土地の売買契約に介入してきた元県議側から指示された不動産会社の口座に全額を入金した」と話す。不動産会社の関係者も、「元県議が指示した口座に大部分を入金した」という〉

土地取引から20年近くが経過し、JALが経営破綻したせいで明るみに出た疑惑だといえる。だが、キーマンの県議はすでに他界し、ことの真相は闇に葬られている。

念のため、日航タウンの地主だった二階の後援会長に話を聞いてみたところ、こう釈明した。

「二階先生との付き合いはありますが、JALに土地を売ったのは県庁を通して話があったからで、先生とは関係ありません」

企業に対する政界の影響力は往々にして、目立たないよう発揮される。それだけに外部からはわかりづらい。が、目を凝らすと、普段のちょっとした出来事のなかに、実力政治家の影がちらつくケースは少なくない。運輸行政における二階俊博の力は、伝えられているよりはるかに大きい。たとえば地元和歌山にあるもう一つの南紀白浜空港は、二階がつくった空港だといわれている。本人が利用するときなど、地元は丁重にもてなす。

赤字空港に最大の飛行機を導入

南紀白浜空港は典型的な赤字地方空港である。便は倒産する前のJALくらいで、数少ない乗客を乗せて羽田から飛んでいた。

和歌山の空港はもともとJALと合併した旧日本エアシステム(JAS)が乗り入れていた1800メートル級の滑走路があるだけだった。それを2000メートル滑走路の新しい空港につくり変えるよう計画、誘致したのがほかでもない、二階俊博である。

「空港誘致のきっかけは、エアバス製の中型ジェット機導入でした。それまで空港へはJASがマクダネル・ダグラス製の小型機MD87を飛ばしていたのですが、134人しか乗れない。二階後援会の幹部が、それでは小さすぎると言い出したのです。そこで、163人乗りのMD81や160人乗りのMD90を飛ばせないか、と。しかし、たとえばMD90を飛ばすには、2000メートル級の滑走路が必要なのです。それなら、いっそのこと新しい空港をつくれ、となった。それで、古い南紀白浜空港の近くに新空港を建設することになったようです」

JALの元空港担当者が空港誘致の経営をそう明かした。空港建設という大事業にもかかわらず、いかにも手軽な発想なのである。00年9月、2000メートル滑走路が完成し、供用を開始する。

だが、現実的には、和歌山の空港にそこまでの利用客はいない。02年以降、JAL・JASの統合が進められ、新空港をJAL便が離発着するようになっても、空港利用者はわずかに年間15万人に届くかどうかに過ぎなかった。そんな赤字空港にもかかわらず、二階サイドでは、さらに次のような要求までしてきたという。JALの担当者が続ける。

「統合前のJASは、エアバスのA300を持っていました。当時のJASでいちばん大きな飛行機でした。そこで、二階先生は、『ここにはA300型機が降りられないのか』という。しかし、新しい南紀白浜空港には2000メートル滑走路が1本だけしかありません。A300は辛うじて着陸できるけど、離陸ができないのです。だから、慌てて対応しなければなりませんでした」

現実の空港需要とはかけ離れた無茶な提案

A300は300人乗りを想定し、エアバスが命名した世界初の双発エンジン型ワイドボディの中型機だ。実際に航空各社は280人乗りとして使用しているが、それでも従来和歌山に飛んで来ていたMD87と比べると、二倍以上の輸送力がある。二階にしてみれば地元活性化のつもりかもしれない。だが、現実の空港需要からすると、かなり無茶な提案といえる。空港担当者が指摘する。

「滑走路が2000メートルあれば、166人乗りのMD90が離発着できます。A300でも、理論的には滑走路に降りられますが、飛び立つには、滑走路の端まで行ってクルッと飛行機の向きを変えてやらないといけない。しかし新しい南紀白浜空港は、そのためのターニングパッドを備えてないので、離陸できないのです。そう説明すると、二階先生は『じゃあ、つくればいいじゃないか』と、いとも簡単に言う。結局、ターニングパッドを設置しました」

一度きりのフライト

そうして、羽田から飛び立ったA300の第一号チャーター便が、真新しい滑走路に降り立った。乗っていたのは、二階後援会の幹部たちだ。

「二階後援会を乗せたA300チャーター便は、新しいターニングパッドを使って南紀白浜空港から中国の済南に向かいました。A300を飛ばすため、コンテナを積む専用の機械を伊丹から持ってきたりして、大変でした。そうして皆で二階さんたちを送り出したものです。しかし、そこまでしていまだ南紀白浜空港にA300が降りたのは、これ一回だけです。あとはターニングパッドも用済み。A300には地元活性化への若干の期待があったけど、それっきりでした」

A300の離発着の際には、地元和歌山の二階後援会の面々が大挙して空港に押しかけ、中国に飛び立つときは、派手な出発式までおこなった。ちなみに中国へ向かったA300の第一号チャーター便は、南紀白浜空港には戻らず、関空に帰還している。A300の着陸が一度きりというのは、そのせいもある。もとより第二号チャーター便の離着陸はない。

「もともと滑走路の設計上、A300クラスの飛行機が毎日飛んできたら、滑走路の強度が耐えられません。そういう構造的な問題があったので、結果的には一度きりでよかったのかもしれませんが、そもそもなぜA300を飛ばす必要があるのか、という疑問はありましたね。現場のわれわれからすれば、仮にA300が就航しても、毎日ガラガラで飛ばす羽目になることがわかりきっていましたから」

JALのお荷物になった赤字垂れ流し空港

前出の空港担当者は、冷静にそう分析する。ことほど左様に、二階に対する航空関係者たちの気の使いようは尋常ではない。

「JALの空港職員たちは、選挙になると、二階派への協力もしなければなりませんでした。親戚や知り合いに呼びかけお願いしていました。また、日ごろも二階さんが空港を利用するとなれば、前日から空港内はてんやわんやです。たとえば休日の土日に空港に到着するとなれば、出勤しなければなりませんでした。もちろん、二階さんのお出迎えのためです」(同前)

そこまでJALが政治家に気配りしても、肝心の空港経営に効果があったとはいいがたい。JAL便の搭乗率は、毎年50パーセント台に届くかどうか。一方、航空行政をあずかる国土交通省としても、空港を建設した責任がある。赤字だからといっても、廃港にするわけにはいかない。南紀白浜空港は、そうして赤字を垂れ流しつづける。

ガラ空きのJALの南紀白浜―羽田路線は、JALの大きな荷物になってきた。そこで、経営がおかしくなるたび、社内では真っ先に減便や運休候補に挙がってきた。

だが、南紀白浜空港には、運輸族の大物議員という後ろ盾があるため、JALとしても路線を切るに切れない。路線の見直しは、形ばかりノミネートされるだけにすぎなかった。

こうして南紀白浜空港は、100近くある日本の空港のなかで、典型的な赤字空港という汚名が残るのである。

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「すがる相手は二階先生しかいません」微妙なパワーバランスが働く原発事業で二階俊博が信望を集める“奇妙な理由”へ続く

(森 功/文春文庫)

森 功

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