心身のコンディションの良さを示すように練習での表情も明るい久光スプリングスの長岡望悠（撮影・西田忠信）＝10月22日
バレーボールVリーグ女子1部（V1）で2季ぶりの優勝を目指す久光スプリングスが順調に白星を重ねている。シーズンの約3分の1を終え、現在7勝1敗の2位。一体感が伝わるチームの中心で躍動しているのが、長岡望悠だ。開幕から先発で全試合に出場し、全盛期をほうふつとさせるプレーでけん引。2度の左膝手術を乗り越えた32歳の笑顔には一点の曇りもない。感謝を忘れず、恩返しの想（おも）いを形にしようと、今秋に新たな〝コート〟となる「オフィシャルサイト＆ファンクラブLittle Lips」を設立した。
充実した「心」が長岡の笑顔の源だ。揺るぎない「技」と取り戻した「体」を支え、伸び盛りの若手が多い久光の精神的支柱になっている。今夏で32歳を迎えた「不屈のアタッカー」の情熱は尽きない。
「（練習拠点を神戸市から佐賀県鳥栖市に移した）スプリングスにとって、今年は佐賀の地に根付いていく上で『ベースの一年』になります。新たなスタートという意味で、私自身新鮮な気持ちで一歩を踏み出そうと。ピュアでポジティブといいますか…ここ最近ではそういう気持ちが一番強いかもしれません」
アタック決定率はリーグ6位
度重なるけがを乗り越え、コートに戻ってきた昨季は「感謝を伝えるシーズン」と位置づけた。その上で今季を「新たなスタート」を表現。攻撃専門の「オポジット」での華麗で力強いプレーと違って、ふんわりした笑みとゆったりとした語り口に思いがにじむ。
プロのアスリートとして常に意識しているのは、コートに立ち続ける「安定感」とファンを魅了する「パフォーマンス」だ。各セット途中からの登場となる「2枚替え」が中心だった昨季に比べて、開幕から全試合に出場している今季はプレータイムも大幅に増加。持ち前のライト側からの攻撃を中心に、ここまで挙げた105点は新外国人選手のマッケンジー・アダムス（31）の137点に次ぐチーム2位で、45・8％のアタック決定率はリーグ6位となっている。
【次ページに続く】ファンとつくる新たな空間
近年は負傷離脱とリハビリを繰り返してきた。先の見えない日々に向き合い、乗り越えていく過程で、長岡の胸には特別な思いが蓄積されていた。「試合に出ていないのに、それでも会場に足を運んでくださり、ずっと変わらずに応援してくださる方々が私にとって本当に大きな励みでした。試合でしっかりとしたパフォーマンスをお見せするのが一番なんですが、ありがたいことに今回いろんなご縁もあって、感謝や恩返しの想いを一つの形にすることができました」
ファンクラブ＆オフィシャルサイト開設
今秋、オフィシャルサイトとファンクラブを初めて立ち上げた。チームの運営会社「SAGA久光スプリングス」の萱嶋章社長にも理解を示され、背中を押されたという。
「皆さんと今まで以上に近くでつながって、一緒にすてきな時間を丁寧に一つ一つ紡いでいけるような…そんな新たな空間にしていけたら」。ファンミーティングなどの交流にとどまらず、自身と同じく、けがと闘っている人々や子どもたちとの触れ合いも含めて〝第二のコート〟に対する夢は広がるばかりだ。
「ワクワクしている」
女子の現役Vリーガーで個人のファンクラブを開設したケースは珍しい。「競技人生の後半に差しかかって、やりたいことの輪郭が見えてきた感じです。現役選手だからこそできることもあると思うので…」。過去の自分とも、他の誰かとも比べず、シンプルに生きてきた。これからもそうありたいと願う。
志を同じくした16人のチームメートはいうまでもなく、信頼を寄せるサポートスタッフ、家族、そしてファン…。「私にとって『大切な人のために』というのは本質的なものであり、エッセンスなんです。そこに向かって、純粋に真っすぐ、ワクワクしている自分がうれしい」。新境地を開いた背番号「1」がオンリーワンのまぶしい輝きを放っている。（西口憲一）
【次ページ】長岡望悠はこんな人
長岡望悠（ながおか・みゆ）1991年7月25日生まれ。福岡県みやま市出身。ポジションはオポジット。3姉妹の末っ子で、同市の山川東部小2年からバレーボールを始める。山川中から大分県中津市の東九州龍谷高に進学。2009年にセッターの栄絵里香（現久光スプリングス）らと当時の「高校3冠」を達成し、全日本選手権で高校生チーム初の4強入りを果たした。10年に久光製薬スプリングス（現久光スプリングス）入り。12～13年、15～16年にプレミアリーグ（現Vリーグ）の最高殊勲選手賞に輝く。日本代表は12年に初選出され、16年リオデジャネイロ五輪ではエースとして活躍。18年にイタリア1部リーグのイモコへ移籍したが、左膝の負傷で帰国し、スプリングスに復帰。身長180センチ。背番号1。
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